第四幸Jー2 「人という巻が配られ、街という暖炉で演ずる者達」
エンディックは緑昇から、突然街に無人兵器が現れたことを伝えられる。
黄金騎士と緑の勇者の初めての共闘。それは一方的な囮であった。
緑昇はわざわざ避難を促しに、相手を囮にするつもりで少年に話しをしたのだ。
黄金騎士は一人で銃弾やミサイルの飛び交う『ファンタジーな戦場』に駆け付けた。
(ライピッツレース会場付近)
アリギエの静かな夜は一転、銃声と爆音で彩られた。
突如として街のあちこちに現れた魔物の群れは、目に映る周囲の人々に弾丸の挨拶を行っていった。
夜の街に出歩いていた者、家で食事を取っていた一家、諸共に害された。
「怪物が遠くに居る内に逃げるんだ!」
建物の陰に隠れていた3人の人間が、通りへ飛び出した。
夫婦と思われる男女とその娘は、一目散に災禍の中心から離れようと必死だ。
父親は走りながら後ろを見て、その遠くの異形が、彼らとは反対方向に進んで行くのを確認する。
その魔物はオークと呼ばれている。
トロールやギガースと同型機で、大きな四角の下半身の脚はキャタピラになっており、その下半身に不釣り合いな細い上半身が生え、人間を袋に入れたような凹凸の無い不気味な異形。
上半身に斜めに空いた穴から、黄色のカメラアイが敵生命体を索敵している。腹部から生えた腕に近接ガトリング砲、両肩は推進誘導弾ポッドで武装されていた。
その鋼鉄の体は青い迷彩で塗装され、闇夜の中では視認し辛くなり、人々がその脅威に気付く頃には、魔物の射程内となっているのだ。
オークは逃げ惑う人々を銃殺しながら、ゆっくり前進していた。
先の一家はその反対方向へ走り逃げている。当然背後の敵を察知した魔物は、逃さぬと反転しようとする。
この一家が知らないのも無理はない。
オークの背には近接迎撃用機の、人々がゴブリンと呼ぶ魔物が搭載され、護衛に残っていた一機が、逃げようとするシュディアー人を視認したのだ。
「こ、こっちに来たぞ! 早く! 早くお前達だけでも……」
父親は囮になるべく立ち止まり、魔物に落ちていた石を投げつけた。
オークは止まった敵より、射程外に逃げようとする敵を優先し、二人の人間を照準する。
そして肩の推進誘導弾を一発発射。
弾は煙を引きながら空を駆け、逃げる妻と娘に追いつき着弾。残った父親の顔に絶望を塗り付けたのだった。
「そん……な」
オークは立ち止まっている男に向かって加速。
これを踏み潰した後、更なる生きてるシュディアー人を求めて、街を散策した。
「おい、今の助けなくていいのか?」
その惨劇を傍観していた、か弱き者達が二人。
彼らの身なりは騎士のそれだが、魔物に立ち向かおうとせず、一家の死を囮に大通りを横断し、細い路地へ入って行く。
「無茶言うなよー。あんな大きな怪物、殺すなら充分な対策や討伐隊を組んでやるもんだぜ?急に出てきて戦えるかよ。それが解る騎士連中は皆逃げてるさー」
二人は大きな魔物が入って来れぬと読み、暗く狭いルートを選びながら、魔物から離れようとしていた。
「戦うにしても、うちの騎士団の強豪達のニアダ=ゲシュペーや、コーダンさん達を筆頭に……だよな。俺達ザコじゃ犬死になるぜ」
騎士達は途中で歩みを止めた。
向かう先でも魔物の声(銃声)と、爆発音が聞こえたからだ。
「さっきの一緒に居た、他の隊の奴らもそうだったよな……。変な正義感出して、あの魔物に挑んできやがった。結局助けようとした一家も死んだし、本当意味ねー」
彼らが知らないのも無理はない。
魔物と市街戦する経験など無かったし、経験者はほとんど死んだからだ。
だから先程のオークに搭載されていなかった残りのゴブリンが、母機の侵入出来ない屋内や、路地の敵を掃討していたことを知りようがない。
「あ……あぁ……」
狭い路地の横道から歩いてきた鉄の小人は、二人のシュディアー人と鉢合わせすると、すぐさま頭部散弾砲を発砲した。
「ひぃぃ!」
一人になってしまった騎士は、前を歩いていた相棒の死に悲鳴を上げる。
腰を抜かしてしまい倒れると、ゴブリンの目線と同じ高さになり、更に恐怖。
小さき魔物は体を傾げながら、確実に殺そうと接近し……その身に金の槍が叩き込まれた。
「なんだ……?」
倒れた騎士は非現実的な光景に惚けた。
路地の向こうから光り輝く騎兵が走ってきて、跳躍。
魔物を飛び越えると同時に、持っていた槍で魔物の体を串刺しにしたのだ。
その黄金の騎兵は騎士をも飛び越え、そのまま大通りへ走って行った。
「あ、あれは噂の……黄金騎士!」
通りに出たエンディックは、魔物オークの後ろ姿を見つけ、加速する。
今ここに存在するは、無力な少年にあらず。
フェイスガード付きの兜で顔を隠し、胸当てと脚甲、両小手に一本の槍を携えた姿は、英雄『黄金騎士』。
鋭角的なデザインの、鹿に似た鉄獣に跨り、装備と獣の色は金一色である。
「よし……背負ってる魔物は、一匹だけだな」
黄金騎士は炎と煙で飾られた、広い道を疾走。
一気にオークの背に肉薄し、連続で槍を振るう。
「よくも……沢山殺してくれたなぁ!」
槍は迎撃しようとした搭載されたゴブリンと、オークの左肩の推進誘導弾ポッドの関節を抉り突いた。
「まだぁ……武器を寄越しな!」
更に三突きめにより機力を込め、オークの背の装甲を貫通し、腹部から生えた腕を上に抉り抜く。
機力を纏った金槍は、接触した硬い外装を瞬時に解析し、分解。
鎧を素通りするようにして、内部の機械を破壊した。
そしてエンディックが横を通り過ぎた後、後ろに反転しようとしていたオークは、右後ろに曲がり、勢い余って建物の壁に激突する。
上半身が脳機能を備えた部分だったので、それが破壊され、制御が利かなくなったのだ。
「これで止め……と!」
黄金騎士は速度を下げつつ方向転換。
尻を建物の壁に突っ込んだ、オークの真横を目指し、走り込む。
魔物の右キャタピラに槍を突き、機力を流して破壊。そして腹部の銃、左肩の推進誘導弾ポッド接続部も突き壊していった。
「糞……決め技を温存すると、時間かかるな。これで三匹目だが……何匹いやがるんだ?」
エンディックは一息つくと、現場を見回した。
魔物を見つけると、周囲には何人もの犠牲者が付属しているからだ。
もっと早く着いていれば、もっと早く魔物を倒せれば、もっと魔物と戦える戦士が居れば……と少年は思考に落ちる。
自分が勇者なれば……と。
(そうして『成った』奴が、あの緑昇……。緑の騎士の噂は聞いている……悪とされる人間を探して彷徨い、徹底的な残酷さを振りかざす緑の怪人。
アイツのやり方も……俺が抱いたこの感傷の果ての物なら、俺は……)
迷ってしまうことは、弱さなのだ。
エンディックは後方の大通りの曲がり角から、もう一機のオークが進み出たことに気付けなかった。
まだ彼我の距離は遠いが、魔物の武装に問題は無い。
オークは両肩のミサイルを、黄金騎士に一斉発射した。
「……! ちぃ……」
エンディックは宙を切り進む音で察知し、背を向けたまま加速。
横道に入り、射線をやり過ごそうとする。
「な……! 曲がる砲弾だと?」
狭い路地を走る少年の、後方で爆発。
推進誘導弾は敵を追って、路地入り口の壁に着弾していき、空間を広げた。
そして数発の弾頭は、その穴から路地に侵入。
振り向き驚くエンディックを追う。
「ちくしょ……曲がり道は、ねぇ! なら……アレと競争だ……おらぁ!」
黄金騎士は力を込めて、右の壁の一部を槍で壊し、機力を流して支配。
槍を後ろに振ると、壊した壁の破片などが後方にばら撒かれ、追ってきたミサイルに接触する。
機力と魔力に誘導している弾にとって、破片はフレアに等しい。
狭い路地で次々と爆発が起き、音と衝撃が逃げる騎兵に迫った。
「ぐぅぅ!」
間一髪、爆風に後押しされつつも、路地を抜けたエンディック。
ここは商店街通りだ。
速度を遅くし、少し休みつつ、左へ通りを進む。
ある程度進んだ所でまた横道に入り、加速してオークが居た通りに戻って来た。
「背中から相手を殺る……戦いの基本だぜ」
エンディックの予想通り、自分を攻撃したオークは、少年は死んだものとして攻撃した方向へ前進していた。
彼は迂回して、背後を取るつもりだったのだ。
しかしこのオークは、背に搭載されていたゴブリンを、すぐに投下した。
「な……もう気付きやがった?」
地に降り立ったゴブリンは三機。
小人達は母機を守る為、走ってくる敵の迎撃に向かう。
(ち……この広い場所じゃ、一匹駆除してる間にどれかに後ろを突かれる。上に行く!)
エンディックは伏兵の対処を避け、左の建物に加速して、一気にヴァユンⅢに壁を登らせる。
屋根に飛び上がると、屋根から屋根へ飛び移りながら、魔物を目指した。
オークはその間に右後方に下がり、向きを変え、正面の射界に屋根上の黄金騎士を捉えようとする。
「結局こうなるのかよ! ……こうなりゃ、試してみるしねーか!」
黄金騎士が魔物に槍を向けたのと、オークが発射態勢に入ったのは同時だった。
「魔言『HEAT』」
槍の先端に赤い魔力円が発生し、火炎を噴き出した。
業火は撃ち出されたミサイルを途中で巻き込み、連続爆発。
爆炎の連鎖はそのままオークの左肩ポッドまで届き、内部から更に強い爆発を引き起こす。その衝撃はオークの上半身を焼き飛ばし、異形を沈黙させた。
「はぁ……はぁ……武器の穴から燃やすって手もありだな。だが……今の体で魔言を使っちまったのは……く」
疲れてなどいられない。
すぐに通りに残ったゴブリン達を、狭い路地に誘い込んで狩り、次の魔物を探しに行かねばならんのだ
(緑昇の奴……自分にいい考えが有る!って言ってたが……マジだろうな?)
別れる前、緑の勇者が提案した打開策。
彼には『街を傷付けずに、魔物だけを殲滅する技が有り、その発動まで戦う必要が有る』とのことだ。
緑昇はこうも言っていた。
「魔物は俺が殺る……そこで派手な合図を出すから、貴様はそこで本懐を果たせ」とも。
(アリギエ~ヴィエル農園行き街道)
鏡による座標隠蔽により、何者にも捕捉されずに、街を出た存在が居る。
それは闇夜の街道を歩いて行き、スキエル平原まで差し掛かろうとしていた。
「うむ、以前来て確かめておいて……正解だったな。モレク」
「照準完了ですわ貴方様。このモレク=ゾルレバン最強の武装……久方ぶりに使う機会がきましたわね」
「あぁ……これは街の防衛戦ではない。この戦いは、決着なのだ……」
大活躍!と言っておいて、ちょっと短くなりましたエンディック無双。
うん、全然苦戦してるね。
黄金騎士の能力は狭い市街地では発揮出来ず、逆に小型機の魔物に分があり…。
そして次回!ついにゾルレバンの必殺技が!ついにお披露目になります!!!( ´ ▽ ` )ノ
前々作のファンの方なら懐かしい、あの!あの技がちょっと変わって発動です!
次回のシーンはずっと書きたかった回であり、さらなる神回へ読者を誘いますぜ




