第三幸I-5「それを英雄と呼ぶのでは、なかろうか?」
エンディックがライピッツ優勝で得た金で、学校に通えるようになったキリー。
だが貧民である少年に居場所はなく、皆と同じになる為、今回の凶行に及ぶ。
黄金騎士は二人を止めようと対峙する。
今までの戦いで培った経験を駆使し、見事魔物の破壊に成功する。
メタルビーストテイマーの姉は運命に弄ばれることに疲れ、差し伸べられた手を取った…。
だがアリギエでは次なる罠が動き出していた…。
「魔言『RECOVER+RECOVER+RECOVER+RECOVER』」
自動的な、女の声。
生じたいくつもの白い魔力円は、膝をついた緑の勇者に並ぶように重なり、回復の技術を現出させる。
「な……その状態からもう治るのかよ?」
エンディックが緑昇の様子を見ると、既に急激な治療が完了したのか、勇者は立ち上がった。
装備の各所は溶けているが、関節のチューブや背のマントまでもが修復されている。
(嘘だろ……例え回復魔言の効果が強くても、あれだけの重傷を負ったら、自分じゃ治療出来るわけねー。酷い損傷ほど、正確な治療と高度な精神集中が必要だ。
緑昇の負傷は、激痛に悩む自分では治せないはず……。鎧の一部まで元に戻ってねーか?)
目を覚ましていたシナリーは、緑昇を案じて言う。
「わ、私が治療します! あれだけの怪我を本人の治療でだなんて、絶対に後遺症が」
「……その姉弟の命、坊や達に譲りますわ。アリギエの盗賊達のように、そちらの手柄ですものね。そして……助力は無用」
応じたのは緑昇の手甲、モレクの音声だ。
緑昇本人は無言のまま背を向け、この場を去ろうとする。
その背中にエンディックは、宣誓のように言うのだった。
「やっぱり俺、マモンを追うのを止めないぜ。こうなった以上、関わらなくても危険は変わらない。勇者を待つより、勇者と一緒に戦った方が、安全になるのが『早そう』だ」
緑昇は立ち止まらず、それを聞きながら、路地裏から立ち去った。
少年は追わず、壁に寄りかかっていたリモネとキリーに提案する。
「……そういやまだ飯食ってなかったぜ。なあリモネ、とりあえず俺達の家で夕飯をどうだ?」
「その後……あたしをどうするつもりよ?」
「アンタもう親が居ないんだろ? 孤児じゃねぇか。うちの教会には孤児院も一緒でな、まあ義姉ちゃんに相談してみるさ」
今のリモネは覇気がなく、どうとでもなれと頷くばかりだ。
意見したのは弟のキリーである。
「ぼくはどうすれば……いいんだよ。あんなことに混ざって、平気で皆の所に戻れるわけないじゃん……。それに戻ったら、どうせ学校だって行かなくちゃならないでしょ?」
「じゃあ無理して……行かなくていい」
エンディックは俯く男の子の肩に手をやり、諭すように言った。
「キリーが学校に通うようになったのも、原因は俺みたいなもんだ……。本当に悪かったな。
生き方は選べる。だから学校を行きたくなければ、思い切って辞めちまえ」
確かにキリーが学校生活を送ることで、得る物が有るのかもしれない。
だが既に彼にとって、多くの物が失われた。
曖昧な益を得る為に、確実な損失が過程では、意味がない。
「でも……色々と無駄に」
「金なら俺がまたレースで勝てば良い。家族を苦しめてまで惜しむ物じゃねぇ。
キリー、言っただろ。俺はお前の家族なんだ。だから……守られて『当然』なんだよ」
エンディックは語りながら、養父のことを思い出す。
(ライデッカーは血の繋がりのない子供達を救い、そして俺達の為に勇者と戦って死んだ。俺は墓の前で言ったばかりじゃないか。アイツはもう居ない。だから俺が家族を守らないとならないんだ!)
少年は決意を固める。
マモンとの戦いは家族守ろうとした男の、目的を引き継ぐことになるのだと。
緑の勇者はゆっくり夜道を進みながら、エンディック達から充分に遠ざかったのを確認する。
(緑昇……望みは、必ずワタクシが叶えますわ……。それが悪魔に『魂』を投げ売った貴方様と、その契約を馬鹿正直に遂行しようとする悪魔の結末ですものね)
勇者は空き家を見つけると侵入し、家に結界を施し、体力の回復の為に休息を取ることにした。
モレクの戦略予測では、次の危機が迫るまで、もう時間がないとされているからだ。
(勇者ギデオーズ=ゴールの手記)
我々がたどり着いたこのヴェルト村では、魔物による問題が起きていた。
他の村へと続く街道に、どこからか移動した飛行型の魔物『ハーピー』の群れが現れ、周辺に居着いてしまったというのだ。
だが流れ者の我々にとっては、好都合の展開である。
私はハウピース少佐と共にこれを残滅し、村に英雄として迎えられることとなった。少佐は村長に気に入られ、娘の婿殿選ばれたそうな。
そして私は村人から有力な情報を手に入れる。
なんと村外れの山奥に賢者が住んでおり、『錬金術』に精通しているらしいのだ。
王都で私によくしてくれたライデッカー君や、王都錬金術士団の者達の為に、彼らの錬金術を後世に残さなければならない。
だが私はまだ知識以上のことは知らず、誰か師が必要だったのだ。
この村に来れたのも何かの運命。
私は明日にでも、山の賢者を探しに行くつもりである。
次回予告!
鋼鉄祭!
銃弾と砲弾と誘導弾とビームが踊り、か弱き肉を撒き散らかす。
そして金の槍が鋼鉄を屠り、残酷な落下型台風が街に振り下ろされるとき、ついに待ち人は来たる。
第4幸『剥がれる人形の顔』
消去法だ。彼女じゃないなら、残るは彼であろう?




