第三幸I-2「狭き道の戦い」
孤児院の子供の1人、キリーが居なくなった。
エンディックとシナリーは夜の街へ、魔言による捜索を開始する。
そこで出会した腐乱夢ナイツパーティーと戦いになり、エンディックは一度共闘したニアダと戦うことに…。
「く……! やるじゃねぇかおっぱいちゃんよぉ! 俺様の動きについてくるとはなぁ!」
そう言うジョイチの顔面に魔言杖が突き込まれ、シナリーは続く動きで振り上げ、右腕に振り下ろす。
「そうですよー。貴方を防具の上から叩き殺せる程度には〜」
シナリーは女といっても、幼い頃から勇者としての調整を受けた人間である。
更にライデッカーから棒術の手解きを受けており、今までの喧嘩で、並の相手に引けを取らなかった。
「おや、キリーは?」
ジョイチが腕を抑えて距離を離した隙に後ろを見ると、ニアダとエンディックが対峙する向こうに、誰も居ない。
キリーと側にいた騎士の一人が、消えていた。
そしてエンディックがニアダに殴り倒され、敗北したのを確認する。
(っ……! これはニアダさんがエンディックんに構ってる間に、二人とも倒してしまう必要が有りますね)
「余所見でガラ空きだぁー!」
シナリーの予想通り、退かずに隙だと思い、乗ってくれた。
「魔言……!」
「この距離で間に合うかよー!」
迫る敵に向けて杖を構え、先端より少し離れて魔力円を発生させる。
光の円は、ちょうどジョイチの顔を覆い尽くすように発現し、一瞬視界を奪う。
「お……な?」
動揺で止まった鉄棒を持った右手首に左振り払い、そのまま強く振り上げて、脳天に一撃を落とす。
「……ふ!」
これで終わりではない。
この攻撃で『二人』倒すつもりなのだから。
「魔言『THUNDER』!」
すぐに後ろに反転し、ニアダに杖を向ける。
幼馴染は倒れているため、射線に入らない。それに雷属性の攻撃なら殺傷せず、少量の魔力で人間を無力化出来る。
「魔言『MIRROR』」
シナリーの杖、ファイスライアの魔力円から雷撃が放たれると同時、ニアダの前に魔力の鏡が現出する。
鏡に跳ね返された雷光は、使用者へと戻り、シナリーは感電した。
「そ……んな!」
魔言『MIRROR』は非物理を跳ね返す技術。
それは光源や魔力攻撃を防ぎ、魔言使い同士の戦いでは、主な防御手段として多用される。
「甘いのぉ小娘。魔言使い相手に、戦士だけで勝負するわけないじゃろ?」
鏡はすぐに霧散し、ニアダの後ろの物陰から、ローブを着た年老いた女が顔を覗かせた。
その老婆、リンドはくぐもった声で言う。
「自己から遠くに作用させる攻撃より、身の回りに力を及ぼす防御の魔言の方が、発動は早い傾向が有る。よって魔言使い同士の戦いの際、魔言を跳ね返す『MIRROR』を警戒して、魔言以外の攻撃手段をとるのが常道なんじゃよ。
じゃから……隠れて相手の魔言を『跳ね返し待ち』する方が、楽に勝てるんじゃな〜」
シナリーは敵魔言使いの存在を知らず、迂闊に魔言を使用してしまったのである。
倒れ伏すシナリーに近寄ったニアダは、抱きかかえてリンドの元まで連れて行った。
「悪いねぇシナリーちゃん。でも勇者は現実に居たんだよ。フィクションじゃなかったんだよ。なら……文句の1つも言いたくなるよね?
(ディーナ・地下の拷問室)
「私が連れてくるのはここまでのようだ。我々の仲間になりたければ、この女を連れて来るんだな」
無人の酒場を通り、地下のこの部屋までの道のりで、意外にも何の妨害もなかった。
ここまで護衛してくれたコーダンに後押しされ少年は、中で椅子に縛り付けられている少女の元まで進んだ。
血の異臭が漂う空間を歩み、孤独な部屋の主の枷を解いていく。
「やっと会えたねリモネ……『お姉ちゃん』」
対するリモネは目の前の男の子のことを、信じられないと目を見開く。
「嘘……? キリー……なの? そう、ここはライデッカー神父が居た、アリギエだものね」
「うん……。お父さんがおかしくなって、貧乏になって、僕は神父様に預けられたけど、お姉ちゃんはお父さんの側に残り続けた……。それからずっと会いたくて……お姉ちゃんがこんなことになるなんて僕」
キリーは涙を浮かべながら、姉を支えて立ち上がらせた。
そしてここに来た目的を告げる。
「僕、全部聞いたんだ。だから一緒に勇者を殺そう? お父さんをおかしくした、勇者って夢を、『良い奴ら』をやっつけようよ?」
少年の名は、キリー=ブレイブン。
彼もまた、この世の『善』を憎む者である。
(ティーナ近くの裏通り)
「俺に用か?」
移動しようとする、ニアダとリンドの後ろに降り立ったのは、緑の勇者だ。
異形の全身鎧の緑昇は、右腕のグロゴイルを構え、抗戦を促す。
「貴様の口上は上で聞いていた。肉親を失った憤りで、そのまま善良な騎士をやっていれば良かったのだ……。今の行動は、八つ当たりに過ぎない」
振り向いたニアダはシナリーを壁際に下ろし、さぞおかしいと笑う。
「はははは! やっと会えた! 会えたよ母さん! 悪いことをすれば、絶対に寄って来ると思ったよぉ!」
腐乱夢に取り憑かれた騎士は、大剣で振り上げて走り出した。
数多の悪を切り刻み、その身に膨大な咎を抱える大食の勇者こと、緑昇。
今夜、彼は敗北する。
無事に一週間更新を完了しました!
ちょっと少なめですが、このぐらいが丁度いいんですかね。
騎士を物理で圧倒したシナリーですが、魔言使い同士の戦闘経験は皆無だったため、基本的なメタられ方されましたね。
あとキリーが弟だった伏線は、あえてカットしました。
もしリモネの台詞に弟を匂わせるのが有ると、意味深なキリーと結びついてしまうからです。
この2人の話は次回以降で語られるので、ご安心を。
次回は緑昇vsニアダです。




