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第三幸H-2「罪状で生き死にを決めるなど、神に等しくはないか?」

エンディックは義姉のサーシャからお使いを頼まれ、その帰りに良からぬ気配を察する。

マスクを剥がされた己に、再び仮面で顔を隠すことが許されるのか?

そんな悩みをしながらエンディックの手には、黄金騎士の小手がはめられていた…

聞き覚えの有る怪音が耳に届き、その方向へ歩を進める。

ここに辿り着くまでに、数々の遺骨に出くわし、壁や地面にはありったけの赤が、各所にブチまけられていた。

「ちくしょぉ……やっぱり勝てねーのかよぉ……。テメーのせいで銀獣の会は……糞が!」

「残党による復讐か……。だが本隊でも勝てない敵に、残り物が勝てる道理は有るまい」

 この路地の曲がり角の向こうは、少し広い空間になっていた。

 エンディックは姿勢を低くして、話し声に聴覚と視覚を向ける。

「う、うるせぇ! テメーのせいだ……銀獣の会がなくなったせいで、ワシみたいな年寄りでも就ける仕事が無くなっちまったんでぇ!」

 人骨散りばめられた赤い地に立つは、緑の勇者。

 彼に見下されているのは、壁に倒れこんでいる老戦士だ。髪が白く、髭を生やした厳つい男で、老いた身ながらも、防具で武装していた。

 片手に持っていた折れた剣を全身鎧の緑昇に向け、苦し紛れに怒鳴っている。

「は……! 今テメーが殺した奴らはどいつも貧乏人よ! 裏仕事以外に何をしろっつうんだ? テメーが銀獣の会を潰したのは、街にあぶれた貧乏人を増やしただけよ!」

 エンディックは聞きながら、老いた戦士の声に共感した。

 確かに犯罪組織を潰しても、そこで働くしかなかった貧者達を救えるとは言えない。

心を入れ替えようが、真っ当に雇われるわけがなく、別の組織や犯罪者になるだけだ。それでは何の解決にもならない。

 だからといって政府が一人の悩みを聞いていては、一向に全員の順番は回らなくなる。

 そして大多数の民を救う為に、少数派の大勢の犠牲を強いるしかない……。

 だがそれは仕方がない……で、済まされることなのか?

「では貧者なら善人を殺めても良いと? そんな理屈は通らない」

 冷たく宣告した緑昇は、グロコイルのレバーに手をかけ、振り上げるが。

「貴方様、後方で強い機力反応ですわ!」

 緑昇は相棒の警告と共に跳躍し、左側の壁へ跳び蹴り、右側の壁、建物の屋根に着地した。

 その内に黄金の風が通る。

 風は倒れていた老兵をかっ攫い、細い路地を走って行った。

「……俺の助言に従い、襲ってきたのではない?」

 彼は何者かの観察に気付いていた。

 なので視界に隠れたエンディックが見えたとき、再戦に挑んできたと察し、屋根で構えていたので出遅れた。

 黄金騎士は路地の先で曲がり、見えなくなる。

「む……如何なるつもりだ?」

 黄金騎士と緑の勇者の追走劇が始まった。




(やっぱり街の中じゃヴァユンの速さは出せねぇ……! 上に行く!)

 エンディックは路地を抜ける際に減速し、通りに出ると安全を確認し、加速。

 前方に見える宿屋の壁に飛び上がった。獣の足は強く壁に食い込み、その身を持ち上げて、勢いよく屋根に登った。

 通りに居た人々は、唐突に路地から現れた英雄に驚き、上に行った彼を指差し、騒ぐ。

 そう、今の少年は黄金騎士の姿なのだ。

「あ、アンタ、どうしてワシを……」

 老兵は状況についていけず、黄金騎士にされるがまま。金獣の上に引き上げられ、英雄の体に捕まっていた。

「俺だって人間だ。アンタに同情したのさ……。人生を選べなかったのに、ただ殺されることもねーだろーってな」

 エンディックは緑昇の殺人現場に着く前に、簡単な胸鎧や小手、脚甲を付けていた。

 更に緑昇の武器の音を聞きつけると、勇者絡みだと思い、ヴァユンⅢを事前に錬金していたのだ。

「爺さん、金が無いからこうなってるんだよな? なら……俺が金やるよ」

「何じゃと? いや……しかし」

「とにかく掴まってろ!」

 ヴァユンの速さならば、屋根から屋根へ、飛び移り走れる。

 エンディックは左へ、通りに建ち並ぶ建物の屋根を飛んでいく。

「なぜその男を庇う、黄金騎士!」

 緑の勇者もまた、屋根の上を跳躍しながら追って来ている。

 まだ距離は有るが、屋根という悪路では、金獣でも追いつかれるだろう。

 黄金騎士は遠い内にまた狭い路地に降り、ジグザグにしばらく走り、進路をかく乱した。

 そして別の通りに出た所で、緑昇に追い付かれた。

 ここは噴水の有る広場で、かつて市民の憩いの場であったが、ある殺人事件の影響か、今は人っ子一人居ない。

 緑の勇者は路地を出た黄金騎士の進路に降り立ち、腕の凶器を向けた。

「やはり街の中では、並の速さだな。逆に普段の力を抑えているためか、ぎこちないように見える。……何のつもりだ?」

 エンディックは既に逃げる気はなく、立ち止まり答える。

「手柄を奪って悪かったな……。だがよぉ、殺すまでもねーと思っちまってな」

「……安い同情だな黄金騎士。貴様は事件を不殺で終わらせることが多いようだが、それらは貴様のお情けに左右されるのか……男をどうした?」

 緑昇は今気付いたが、ヴァユンに乗っているのは黄金の騎士だけだったのだ

「さっき屋根から降りたときに、金を渡してすぐに落とした。アンタに俺を追わせて引き離したし、逃げてるだろ」





 あのとき老兵は英雄からの提案に、ますます動揺していた。

「大金をやるから、もう犯罪ギルドは止めてくれ。やり直せ……なんて無責任なことは言わない。これで美味いもんでも食って、『考え直して』くれ」

「……ワシがまた悪事をしないと、どうして言い切れる? そんなお人好しな」

「それでも良いぜ……。それでも『一度でも施しを受けた』ことになる。俺は他人の人生なんか知りようがねぇ。アンタが不幸かどうか解らねぇ。

 だが善悪どっちだったとしても、『誰かから一度は助けて貰ったことが有る』って事実は、出来る。そこだけはアンタの人生を変えられる。

 今まで不幸だったかもしれねーが、これから幸福になれねーとは、決まってないんだからな」

「……後悔するぞ」

 そのやりとりの後、金獣は路地に降り、同時に老兵を降ろして、自分の懐に収めていた札束を彼に手渡し、黄金騎士だけで逃げたのだ。





 話を聞いて呆れた緑昇は、向けていたグロゴイルを下げ、失笑する。

「ふ、無駄金を使ったな。その者もいずれまた犯罪者となり、それを俺が処断するだけだ。

黄金騎士よ、所詮それは個人のさじ加減で、殺すか否かを決めているに過ぎない。


 それを決める貴様は、


神にでもなったつもりか?」


「傲慢なことは解ってるさ。俺は自分が正義だなんて思わないし、今の姿が真っ白なヒーローだと宣伝しねぇ。黄金騎士は誰かに頼まれたからやってるわけじゃねぇ。

 ただ殺すしかない、なんて諦めや納得が出来ない子供なんでな!」


 そうなのだ。

 エンディックは仕方がない、なんて『常識』は持ってない。

 シナリーが望むまま、死んでも仕方ないなどと、納得出来ない。


 彼はもう知っているのだ。

 本人の意思とは関係なく、金銭問題やコミュニティに起因して犯罪が起こることを。友人が望まぬ殺人を強制され、ついには母を手に掛け、今でも悔やんでいるのを。

 それは彼が出逢ってきた犯罪者達にも言えること。

 だから黄金騎士は手の届く限り敵を助け、手に負えぬ難件は迷いながら殺してきたのである。


「確かに貴様の素顔は若者だったな……。だが俺は天秤を測る神にはならん。

善良なる人々に害する者あらば、その者の


『人生』


もろともに殺す。


勇者はこれからも、より多くの善人を救わねばならない。殺された屑一人の事情を、いちいち察する『余裕』などないのでな」

 緑の勇者は背を向け、マントをなびかせて跳躍し、飛び去った。


 黄金騎士は予感する。

 あの勇者こそ、幼い少年達が夢想した英雄であり、今は現実の側にいる自分は、いずれ決着をつけなければならないと。




黄金騎士と緑の勇者が言い争った場所から、遠退いた路地裏に走って来たのは、件の老兵。

彼は体力の限界と壁にもたれかかり、懐中にねじ込まれた大金を取り出した。

札束を確認するが、確かに本物の金のようだ。

「……どうしろってんだよワシに……くそ」

「おぉら!」

 その男は突然老兵に走り寄り、持っていた鉄棒で殴りつける。

 彼の持っていたの武器は短く、手元には四角の硬い(つば)が付いていた。その部分で倒れた老兵の頭を何度も殴りつけ、抵抗しなくなったのを確認する。

「臨時収入っとぉー」

 金を拾っている者の見た目は、髪を短めに刈り上げ、上等な胸鎧、両手足に装甲を付けているジョイチという騎士だ。

 彼が現れた路地には、他にも三人の男女が居た。

「四人のようだ。その中にリンド婆様が加わってくれるのは心強いようだ」

 声を発したのは体の大きい騎士のコーダン。彼に頭髪はなく、腕に大きな盾と、槍を携えていた。

「何せ銀獣の会の残りカスは、さっきので使い切ったからね〜。これで後腐れなく、騎士団に復帰するってもんだよ。ワタシャも孫の仇討ちに燃えとるんだよ〜」

リンドと呼ばれた老婆は、怪しげなローブにアクセサリーを大量に付けた、魔言使いだ。

彼女の持つ杖は美しい銀色で、先端には円の形になった(わに)の装飾が付けられていた。

「ここの騎士団の実力者三人に、元騎士団長で銀獣の会上級会員でもあるリンド様か。さながらアリギエ最強のパーティーといった所だね」

 そして今回の任務(クエスト)の発案者であり、この部隊の指揮官の男。彼は黒い長髪の美男子で、背に大剣を背負った、この街一番の騎士だ。


 名はニアダ=ゲシュペー。

 一度は勇者を夢見て、そして今は勇者打倒を目指す夢の腐乱者(ドリームゾンビ)だった。

「さあ始めよう。僕達『六人』で、空想の英雄をフィクションから引きずり下ろすんだ」


予定になかった話ですが、ねじ込んで良かったと思ってます。

この回で今までカットしてしまった、黄金騎士と緑の勇者の因縁作り、その議論など、上手く押し込めたかなーと。

おかげで名台詞の応酬舌論みたいになって、またしても作品の格を上げられたぞっと。


長くなってしまいましたが、ここまでが事件が起こるまでのタメになります。

次回はエンディックの近辺で事件が起こり、二幸から続く伏線に決着がつけられるでしょう。

お楽しみに!!!

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