第三幸G-2「勇者と勇者の殺し合いだ」
スレイプーン王国の闇。
封印された勇者鎧と悪魔を恐れながら、救世主を使い捨てていた大罪だ。
怪しげな伝承を信じる王家を利用し、マシニクル政府は侵略を企てる。
勇者達はその尖兵なのだ。
異世界にまで暴力の種をバラ蒔こうとする愚者達に、異議を唱えたのは、捨て駒の勇者達。
「それさ、僕らが反対しない前提になってますよね?」
居合わせたシュディアー側の権力者達の拘束の後、鎧を解除したディムホルツは、勇者達だけを会場に残し、その旨を伝えた。
だが国に忠を尽くすディムホルツ達に対し、意見を違えたのは勇者三人。
先程の台詞は、色欲の勇者の男によるものだった。
「確かに僕は軍人です。命令と言われれば、死ぬことも職務内容でしょう。ですが……そんな危険な実験を隠されて、そのうえ大義の無い侵略に加担しろって、文句も言いたくなりますよ。大佐のように、財団関係のお家ではないのでね」
それに賛同したのは、嫉妬の勇者の女。
「彼の言う通りよ。こんな僻地に飛ばされたと思ったら、元の世界に帰れないなんて聞いてないのよぉぉ!」
そして大食の勇者は決別の意思を言い放った。
「じ、自分達は……賛同出来ません! 我々の世界の争いならまだしも、別世界にまで戦争という『悪』を持ち込むのは……せ、『正義』ではありません。何よりこの世界の、異世界を知らぬ一般市民は、無関係ではありませんか!」
ディムホルツは舌打ちした。彼らがこんなにも忠誠心の低い者達だったのかと。
(ち……所詮は間に合わせか。鎧への適性者がギリギリまで見つからず、適性重視でエリート以外を選ぶからこうなる。ましてや一人は、兵士としても下位ではないか。仕方ない、今は力づくで拘束して、後々洗脳手術にかけるか……)
手駒達に見切りをつけたディムホルツの後方に、何かが落下してきた。
それもまた勇者鎧。三メートルを超える巨体は地を踏み砕き、身を起こして作る影は、強いプレッシャーを与えてくる。
憤怒の勇者『サターントリプル』だ。
紫の重装甲に銀の装飾がなされ、各所に牛のような角と模様が有る。兜には四本の角を生やし、四角のバイザーに横一線の穴が開いており、中で緑のモノアイが緑昇達を見下す。
両腕両足は樽に似た形状で大きく、それに伴い手の五指も極太だ。
「そんな……堀中佐もこれを承知していたのですか!」
緑昇は悲壮な顔で師を問う。
憤怒の悪魔憑きは、彼と関係深い堀 忠興中佐なのだ。
ディムホルツの背後に控えた勇者は、静かに答える。
「いや、私はシュディアーに着いた後から、極秘指令を受領していた。緑昇、軍に忠を誓ったなら、悩む必要はないではないか? 私も、君も、軍人ではないかな?」
堀はそう言って、威嚇のように巨腕を緑昇ら三人に向ける。
ディムホルツは勝ち誇った笑みで、離反者達に語るのだった。
「その通りだ中佐。救世主を呼んでおいて、自ら手に掛ける野蛮な世界など、我々が支配してやるのが条理であろう? 確かに我々の支配に逆らう者達は殺すだろうな。無人兵器軍の進軍で、市民に多少の犠牲が出るかもしれん。それは仕方のないことだ。いずれ大勢のマシニクル人が移住するとき、元の住人は少なくした方が……都合が良かろう?」
「だがねディムホルツ大佐、私は『多少の犠牲』では、治まらないのだよ」
サターントリプルの大きな手と力なら、人間の上半身を握り潰すことは造作もない。
堀は突然、目の前の大佐を殺した。
勢い良く握られた指の間から、ディムホルツの頭と両手が飛び出た。
彼の下半身は衝撃で倒れ、サターントリプルの大きく太い足が、それを踏み潰す。
「第二期勇者の……息子の死は、スレイプーン王国側の掟だけじゃない。勇者鎧の実践データが取りたいマシニクル側でも容認されていたのだよ。私は……どちらも、許すつもりはない」
堀中佐の行動は、緑昇達に味方するものでも、侵略の尖兵でもなかった。
唖然とする拝聴者達に、血に濡れた勇者は静かな声で言う。
「私は今まで軍に忠を尽くしてきた。ただの人ではなく、命令に従う軍人に、冷たい機械に徹してきた。それは祖国を、そこに住む家族を守る為に最善のことだった。だがその息子が英雄として賞賛されず、モルモットでしかなかったなど、どうすれば許せる?」
発せられる言葉は、愛する子を奪われた親の、恨みの台詞だと理解出来る。
しかし、そこに内在する筈の感情が、声にも態度にも感じられなかった。
『怒り』の感情が抜け落ちていたのだ。
「サターンと契約して良かったよ。息子の死に気付いたとしても、軍人の私だったなら、冷酷でいられただろう。だが……『怒り』を燃料とする悪魔のお陰で、私は人に戻れた。怒りや恨みが止まらないのだよ。そしてその憤怒をサターンが食べてくれることで、私は冷徹な機械のまま、怒りを実行に移せる」
「貴方は……一体何をするつもりなんだ?」
不気味な堀に面食らった緑昇の問い。
答えは、周りから聞こえてきた悲鳴と銃声が代行した。
「初代勇者祝勝会の再現だよ。ディムホルツ大佐が用意していた無人兵器軍を、私が出撃させた。彼の私兵とシュディアー人を攻撃目標にしていてね。ダウヂバウナに積まれた残った輸送機も、各地方に自動操縦で飛んでいる頃だ。これでより多くのシュディアー人を殺せるだろう」
堀はディムホルツらマシニクル政府の意向を、利用するつもりなのだ。
ただし彼の目的は侵略や支配ではなく、抹殺である。
憤怒の悪魔に焚べられた怒りは、もはや一組織を燃やしたところで消える炎ではない。
「さて、もはやこの世界で私を止められるのは、同じ勇者だけだと思うのだが、どうするかね?」
その後、緑昇ら三人の勇者は、暴走した堀中佐と戦うも、圧倒的なサターントリプルの力に敗れる。
しかしその窮地をディムホルツ側の怠惰の勇者に救われ、その彼を説得し、味方に引き入れた。
四人となった勇者達は、暴走した機械生命体を駆除しながら、堀と何度も戦い、ついにクスター地方のアッシド火山に追い詰め、決戦に勝利するのであった。
そして緑昇達はマシニクルと決別した。
あまりにも身勝手な財団政府では、この世界に住み着いても、いずれ向こうの地球のように自然を滅ぼすだろうと。
勇者達は結界門の遺跡を破壊し、一時的にスレイプーン王国の支配を握ることとなる。
自分達の世界に関わったせいで捻じ曲げられた世を治し、各地に散らばった無人兵器を破壊する為である。
無人兵器、マシニクルに生息していた機械生命体らは、各地で増え、いつしか人々から『魔物』と呼ばれるようになった。
「そして四度目の龍の襲来を、残った俺達で辛くも撃退したが……次も上手くいくとは限らない。そこで単独行動としていた俺に依頼が来た。例え強敵と言えど、国をまとめる三人の労力を借りるわけにはいかんのだ。だが幸い、勝ち目もないわけではない」
腐敗した王政は消えたが、それでもこの国が立ち直るには、時間がかかる。
今は戦友達と道を違えているが、緑昇も本心では力になりたいと思っている。
「次に敵が仕掛けるとしたら、この街だろう……。市民が人質になるかもしれない。ならば俺達は、敵より多くの市民を盾にして、勝つだけだ」
私は映画『セブン』が好きだったので、7つの大罪ネタを使いたがるのですが、
他作品とのネタ被り防ぎに、罪の吸収システムを入れました。
これで例えば色欲の悪魔と契約した勇者は、一切の性欲がなくなってしまう。
緑昇共々、三大欲求が感じられないのは、かなりのデメリットになるでしょう。
さて次回はかなり削って、エンディックと緑昇の英雄としての議論になります。
上手い具合に編集して、黄金騎士と緑の勇者の、善悪としての対立構図を作れました。




