表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/67

第三幸E-5「決闘とは、いかに決闘前に相手を殺すかである」

シナリーの無理矢理な交渉により、彼女の所有物である強欲の勇者鎧マモン=グリーズは、敵であるリモネの命で交換となった。

条理を是とする緑の勇者は、これを頷かるおえない。

シナリーはエンディックの身の安全と自身の始末、そしてマモンの打倒とリモネの命、4つも緑昇から勝ち取って見せたのだ。

ただの人の身では到底敵わない勇者に、舌先で勝利するシナリー。


そして日は経過し、次の朝。

黄金騎士と緑の勇者の、決闘の時間となる…

(アリギエ~ヴィエル農園行き街道)


 時刻は日の光眩しい朝。エンディックは街道を道なりに進んでいき、農園方向を目指した。

 ヴィエル農園もピンスフェルト村同様、クスター地方の観光地となっており、エンディックも行ったことの有る場所である。

 そこへ至る道筋を逸れ、感知した『機力反応』を頼りに、左に広がるスキエル平原へ。

遮蔽物の無い、広大な緑の地平線を進んでいくと、遠くで男が立っているのが見える。

 緑昇もまた『風』で待ち人の接近を察知すると、手甲から機力を放ち、決闘場所を少年に伝えた。

「……のうのうと現れたか」

 緑昇は草地を歩いてくるエンディックを見やる。

 以前と同じ、防具は両手の籠手と胸当て、足の装甲のみ。恐らく背負った袋に、あの金の得物を隠しているのだろう。右手には槍ではなく、鋼鉄の棒を持っている。

 エンディックは声がギリギリ届く距離まで行くと、勇者を挑発するように言った。

「緑昇さんよぉ、本当にここで良いのかよ? こんなだだっ広い所、動き回る俺に有利だぜ?」

「構わん……ここなら周囲の被害も考慮する必要なく、俺も全力を出せる。君の偽物の富が自爆兵器だとしても、勇者鎧を分解される脅威は変わらん。俺達がドラグ・スレイヤーなら、そちらは『勇者殺し(ブレイブスレイヤー)』といったところか」

 緑昇は語りながら、ある可能性に思い至った。

 少年の親の作品は未完成ではなく、既に目的の性能を発揮している、完成品ではないかと。

 あの金の騎士は、まるで『居世界から来た勇者を殺す為に』現れた、この『シュディアーにとっての勇者』なのではないか……と。

「取り決めをしよう。君は手加減の必要はないが、俺は……殺すわけにはいかない。騎乗する金獣から引きずり落としたら、こちらの勝ちで構わんか?」

「侮りやがって。なぁ、やる前に聞いていいか?」

 エンディックとしても、仇討ちに失敗した意志の改善の為、前座のこの勇者と戦っておくことに、利が有るのだ。

 だが少年は、更に『理由』を勇者に求めた。

「ピンスフェルト村で魔物の群れを、アンタがやっつけたよな。あんときよ……アンタどこから飛んで来たんだ? 出た瞬間は確認出来なかったけどよ、もしかして俺より『魔物に近い場所』から出てきたんじゃねぇか?」

「君の想像通りだと肯定する……。俺は君の友人が戦い始めた頃には、もうあの場に居た。無論、彼らや村人が何人殺されようが、助けるつもりは……無かった」

(緑昇……?)

 勇者の手甲の宝石に潜む悪魔は、相方の言動に戸惑う。

なぜ己の立場を悪くする、言い回しを選ぶのか? まるで暴露だ。

「テメェ! どーいうつもりだ! それでも勇者かよ?」

「勇者だからだ。多くの善良に生きる人々を守り、全ての悪を根絶する。それが俺の勇者道だ。もし俺があの戦いで死んだら、これから俺が救わなければならない民はどうなる? 俺に絶対の勝利が保障されてないなら、未来の人々の安全の可能性を、見捨てることは出来ない」

「……その為なら、少数派の村一つの安全は無頓着ってか? それが本に書かれた英雄の言うことかよ。やっぱ『勇者』ってのはろくなモンじゃねぇな」

 少年達が夢描いた偶像は、現実に現れれば、実に『普通』で『常識』的だった。

 当然である。神話とは、フィクションなのだから。

「緑昇、俺はアンタが好かない。空想の肩書を名乗りながら、普通の奴らと同じことを語る英雄様はな……」

 少年は袋の中身を地にばら撒き、鉄の棒を地面に深く突き刺し、籠手の技術に命令する。

 男は右手を握り突き出し、手甲に機力を込めると、誓いの言葉を呟いた。

錬金開始(レッツ・アルケー)!」「勇者、召喚」

エンディックが兜を被り、左腕を前に出すと、左籠手の紫の宝石が発光。

地面に錬金円が刻まれ、散らばる防具と部品に、円内全ての物質に彼の機力が流れていく。

 緑昇の体は黒い円柱、結界(カーテン)に包まれ、技術銀行と接続。空間に記録(セーブ)された勇者鎧を再現(ロード)する。

 彼の体に文字や数字の羅列が巻きつき、黒いチューブとなるそれらの上に、鎧が装着されていった。

少年の右の籠手の赤い宝石が光り、彼が長い金属棒を大地から引き抜くと、筒状に被さった土が槍を形作る。

 その隣では残った装甲板や部品が宙を舞い、獣の骨格を作り上げていった。

 結界を押し開いた男の両手は銀色で、右は金十字の手甲のまま。そこからモレクの電子的な音声が発せられる。

「組み立て完了。大食勇者モレク・ゾルレバン2」

 結界から漏れた魔力と豪風が、一瞬封じられた悪魔の姿を現した。

それは豚の胴体に鰐の頭の異形。勇者後ろの結界から現出し、すぐ粒子となって手甲の宝石に吸い込まれた。

 エンディックがヴァユンⅢに飛び乗ると、武具や獣の表面が黄色に着色され、やがて金へと変化した。そして闇より()でた、敵の勇者を観察する。

(ち、勇者っていうより、怪談に出てくる化物じゃねぇか……)

緑昇の体中に巻きついた黒いチューブの上に、鱗のような質感の装甲を着ている。

胸鎧は上下に分かれた四枚の装甲版で、その上に人間の唇に似た装飾が、上下左右の装甲に一つずつ。肩は四角の大きな鋼鉄が付けられ、左右の肩の端と端を布が繋いで、マントを装備。

複雑なデザインの四角形状の脚甲は、膝と(かかと)、足の甲にも丸刃のバーツが有り、爬虫類の(わに)に似た腕甲は、右腕が左よりも大きめに作られている。

頭の兜はギザギザのトサカの意匠に、口元は獣の牙の如き形で隠されている。青くクリアになったバイザーの中で、鋭い二つの黄色いカメラが有り、外の世界を装着者の視界に映す。

血色のマント、銀色の装飾や装着部などを除けば、緑の鎧を着た勇者であった。

その勇者も相対する黄金騎士を分析する。

(最低限の軽装……とにかく敵より速く動き、敵より速く逃げ、逃げる敵に追い付く移動力を追及する……か。一見大き過ぎる力を振り回す、直情な若者に見えるが……その姿勢には、ある感情からくる知性を感じる……)

黄金騎士の乗る鋼鉄の獣はヴァユンⅢという。装甲は刺々しく、光り輝く鹿のような四本足の体。二本の短い角を生やした頭に、硝子の細い眼の意匠だ。

 その不思議で、神秘的にさえ見える異形に(またが)り、人々の為に戦う姿は、正に空想の英雄であろう。

勇者鎧の兜のカメラには、遠くの黄金騎士から発せられる、膨大な機力量を計測していた。

亜人種との混血であるエンディックの最大機力貯蔵量は、鎧の為に調整を受けた勇者達に匹敵しかねないようだ。

そして彼の錬金術は、その量すら食い潰す燃費と、戦闘力を秘めているのだ。

「だが……君の負けだ」

そして今、緑昇は『賭け』に勝利した。

「……おい、気が早いんじゃねぇか?」

「いや、戦いとは始まる前に、大方の勝率が確定する。確実な勝利を手にする為に、勝因や戦略を掻き集め、不安を抑えようと経験や集団を作るからな……。それで……君はなぜこの場に現れた?」

 緑の勇者の予想通り、黄金騎士は『先攻』を取らなかった。消耗の激しい装備で、獣を走らせもせず、ただ緑昇の声に耳を傾けている。

「君の勝機は『決闘が始まる前』にこそ有ったのだ。何をお利口に約束通りに来ているのだ? 体力を戻し次第、寝込みに夜襲を仕掛けるべきだったな」

「……それは」

「出来ないと知っている。集めた情報の中に、街中での黄金騎士の目撃例は無かった。レースが有った日以外ではな。黄金騎士、『貴様』はもっぱら市街の外で活躍しているが、それは騎乗した戦いが、障害物の多い、街では不利だから……だけではないな?」

 図星を突かれたエンディックは押し黙り、緑昇はそんな彼を指差した。

「ふ……よもや『戦闘理念』まで似ているとはな。勝機を失ったまま敵と相対し、更に敵と正面から正々堂々戦うという、『不慣れな状況』で、よもや俺に勝てると思っていまいな?」

「やってみなきゃ解らない……てのは駄目かい?」

「酷い冗談だな。それはやる前から成功するビジョンの無い、屑人間の台詞だ。行動の前から結果は出ており、あとは達成するだけなのだから。試すも何も貴様の命に予備は有るまい」

 そう言いきった勇者は、敵に向けていた銀色の指で、今度は己の右方向を示す。その先にもやはり何もない草原が広がっている。

「では始めるか、黄金騎士。これが……現実だ」

 鏡が割れた。

 緑昇の魔言『MIRROR』によって、右方向に『今まで再現されていた』、巨大な四枚の鏡。

 鏡が囲み、座標を隠蔽していたのは、大きな緑の魔力円(マナサークル)だ。

 その大きさたるや、アリギエのライピッツ会場に匹敵する程の、広大な魔力の塊なのだ。

「おい……いつ詠唱しやがった?」

「街から出発したときから、魔力を溜めていた。魔言は正確な発音が求められる以上、敵に知識が有れば、現出する技術が露見してしまう。それでは敵の魔言で防がれるだろう? だから俺は……戦う前から発声し、『鏡面迷彩(ミラーパターン)』でその魔言の発動を隠し、ここまで持ってきたわけだ」

 魔力円の技術が姿を現す。

 巨大な青い逆三角形。五階建ての高さ程の建築物、いや石のような質感の独楽だ。

 その独楽は螺旋状の溝が有り、そこから黄緑色の光が輝き漏れている。それが突如、平原に現れ、勇者の右方向の土地の上に浮遊していた。

「……で、デカ過ぎだろぉぉぉ?」

 呆然とするエンディックに応じてか、青の独楽がゆっくり回転を始める。

 独楽は徐々に回転速度を上げ、溝から海水を撒きながら、竜巻を纏い、前進しながら降下していった。

「魔言『TORNADO+AQUA』の……合成魔言(コンボスペル)だ。さしずめブルー・S・スピナー……と言った 所か」

 緑昇が言い終える前に、エンディックは右後方へ逃げ出した。

 巨大独楽は水と風を着飾り、ついに大地に突き刺さり、平原を破壊しながら、敵を追う。

(ちくしょ……こんな魔力を発動させたまま、別の魔言で隠して移動させてきたってのかよ。これが勇者様の実力ってか! 奴の初撃を避けて仕掛けるつもりが……見透かしやがって!)

 黄金騎士は迫る災害から距離を取る為、ヴァユンⅢを加速させつつ、徐々に左へ方向を変える。そのまま左へ大きく曲がり、左前方に竜巻を捉えた。

 独楽が発生させる風は、接触した地形を巻き上げていき、降り注ぐ水はもはや雨だ。あまりにも大き過ぎるその嵐は、エンディックの視界いっぱいに広がっていき、鳴り響く暴風雨はそれ以外の音を許さぬ程。

(この嵐を……迂回して、向こうの緑昇に一撃返してやる!)

 金の獣はさらに右に加速。左から来る嵐の横を通過せんとする。

 竜巻の接近に従って、豪風がエンディックの体を押し、豪雨は鎧や服の上からが打撃し、濡れた水分は走りを遅めた。

「うおぉぉぉぉあ!」

 あまりの雨風に視界を塞がれつつも、轟音をねじ伏せるように吠える少年。

 黄金の疾走はついに嵐を……超えた!

 すぐ後ろを災害が通り過ぎていく。エンディックの走りはあの巨大な嵐すら下したのだ!

(どうだオラァッ!)


『AQUA』は水分集中の技術。空間の水分を集め、飲み水を精製したり、川の流れを変える魔言である。だが大体は(すい)属性の魔力を代わりにする。水の魔力は液体、固体、気体に変化させることで、様々な利便性が有り、覚える者も多い。3の階級。


 黄金騎士は窮地を乗り越えるや否や、すぐさま緑昇が居た方向へ、獣を走らせる。

 彼を通り過ぎた独楽は、次第に充填された魔力を使い切り、効力を失い、消えてしまった。

 今や平原で音を発するのは、風の音とすぐに止んだ雨。そして豪雨でぬかるんだ地の泥を走り進むヴァユンⅢだけだ。

「いない……だと?」

 エンディックが見回す風景の中に、大食勇者モレク・ゾルレバンは立っていなかった。

 見えるのはドロドロになった周囲の地面と、離れた場所の緑だけ。少年の生存に驚く緑昇の姿も、追撃に乗せられる殺意も感じられない。

 少年の決闘相手は消失したのであった。


本当にお待たせしてスミマセン。

本来は一週間で更新する筈が、こんなに長くなってしまったのは、言い訳不能で留トの非です。


この回はずっと書きたかった、主役同士の勝負。向かい合って変身する描写は、書いててかなり楽しかったです。


黄金騎士はヒーロー物としてはひたすら王道を目指しているので、変身バンクや必殺バンクはなるべく省略せずに書いていきたいです。

何かご不満やツッコミが有りましたら、是非とも感想などに教えて下され〜( ´ ▽ ` )ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ