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第二幸Dー4「黄金騎士と巨人の大槍」

魔物と戦っている者が居たことに驚いたエンディックは、すぐさま彼らの安全の為、ある行動をとった。


 偽者の富に機力を溜め、強く発光させる。他の人間よりも自分の存在を示し、魔物達に注意を引くためだ。


 現にこの選択は正しく、トロールは自分に取り付いた人間への攻撃より、突如現れた未知の『脅威』の即時残滅を優先した。


なぜなら、この世界で機力を用いるのは、今では魔物と勇者だけであり、魔物の敵対者であれば、それは勇者だけである。緑昇の読み通り、彼らの今回の作戦目標は勇者だったのだ。


 威力偵察も兼ねて、ゴブリンは乱入者へ走っていった。


 だがエンディックは勇者ではなかった。


 黄金騎士は、遠くから小型の魔物が走って来ているのを知ると、体内の機力を燃やし、ここまで『あえて遅く走らせてきた』ヴァユンⅢの足に力を与える。


 主と同色の獣は加速。脚部を高速で稼動させ、一気にゴブリンまでたどり着く。



「錬金……開始!」

 エンディックは通り過ぎる瞬間、金の槍で魔物を……破壊した。


 加速の乗った槍と、その彼の錬金術の作用により、鋼鉄の箱を一撃で殺した。


 金槍に表面の装甲と、内部の機械を刺し潰されたゴブリンは転がり、黄金騎士は少し進んで左に大きく迂回。また鉄の小人の元へ戻っていく。


 そしてゴブリンの死体の上で、一度横に槍を振い、また走り出した。


 すると破壊され、散らばった魔物の残骸のいくつかに、淡い光が点る。

鉄の残骸達は宙に浮き、エンディックを追いかけ、接触。細かいパーツは武具に融合・吸収され、鎧の強度をより硬く、槍なら鋭さを増した。




 これが黄金騎士固有の戦い方であり、彼の父親が考案した『騎乗錬金戦闘法』である。

 


 敵対者の所有する『金属』を『錬金』する戦闘方法。槍を介して、敵の武具に機力を流し込み、無理やり使用不能にするのだ。


 そしてそれは金属の体を持つ、魔物全般に有効なのである。

魔物の装甲にどんな硬度があろうと、槍に纏った機力に接触した瞬間、すぐに接触面から機力が循環し、その部分の金属を支配。錬金術によって装甲を軟化させ、そこから槍が破壊していく。


 つまり偽者の富は、突いた敵の装備の解除、及び防御力を下げた状態で攻撃が可能なのだ。


 ただし、一瞬で敵の一部分に機力を流し、支配するという芸当の連続使用。

ヴァユンⅢ同様に莫大な機力が必要であり、常人にそれを同時に運用し続けることは『不可能』である。






 トロールは遠くで随伴機を破壊した敵に、上半身両脇で伸びるコニワク・キャノン砲を使用。砲声と火薬臭を伴い、強烈な火力が飛んでいく。


 黄金騎士は瞬時に加速。後方で爆ぜていく地飛沫を置いて行き、大きな魔物へ肉薄する。



(……? な、何でこの人が居るんだ……?)

 エンディックは、剣を抜こうとがんばっているニアダを見つけた。仕方なく魔物を通り過ぎ去る瞬間、彼を槍で掬い上げ、遠く離れた後で畑に落とした。



「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁッ?」

 トロールも後ろに行った敵を追い、脚を動かすも、鈍重な巨体は旋回には向いてない。さらに近距離護衛用の残った随伴機も、ニアダに破壊されてしまったのだ。


 その間に黄金騎士は充分に助走距離を稼ぎ、魔物に突っ込んだ。狙ったのは振り向こうとしている左前足。


だが金槍は装甲を破壊できなかった、金の英雄はそのまま走って行き、距離を取る。敵の体が大きいので、瞬間的な接触だけでは、機力の浸透が足りないのだ。


 しかし兜の下に落胆に表情は無く、すぐに魔物の前に走る、と見せかけて敵の右足側に。大きくカーブして回りこんだ。


 大型魔物もこれを追うため、腹腕のガトリングを撃ちながら、位置を変えようとする。



 出来ない。


左足が持ち上がらないからだ。


 先程の刺突は攻撃ではない。槍を近付け、内部に機力を影響させて、衝撃により駆動部を歪めたのである。


これだけの巨体、支えている足回りを攻めれば勝機は有ると、エンディックは判断していた。


「その危ないブツを……頂こうかぁ!」


 黄金騎士の本命の攻撃。魔物に接近し、右脇の長距離砲の砲身に突き刺し、踏み止まる。

刺さった箇所から機力が流れ込み、材質を軟化。敵の後ろへ逃れるとともに、槍を斜め上に振り上げた。

長い砲身は紙のごとく裂け、飛び散った破片が黄金騎士を追いかけて、槍と融合する。



(は、『この魔物も』大したことがねーな。そして……俺は強い! 騎士や魔言使いでも倒せない化物を、手玉に取れる。ヴァユンⅢには魔物の飛び道具すら当たらない! 偽者の富ならどんな敵だろうとブチ殺せる!)



 エンディックは得物を狙う狩猟者の笑みを浮かべる。このまま得意の一撃離脱を繰り返していけば、あの化物を鉄屑に変えられると。


「これなら……きっと、きっと勇者もブッ殺せる!」


 大きく距離を取って、攻撃の姿勢に移る彼に、唐突に『ソレ』は起きた


メナ・コントロールミスだ。


 激しい頭痛と嘔吐誘引感。目を閉じてしまいそうな突然の不調に、エンディックは困惑する。


(う……! 何……だ? どうして、こんなに早く……? 不味い!)


 トロールは向きを変え、腹腕の武器で減速している金の獣を狙っていた。


 黄金騎士はすぐさま直進から、カーブに切り替え、魔物の銃撃から離れる。ヴァユンⅢと己に活を入れるように、機力を注いで速度を戻した。


(くそ……! 俺じゃ父さん達の作品を、使いこなせないってのかよ……?)


 エンディックが時折頭を抱えるこの状態は、持ち主に原因が有るのだ。

槍と獣の同時使用には、膨大な機力が必要になる。その強大な力の循環コントロールに、エンディックの技量が追い付いていないのだ。


 装備に供給されていた溢れる力が、主の中で荒れ狂い、急な体調不良を引き起こすのである。



(ちんたら無力化してる場合じゃねぇ。あと一撃で、『決め技』でブッ壊す!)


 黄金騎士は銃撃から離れながら助走距離を取り、敵の背後から直進する。すると魔物は彼を追わず、そのまま村の方へ身を向けた。



「俺を諦めて……村を攻撃するつもりかよ!」

 トロールは右砲の発射プロセスを変更し、左砲のみに切り替えていた。少しでも戦果を上げようと、敵拠点への砲撃を試みる。


 エンディックは獣の脚力をもって跳躍。ある程度の高さに達すると、自らも乗り物から飛ぶ。



「必ぃっ殺ぅ……錬……金!」


 黄金騎士の指令に応じ、ヴァユンⅢが自壊する。獣を構成していた全てが、主が掲げた槍に殺到し、二つの作品が融合して、巨大な槍となった。


様々な材料を混ぜ合わせたそれは、不格好で、まるで洗練されてない巨大な槍。


 そして、エンディックの支配下に『侵された』武器の色はすべからく『金色』である。


「魔言『HEAT』!」


 空中で姿勢を変え、槍を下に身を伸ばし、足の裏を空に向けた。その足に小さな赤い魔力円が発生。足裏から先の空間が熱せられ、魔力円から炎が噴出したのだ。


「ジャイアントォオ!」


 魔力の推進装置(ブースター)により、落下に指向性と、爆発的な加速力が与えられる。


「バスタァァァアアア!」


 高位置から撃ち出されたエンディックは、巨大槍でトロールに激突した。


「ジャァベリィィィィィィッンッ!」


 これが黄金騎士の決め技『巨人の大槍(ジャイアント・バスター・ジャベリン)



相手より高所から、魔言で自分を発射。敵の軟化を介さず、槍の質量と重量で敵を刺し貫く。いや、刺し押し潰す技である。


 巨大槍は敵の上半身から大きな下半身を貫通し、武器と魔物の破片を撒き散らしながら、トロールを完全に破壊した。




『HEAT』は対象熱化。(えん)属性の魔力で空間を瞬時に暖め、熱する。魔力円から炎を出したり、熱からエネルギーを得たり、用途は様々な2の階級。



エンディックは足裏から炎を吹かし、方向を変え、落下速度の上昇を図ったのである。


 正規の魔言使いではない、少年の魔力は少ない。魔言は数回しか使えない。なので錬金術の戦い方に、彼なりのアレンジ、魔言を組み込んだこの技は、全力の黄金騎士の必殺技といえる。


ゆえに今の彼に余力はないのだ。






 緑昇の予測通り、これは囮である。


魔物達の『司令官(コマンダー)』は、トロールを倒したことから、黄金騎士を目標の勇者と判断し、本隊を動かした。




 森から無数の巨体が現れる。その大型の魔物の数、十機。


 編成はオークと呼ばれる魔物が三機、ギガースが一機、後はトロールが六機だ。



 オークの見た目はトロールに似ているが、脚部が大きなキャタピラになっている 。

少し青みが掛かった迷彩カラーで、上半身の両脇には箱のような武器、推進誘導弾ポッドを備えていた。


他より抜きん出て大きい怪物は、指揮官機ギガース。

トロールをより大きくした形状で、煉瓦のような橙色の迷彩。上半身には凹凸の無い頭が有り、胸の青い光の上に角が生えてる。

上半身右側には重光線砲(ギガビームキャノン)の大型砲身が伸びており、他の二種同様、遠方の目標を狙っていた。




「おいおい……冗談じゃねぇぞ」

 エンディックは冷や汗をかきながら、森から進んで来る鉄の群れを見ていた。


 彼が大技まで使って倒せた大型魔物が、十匹も居る。


つまり村を救うには、あの群れの攻撃を全て避けられる程、ヴァユンⅢを動かし、魔言も絡めた必殺技を、十回繰り返す必要が有るのだ。


無論、一度に多くの敵を相手にすることも、巨人の大槍の連続使用も、消耗した少年には不可能である。

「負け……た……?」

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