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第二幸Dー2「嘘吐き達の潰し合い」

(ピンスフェルト村・集会場)


「自警団の連中も場数さ踏んで強くなっただ! 森の魔物をとっちめるべきだ!」

「オラ達だけでどうするべか? 攻めるんなら都会の騎士様達も呼んだ方が…」

「そんなもん当てにならねぇべー!」

「魔物にちょっかい掛けてはいかん。誰も森に近づかなければ、いいだけだべ」



 飛び交う怒りと恐れの声。今この場には村人のほとんど集まって、魔物の対処について話し合っている。月が輝く夜空の下、村人達は焚き木で燃える炎を挟んで、二つの集まりに分かれて座っていた。


森を攻めようとするジャスティンと自警団の男達と、魔物に手出しするべきではないとする村長や村の相談役を筆頭とする者達である。


だが人数は、ジャスティン派の方が、明らかに多かったのだが。


「いずれ……魔物はこの村を攻めるように…なるぅ。その前に我らで……魔物を討つのだぁ」


 ジャスティンの言葉に人々の意識が、戦いへと向いていく。まるで自分達が勝って当たり前のように、どれほどの犠牲が出るのか考えないように。


 そんな異様な熱気の中に水をさす、三人の余所者が居た。


「はいはーい、ちょっと聞きたいんだけどよー」


 手を上げたのは金髪の少年。彼は金の瞳で勇者を見ながら、問いを投げる。


「ジャスティンだっけ? アンタ随分あの化物に詳しいんだなー。まるで元は研究でもしてたみたいによー。魔物が来るって言っていたが……何でそんなこと解る?」

「……勘……だぁ」

「――おい、そんな言い訳が」


「勇者としてのぉ…長年の…歴戦の経験に基づいた……勇者としての勘が我には有るのだぁ」


 ジャスティンの堂々とした物言いに少年は呆れてしまった。そこからさらに追求しようとすると、自警団の村人達がいきり立つ。


「小っゾォ! 勇者様の力さ疑うべか? 勇者様が言うなら、そうなるっぺ!」

「きっと勇者様は今まで何兆匹も化物さやっつけて来たんだ。オラ達より物知りなんだぁ」


「あの~、私もいいですか~?」


 ピリピリとしたこの場の状況も気にしない少女の声。肩の膨らんだ黒いブラウスにスカートをはいた彼女は、一見修道女に見える。


「ジャスティンさん、村の人達は貴方を勇者だって言ってますけど~、本当なんですか~?」


「うむぅ。我は……このピンスフェルト村を守るぅ、勇者なりぃ……」

 少女はその言葉にクスリと笑いながら、村人の怒りにさらに火を付ける質問をした。


「な~ら~、ジャスティンさんの『悪魔』は、『電子生命体』はどこに居るんですか~?」

「……む……?」


「先の戦いで、貴方は勇者召喚を行わなかった…変ですよね~? 私は証拠が見たいなーって。それとも、あえて隠しているんですか?」


今交わされた会話で少女は確信し、ジャスティンは言葉に詰まった。

 勇者を支持する男達は、自分達解る範囲の言葉に怒りを口にする。


「この娘っこぉ! 勇者様を悪魔付き呼ばわりかぁ? 出て行けぇ!」


 村人達はついに立ち上がり、青筋を額に浮かべながら少年と少女に掴みかかろうとする。


 そこに立ちはだかったのは三人目の異見者。男でありながら長髪で、騎士団の鎧を着た彼は両手を突き出して、村人達をなだめようとする。


「待つのだ君達! 争いは何も解決しない。ここはファイナリティデストロイ話し合いで」

 追い出された。





 エンディック、シナリー、ニアダは結局村人達を止められず、宿へ戻ろうと歩いていた。


「――彼らは本気なのか? あの怪しげな男を頼りに、魔物に勝てると思っているのか?」


「ニアダさんの言う通りだぜ。もし森の奥まで行けたとして、騎士団でも手に負えなかったデカい魔物に見つかったら、どうするつもりだよ? 間違いなく……全滅だぜ。ジャスティン達が戻ってこなかったら、敵討ちだ~とかでさらに死ぬかもな」



 少年は辟易としながら、暗い村の家々を見る。

 他所から来て、少し留まるだけの旅人なら、ピンスフェルトはのどかな田舎だろう。


 だがこの村の抱える『勇者』や『魔物』といった問題に関った途端、隠れていた嫌な面が露見する。奇怪な行動をとる魔物。それに怯えるゆえに勇者を妄信し、武器を持つ村人。


 そしてこの普通ではない村で、エンディックの家族も死んでいるのだ。

(くっそ、ハゲが死んだことを調べに来たのによ……)


 彼の横では、ニアダが先程の会話のことを幼馴染に問うていた。


「気になっていたんだが……シナリー君、君はどうして彼のことを悪魔付きのように言ったのかな? やはり……聖職者特有の、何かが有るのかい?」

「あ~、あれは適当な思い付きなんですよー」


 笑顔で答えるシナリーに長髪の男は面食らった様子で、冷や汗をかきながら聞いてもいないのに喋りだす。


「いや、なに、本当に本に出てくるような悪魔とか化物の力持っていたら、さしもの僕のミラクルセレブラリンソードも効かないかな~なんて……思っていない!」


 エンディックはニアダを半目で見ながら、シナリーに近寄り耳打ちした。

「――おい、あんなブッ込んだこと言うなよ! ジャスティンが本物だったらどーすんだ?」


「あ~、大丈夫ですよ? 初めて会ったときから、あの人には何も感じませんから」

「感じる……? まあ戦ってる最中、妙な真似はしてなかったっぽいが」


「魔言とは違うんですよ。『私達』はお互いが近くに居ると解るんです。漠然とした何かが。『勇者としての勘』みたいな物が……」



 宿の方向から誰かが歩いて来て、シナリー達とすれ違った。

変わった服装の男女で、この二人は集会場の方へと進んで行った。


 エンディックは幼馴染の異変に気付く。

彼女の表情を覗くと、笑っていた顔が次第に汗を噴き出し、緊迫した色へと変わっていく。


「な、何でもないですよ。……行きましょ」

 少女は持てる力の全てを持って、動揺を隠した。絶対に悟られてはならない。『相手のことに気付いた』と、あの二人に思われては危険だ。


 可能性は少なくとも有ったではないか? 自分達の過去とは無関係な。


別の勇者に遭遇する可能性が。






「あの場所か……」

 緑昇が指し示す先には多くの村人が集まっていた。炎を中心に大勢が座っており、何事か言い争っている。恐らくあれが宿で聞いた村の集会場なのだろう。


 相方のモレクは気乗りしない様子で、こう言った。

「放っておきません? わざわざ魔物に向かっていく命知らずなんて、珍しくないでしょうに」


 ピンスフェルトを訪れた二人は、まず村の周囲をぐるりと歩き、索敵妨害の範囲を探っていた。モレクの魔力(マナ)及び機力探知(メナサーチ)が効かなくなるのは、およそ村全体。村の中心にジャミング装置が有るのだろう。


 その頃には日は落ち、宿に向かうも、そこには宿屋の息子が一人だけ。どうも村のほとんどの大人は、集会場に集まっていると彼は言う。


 そして今、村で起こっている事件の詳細を聞き、村長の下を訊ねようと二人は動いている。


「ヴィエル港の……前例がある。いつ襲ってくるか解らない……魔物の恐怖に怯え、危険な行為に走ろうとしている……村の住人には……勇者が必要だ」






 エストーセイ地方のある港街の話だ。そこの漁師達が魚ではない物を引き上げたのが、事の始まり。彼らは海に漂う水生魔物の死骸をすくい上げたのだ。


 他に部品やパーツが見つかったことから、その海域は魔物の住処に近い可能性があった。


だが魔物の体は鋼鉄で出来ているため、分解して闇に流せば金を生む。漁師組合は旨みを覚え、潜水魔言を使える非正規魔言使いを雇って、次々と回収したのだ。


本来なら騎士団に報告し、調査をして貰うのが成り行きだが、得ている利益を横取りされる可能性を恐れた組合は隠し、さらに沖の方へとサルベージを進めた。


 そして魔物の群れに補足される。水生魔物は対空対地攻撃手段を持っており、港に逃げられた船を追って港を攻撃したのだ。



 『クラーケン』と呼称される超大型魔物の攻撃である、『推進誘導弾(ミサイル)』の雨を受け、港は壊滅。緑昇はこの事態に居合わせ、海の魔物を何とか撃退したのだ。






「それに……この魔物騒ぎが偶然ではない……可能性もある。俺達の探し物が飛び去った村だ。誰が魔言や機力世界の技術を使っても……察知出来ない村に、ちょうど良く勇者が旅行に来る。経験上……これは罠だ」


 緑昇達の探し物を『着た』何者かが敵意を持っており、策略を携え、誘い込んだのか? それは銀獣の会と繋がりが有るのか? その構成員が出した名前の人物はどうしてこの村に居るのか?



 全て仕組まれたか、あるいは無関係か、緑昇はまだ判断出来ない。


「あらあら、それならお逃げになります?」

「いや、人質が居る。どうやら……もう何人か殺されて始めたようだが」


 敵は恐らく自分達の情報を持っていると、勇者は予測する。


 もし罪も無い善良な、力弱い村が近くに有ったら、きっと立ち寄ると。そこに居る悪を、魔物を殺さずにいられないと。そして迎え撃てる強さだと。

そう知っているのだ。


 あの黄金の勇者は、魔物を誘導する手段を持っているに違いない。クスター地方に自分を探す者達が訪れたから、早く来いとばかりに、村人を殺し始めた。



「今回の事件……勇者の命すら脅かす……可能性がある。無関係ならば……退いている。しかし、ついに俺達は対象を目視したのだ。踏み込むべき……と判断する」


「――まあ、構いませんけど……」

 方針を話していると、集会場に着いた。


 本物の勇者である緑昇が、勇者を語り、村人を死地に先導する男をどうするかは、想像するに容易い。








(翌日。宿屋『ウエル』)


 エンディックは早起きする方だった。朝食の時間には少し早いので、朝日でも浴びることにする。


 部屋を出て、食堂も兼ねるフロントに出ると、同じく早起きした人物が居た。

「おっはよー! 何だかごめんねー。村の人が嫌な思いさせちゃったでしょ?」


 シナリーの友人のリモネだ。給仕服を着た彼女は、テーブルを整えていた。

「おはような。別に気にしてねーよ。アンタが謝ることじゃない」


「でもさー、せっかく来てくれたのに、色々悪い物見せたみたいでさー。一住人として申し訳ないよー」


 力なく語るリモネに、エンディックは気になった点を聞く。


「なあ、この村っていつから『こんな』なんだ? 三年前に来たこと有るけど、魔物があんな近くまで来たなんて話は聞かなかったぜ」


 エンディックが父親探しの旅に出たときに、ピンスフェルト村にも寄っていた。そのときは魔物の住処(すみか)が近くと聞いただけで、あんな近くまで迫って来る危険など知らなかった。


「その頃から結構有ったんだよ。この村は旅行者も多いからねー。悪い評判はあまり表に出さなかっただけ。見張りから警告が出れば、畑から村に逃げればいいしね。でも……あの人が魔物を倒してしまった……」

「ジャスティンって奴か」


「うん、あの人が魔物を倒せるって所を見せてから、有るだけだった自警団の人達が、急にやる気なったの。普段は農民なのよ? 戦ったこともない人達が他所から武器を買ったり、勇者様が一番偉いみたいに担いじゃって……嫌な空気だよねー」


「多分それ、アンタだけでなく皆思っているだろうよ。そしてさらに嫌な空気が高まれば、魔物の森に特攻。それがなくてもジャスティンの信者とその他で争いになるだろうぜ」


 勇者という異物を抱えた村。このままではピンスフェルトは、故郷のようになるのではないか? あの黄金騎士に支配された村のように……。


 エンディックにはこの村の問題が、他人事のように思えない。己や周りの者の人生も『勇者』という単語に振り回されてきた。ピンスフェルトの未来に、自分の故郷のような未来が来るというのなら、可能ならば食い止めたい。



(オヤジなら……首を突っ込んでいただろうしな。それにこの問題は、どこに居るか解らない人や仇を探すより、死にたがりを助けるより、ずっと『簡単』だ)


 決意するエンディックに、リモネはもう一つ気になる事柄を伝える。



「しかも昨日……もう一人出たの。自分が勇者だって言う人が……」






(村の中心に立つ第二見張り台・その付近)



「妨害装置を壊さなくていいんですの?」

 森側に建てられた第一見張り台とは別の、内側に建てられた見張り台の下。


 その近くで話しているは緑昇とモレクだ。彼らは有事に備え、夜に出来なかった村内部の把握を朝一番で行っていた。


「あえて壊さず、こちらの罠として残して置くのも……手だ。それよりも」

「宿で襲って来ませんでしたね。拍子抜けですこと」


 二人が普通に宿に泊ったのは、敵の反応を見るためだ。挑発行為とも言える。


この怪しい村は罠が張られているであろう敵地である。緑昇らが訪れたと知れば、のんきに宿に寝泊りしているのであれば、当然夜襲が有ってしかるべきだ。


敵が何者でどこに居て、いつ襲ってくるのか解らない。


 ならば、こちらでタイミングを与えてやれば良い。


村の大体の人間が集まる集会場で、緑昇は『己が勇者である』と名乗った。そして追跡を撒く行為もせず、宿で寝た。


 だが、寝床は襲われなかった。

 無関係な他の客を巻き込みたくないのか? 村の中で騒ぎを起こしたくない事情が有るのか? 彼らのことに気付いてないのか?



「せっかく迎え撃つ気充分でしたのに……これでは何のために、あんなに堂々と名乗りあげたか解りませんわ。襲ってきたのは、この村の偽勇者くらい……貴方様、良いアイディアが有りますの! 魔言の大出力攻撃で、魔物の森を平地にして見ません? 邪魔な木が根こそぎ吹き飛んで、中にどれだけ魔物が居るか丸解りですわ!」


「俺の世界では……森林破壊が問題になっていてな。ここでも自然の暴虐など、論外だ。それに……生き残りが居たらどうなる? 勇者鎧は『龍』と戦う装備。魔物との戦いにおいて、必ずしも勝てるわけではない。それに俺達は彼らと……ただでさえ相性が悪いのだからな」


「おい、そこで何してるんだ?」

 緑昇が声の主を探すと、近くに立っている木の陰から、金髪の少年が歩いてくるのが解った。見たところ、武器は持ってないようだが、昨夜の集会場には居なかった顔だ。


「村の中を……探索していた。俺は『勇者』……なのでな」

「勇者……だと?」


 その単語を聞いて動揺し、明らかに『自分の方』を見たのを、モレクは見逃さなかった。



 モレクの口から伸びた舌が、少年に巻きつく。宙空に持ち上げられた少年は、こんな長い舌を持つ奇怪な女に遭遇しても、悲鳴を上げなかった。



「ち……間抜けだったぜ! 怪しい偽者の他に、『本物』が出てくるとはよ……」

「ふむ、撒いた餌に掛かった貴様は……何者だ? 勇者と名乗ったのは俺だ。モレクは関係ない筈だが……彼女が何者か察したか?」




 エンディックは朝食後、すぐにその怪しい二人組みを探し始めたのだ。

 その同じ宿に泊っている旅行者らが、食事に現れなかったからである。


 そして幸か不幸か、発見して接触を試みたわけだが……。

「俺はエンディック。『アンタ達』の事情を少し知ってるだけの、ただの旅行者だぜ?」


 冷や汗を浮かべながら、『勇者』と確定した男に答えるエンディック。


 その勇者は地味な黄土色のコートを着た、あまり手入れをしてなさそうな黒髪の男。長身で服の上からでも、鍛え上げられた体だと彼には解る。無表情だが、その(まなこ)に生気がなく、そして容易く他人の命を奪える冷たさが有った。



「うふふ、少し?『異世界(マシニクル)から勇者が来て、この世界(シュディアー)を救った』という『事実』を知っている者なんて、そうそう居ませんわ。ワタクシ達にとって充分に不審者ですわよ?」



 これにはさすがにエンディックは呻いた。

 女と彼の間で伸びている舌に、唇がいくつも生じ、一斉に発声したからだ。


 この不気味な女性。目が痛くなるような桃色のドレスを着て、髪はエメラルドグリーン。歯茎に似た青い髪飾りを付け、口から粘液まみれの舌でエンディックを捕らえている。


 どう見ても普通でない女を、エンディックは直感的に推測する。


 コイツは以前シナリーの近くに居た『化物』に類する存在なのではないかと。

 エンディックの名乗りに応じて、勇者の男も自己と目的を紹介した。



「俺は……緑昇、そう呼んでくれ。七つの勇者鎧の一つ『大食』の鎧を管理する者だ。この村への道中……俺達は謎の敵に襲われている。そして勇者に憑く悪魔のことを、知っている人物が現れれば……尋問せざる負えない。貴様があの黄金の勇者なのか?」

「……黄金だって……?」


 彼の中で何かが切れた。怒りと喜びで、理性が切れたのだ。


「その勇者ってのは『アイツ』か! あの空を飛び回る奴か! 金属毒(アイアンヴェノム)を使う野郎のことか! アイツの居場所を教えろぉ……。あの糞野郎はぁ! 俺の獲物だぁ! 今すぐあの黄金騎士を……殺させろぉぉぉぉぉおっ!」

「……」


 目を剥き、歯を剥き出すように必死の形相で訴えるエンディック。

 緑昇はそれを見て、片手を上げ、また下げる動きをした。するとエンディックを締め上げている舌が解かれ、地を蛇のように這い回り、モレクの口内に勢い良く収納された。


「……おい?」

「俺達の敵が……『君』の敵でもあると認識した。よって君は早急に始末せねば……ならない脅威ではないわけだ。悪人でもない人間を殺す道理もない。だから解放した」



 地に落ちる形となったエンディックに、緑昇は近寄り、手を差し伸べた。


「察するところ君は……黄金の勇者に何らかの被害を受け、敵を調べる流れで勇者の知識を得た復讐者……そんなところだな? 申し訳ないが、俺も奴の……居場所が解らないのだ」


 立ち上がったエンディックは、緑昇という男の推測に驚いた。自分は親を二人も勇者に殺された、復讐者だったからだ。


 モレクと呼ばれていた女性が、相方の言葉を補足した。


「貴方様のような勇者に恨みの有る方は、初めてではありませんの。ワタクシ達も昨日勇者と名乗ったら、妙な男に襲われましたし」


「恐らく勇者の名を語って、小さな野心を満たしていた……というところか。崇拝者の目の前で投げ飛ばしたからな。奴の信用は……もう有るまい」


 勇者と偽る男。エンディックがその可能性を思いつくのに、時間はかからなかった。


「もしかして、それはジャスティンっていうオッサンか?」

「む……確か村人はそんな名前を呼んでいたな」


 リモネから聞いてなかったが、どうやら問題が一つ解決されたらしい。村人の前で醜態を曝したジャスティンに、もう今までのような発言力ないだろう。皆を先導し、魔物の森に攻め込むこともないだろう。


(何だか不気味なオッサンだったが、拍子抜けする終わり方だな)

 エンディックがひとまず安堵した、次の瞬間である。


「な……!」

 聴覚に激しい鐘の音が届く。警告ではない。はっきりとした大きな危険を発見したのだろう。


 『魔』力か何かで動き、人を殺す『物』が、来る。

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