第二幸Cー2「勇者の力で一般市民を虐殺し、オーバーキルして秩序を勝ち取ろうな?」
ちょっと展開が遅いかもしれません。詳しく書きすぎました。
黄金騎士と緑の勇者が、アリギエを出発する所までです。
(アリギエ・教会の孤児院)
朝食の席にて、エンディックが言われた第一声がこれだった。
「エンディック、好きです」
「――お、おう」
「だから殺してください♪」
「……嫌だ」
彼と対面するように座った少女の言葉は、告白と殺し文句である。輝く笑顔で懇願しているシナリーに、エンディックはうんざり答えた。
「何度も言わせんじゃねぇ! 俺はお前をやるつもりはねぇんだよ。ガキ供も誤解するだろ?」
「コロスッテドウイウインゴカナ~?」
「勿論、死んじゃう~ってくらいヤッちまってくれ的な意味ですよ」
「こんな朝っぱらから? キャー」
怪訝な顔をする彼の両脇にコルレとキリー少年、そのまた隣にスクラという少女が座る。。彼らは思い思い勝手な想像を膨らませ、エンディックとシナリーを凝視していた。
エンディックが街に来て三日が過ぎた。シナリーは彼の行く先に付いて周り、殺害を要求してくるのだ。エンディックが何度却下しようとも、だ。
孤児院の子供達の相手をしながらエンディックは、ピンスフェルト村の最近の情報を集めていた。副業も勿論忘れない。
スレイプーン王国は王都を中心に、東西南北の四つの地方に大きな都市が有り、都市の周辺に小さな町や農村が有るのだ。
王都から西のクスター地方の中心はアリギエであり、比較的近いピンスフェルト村はエンディックが、旅の最初に立ち寄った場所だ。
そこに『魔物』が現れたという。
村は地図上、森や山に囲まれており、それらの入り口には、絶対立ち入り禁止の看板が刺して有る。木々の奥深くは魔物のテリトリーになっており、命からがら逃げてきた者によってその情報が露見した。
魔物は基本、住処から出ないとされる。村人も森に入らなければ、安全だ。
だが最近の噂で、村の平穏なイメージが崩れる。
魔物達が森を越え、村人や街道の旅人を襲う事件が有ったというのだ。当然、騎士団が派遣されたが、壊滅。現在は対策を検討中=放置らしい。
「きな臭い話だぜ……」
エンディックは今日にも村に出発する予定だ。もう手掛かりはこれしかない。
「うぅぅ、もう二人がどこかに行っちゃうなんて……お義姉ちゃん心配で心配で」
「大丈夫ですよ~。一日かそこらで戻ってきますって~」
サーシャが思い出し泣きをし、隣のシナリーがなだめる。なんとシナリーも同行すると言う。
彼女も養父の死の真相を知る為、彼女を殺す予定のエンディックを死なせない為、ついでに会いたい友人が居る為(こちらが本命ではないだろうか?)一緒に行きたいらしい。
「あ、そうそう。アンタ達が心配だからさ、知り合いの用心棒を頼んどいたから」
不意にサーシャは泣き止み、思い出したように、こんなことを言ってきた。
するとエンディック達が食べている部屋の外から、ガチャガチャかつドタドタという音が。それはみるみる接近し、音の主は部屋の戸を勢いよく開けた。
「用心棒、推参ッ!」
現れた男はなんと騎士だった。
軽量型の鉄鎧と小手、腰や足に防具を付けた、黒い長髪の美男子。彼は綺麗な黒髪をフワサァっとさせ、颯爽とサーシャの元に跪いた。
「あらニアダさん、わざわざご苦労様ね?」
「いえ、我が愛しい人の頼みと有らば、僕が参らぬわけがありません」
突然の乱入者に皆が呆気にとられる中、サーシャと騎士のやりとりは続いていく。
「ごめんなさいね。私の義弟達が、魔物が出る危険な村に行くって言うのよ。確かニアダさんは、スーパーサイクロンエクセルアトリームなんちゃら斬りで魔物を倒したことが有るって自慢なさってたわよね? そんな貴方なら適任だと思うのよ」
「はい! 僕のハイパーギガンティックメガスマップ……何だっけな……とにかく斬りで魔物など一発でしたよ! お任せ下さい、我が愛しい人よ」
「本人も覚えてないのかよ……」
半眼になったエンディックに義姉はこの男、ニアダ=ゲシュペーについて、紹介する。
彼はこの街の騎士で、サーシャに一方的な感情を抱いてるらしく、何度も教会や孤児院に足を運んでいるとのこと。
この街の騎士にしては素行が良く、悪い裏評判も聞かない善良なナイト。子供達も彼を気に入っているようだ。
美しい容貌の騎士は、エンディックに近づき、握手を求めた。
「やぁ、僕はニアダ=ゲシュペーだ。世の為人の為、何よりサーシャさんの為に、騎士をしている者さ。いざ魔物や盗賊に出くわしたら、君達の安全は保障する。サーシャさんのご機嫌をとる為に同行させてもらうよ」
「アンタ、今本音が……」
「聞こえない! ハハハ、アハハハハ!」
手を握る少年の言葉に、耳を貸さないニアダだった。
どうにも不安である。エンディックは元々騎士を好ましく思っていない上、こんな優男は嫌いだ。
それに人数が増えるほど、いざというときに目を盗んでの『準備』が出来なくなる。
「良いですよー。大人数の方が旅は楽しいですしー」
だが、シナリーはあっさり了承するのだった。
「おいゲシュペーさん、仕事はいいのかよ?」
「少年、愛の前に非番かどうか関係ない。パワフルに部下に押し付けてきたよ!」
「――やっぱり騎士は最悪だな……」
怪しい黒髪ロング男、ニアダが一時的に仲間になった?
(昨日、アリギエの街、各所)
人々の喧騒から外れた場所。日中でも光が入らないその路地で、男二人、女が一人居る。
その男達は街の治安を守る騎士で、普段から巡回中に、彼らの価値観で怪しいと思う人間にちょっかいを出していた。彼らの勝手な疑心を避けるには、金品を与えて機嫌を取るしかない。
だが今回、彼らの望みは取り調べ『たい』人物その物、女一人である。
「は、離してください! アタシは何も悪いこと……」
「いや~ごめんね。お嬢ちゃんが何言おうと、どうでも良いんだわ。ただ俺様が反抗的な態度が有るって思うだけで、強制尋問決定なんだわ」
「ケケケッ、この女、平民の癖に発育良すぎですよアニキィ。何か隠してるんに決まってるでヤンス。こりゃもう身包み剥いで、念入りに調べてみるでヤンスよ~」
狭い路地で女性の前後に立つ、剣を持った男という状況。逆らうことや逃げること、助けを呼ぶことも叶わない。むしろ悲鳴をあげれば、『善意』の途中参加者を呼び寄せることになる。
怯える女性の視線は、いやらしく笑う騎士の向こうに。もう他の男が現れたのだ。
「何……アレ……?」
新たに路地に入って来たのは、奇怪な全身鎧の人間。
街の騎士達とは違う、複雑なデザインの大きな体。血のように赤いマントを背に付け、右の腕甲には二枚の板が備えられていた。
その装備のほとんどが『緑色』である。
全身鎧はボソボソと聞き取り辛い声で、彼に比べて軽装な二人に問うた。
「――何をしている?」
「仕事だよ、仕事。街の平和を守る為、こうして悪そうな奴を決めたら、じゃなかった。悪い奴を見つけたら、尋問してるんだよ?」
「こうやって騎士の強さと正義を知らしめないと、悪さする奴が出るかもしれんでヤンス。それに使命感と鬱憤を出さないと、騎士の仕事に支障が出るでヤンスからね~」
「だから『コレ』も街を守る為には必要なことなんだよ? だからとっとと行きな」
そう言って鎧の人物から、今日の得物に目を戻す騎士達。
緑の鎧は重量の有りそうな姿ながら、路地の入り口に近いアニキ騎士の後ろに、一瞬で移動した。そして右手の板を騎士の背に肉薄させる。
「グロ・ゴイル」
全身鎧はそう呟くと、腕甲のレバーを引いた。
膨大な風が武器に生まれ、回転する刃は鎧も肉も掘削する。
グロ・ゴイルはアニキ騎士の胸から外界に出て、貫通した上半身を威力を持ってブチ撒けた。
これが彼、緑昇の武器。グロ・ゴイル。見えない風のチェーンソーのような武器である。
「きゃぁぁぁあっ!」
多量の肉片を浴びた女性が、今度こそ悲鳴をあげる。相棒の血の爆発を見た騎士は、信じ難い光景に放心する。
そして下半身も解体してゆく緑昇は、胸の唇でアニキ騎士の肉を吸い取っていった。
まるで騎士の体の内部で、竜巻でも起こったかのような惨状だ。猛烈な血の臭いと周囲への強制着色。見た者の記憶に、赤と緑の色を植え付けた。
相棒が捕食されるのを見たヤンス騎士が、逃げるも立ち向かうも、結果は変わらない。
商店街で賑わう人々の間を少年が逃げていた。
彼は通貨を持っておらず、手には盗んだ大きな果実。後ろには必死の形相で追いかける店の男の姿が有った。
やがて二人の追いかけっこは商店街を抜け、中央に噴水が位置する広場にたどり着いた。
この広場は買い物客がベンチで休んだり、子供達が集まって遊んだりする憩いの場だった。
今も多くの人が居る広場の噴水の前に、緑鎧の人物が仁王立ちしている。
追う者と追われる者は、同時にその人物に声を訴える。
「あんたー! その糞餓鬼を捕まえてくれ! それを取られたら……」
「見逃してくれよ! 腹を空かしている母親が……」
聞き届けた鎧は、目の前まで来た少年を突き飛ばした。抱えていた果実が宙に飛ぶ。
そして鎧の胸元にある唇が、フッと息を吹き掛けた。すると優しい風が起こり、元の持ち主の下へ、果実を落とすことなく運んだのだ。
店の者は、果実が手元に来て驚き、泥棒の少年は迫る敵対者に怯える。
「――どのような理由が有ろうと、人の物を奪うことは……『悪』だ」
鎧の者、緑昇はそう言うと、倒れている少年の顔に、右手の武器を押し付けた。
「いやぁ、助かったよ。その貧乏人の餓鬼は、ここいらで悪さをしてたんだ。早く騎士団に」
「グロ・ゴイル」
おぞましい音と飛散する少年が、広場の空気を一変させる。
肉を切り刻んだ一瞬の悲鳴が、事が起きたことを耳に伝え、強い臭いが周囲の人間に気付かせる。見た先には返り血の鎧の男と、破壊されてゆく人の体。
その場の誰もが知った。
人が殺されたのだと。
憩いの悲鳴絶叫。
(今日)
人々を救う黄金騎士が現れたという噂。
それはアリギエの強者達に虐げられる、弱い者達にとって、希望の話題である。
人々を守るべき騎士団が腐敗している現状で、正体不明のヒーローの存在。隠れながら、悪行を行う存在には恐れを、真っ当に生きる善人には安心を与えたのだ。
同時にこんな噂も有る。
『緑の騎士』の噂である。
『悪』とされる行為をすると、どこからともなく現れ、奇妙な武器で悪人を破壊する正体不明の怪人。
特筆すべきはその殺し方で、人間を切り刻み、その肉が消えてなくなるというのだ。そしてすぐさま次の得物を求めて、どこかへ跳躍していく。
更生すべき若者だろうが、老い先短い老人だろうが、市民が誰も逆らえなかった騎士であろうと、その手に掛けてゆく。街のどこであろうと、血をブチ撒け、臭いを残すのだ。
人々を苦しめていたこの街の騎士団も、犯罪を提供する銀獣の会も、以前の勢いはない。
最初こそ彼を討伐しようとした。
だが街で一番質の良い装備を持つ騎士が何人いようが、返り討ちとなった。
一番近い街の騎士団に応援を要請したが、なぜか取り合ってくれない。もしや、その街でも何か有ったのか?
目的は不明だが、緑の騎士がもたらしたのは『恐怖』という秩序だった。
噂を信じる者、殺人に出くわした者、生き残った各組織の人間は恐れる。
己も殺されるのではないか? 自分の今やってることは、彼の殺意の範疇に入ってないか?
降り注ぐ不安は、いつも以上に人々の『理性』を喚起させた。
なぜなら、緑の影が後ろに立たれたら最後、誰も守ってくれないのだから。
今、アリギエの平和は、『緑色の恐怖』によって完成しようとしていた。
街で一番高い塔。アリギエで大規模な火災が起こった後に建てられ、同じ事件が起こる際には、ここから魔言使いが水をばら撒いて鎮火するらしい。
だが、必要なほどの火災は中々起こらず、有効利用されてないのが現状である。
その塔の屋上から街を見下ろす、無断の使用者が居た。
「ワタクシのお腹が膨れるほどには典型的な、治安の悪い街『でした』わね?」
「――これだけ殺せば……当分忘れないだろう……。悪を許さぬ勇者の存在を」
風にコートをなびかせる緑昇と、ドギツい桃色ドレスのモレクだ。
緑昇は暗い瞳で街を見下ろしながら、ボソボソと呟く。
「悪とされる者は刈り尽くした、勇者の実在をこの街に知らしめた。これで善良な人々の安全は守られ、悪事に関ろうとする者は減るだろう……」
そう語る男の胸に満足感はない。これは何度も繰り返して来た作業だ。ある程度の成果が確認できれば、すぐ次の場所へ向かうだけだ。
いつでも、どこにでも、勇者を求める声は止まらないのだから。
「行く先ですけど、宛てはありますの?」
「次はピンスフェルト……という村に行く。銀獣の会がデニクを使って運ばせた村だ。そこにも銀獣の会の息が掛かっているのなら、潰しておく必要が有る。それに……」
「――魔物ですの?」
「『彼ら』は並の人間の手に余る。『同じ』機力世界の者として……今も動き続ける彼らを停止させてやるのも、勇者の務めだ」
この世界の人々に魔物、と呼ばれる不名誉な戦闘機械達。彼らの全てが、元々この世界に存在したわけではない。そもそも彼らは……。
緑昇の心中を察してか、モレクは異なる話題を投じた。
「……そういえば貴方様、この前のライピッツの優勝者が、誰か解りましたわよ? やはり件の黄金騎士でしたわ」
「この街ではしっかり稼いでいるようだな……。俺達が見たのは例外だったか、だがあの金の武具を維持するには、それなりの資金が必要だからな」
「そして、レースの次の日ですわ。学校施設や教会、孤児院の敷地内に大金の入った袋が投げ込まれたそうな。さらにこの街の貧民街にも、金をバラ撒いた者が居るそうですの。貧民街の方の詳細はとれないとしても、総額はざっと優勝賞金ぐらいにはなりますわ」
「……そうか」
緑昇は今の話しを聞いて、僅かに感情に揺れが生じた。それを感じ取ったモレクは、躊躇いがちにこう言った。
「まるで……昔の……」
「……行くぞ」
モレクの言葉をハッキリと拒絶し、緑昇は塔を降りる階段に向かったのだった。
やっぱり残酷物語が私の畑ですかね。書いてて心が澄んでいきます。
正義の味方って奴は本当に厄介ですよ。何せ、必ずしも我々人間の側ではないのですから。
匿名の得体の知れない怪人。善人も悪人も何だか解らない第三者。でもバットマンやエミヤとは、全く違う話しにしていくつもりです。
次のBパート以降から、本格的なバトルになっていきます。エンディックの力の正体とは?
黄金騎士はよくあるRPGの世界の創造のし直しとして書かれています。故にまだ出ていない要素を考えれば、エンディックの正体は解かってくると思います。