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露と答へて  作者: 夜露
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貧しく経ても

 私の長女は、現在、某音楽大学の三年生である。

 ……と、ここで、「某」と大学名を伏せるのは、プライヴェイトなことだから大学名を公表したくなかった、などという極めて常識的な理由からではない。

 東京芸大や東京音大、あるいは武蔵野や桐朋とうほう、さらには国立(「こくりつ」ではありません。「くにたち」です)などといった有名音大ではない三流音大だから、話したところで誰も大学名を知らないだろうと思ったからにほかならないのだ。

 もし、娘の通う大学が有名音大であったなら、私は自慢に胸をそらし、ここに大学名を書いていたかもしれない。

 もちろん、そんなことをしたならば、娘にはめっちゃ怒られるだろうが……。

 

 ところで、私にはこの、二流とか三流というのが、未だによくわからない。

 余談だが、「いきものがかり」のメインボーカル、吉岡聖恵ちゃん(めっちゃ、歌が上手い)が通っていた、「昭和音大」は、ランク的には二流になるらしい。そして私は「いきものがかり」が好きだ。もちろん、どうでもいい情報なのだが。

 さて。

 よく聞く大学の二流と三流。専門家的にはおそらく、明確な基準があって区別しているのだろう。しかし、どこが、どう違うのかが(特に、音大の二流と三流の差について)、私にはさっぱりわからない。

 たとえば、一流なら、その世界の第一線で活躍している指導者や卒業生が沢山いる等々、誰にも文句を言わせないようなわかりやすい何かがあるのだろう。しかし、二流と三流の間に、それほど差があるものなのか?

 素人の私にはそれぞれの大学の指導者の名前すら初耳なのに、どちらが優れているかなんて、当然のことだがわかりようもない。なので、長女の進学先を決める際、進路指導の先生の話を参考にする以外にないとばかりに、先生に訊いたのだ。その違いについてを。

 幸いなことに、長女が高三当時の進路指導担当教諭のなかに音楽の先生がいた。定年退職間近のオバサン教諭だったが、いないよりはましだ。

「先生、うちの子の志望校って、三流なんですか?」

 私がそう問いかけると、さすがに先生は一瞬、言葉に詰まった。しかし、それでもしぶしぶといった様子で「そうですね……」と、答えてくれたのだから、正直な良い先生である。

 さて、娘の高校の音楽担任の先生によると、合格者の偏差値や、いならぶ教授の経歴や、学生のコンクール等々の過去の実績、はたまた大学の歴史や規模なんかが左右してランク付けされるのだろうという話だった。

 しかし、このコンクールというのがまた曲者で、これまた私の理解の範疇を超えている。例えば、下手でも出られる小さなコンクールなら、うちの娘も何度か出場したことがあるが、大きなコンクールとなると、容易にエントリーすることすらできないのである。つまり、コンクールにもランクがあって、指導者には派閥のようなものがある。この派閥に入っていない(入れない?)指導者のもとでレッスンを受けていると、実力があってもエントリーできないコンクールがあるというから驚きだ。

「指導者が審査員だったりしたら、自分の教え子の採点を甘くしたり、贔屓したりすることもありますよ」

 そう、先生は平然とのたまうのだった。

「××コンクールは、歴史も浅いですから、入賞しても、注目度は低いですね。全国コンクールではありませんし。受験前に、わざわざ練習時間をさいて出場するようなコンクールではありません。そこへいくと、○○大学の○○学長が審査員をしている△△コンクールは、過去の入賞者の顔触れもすごいですし、去年の最優秀受賞者は、ナントカ国際コンクールのファイナリストらしいですよ。今年も国内の□□コンクールで入賞したナントカさんが……」

 国際コンクールなんて言われたあかつきには、私なんぞ、その基準どころか、開催国すら知らない有様だ。

 ようするに、二流、三流とランクを付けた専門家の基準を鵜呑みにする以外に、方法はないということか……と、めでたく結論に至ったのであった。

 そもそも、音大というのは未知の領域だ。その内情たるや、知らない人の方が圧倒的に多い。

 そんなわけだから、娘の通う地方のいわゆる三流音大など、大学名前を出したところで、知らない人がほとんどであって当然なのだ。

 ここだけの話だが、何を隠そうこの私も、恥ずかしながら、娘の高校の進路指導の先生から大学名を聞くまで、その存在すら知らなかった。

「うちの音大は、一応、歴史はある音大らしいよ。指導者も、三流の割には悪くはないし」

 娘によると、ただ、有名ではないというだけの話だった。もちろん、それこそが、三流たる所以なのだろうが。

 あっ、ここで断っておくが、私は大学の指導力や方針その他を馬鹿にしているわけではない。娘の通う音大はランクこそ三流だが、すばらしい大学だと思っている。指導者も一流音大に決して引けを取らない先生方を揃えているところももちろん満足だし、お世辞やゴマスリなどで言っているのではない。これだけは信じて欲しいと心から思っている。


 さて。話を戻そう。

 そんな、ランクは三流の音大で、娘はピアノを専攻している。なんともめでたい話だ。

 これで授業料も三流ならば、なにも言うことはない。

 しかし……。

 三流でも音大。腐っても鯛とはよく言ったものだ。

 娘の高校の先生によると、大学で平均授業料が一番高いのは医系の大学。その次に高いのが音大で、しかも二流、三流でも私立である以上、授業料はどこも大差なく、中には一流大学より授業料が高い三流校もある、という話だった。三流と聞けば、料金もそれなりにリーズナブルなのでは? と、期待した私がバカだったようである。

 おかげで、わずかな蓄えは去年とうとう底をつき、今年からは夢の借金生活である。

 教育ローン万歳!

 返済のことは、考えないでおこう。

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