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露と答へて  作者: 夜露
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うつろひける

 若かりし頃のことである。まだ独身だった私は、ニヤニヤしながら嫌らしい話(いわゆる下ネタ)をするおじさんたちが、大ッ嫌いだった。お昼の長寿番組「○○とも!」で、司会のTさんとK岡T太郎さんが「そこのお兄さん、竿が硬い」などと言っているのを聞いたときも、全然笑えなかったし、むしろ、こんなことを言うTさんとKさんが嫌いだと思った。

 たとえばおじさんたちは、仕事が思うようにはかどらなくてついイライラしている時、きまって「生理中だな?」などと言ってきたりする。苛立っていたら、必ず生理中というわけではない。本人的には冗談のつもりかもしれないが、言われた方は不愉快だ。あるいは、ヌード写真の載った週刊誌などを眺めて「いいねー」などと言う。またあるときはは女性の服装について嫌らしげな感想を述べる……と、枚挙にはいとまがない。そして私は、そんなことを言われるたびに、「このスケベオヤジがッ!」と、胸の内でつぶやき、おじさんたちのハゲ頭を睨みつけたものだった。もちろん、おじさんたちはのれんに腕押し糠に釘状態で、「そんなに、怒るなよ」と、さらにニヤニヤ笑って、「やっぱり生理か」などと、性懲りもなく言うのだが。

 当時、同世代の女子と比べると、私には潔癖症ぎみのところがあったかもしれない。しかし、それでも、大半の女子にとって、「生理中か?」は、嫌悪感を抱く発言であって、とても楽しく笑えるような冗談ではないと言えるだろう。どうして、そういう嫌らしいことを平気な顔で言えるのか、下品な下ネタでゲラゲラ笑えるのかと、私は不思議でならなかった。他にも、ここにはとても書けないようなことを言いあって笑うおじさんたちが、まるで、わざと嫌らしいことを言って、私に嫌がらせをして面白がってでもいるように思えた。

 そう。今から二十数年前のことである。当時はまだ、バブル景気がたけなわの頃で、男女雇用均等法なんてものもなく、セクシャルハラスメントという言葉も社会には浸透していなかった。おじさんたちがヤらしいことを口走るのは当然で、誰も咎めず、むしろ、仕事場の雰囲気をくつろがせる潤滑油でもあるかのように下ネタになごみ、一緒になって笑っている人の方が多かったように思う。

 そして、その笑っている人の中には、おばさんたちもけっこういた。どう見ても下ネタを喜んでいるとしか思えないような笑顔で、隣に座る人の肩をバシバシ叩いたりしながら、嬌声を発するその様子を私は「恥じらいがない」と、白い目で見ていたものだったが……。


 あれから、二十年……。

 ふと気がつくと、おじさんたちの下ネタに、つい、笑ってしまう自分がいるのである。

 まるで、あのおばさんたちの中の一人になったかのように、気が付くと、つい、笑ってしまっているのだ。

 昔の私だったら、眉をつりあげたであろうはずの話に、思わずニヤニヤしていて、しかも、下ネタにゲラゲラ笑うおじさんたちを見ながら「しょうがないなぁ、もう」などと思うことはあっても、嫌悪することはまったくない。


 どういうことだ、これは。

 なんで下ネタが、こんなにおかしく思えるのだろう。

 いや、いつからこんな自分になってしまったのか……。

 ああ……ッ。


 そう。私はすでに気付いているのだ。これが、おばさんになってしまった証拠なのだと。

 そしてやがては、率先して下ネタを話すようになったりするのかもしれない……。


 ああ、いやだ、いやだ……。


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