12 魔王、吹き飛ぶ
――点数5000――
パンチングマシーンのボードに表示された数値。
500が一般人なのでそのおよそ10倍……やった。
――評価: アッ……超人!――
「“アッ”?」
「なにいまの」
「わからないが……次は魔王ラストの番だ」
「よっしゃ任せな」
ベヒーモスとリリーヴァは相変わらず見ていなかった。なんかグミの剣でずっと遊んでる。
「これ、食べれるんじゃないの?」
「そうですわね、グミですもの……」
――「食べるな!!」
外野を無視した魔王ラストの拳には夜風が吹いた。
勇者時代に炎を使い人を助けたとか、魔王の手に堕ちれば闇の力を手にしたとか……。
振り翳した拳の前に真っ黒な球体が現れる。散りばめられた星屑のような煌めき、その中心から湧き上がる炎。
――まさか融合魔法?!
炎と闇、二つの異なった属性を合わせて使うなんて理論上でも可能かどうかで議論がされているのに。
いや、魔王ともなればあり得ない話でもないのか……。
力が衰えたというのは幻想に過ぎなかった。
「明かずの明星!!」
食いしばったラスト、薄紫の髪を揺らす。
周りの空間がゆれたと思うと、拳はサンドバッグに衝突。
天体同士がぶつかるかのような閃光を放ち、短い時の刹那に消し炭と化す。
音は破壊され、もはやの静寂がゆったりと漂うのだった。
「なんたる魔法の極意……」
愕然とした俺はその景色に見惚れてしまいそうだった。
「魔王ラスト、あなたは……!」
彼女に目を向けた。
「あれ?」
いなくなっていた。
「こあくまさん、計れましたか?」
代わりにスピードメーターを構えた小さな悪魔がリリーヴァ様たちの前にいた。
「え?」
彼女たちの視線の先に目を向ければ、魔王ラストが反対側の壁に張り付いて白目を剥いていた。
「なぜラストがあんなところに!」
「あれだけの魔法……吹き飛ぶでしょ。足元を固定してなかったから一目瞭然」
「カルヴァス様はお気づきにならなかったのですか?」
気づかなかった。魔法に見惚れていてしまった。
「私たちは魔王様がどれだけの速度で飛んでいくかを計っておりました」
――ピピピと小悪魔のスピードメーターが鳴る。
「お、出ましたね」
ベヒーモスとリリーヴァ様が小悪魔のスピードメーターを覗き込んだ。
「じっ、時速900キロ?!?!」
「魔法飛行艇くらいのスピード……大陸横断できちゃうよ」
「心配して、よ。あなたたちっ……」
泡を吹いたラストが喋った。
何をしているんだ……それよりも、パンチングマシーンの点数。
悔しいが魔王ラストの足元にも及ばない数字だろう、もっと強くならなければ……。
「おかしい! なんだこれは!」
いつのまにか側に現れたラストがパンチングマシーンを指差し、怒っている。
――点数0――
パンチングマシーンのボードに映し出された点数は予想外のもの。
――評価: 乱暴すぎ!――
「壊れたのではありませんか?」
「まって、もしかして」
リリーヴァ様の手に細長い魔法のステッキが現れた。それをすっと振って、サンドバッグに叩きつける。
――点数8000――
軽々と振ったステッキが俺の全力を超えている、さすがリリーヴァ様……。
――評価: アアッ! 罪な人……//――
リリーヴァ様は青ざめた。
「まさかだけどこのパンチングマシーン……ドMなの?」
皆の空いた口が塞がらなかった。
思わぬ要素で、ラストはカルヴァスに敗北した。
魔王チーム 0 - 1 聖女チーム
2点先取のこの勝負、その1戦目の終わりに冷たい空気が流れた。
「へくちゅっ!」
通りがかった金の亡霊、思わずくしゃみをひとつ。




