1 魔王、うちを追い出される
勇者たちの一行の旅は、ついに魔王との決戦を目前に迎えた。
勇者・ラストは人の最後の希望。15歳という若さで村を旅立ち、仲間たちと魔王の幹部を倒してきた。
魔王幹部の手から取り戻した村の宿で、彼女は最後の戦いに備えて眠りにつく。
…
黒い霧が足元より立ち込め、気づけば暗く湿っぽい部屋にいた。目の前には一人の人物。
銀色の鎧に身を包んだ勇者・ラストは気配からその人物を察する。
「お前は!」
鎖に縛られたかのように身動きが取れない、ラストは額に汗を浮かべた。
「……勇者ラスト、少女だったとはな」
「何の真似だ! 魔王」
「安心しろ、ここは夢の中。ワシもお前に危害を加える気はない」
「ではなぜ……!」
「話をしにきたのじゃ」
「話? いまさら何を言う!」
夜の一部のような鎧を全身に纏った魔王は、その玉座から立ち上がる。
「待っていた……お前のような力をもつ勇者がワシにたどり着くことを」
魔王はラストに手を伸ばす。
「ワシの仲間となれ、そうすればお前にこの世界の半分を授けようではないか」
「なっ?!」
ラストは俯いた。
「ほう、目を背けるか。そりゃあ勇者である人間、やはりワシと戦う……」
「いや....まじで世界の半分をくれるの?」
…
「え」
「え」
「世界の半分が欲しいの?」
――「ほしい」
「大切な仲間よりも?」
――「仲間よりも」
「ワシの仲間になるの?」
――「なる」
…
…
「ああ、わかった…では手続き窓口まで……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
勇者ラストは魔王の手に落ちた、世界はふたたび混乱に陥るのであった!
……それからちょうど1000年
少女の外見のままだが、髪は紫色に変わり、闘牛のような角が頭に生えていた。
1000年も経てばラストは立派な魔王となっていたのだ!
そんな魔王、ラストは世界を闇に包んでいた……わけではなく、正直それよりももっとひどい。
魔王城に引きこもってぐーたらと、ヒジョーにだらしのない生活を送っていたのだった!
城内、ラストは無駄に広い寝室のベッドに沈み込みながらWeb漫画を読んでいた。
「来週休載かよ……作者何やってんだ働け」
「やることないなあ、寝るか!」
1.5Lのコーラを一気に飲み干して、そのペットボトルを放り投げた。
「こあくま! 片付けといて〜……すやぁ..」
小さな丸っこい悪魔がぺちぺちと足音を立てながら、ラストの部屋を片付けだした。
――「ラストォォオ!!!!!」
その時、巨大な怒号が城の床を揺らした。ラストは跳ね起きて、こあくまも震え上がった。
「うわっ、びっくりした!!!」
「いかないとだめだと思う? こあくま」
こあくまは頷いた。
「もう〜、めんどくさいな」
ラストは大きなあくびをして、だらだらと城の廊下を歩き出す。城の正門を片手で開けると、久しぶりの日光に目を窄めた。
広い平原にポツンと建てられたラストの城。
その白い城の前には長い道が一本。この道を境目に世界の半分は区切られている。
道の向こうにはいかにも“魔王城”という感じの黒い外装の城が建っていた。
その前で腕を組んで佇む一人の男。白いタンクトップに青い肌、スキンヘッドの彼は魔王である。
「ねえG王、寝ようとしてたのに。なんで起こすの!」
「昼間から寝る魔王などいてたまるか!」
「だって暇だもん」
「暇!? ふざけるな、魔王が世間にどう思われてるか知ってるのか?」
「しらない、世間体を気にする魔王なんていないよ〜」
G王は魔法の板を取り出して、その表面を指で叩いた。
「これを見ろ! Wow! 勇者ネットで“魔王”って調べると、なんだこれは!!」
G王が突きつけるよう画面を見せる。
――魔王 何もしてない
――魔王 うんこ
――魔王 炎上
――魔王 汚い
「このくだらないサジェスト、誰のせいだと思ってる!」
「G王のせいじゃないの?」
「違うわい! この世界の境界線、ワシ側を見てみろ!」
目を向けるとG王側の街道にはゴミ一つ落ちておらず、石畳はピカピカに磨かれている。
「そしてお前の方はどうだ? 大地は荒れ果てて、おまけに犬のフンが放置されているではないか!」
「カァ」
アホ面のカラスが鳴いた。
「へへへ……」
「それに使い魔はどこだ!ワシの城だけでも黒龍や四天王がおるのに、お前のところにはそのちっぽけな小悪魔1匹ではないか。
そんでお前の使い魔たちはみんなあちこちで問題を起こしているという噂、それだけは立派に耳に入ってくる!」
深いため息をついてから言う。
「まあ落ち着きなってG王……魔王にもそれぞれ異なったライフスタイルってのがあるのよ。わたしの使い魔は小悪魔だけでいいの。
それに世界のこっち半分には不可侵だから、G王には何にもできないもんね〜」
G王にわざとらしい変顔を見せた。するとG王はわかりやすく怒りに震え出した。
「本当に……そうだと思うか?」
「そりゃそうでしょ、ここには絶対的な国境が……」
その時、G王はラスト目掛けて空高く飛び上がった。
「お? G王には何もできないよ〜、バリアがあるの忘れてた?」
世界を断絶する国境、互いに干渉しないために作られた透明な壁。G王はそれを両手で掴んだ。
「国境ずらし!!」
両手に力を込めたG王はバリアを歪ませ、押されてゆく。そのうちラストの城もG王側の領域に飲み込まれた。
「なんてことをするんだG王!」
ラストはバリアを力いっぱいに押し返す、けれどもバリアはぴくりとも動かない。
「運動不足なんじゃないか? お嬢ちゃん」
もうすでに自身の城はバリアの反対側。
「ぐぬぬぬぬ!!!」
「城は使い魔にまた建ててもらえ……っておらんわ」
「G王! 何だその技は、卑怯だぞ!」
「返して欲しいか?」
「返せ!」
「ならば、せめて各地でサボってるお前の使い魔たちを3体ここに連れてこい! そしたら城くらいは返してやろう」
「へっ! そんなの余裕だね」
「ハッハッハ!! 余裕だと? やってみろよ小娘」
…
「すぐ帰ってきますので、さ・よ・う・な・ら!」
ラストはぷいっとG王に背を向けて、荒れた街道を進んでいった。
「いくよ、こあくま!」
ラストはバリアに押し出されたこあくまを掴み上げた。そして歩き出して5歩目で犬のフンを踏む。
「ああっ!」
……だらだらの生活を取り戻す旅はここから始まった。




