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決着 ~一日のエピローグと過ぎ去りし日々の思い出~

 初めて見た景色は、暗闇の中に光る無数の点で、それがいったい何なのか私にはわからなかった。

 

『見えるか?』

 

 声のする方へ振り向くと、背の高い青年が私を見ていた。

 

『お兄、さん?』

『ああ、そうだ』

『お兄さん!!』

 

 私は青年の胸に飛び込んだ。この心の音はお兄さんだ。

 胸に熱いものが込み上げ、自然と涙が溢れ出した。

 

『お兄さん!私、見える!お兄さんが見えるよ!!』

『そうか』

『お兄さん、ありが―――。』

 

 その瞬間、急に私の世界が暗転した。

 

『おやすみ、小さなお姫様。』

 

 私は再び訪れた暗闇の中、安らいだ気持ちで青年の優しく、それでいてどこか悲しげな声を聞いた。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 轟音が響き、シオンの目の前には爆発で大きく抉れた大地と

 

 セイナに抱きかかえられ、気絶している女の姿があった。

 

「間に合ったか」

「セイナ様っ!?」

 

 傷の痛みに、苦笑いを浮かべながらセイナは女を地面にゆっくりと横たわらせた。

 思わず、声を上げたのはシオンである。

 

「セイナ様、お願いです。離れてください」

 

 再び、シオンは右手に魔力を集中させ、横たわる女に向ける。

 だが、その近くにはセイナがいる。彼女を守るように。

 

 セイナ様は彼女を殺さない。それはもとよりわかっていたことだ。

 しかし、あの女はセイナ様を傷付け、侮辱した。

 私は思う、あの女は生かしておく価値がある人間なのですか、セイナ様?

 

「セイナ様、離れて・・・。」

「・・・止めるんだ、シオン」

 

 セイナは振り向き、銀色の瞳でシオンを見つめる。

 その眼差しを受けたシオンに、先刻までの迫力はなく、向けている手は震え、表情は幼い子供が母親に懇願するように弱々しい。

 

「セイナ様っ!そんなヤツに生きている価値など―――!!」

「やめろっ!!!」

「っ!?」

「それ以上言うな。シオン、命令だ。止めろ」

「・・・はい。」

 

 力の限りを振り絞ったシオンの言葉は、空気の振動が伝わってくるほど、声を荒げたセイナに圧倒され、掻き消えた。

 そして、その言葉の後に続いたセイナの命令を聞くのと同時に、シオンの体からは力が抜け、右手に集めた魔力も消沈していく。銀色の髪も徐々に元の黒髪に戻っていった。

 セイナはシオンにゆっくりと近付き、シオンの頭に優しく手を置いた。

 

「いい子だ」

「っ!セイナ様、私―――!」

 

 シオンが言い終わる前にセイナが倒れこんでくる。

 考えてみれば、シオンがセイナを昏倒させた一撃は、早々回復できるようなものではなく、加えて、ひどい怪我をしているのだ。その状態で、動いていることが奇跡に近い状況であった。

 

「セイナ様!セイナ様!!」

 

 意識が暗闇の中に沈む中でセイナはシオンの声を聞く。

 

『これじゃあ、あの時と逆じゃねえか』

 

 ひどく場違いなことを考えながら、セイナは意識を失った。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

「・・・んん」

 

 セイナが目を覚ますと、目の前にはうっすらと火の灯ったランプがあった。

 見慣れた天井、見慣れた壁、どうやら城内にある病棟の個室に寝かされているらしい。ふと、自分の手のひらが、ほのかに暖かいことに気が付いた。

 

「・・・セイナ・・・さま」

「シオン・・・」

 

 傍らには、椅子に腰掛けた状態で、セイナの右手を両手で包み込むように握り、ベッドに上半身を乗せ、眠っているシオンがいた。

 セイナは上半身だけを起こし、左手でシオンの頭を優しく撫でた。

 頭を撫でられているシオンは、少しくすぐったそうな表情をつくりながらも、安らかな寝息をたてている。

 

 しばらく、そうしていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 

「目が覚めましたか?兄さん」

「ヨシュアか、ああ、おはよう」

「おはようではないでしょう兄さん、まったく兄さんは―――!?」

「ん?どうした」

「なんと、うらやま、いえ、何でもありません」

 

 部屋に入ってきて、一瞬固まったヨシュアであったが、すぐに平静に戻り、ベッドの傍らに移動し、深く溜息をついた。

 

「単刀直入に言えば、ただ、驚いたとしか、」

「どんな状況だったか聞いていいか?」

「ええ、血だらけの兄さんを背負ったシオンさんが城に戻ってきて、開口一番に『医者を出せ!!』ですからね。強盗か何かと思いましたよ」

「それは、驚くな」

 

 セイナはその光景を想像し笑うものの、ヨシュアは苦笑を浮かべていた。

 

「加えて、刺客は平原にほったらかしですから。本当にこの方は有能なのかわからなくなります。」

「有能さ、この子は」

「・・・兄さんは、シオンさんには特に甘いですね。」

「そんなことはねえさ。」

 

 話をしながら、セイナはずっとシオンの頭を撫でている。それを見ていたヨシュアはなんともいえない表情をしていた。

 

「ところで、女はどうした?」

「はい、私もその件についてご相談があり、参上いたしました。」

 

 先程まで、緊張感のなかった二人の表情が、真剣なものに変わる。

 話は、ヨシュアから始まった。

 

「捕縛後、城内にて勾留。念のために対魔術師用の衛視を二名ほど置いてありますが、グレイスさんの見立てでは、2日間は目を覚まさないだろうと」

「グレイスか。それなら、信用できるな」

「ええ、加えて、兄さんの治療もグレイスさんが診て下さいました。」

「それじゃあ、また、酒を要求されそうだな。後は」

「そして刺客の身元のほうですが、こちらは不明となっております。」

「なっている、か。それなら、だいたい検討はついてるんだろ?」

「その通りです。そうだったら厄介だと思える予想ではありますが」

「そうか・・・ヨシュア、調べて欲しいことがあるんだが」

「はい、どのような」

「ローズフェルトへ情報を飛ばせるか?」

 

 セイナは、いくつかの言葉をヨシュアに伝えた。それを聞いたヨシュアは、軽く頷く。

 

「容易に」

「そうか、頼んだぞ」

「ただちに、行わせていただきます」

 

 ヨシュアはそのまま入り口に向かって歩き出し、ドアに手をかけた状態で止まった。

 そのまま、セイナの方へ、上半身だけ振り返る。

 

「ところで、シオンさんは、いつまでそのままなのですか?」

「あぁ、久しぶりにアレを使ったみたいだから、明日までこのままだろ。俺が言うのも何だが、不便な力だ。」

「いえ、まあ、そのままというのは頭のですね・・・手と、言いますか・・・」

「何言ってんだ、ヨシュア。後半が良く聞こえなかったぞ」

「・・・お気になさらないでください」

 

 少し、不機嫌な表情を作りながら部屋を退出するヨシュアの背を見送りながら

 

「相変わらず変な弟だな」

 

 と、シオンの頬を指先で優しく突きながら、微笑んだ。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

『お兄さんっ!あぅ!?』

 

 

 光が、左瞳に一気に注ぎ込むような感覚を覚え、少女は慌てて瞳を閉じた。

 徐々に瞳を開けることにより、暗闇の中に少しずつ光が差し込む感覚。そして、知覚される風景。

 少女は、これが『見る』という感覚なのだと認識した。

 

 少女はベッドの上に寝かされていた。

 毎日感じている布団の香り、枕もとの花、手すりのある部屋、それが自分の部屋であるとシオンはわかった。

 

 右側が暗い。

 そう思って、右瞳に触れると、何かが瞳を覆っていた。

 上半身を起こし、近くの窓を見る。そこには知らない誰かが映っていて、それが自分なのだと認識するのに些か時間を要した。

 右の瞳が皮のようなもので作られた眼帯に覆われており、少し無骨な印象を与えるにもかかわらず、着けている感触は不思議と不快ではない。

 

『シオン、目が覚めたの?』

 

 シオンと呼ばれた少女の最愛の母である、ミリアの声がドア越しに聞こえた。

 

『うん、お母さん』

『入って、いい?』

『うん』

 

 ゆっくりと部屋に入ってくるミリア。

 初めて見る母の姿は、涙に濡れてよく見えなかった。

 ミリアはそんな娘を優しく抱き締めた。

 

『お母さん、見えないよ』

『良かった、シオン。本当に、良かった』

 

 シオンは頬に雫が落ちるのを感じ取った。

 ミリアに抱かれながら、その鼓動と暖かさから、この人が母なのだと、シオンは改めてそう思った。

 

『そうだ、お母さん。お兄さん、お兄さんは何処にいるの?』

 

 その言葉を聞いて、ミリアは表情を曇らせた。

 シオンは心音でミリアの気持ちを感じる。これは、悲しみ。

 ミリアはシオンと正面から向き合って話し始めた。

 

『落ち着いて聞いてね、シオン。あの方は、街を出て行かれたわ』

『え、そんな、私、ちゃんとお礼言ってない。』

『本当よ、シオン。あの方はおっしゃっていたわ。』

 

 《私は、この村を結果的に救ったのかもしれません。しかし、裏を返せば、村にとって脅威となる力と同等のものを私が所有してしまっていることになります。今はいいかもしれません。しかし、いつか、誰かが私を恐怖すれば、その恐怖はすぐに蔓延します。疫病と同じです。だから、疫病の元は去るべきなのです。》

 

 それを聞いたシオンは、ベッドから飛び出し、家の入り口に向かって駆け出した。

 

『シオン!!』

 

 背中に母の声を聞く。

 

『あの方は、東の街道に向かったはずよ!!お母さん、たくさん食料を渡したから、走れば、きっと間に合うわ!!』

 

 笑顔で手を振る母に、上半身だけ振り向いて手を振り返すシオン。

 自分のことを制止する気のない、母から心からの声援。

 シオンはミリアが自分の母であることに心から感謝した。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

「・・・、ここは」

 

 シオンは、暖かいモノに包まれている感覚により目を覚ました。少し寝ぼけた思考で、昨日のことを思い出す。

 セイナの寝ているベッドの横で、手を握りながら座っていた。そして、フェンリルを使用した後の特有の疲労を感じ、そして・・・。

 そこで、記憶がぷっつりと切れている。

 シオンは現状を確認するために辺りを見回すために寝たまま体を反転させた。

 

 セイナの顔が目の前にあった。

 

「セ、セ、セ、セ、セイナ様っ!!!?」

「ぅん?・・・シオン、もう朝なのか?」

「あ、はい。・・・いえっ!?そ、そういうことではなくてですね!!」

「騒がしいぞ、シオン。近所迷惑だ・・・」

「え、ちょっと、セイナ様!」

「もう、少し、寝させ・・・ろ」

「はぅ」

 

 セイナは寝ぼけているのか、シオンを抱き寄せ、そのまま眠ってしまう。

 状況を整理できず慌てていたシオンであったが、最後は抵抗をせずにセイナに身を任せた。

 

 結局セイナが目を覚ましたのは、昼過ぎであった。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 ベッドの背もたれに背を預け、上半身だけ起こしているシオンに対して、セイナはベッドから出て、横にある椅子に座っていた。

 シオンは自分も起きて大丈夫だと言ったが、セイナに休むよう命じられ、今の状況に甘んじている。ただ、確かにシオンは体の気だるさを、まだ感じていた。

 

「昨日は、申し訳ございませんでした」

 

 唐突に、シオンが謝罪の言葉を発した。

 昨日のこと、それはシオンがセイナの命令を聞かず、刺客の女の命を奪おうとしたことについてである。

 

「シオン。簡単に命を摘み取ることを俺は好ましく思っていない」

「はい」

 

 セイナはシオンに向けて話す、そこには命令無視に対する怒りは感じられず、ただ、諭すような心の静かさと真剣さが感じられた。

 

「相手にも何か言い分があるのかもしれない。俺を殺したい確固たる理由があったのかもしれない。恥かしい事だが、俺は君も知っている通り清廉潔白とは言い難い人間だからな。それを聞かずに命を摘み取ってしまえば、殺された者は何のために生きたのか、何のために死んでいったのか、その意味の全てを奪ってしまうことになる」

「はい」

「昔、俺が命の価値について話したこと、覚えているか?」

 

 セイナは少し遠くを見るような視線で、過去を回想する。

 

「あのとき、俺は、命の価値というものがわからないと言った。それは今だって変わらないさ」

 

 ただ、とセイナは続ける。

 

「生きていることには価値がある。それは相手から見てつまらないものだとしても、本人にとってはかけがえのない価値を持っている。それは誰にも等しくだ」

 

 セイナはシオンを真っ直ぐに見つめる。

 それに応えるように、シオンもセイナを真っ直ぐに見つめた。

 

「その価値を自分の都合で一瞬のうちに奪うんだ。それならば、奪う前に相手をその本質を見定めろ。いいな」

「はい、セイナ様」

 

 言って、セイナは大きな溜息をついた。

 

「・・・これは王としてではなく、ただのセイナとして言わせて貰いたい」

 

 セイナは立ち上がると、ベッドに座り、シオンへの距離を縮めた。

 

「本当は、シオンに生きづらい立場を強制させていること、すまないと思っている。俺がもっと有能であったら、君にこんな苦悩を、こんな覚悟をさせずに済むのだろうな」

「シオン様っ!私は、そのような―――。」

「だが、俺は君を手放したくはない」

 

 セイナは、悲しみを含んだ笑顔をシオンに向けると、シオンの手をとり、シオンが自分にしてくれていたように両手で包み込んだ。

 

「ありがとう。いつも君には世話をかけてばかりだな、俺は」

「セイナ・・・様」

「俺の隣にいてくれること。心から感謝しているよ。シオン」

「勿体なき言葉でございます。セイナ様」

 

 いつかの誓い、それは自分が望んでしたものだとシオンは覚えている。

 病室の窓から、陽光が降り注ぎ、二人の繋がれた手を照らしていた。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

『お兄さんっ!!!』

 

 街道を行く黒髪の青年に声が掛けられる。

 青年はその声を聞き振り返った。

 シオンは青年に駆け寄っていく。

 

『お兄さん、私―――』

『その右瞳は、君にとって良くないものだ』

 

 青年は続ける。

 

『だが、その眼帯を付けていれば、それは静かにしている。それに、眼帯は自由に外すことが出来ないよう封印を施してある。そのことは君のお母さんにも説明をした』

 

 青年は地に膝を着き、自分の目線を少女と同じ目線の高さに合わせた。

 青年の表情は悲しげであった。

 

『俺は、そんなものを自分勝手な判断で、君に与えた男だ。すまないと思っている』

『そんなこと言わないで!!』

 

 シオンの声が青年の言葉をかき消す。

 

『私は、お兄さんに感謝してる。お兄さんは、私の願いを叶えてくれた。暗闇の中にいた私に光をくれた。私はそれだけで十分。』

 

 シオンは青年の首に手を回し、しがみつくようにして抱きつく。

 

『ありがとう。お兄さん』

『・・・そうか』

 

 シオンが、そう言うと青年はどこか安心したように破顔した。

 

『私の願いが叶ったのなら、お兄さんの願いも叶えなくちゃ』

『俺の・・・願い』

『お兄さんが背負ってるもの、私も一緒に背負ってあげる』

『いや、それは、』

『決めたの。そうするって』

 

 シオンが青年から身を離すと、お互いが正面から向き合うようにして立った。

 

『だから、またきっと、会えるよね』

『だからな、それは』

『会えるよね!』

『・・・ああ、そうだな、きっと』

 

 シオンに圧され、青年が苦笑する。ただ、その表情はどこか穏やかであった。

 青年はシオンの頭に手を置いた。

 

『どんなに離れようとも、その瞳が縁となって再び我らを結ぶだろう』

『おまじない?』

『似たようなものだ』

『私、絶対に忘れない!』

 

 そして、青年は再び歩き出す。

 離れていく青年の姿を見つめながらシオンは大切なことを失念していたと思い出す。

 

『お兄さん!!私、シオン=アマネっていうの!お兄さんは!!』

 

 青年は振り返り

 

『セイナ、セイナ=カインズだよ。シオン』

 

 セイナと名乗った青年は、もう一度シオンに手を振り、歩き出した。

 


誤字脱字を十分にチェックしないままの投稿になっていますので、結構間違いがあるかもしれません。随時直しますのでお許しを


前回、短いのには意味があるみたいなことを後書きに書きましたが、それはずばり『長すぎると題名と内容が合致しない』という、私個人の見解です。


そして、今回は少し長めに書いて現在試験中です。


皆様の反応を見ながら、短文投稿にするか、長文投稿にするかを決めていきたいと思っています。


よろしくお願いします!

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