ある夜の騒動
都市イリアの中心に位置するイリアス城、そこから南西方向に少し歩いたところに、メイヤー孤児院は存在する。
戦災や、事故、病気などの理由により、両親の失った子供たちが住んでおり、院長であり、マリンダの三つ上の姉、イリアス城の元メイド長ミランダを中心に20人ほどの様々な出身、年齢の子供たちが仲良く暮らしている。
日が沈み始め、家々の窓から薄い明かりが漏れ出してきた頃、メイヤー孤児院では子供達の笑い声が響いていた。
「どうだ、お前ら。このマント、兄ちゃんに似合ってるか?」
子供たちが遊ぶために作られた、室内の広間の真ん中で、セイナが体を回転させながら子どもたちに、問い掛けた。
囲むように陣取っている小さな子どもたちは口々に
「セイナお兄ちゃんかっこいい!」
「似合ってるよ。お兄ちゃん!」
「イケてるよ!おじさん!」
「せいなおじたん、しゅき。」
「おぉ、そうかそうか。・・・・・・いま【おじさん】って言った子は、だ~れ~だ~?」
「「きゃーーーーーーーー!!」」
とセイナが追いかけ始め、それを言っていない子も混ざって、笑いながら逃げ回っている。皆セイナが来てくれたことに心から喜んでいた。
その光景を少し離れた部屋から、シオンとミランダが丸いテーブルを囲むようにして椅子に座り眺めていた。シオンのバスタードソードも、今は壁に立てかけてある。
ヨシュアは違う部屋で、比較的年長である子供達の勉強を見ており、席をはずしていた。
「陛下には、いつも足を運んで頂き。いくら感謝しても足りないくらい。」
「いえ、セイナ様はいつもこちらに来られることを楽しみにしておられます。見てください、本当に楽しそうにしてらっしゃいます。」
言って、シオンは目を細めて微笑みながらセイナを見つめていた。シオンはセイナを愛しく感じている。その想いは出会ったときから、ずっと変わっていない。出会い、別れ、出会い、その間にいろいろなことがあった。全てはセイナのため、だってあの人は、
「あの人は私の光です。」
「いま、何か言った?」
「いえ、何でもありません。」
シオンはテーブルの上に並べられたカップを手にとり、静かに口をつけた。
「ところで、シオンさん。うちの妹は元気にしている?」
「マリンダですか。ええ、とても。業務にも忠実で、信頼も厚いです。同じメイドの私としても彼女のような方がいることには誇りがもてます。」
「そう、ありがとう。きっとマリンダもシオンさんのことを尊敬しているわよ。それにしても、あの子、私がこっちに来てから、あまり会いに来ないから。」
「いつも、忙しそうにしていますから。今度言っておきます。ちょうど話したいこともありますから。」
「シオンさんもマリンダに?」
「ええ、いわゆる宣戦布告というやつでしょうか。」
「?」
不思議そうに見つめるミランダに、「このお茶おいしいですね。」とシオンはつぶやいた。
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「そういえば、リーティアはどこにいるんだ?」
子供たちがセイナとの追いかけっこに疲れ果て、シオンに絵本を読んで欲しいとせがんだため、セイナはシオンにバトンタッチをした。ただ、セイナの腕には院内では最年少の少女が抱きかかえられていた。疲れて、寝てしまっているらしく、しかしセイナの服を力強く握っている。ミランダに布団に寝かそうかと勧められたが、このままで構わないとセイナが優しく笑って断った。
リーティアとは、院内では最年長になる少女で、ミランダをよく手伝い、皆のお姉さんのような役割をしている。学校にも通っており、将来はメイヤー孤児院で働きたいと話している、短い金髪と活発そうな外見が印象的な少女だ。セイナに渡された手編みの篭も、彼女が編んだものである。いつも、この時間なら年少の子供たちと過ごしているはずだが、来てから一度も目にしていない。
「リーティアでございますか。今日は学校で創造祭の準備があるから遅くなると言っていましたが、そうですね、創造祭の準備期間は授業時間が短縮されますので、確かに少し遅いようです。」
「心配だな。少し様子でも見に行ってこようか。」
「いえっ、陛下にそのような!?」
「気にするな、この国の民は、皆が俺の家族だ。家族に遠慮はいらんだろう。」
辺りはすっかり暗くなった。夜道の一人歩きは、あまり推奨できるものでもない。
笑いながら、セイナがシオンに声を掛けようとしたとき、ガタっと入り口付近で物音がした。
「リーティアかしら、私が出迎えてきます。」
とミランダがリーティアを出迎えに行ってすぐ、
「きゃあ!!」
という、ミランダの声が聞こえてきた。
「シオン、子供たちを奥に、そして、戦闘待機だ。ヨシュアにも伝えろ。急げ。」
「はい。」
異常を察知したセイナは、瞬間的に短く指示を出すと、抱きかかえていた子どもをシオンに渡し、セイナが入り口の方へ、シオンが子どもを連れ奥の部屋へ移動した。
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「か、金と食料をあるだけ出せっ!そうしないと、この女の顔が傷つくことになるぞ!」
「急いで用意しろ!!」
入り口には、鎧を身に付け腰に剣を下げた男が三人。鎧のあちこちに傷が付いており、刻まれた紋章から、帝国の兵士であろうことが解かった。おそらく、どこかの妖精派の国の軍と争い、負けた挙句、逃げ道を失い、イリアに侵入してきたのだろう。経路は、汚れを見れば、外から運び込まれる堆肥か牧草に紛れたか、まあ、そんなことはどうでもいい。
問題は、後方の男に後ろ手を押さえられるようにして、剣を突き付けられている少女である。
「ミランダ・・・さん。ごめん、なさい。」
途切れ途切れに声を発する少女、リーティアであった。
帰ってきたところを押さえ込まれたのか、入り口付近に鞄と、子供たちのために作ってきたのか、お菓子の入った小包が散乱している。
「わかりました。すぐに用意いたします。ですから、その子をっ!」
「いいから、さっさと出すもん出せっ!!」
戦闘にいる男が、ミランダを恫喝する。ミランダが抵抗しないとわかって精神的に優位に立ったようだ。その目も目下の者を蔑むような澱みがある。
ミランダもパニックになり、男達の要求に応えなければという強迫観念と、リーティアを放して欲しいという気持ちが混在し、その場で右往左往している。
様子を確認したセイナはタイミングは見計らい
「すまない。少しいいだろうか。」
「っ!?なんだお前は!」
「大丈夫、抵抗しない。ほら、武器も持っていないだろ。」
両手を挙げ、何も持っていないことをアピールしながら入り口のある部屋に入っていった。セイナは自分の位置と男たちの位置を確認する。
主に言葉を発している一人の男を先頭にして、後ろに男が二人、うちセイナから見て右後ろの男がリーティアを人質にとっている。逃げ道を失った兵隊らしく目には必死と恐怖の念が感じられた。
危ない目だとセイナは直感する。あれでは強制的に事を起こせば、リーティアに傷をつけてしまいかねない。
唯一の救いは、リーティアとミランダの恐怖が少し和らいだことか。
しかし、事態は好転していない。
「あなたたちの要求は、食料と金だったね。」
「そうだ。」
「見たところ、あなたたちは帝国の人間だ。本当の目的としては国に帰りたいのではないか?」
「なっ!」
セイナには男たちの心の大きな揺らぎを感じた。
食料を要求することはわかる。しかし、金は、いまの状況でこの男たちに必要なものなのか。
それが、逃げ延びた敗残兵なら、答えはイエスだ。国外には昔から妖精派にも帝国派にも属さない者達がいて、彼らは戦時中に両国から隠れるようにして生活を営んでいた。通称【ドワーフ】。彼らは独自に作り上げた通路とコミュニティーを利用して、現在では裏稼業として両国間の橋渡しを行っている。
その際に、必要なのが金だ。しかも、それなりの額を必要とする。しかし、命と比べれば安いものであろう。
だから、彼らは金を要求した。だが、思ったはずだ、ここでは、この孤児院では足りないのではないかと。
「どうだろうか。一つ、あなたがたに提案がしたい。」
視線を動かし、ミランダと合わせる。視線の動きでミランダに自分の後方へ行くように示すと、すぐにわかったのかセイナの後方に移動してくれた。
「十分な食料と金、それに必要ならば馬車も与えよう。だから、彼女を解放してくれないか。」
「でまかせを言うなっ!」
「信じ難いかもしれないが、私はこの国の王をやらせてもらっているセイナ=イリアスという。王家の名にかけて約束は守ろう。」
途端に、男達に動揺がはしる。まさか一国の王が目の前にいるとは思うまい。
なかでも先頭の男は強い疑念の眼差しを向けていたが、背後にいたリーティアを拘束している男が、セイナの銀色に輝く左瞳を見て言った。
「聞いたことがある。イリア国王はこの世界に一人だけ、銀色の魔眼【フェンリル】を持っている男だと。」
「なら、アイツは本物の。」
男たちが途端に騒ぎ始めた。セイナは続ける。
「どうだ、信用してくれたなら、私の頼みを聞いてくれないだろうか。この通りだ。」
「セイナ、様。」
相手に対して無抵抗であることを証明するために、セイナは手のひらを相手に差し出したまま頭を下げた。
拘束されているリーティアは、セイナのその姿を見て瞳に涙を浮かべた。
「王様・・・、そうか、あんた王様か。」
男達の表情が、下卑た表情に変わる。この顔は、絶対的優位を手にした人間の顔であるとセイナは感じる。昔、幾度となく見たことのある顔だ。
「イリア王はどうやら、自分の国で暴れて欲しくないと見える。」
「ああ、その通りだ。」
「それなら、要求を飲もう。」
「それは、ありがたい。すぐに用意しよう。」
「ただし、」
男達の目が醜く歪んだ。
「女を用意しろ。贅沢は言わない、人数分つまりは三人でいい。」
セイナは、手のひらを前に出した状態で、彼らの視線を受け入れた。
「女、だと?」
「そう、女だ。この娘は放そう。だから、もう少し年頃の女を寄越せ、そこにいる女でもいい。そうしないと街から出る前に一暴れしちまうぞ。」
「そうか。わかった。」
穢れた視線を投げかけられ、ミランダの肩が震えた。
その瞬間、確かに男達の気が緩んだのをセイナは感じ取った。
「交渉決裂だ。眼をつぶれ!ミランダ!!リーティア!!」
ズガァァァァァァァァン!!!!
セイナが言った直後、轟音が院内に響き渡った。
同時にリーティアを拘束していた男の左腕がボトリと地に落ちた。
「ギャァァァァァァ!!!」
自分の腕がなくなったことを認識し、男が絶叫する。
左側の壁から巨大なバスタードソードが生えていた。
硬質の石で出来た壁を貫通しているのだ。
「俺の腕っ!俺の腕がぁ!!」
「落ち着け、落ち着くんだっ!!」
男たちは一気に恐慌状態に陥る。
再び優位に立つために、リーティアを再度拘束しようとするが、いない。
「あ、あの娘、どこだ!どこに行った!?」
「ここですよ。下衆ども。」
リーティアを抱きかかえた男が目の前に突然現れた。ヨシュアである。
「くそぉ!!」
男の一人が横薙ぎに剣を振るうが、人一人を抱きかかえた状態であるにもかかわらず、軽いステップでそれをかわす。
「これだから、野蛮な人間は嫌いですよ。」
ヨシュアが一言発した後、スゥっと彼の姿が消えた。精霊魔術である。
先祖からの血や、親からの遺伝により発現する特異な能力、通称【精霊魔術】。属性は様々であるが、ヨシュアのこれは土に属する魔術であり、彼を隠密部隊責任者に任命したる理由でもある。
ヨシュアは相手の視線を外させる力を持っている。その力は彼に接触している者にも及ぶ。
そこに存在するが、認識できないように知覚を操作する能力。滅茶苦茶に武器を振り回せば当たるかもしれないが、訓練された兵士などは【視覚出来ない物は斬れない】という思い込みから彼の能力に翻弄されてしまう。
「畜生っ!!逃げろ!!」
外に走り出す男たち。
そこに、立ち塞がるようにしてメイド姿の少女が姿を現した。
気配を感じなかった。音さえも。
その片腕には、巨大なバスタードソードが握られている。
シオンである。
外から壁に突き刺した剣を抜き、一瞬で移動。これは魔術ではなく、純粋な身体能力である。
「逃げられると思っているのか糞虫ども。」
ブンッ!と片手でバスタードソードが振るわれ、地面が簡単に抉られる。シオンの足元に一本のラインが出来た。
「この線を越えたら、お前らの上半身と下半身がお別れだ。二度と再会はできない。」
感情のない表情で、しかし片一方しか露出していない瞳が、彼らを捉えて放さない。
そして、腰を落とし、居合いのような構えで止まった。
スカートから上に向けて服が皺をつくる。
弓の弦を引くように力を溜めているのだ。
地面を抉る剛力、一瞬で移動する脅威の身体能力、そして凶悪な殺気。
『殺される』。彼らはそれをすぐに感じ取った。
逃げ道には、逃れられない死が牙を剥いている。男達が再び孤児院に顔を向けると、入り口にセイナが立っていた。
「さて、どうする?」
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
男達は剣を構え、一気に特攻をかけてきた。左腕を失った男も右手で剣を取り、向かって来る。セイナが何も武器を持っていないため、シオンよりも勝機がみえた結果であろう。
「やはり、そうなるか。」
セイナの瞳が少しだけ淡い光を放った。
そのまま、特に焦りを感じさせない動きで歩き出し、両腕はだらりと垂れ下げた状態。まるで、斬ってくださいといっているような姿である。
「セイナ様!危ない!!」
声を上げたのはリーティアである。あのままでは殺されてしまうという危機からである。
しかし、隣にいるヨシュアは腕を組んだまま、余裕の表情でそれを見ている。その状態を変えず、ヨシュアはリーティアに話しかけた。
「目を閉じろって言われたのに開けちゃって、駄目ですよ。ほら、ミランダさんは開けてない。」
「そんなことより、セイナ様がっ!?」
「兄さんなら心配ないよ。・・・・・あぁ、そういえばリーティアさんは知りませんでしたか。」
トンッ!
何かが軽く押されるような音と共に信じられない光景が、リーティアの前に広がった。
男が一人、宙に舞った。まるで重力を無視したかのように、セイナに襲い掛かった片腕の男が、真上に飛んだのである。
そのまま自然落下、男は昏倒している。
その直後、ゆっくりと視覚できる速さにもかかわらず、セイナは次の相手の懐に潜り込むと、手のひらで掬い上げるようにして、相手の鳩尾あたりをトンッと押し上げた。
すると、また冗談かと思うくらい簡単に、一人の人間の体が宙を舞い、自然落下。
「うそ・・・。」
信じられないものを見たような表情で、セイナの動きを見ているリーティア。
しかし、ヨシュアも、離れたところにいるシオンもその光景に対し、何らおかしいと思ってはいない。
「・・・兄さんが、王になった六年前。この国の治安はあまりいいものではなくてね。」
ヨシュアが、懐かしむような瞳で話しはじめる。
セイナは、丁度斬りかかられたところをゆったりとした動作でかわしている。
リーティアはヨシュアの言葉を聞きながら、その光景に釘付けになっていた。
「貴族至上主義の国で、上層は汚い金と不正に溢れ、その直属たる騎士たちも名前だけだ。皆、甘い汁を吸いたいがために悪事ばかり働いていて、腐りきっていた。だから、兄さんはそいつらをみんな追放した。」
男は、懐から投げナイフを取り出すと、セイナに向けて投擲するが、その全てを上半身の体捌きだけで避ける。足の位置は全く変わっていない。
「しかし、追放したら、問題が出てきた。新たに、誰が国の治安を守るのか。まあ、当時のことを考えると治安も糞もなかったけど。」
恐怖に顔を歪ませる男の肩に、セイナが手を置いた。そして、少し強めに叩く。
「だから、兄さんは一人で国の治安維持を行った。二年くらいの間一人でね。」
肩を叩かれた男は、重力が何倍にもなったかのような勢いで地面に叩き付けられた。
「僕が代行を辞めて、なるべく兄さんが公務に集中できるようにするため、有志で自衛騎士団が組織され、後に隠密隊も組織された。皆腕に覚えのある者たちですが、それでも、まとめて掛かっていって兄さんには勝てない。もちろん僕も彼女もね。」
ヨシュアは彼女と言ったとき、シオンに向けて視線を送った。
セイナが振り向き、リーティアに向かって笑顔で手を振る。
「おーい!怪我とかしてないよなあ!」
「兄さんは、この国で最も強い王なんだよ。」
言い終わり、ヨシュアはリーティアは大丈夫だと小さくセイナに向けて手を振った。
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「セイナ様、お見事でございます。」
「いや、久しぶりに体動かしたら少し疲れた。運動不足だな、これは。それにしても壁からの一撃は見事だった。【使った】のか?」
「いえ、あの程度のことなら、内部の音を聞いただけで判ります。」
「それは、凄いな。シオンはもう俺なんかより、きっと強いだろう。」
「ご謙遜をなさらないでくださいませ、私など、まだ遠く及びません。」
先程の、殺気が嘘のように、シオンは穏やかな気をまとっている。そのまま、セイナはリーティアに近付いていった。
「大丈夫かリーティア。怖くなかったか?」
「はい、私は、あの、」
「あはは、あんなもん見せられたら怖がられても仕方がないな。なるべく見せたくはなかったんだけどな。」
「いえ、わたし、」
「俺が怖かったら言ってくれ、なるべく姿を見せないようにする―――。」
「ありがとうございました、セイナ様!格好よかったです!!」
「・・・・・・、あ、そうか。そうか、それなら良かった。」
「はい!」
セイナは、少し困惑した表情で頭を掻いた。シオンに視線を向けたがちょっと不機嫌な表情をしている。普通の人が見たらわからないだろうが。
「兄さんも人が悪い。最後の一人はネチネチと痛めつけましたね。」
「アイツは、一番性格悪そうなヤツだったからな、何が『女』だ。ああいうヤツには、このくらいで丁度いい。」
「そうですね。確かに。」
「さて、それでは、」
セイナは軽く背伸びをするような動きをすると、
「おっさん!いるんだろ、出て来いよ!!」
大きな声で呼びかけると、闇の中から筋肉質の男が姿を現した。隠密隊隊長ウォルフである。セイナは公式の場所でなければウォルフを【おっさん】と呼んでいる。昔の縁が原因で、ウォルフに対する話し方も大分フランクであった。
「此度の件は、我らの失態。何なりと処罰を受けます。」
「あぁ、気にするな。そもそも仕事を放棄させたのは俺だ。お前たちには何も罪はない。」
「寛大なお心遣い、感謝いたします。」
深く一礼をするとウォルフは一度、昏倒している者たちに視線を向けた。そして何かを思い出すような仕草でセイナを見た。
「良いものを拝見させていただきました陛下。私も久し振りに血が騒ぎましてございます。」
「趣味が悪いぞ、おっさん。まぁ手合せなら今度やってやるから。さすがに運動不足を痛感した。」
「隊の若い者が喜びます。」
「全員相手かよ!?それは勘弁してくれ。んで、状況は?」
「付近住民を念のために移動、孤児院の子供たちは私の家に。」
「そうか、助かる。」
「この者たちは?」
「そうだな、とりあえず片腕がないヤツはグレイスのとこに持っていってくれ、そこに腕落ちてるから。そういえば、おっさん【ドワーフ】に知り合いがいたよな?」
「いますが、それが?」
「こいつらを使えって、渡してきてくれ。」
「・・・それは良いお考えです。」
ウォルフはその言葉を聞いて理解したのか、軽く笑った。
ドワーフは橋渡し役として金を要求するが、それがない者に対しては同等価値分の労働を要求する。大変な重労働である。
「そういえば、おっさん。対応が早かったな。」
「騒ぐのは若い者たちの特権にございます。私を含めて、隠密と自衛騎士団十数名は早々に退散させていただきましたので。」
「そうか、悪かったな。気を使わせて。」
「そのようなことは決してありません。これが我々の生きる道にございます。」
「ありがとう。それでは後の処理頼んだぞ。孤児院の子供たちは別に家を用意する。剣でぶち開けた穴を修理しないといけないからな。」
「お心のままに。」
そのまま、三人を抱えると、ウォルフは闇に姿を溶け込ませた。
姿を消すのはヨシュアと同系統の精霊魔術らしく、ヨシュアに習って覚えたらしい。
本来、得意としている魔術は違うものだ。
続けてセイナは、院内に佇むミランダに近付いていった。
「ミランダ。」
「はい、陛下。」
「悪い。孤児院壊しちまった。すぐに修繕させるから、それまでは、代わりの家を用意するからな。」
「過分なお心遣い痛み入ります。」
「硬いな。もうちょっと柔らかくなんねえのか?」
言って、優しい表情でミランダの頭を撫でた。
「いつも言っていることだが、俺たちは家族だ。家族が家族を助ける。それは当たり前のことだ。」
ミランダの瞳に涙が溢れた、緊張が弛緩した為か、恐怖から開放されたためか、不思議な感情がミランダの胸に溢れた。
「君は、その優しさで子供たちを包み込んでくれている。その優しさは受け継がれて、次の世代に優しさを広げていくだろう。これからも俺の家族を頼む。危ないときは絶対に俺が守ってやる。」
「は、い。あり、がとう、ござい、ます。」
途切れ途切れになる言葉は、しかし温かな響きで、セイナの胸に残った。
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「どうした、シオン。」
修繕に関することなどをヨシュアに一任し、セイナとシオンは城への道を歩いていた。
すると、突然シオンが立ち止まり、動かなくなった。
「セイナ様。」
「何だ?」
セイナはそのままシオンを見る、シオンは少し体を傾けセイナに頭を突き出すようにしている。何故か頭に着用しているヘッドドレスを外していた。
「私、さっきの戦闘とっても恐かったデス。」
感情が全く篭っていない声である。
「・・・・・・、私、恐かったデス。」
セイナはシオンがちょっと恐かった。
「何を要求しているんだシオン」
セイナが聞くと、シオンは少しムッとした表情になったが、体勢を変えるつもりはないらしい。
「・・・・・・撫でてください。」
「へっ?」
「恐かったので撫でて欲しいです」
「何故?」
「撫でてくれないと、絶対にここから動きませんよ」
もはや脅迫である。
が、特にセイナも不快に思うことはなかった。
シオンは自分から何かを要求してくることはあまりない。だからこそ、何かして欲しいという彼女の願いをセイナは嬉しく思うのだ。
セイナは優しい手つきでシオンの頭に手を置いた。
「はふぅ。」
「ん?」
「大丈夫です。厚かましいかもしれませんが、続けて欲しいです」
「そうか。」
「うふふ。ミッションコンプリートです」
シオンは恍惚の表情を浮かべていた。
セイナはシオンのことを考える。
出会いから十年、別れ、再会したのが五年前。常にセイナに付き従い、共にいてくれる存在。
過去に、一生背負う運命を強要させたにもかかわらず、変わらずに傍にいてくれた少女。
ありがとう。
セイナは心からそう想う。
「・・・・・・。ところで、いつまで撫でていればいいんだ?」
「私が満足するまでです。はふぅ。」
なんら根拠はないが、『長い戦いになりそうだ。』とセイナは思った。
一気に書き上げたら、体調崩しました。ちょっと朦朧としていたので誤字脱字があるかもしれません。咳も止まんないし(コホコホ)。気圧の変化に弱いんです。
次の話は今回のようなハイペース(それでもゆっくりなのかな?)とはいきませんが、なるべく早く書き上げるようにします。
よかったら、感想とかあると嬉しいです。
ある程度ストーリーの方向性はありますが、自分の考えているものだと長編ならぬ、巨編になってしまいそうで、読み続けてくれるかなとか不安な今日この頃です。
ダメだしも励みになります。
私は自分に対して『魔法が全然でてこないじゃないか!』とツッコミを入れています。
すいません。RPGとかあまりやらないので魔法がわからんのです。(人生において無事にクリアしたものはPSのポポ〇クロイスとSFCのF〇5とドラ〇エ6くらいでしょうか。その程度の知識でやってます。)
よろしくお願いします。