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ある日の日常

 大陸全土に波及した戦争は、当時の帝国皇帝であり、戦闘の総指揮を執っていた覇王ヴォルクス=シュタイフの失踪により、急速に沈静化していく。

 

 確固たる強大な頭を失った帝国は、後退を強いられるようになり、終には自国の領地に追いやられた。

 

 自由都市国家イリアを中心とし、火の国ローズフェルト、水の国キリスティン、木の国グリーンウッド、土の国オーガスの五国による『精霊派』の事実上勝利という結果となった。

 

 ただし、戦争による被害は甚大であり、各都市と人民の心に大きな傷痕を残している。

 

 また、帝国派と精霊派の両国間に出来た溝は深く、互いの領地に入ることは許されていない。そのため各地ではいまだに小さな争いが絶えていない。

 

 Ragnarøkから8年。

 

 人々の尊い努力の末に都市機能は着実に再生し、かつての姿を取り戻すために前向きに日々を生きている。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

「これで、今日の公務は終わりか?」

 

 広間の高い位置にある玉座に座り、玉座の両側に二人の従者を従えた自由都市国家イリアの王、セイナ=イリアスは、不機嫌な顔を隠そうともせず、肘掛に肘を置いて頬杖をつくような格好で、右前方に直立していた頭の禿あがった小太りな大臣に、セイナが銀色の瞳を向けた。

 

「はっ!えっ、謁見に関しましては以上にございます。」

 

 セイナは数人いる大臣に対して、特定せず、いつも数人のうちの誰かに気まぐれに話しかける。

 まさか、自分に視線が向けられることを予想していなかったのか、少し焦りながら大臣は伝えた。

 

「その言い方だと、謁見以外はまだ公務が残ってるってことだよな。あぁ、めんどくせぇ。」

 

 セイナは、体勢を変えず、頭だけ沈ませて大きな溜息をつく。少し長めに整えられた漆黒の頭髪がその動きに合わせて大きく揺れ、髪に隠れた右の瞳が見え隠れした。

 気だるそうな表情をしているが、目鼻立ちが良いせいか、一つ一つの動作が、実に絵になっている。

 

「なあ、シオン。仕事サボって、遊びに行かないか?」

 

 セイナは柔らかな表情で、自分のすぐ左側に立つメイド姿の少女、シオン=アマネに問いかけた。

 

 シオンはセイナ専属のメイドであり、護衛の任も兼任している。セイナと同じ漆黒の長髪を纏め、意志の強さを感じさせる漆黒の左目と、18歳にしては起伏の少ないスレンダーなボディは一級の職人が作ったビスクドールを思わせる精巧な美しさを備え、周囲より『黒曜』と称される少女である。

 ただし、右目に付けられた無骨な眼帯と、シオンの平均より比較的低いであろう背丈に匹敵するほどの、巨大なバスタードソード背負った姿は、明らかな異彩を放っていた。

 

「問題ありません。すぐに行きましょう、セイナ様。」

 

 一瞬でも迷う素振りを見せず、シオンはセイナの提案に従った。

 普段から、笑顔を見せることが少ないシオンだが、セイナに関しては話が別であり、主に向けられた表情は、明らかに嬉しそうにしていた。

 

「いえっ!?しかし、陛下―――。」

「駄目ですよ、兄さん。久しぶりの顔見せなのですから、今日は我慢してください。」

 

 先刻から無視されていた大臣の発言に被さるようにして、凛とした声が、セイナのすぐ右側から響いた。

 

「ううん、しかしな、ヨシュア。ここに座っているだけなら別に俺でなくてもできるだろう。身代わりを作る魔法とか誰か使えないのか?」

「兄さんは、この都市国家イリアの王なのですから、代わりなんていませんよ。あと、身代わりを作る魔法は遣い手がおりませんのであしからず。」

 

 ヨシュアと呼ばれた青年は、そう言うと、再び玉座より一歩後ろに退いた場所に後退した。

 

 ヨシュア=カインズはセイナにとっては執事のような存在であり、セイナより三つ年下の義理の弟でもある。

 濃い青色の髪を後ろで束ね、細身の長身で、顔のつくりが美しさを備えた女性のようであるため、度々性別を間違われ、一時期『王には男装をした妹がいる』と騒ぎになったこともあった。

 上下黒の執事服の腰のベルトに装着されたホルダーには、金属製のガントレットが収められている。

 

「まあ仕方がないな。ごめんな、シオン。」

「いいえ、私のことはお気になさらないでください、セイナ様。」

 

 そう言った後に、シオンはセイナが見えないようにヨシュアを殺意の篭った瞳で睨みつけた。

 また、睨みつけられたヨシュアも、その殺意を涼しい顔で受け流していた。

 

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

「お疲れ様です。兄さん。」

 

 あれからしばらく、セイナは文句を言いながらも公務を続け、その呪縛から開放された。

 議会など裏方の仕事は、ほとんどヨシュアが代行していたが、一国の王として姿をあらわせざるを得ない仕事に関しては、ヨシュアに任せるという訳にはいかなかった。

 そもそも、そのセイナがすべき公務にしても、だいたい何かの理由を付けては逃げ回っているのだが。

 

「シオン様。少しよろしいですか?」

 

 公務の間、片時もセイナのそばから離れなかったシオンに、栗色の毛をした小柄なメイドの少女が近付き耳打ちをした。

 

「・・・、なるほど、わかりました。許可します。ただちに用意を。」

「はい、かしこまりました。」

 

 シオンが命じると、メイドの少女は城の入り口の方へ駆けていった。

 

「どうした?シオン。」

 

 そのやりとりを見ていたセイナが、シオンに問い掛けた。

 

「国民より、セイナ様への献上品が、また届いているらしいので、広間に運び込んでも良いか聞かれましたものですから。」

「またか・・・。全く、城に献上するくらいなら自分たちのために使えと、いつも言っているだろうに。」

「仕方がありません。これも全て、セイナ様の人徳によるものですよ。」

「人徳・・・ねぇ。」

 

 少し呆れ顔になるセイナに向けて、シオンは微笑んだ。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 セイナは、自身がイリアの王になるとき、国民に二つの命令をした。それは、

 

『国のために生きるな。国のために死ぬな。』

『共に生きる仲間を大切にせよ。』

 

 これは、王侯貴族に対し、国民が従うことなく自由に生活を営むことの出来る権利であると同時に、王侯貴族の権利のほとんどを無効化する法であった。

 

 無論、抗議に出た貴族も多くいたが、王であるセイナの

 

「そんなに嫌だったら、自分の財産持って国から出てっていいよ。」

 

 という一言で、沈静化してしまった。

 

 シオンはセイナに、この命令について問い掛けたことがある。

 セイナの答えは簡潔だった。

 

「働いている人間が、腹空かしてんのに、働いてない人間が、腹いっぱい食ってるんだ。おかしいだろ?」

 

 当たり前のことだよシオン、とセイナは微笑みを見せ、シオンが二つ目の命令について聞くと、

 

「アレは、単にそうなったらいいなって思っただけだよ。」

 

 と少年のように笑った。

 

 だからセイナは、王になってから6年あまり、国民に対して、強制的な徴収を一度もしていない。

 国の財源たる『国庫』は、自身が国内外で商業活動を行い、その利益により確保している。

 そして、国民の利益にならないような仕事はよくサボり、その空いた時間は、街に出ては民とともに仕事をしたり、遊んだりと過ごしている。

 

 結果、国民からは絶大な支持を受けており、セイナを慕う国民から定期的に献上品が贈られてくるのである。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 広間には、大小様々な箱が15個ほど並べられた。

 箱にはそれぞれ手紙が添えられており、それは全てがセイナに宛てられたものであった。

 

「セイナ様。いかがなさいますか。」

 

 シオンがセイナに回答を求めると、セイナは

 

「いつも通りで構わんさ。それに、贈ってくれた皆も、それで構わないと書いてくれているしな。」

 

 と答え、立ち上がると、

 

「ザナック!自衛騎士団を広間に召集してくれ!見張りなら心配するな!!」

 

 と広間の入り口で、見張りをしていた甲冑の青年騎士に向かって叫んだ。

 

「はい!直ちに!!」

 

 ザナックと呼ばれた青年騎士は、即座に行動を開始した。

 

「シオン。ヨシュア。」

「「はい。」」

「シオンは城内のメイドたちに、ヨシュアは国内にいる隠密に召集をかけてくれ。頼んだぞ。」

「お心のままに。」

「かしこまりました。兄さん。」

 

 セイナが立ち上がると、比較的長身のヨシュアより頭一つ分くらい背が高く、背の低いシオンはセイナを見上げるような形となった。

 セイナに命じられた両名は、フッと姿が消えたのかと錯覚してしまうほどの速さで行動を開始した。

 

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 広間には、並べられた献上品の箱を先頭に、召集をかけられた人員が整列していた。

 右からイリア自衛騎士団、隠密隊、メイドという順に綺麗に整列し、皆が玉座の前に立っているセイナに対し、中腰でひざまずくような体勢をとっていた。

 

 右側に控えるイリア自衛騎士団は、その名の通りイリアの守護を責務とし、団長のトーラスを筆頭に構成され、城内に後体で常駐している200名の他、総数2万人が所属する騎士団である。心から国を愛しているものが所属し、結束力も強固である。訓練等も自主的に行われるが、サボるような輩はいない。

 セイナから『有事の際は、命の危険を感じたら逃げろ』と言われているが、国の人間を守るためには自らの身を投げ出すほどの覚悟をもっている。

 

 中央の隠密隊は隊員50名からなる部隊であり、主に諜報や潜入など裏方の仕事を主としている。その他にも各々得意としていることがあり、仕事の役割もその適性に応じて割り振っている。

 後ろ暗い過去がある者や他国から逃げ出した者など経歴は様々であるが、それを承知でセイナに雇われた者がほとんどであり、セイナへの信頼と忠誠心は確かなものである。

 また、出身地により様々な魔法適性が混在している。

 先頭にはヨシュアがおり、隠密隊の指揮管理に関しては彼に一任されている。

 

 左側に、シオンを先頭にして整列しているのはイリア所属のメイドであり、60名ほどの人員で構成されている。

 シオンのような戦闘要員はなく、それ以外の城内における雑務を一手に引き受けており、年齢層は比較的若い者が多い。

 元々が孤児であった者が多く、セイナが一手に身元引受人となっている。そのためセイナに対して親愛の情か、それ以上の想いを抱いているものが多い。

 

 国外の任務に出ている者など、一部の者を除き、セイナの許へ集結した。

 

「皆、楽にしろ!」

 

 セイナの一言で、皆が顔を上げた。

 

「ここに集まった者は皆、俺の命令に従わない者達だ!」

 

 その言葉に対して、従者たちはただセイナをじっと見つめた。

 整列した者たちを横から順に見渡しながら、セイナは言葉を続けた。

 

「俺は言った。国のために生きるな!国のために死ぬなと!しかし、君達は国のために働き、国に尽くしている!」

 

 広間は適度な緊張感で満たされる。

 

「だから、言わせて貰う!」

 

 あたりが静寂につつまれ、皆の呼吸の音さえ聞こえなくなり、

 

「ありがとう!この国が平和であり、俺が王でいられるのは君達のおかげだ!!」

「「オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」」

 

 瞬間、広間が割れんばかりの歓声に包まれた。

 

「騎士団団長トーラス!隠密隊隊長ウォルフ!メイド長マリンダ!」

「「はっ!ここに!」」

 

 トーラスと呼ばれた細身で清潔さを感じさせる三十歳前後の男性と、ウォルフと呼ばれた鍛え抜かれた体が無骨さを感じさせる四十代くらいの男、マリンダと呼ばれた他のメイドよりも若干年上であり少女たちの姉のような雰囲気を持っている女性が、それぞれの列より抜け出し、セイナの前に近付き跪いた。

 

「国民より、酒や食い物が振る舞われた!部隊長同士の話し合いで分配し、後は好きに騒げ!感謝の気持ちを忘れるな!!それと魔法はなるべく使うなよ!城が壊れる!」

 

 それを聞いた、それぞれの長は感謝の声を上げ、その声に続き、先刻よりも大きな歓声が広間を覆いつくし、

 

「お前たちも、我が国の国民も、全てが俺の誇りだ!!!」

 

 この一言により、城内はセイナの名を叫ぶ従者で溢れかえった。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

「セイナ様。先程の言葉、胸に響きました。」

 

 玉座に座り、唄い踊り各々が楽しそうに騒いでいる風景を眺めていたセイナに、いち早くシオンは近付き話しかけた。

 

「なに、俺には学がないからな。ああいう表現しかできないのさ。」

「いえ、全ては兄さんのカリスマ性により成されるものです。他のものには到底真似できません。」

 

 どこからともなく現れたヨシュアが、セイナの横に付き賞賛した。

 

「陛下、よろしいでしょうか?」

 

 先刻、セイナの前に喚ばれたメイド長マリンダが、少し恐縮したようにセイナに話しかけた。

 

「どうした?マリンダ。」

「献上品のなかに、陛下のためだけに宛てられた物がありましたため。お渡ししてもよろしいでしょうか。」

「ああ、構わん。」

 

 すると、マリンダが控えていたメイド二人に声を掛け、声を掛けられたメイドは奥から中型の箱のような物を運んできた。よく見ればそれは木の蔓で編みこまれた手作りの篭である。

 

「それでは私はこれで。」

「ありがとう、マリンダ。今日は楽しんでくれ。」

「はい、陛下。・・・・・、陛下、あの―――!」

「オホン!!」

 

 去ろうとしたマリンダは何かを言いかけたが、シオンが大きく咳き込み、言葉を遮られてしまった。

 

「どうした?」

「・・・・・・、何でもありません。グスン。」

 

 セイナは問い掛けたが、マリンダは何も言わず、壇上より寂しそうに去っていった。

 

「どうしたんだ、マリンダは?シオン、何か知っているか?」

「知りません。」

 

 シオンは平常時より、少し冷たかった。

 

「それより、セイナ様。献上品をご覧になったらいかがですか。」

「ん、ああ、そうだな。・・・おっ!?これは!」

 

 言われ、セイナが篭のふたを開けると、途端に明るい表情になり、その反応を見て、横に控えていたシオンとヨシュアが篭の中を覗き込んだ。

 中には、数枚の絵と大きな布の様なものが入っており、手紙が添えられていた。

 贈り主は、セイナがよく足を運ぶ、国の経営するメイヤー孤児院からであった。

 

「シオン!ヨシュア!見てみろ!これはどうやらマントらしいぞ!!」

 

 篭に入っていた布を取り出し、目の前に広げると、セイナは瞳を輝かせながら言った。シオンより十ほど年上であるにもかかわらず、その表情は幼い少年のようである。

 マントには色違いの布で作られた、動物や、セイナをモデルとしたマスコットのようなものが縫い付けられている。一緒に入っていた絵も、セイナをモデルにしたものばかりであった。どれも精巧なものではなかったが、手作りで心が篭っており、人の温かさが感じられた。

 セイナはそのマントをすぐに身に着けた。

 

「・・・まだ遅くないな。よし!シオン、ヨシュア、いまからメイヤーに行くぞ!これを着けた姿をあの子たちに見てもらおう!」

 

 セイナは立ち上がると、シオンとヨシュアが行動を開始することを確認せずに歩き出した。

 シオンとヨシュアも、それが日常であるかのように、静かにセイナに付き従う。

 

「陛下!そのような粗末なものを身に着け外を出歩かれては、国王としての威厳がっ!?」

 

 広間から外に向かおうとしたとき、セイナの背に声が掛けられた。

 見れば、今日の公務中にセイナに声を掛けられた小太りの大臣である。

 

「あん?」

 

 その一言で、セイナの表情から先程までの無邪気さが抜け落ちた。公務中に見せた不機嫌そうな表情より、冷たさを感じさせる表情になる。

 それを見た大臣が、言葉を失った。

 

「それでは大臣。豪奢な服を身に纏い、女を囲み、昼から酒をかっ喰らい、放蕩とした生活を送っていれば、誰であっても、その威厳とやらが付いてくるのか?どう思う、ヨシュア。」

 

 後ろに従っていたヨシュアの方に近付き、同時に大臣への距離も詰めて、セイナが問い掛ける。

 

「私欲で肥え太った豚を王と呼ぶのは、滑稽かと思います兄さん。」

 

 当然といった態度で、ヨシュアは答えた。

 

「なるほど。さて、君はどう思うシオン?」

「私はセイナ様以外の生き物を王とは認めません故。ただ、セイナ様がそのような生活を送らないことは解りきっておりますが、もし、どうしても答えを求めるのでしたら、ノーです。あと、セイナ様に近すぎですので離れてください。(クソ)執事殿。」

 

 続けて、聞かれたシオンも答え、ついでに執事に視線を向けた。

 

「何か不快な言葉が聞こえましたが、(チビガキ)シオンさん?」

「今すぐ、ただの肉にしてやる、ホモ野郎(何も言っておりませんが、執事殿)。」

「気持ちと言葉が逆になっていますよ。…まぁ、良いでしょう。前々から、貴女は兄さんに馴れ馴れしくし過ぎだと思っていたところです。」

「・・・上等だ。刻んでやる。」

「長期休暇をあげますよ。病院のベッドの上で過ごしなさい。」

「おいおい、二人とも論点がズレてるぞ。やめろ。」

 

 シオンがバスターソードに手を掛け、ヨシュアがガントレットのホルダーに触れたとき、二人の肩にセイナは手を置いた。それと同時に、漂っていた緊張感が霧散した。

 

「すいません、兄さん。」

「申し訳ありませんセイナ様。」

 

 二人が申し訳なさそうな表情でセイナに対して頭を下げた。

 セイナも気にするなと、二人の肩を軽く叩き、状況に取り残されていた大臣に再び視線を向けた。

 

「・・・さて、と言うわけでだ。俺が思う威厳は否決された。なら、そんなものはいらん。これぞ、まごうことなき民主主義だな?大臣。」

「っは。」

 

 大臣が何も言えずに息をのむと、セイナは大臣の両肩に手を乗せ、顔を覗きこむようなかたちで話しかけた。セイナが大臣より長身であるため、まるで子どもに言い聞かせているようにみえる。

 

「大臣。俺のような若輩が治めるような国には、お前のように古い考えを持つ堅苦しい人間も大切であるというのは理解している。」

「はっ!光栄です!」

「だから、」

 

 大臣は、そう言うだけで精一杯であった。セイナは笑うように目を細め、大臣の両肩を持つ手に少し力を込めながら、

 

「次にこれを『粗末』と言ったら、頭の良いお前ならわかるよな?」

 

 セイナは通称『フェンリル』と呼ばれる、大陸でもセイナしか持ち合わせていない銀色の瞳で大臣を見つめた。大臣は、その瞳から与えられるプレッシャーから、言葉を発することが出来ず、ただ頭を上下に振り、肯定の意を表した。

 

「わかってくれたならいい。お前も少しは肩の力を抜け。」

 

 大臣は解放されると、ヘナヘナと座り込んでしまった。

 セイナは踵を返し、再び城外に向けて歩き出し、シオンとヨシュアが再び、それに続いた。

 


人物紹介のために、説明文が多くなってしまいました。今度をもっとテンポよく話を進めるよう頑張ります。

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