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戦士たち?の休日 その片隅で

 騒がしくなっていく店内、響き渡る歓声と笑い声を肴に、カウンター席に座るセイナはグラスを傾けていた。


「いいわね、こういう時間は」

「全くです。ミリアさん」


 カウンター内でグラスを拭きながらミリアが一言掛ける。セイナと同じようにミリアの視線も店内に向けられていた。

 一際、盛り上がっている場所には人だかりと中心にいるのはシオンとライア。どうやら腕相撲をしているようだ。


「セイナ君、シオンは迷惑を掛けてない?」

「大丈夫ですミリアさん。逆に、シオンには俺が迷惑をかけていると思います」

「先日のこと、グレイスさんから話は聞いたの。傷は大丈夫?」

「アレは俺が勝手に自爆しただけですから、怪我もグレイスが。すっかり完治していますよ」

「それなら安心したわ。シオンならセイナ君に対して迷惑と思うことはないはずよ。アマネの女は尽くす女って有名なんだから」

「ちなみに基準は?」

「私かしら」

「なるほど、それなら信用できます」


 軽い冗談を交えながらの会話。

 一国の王と食堂の女主人がするような口調ではないが、ことこの間柄に関してはその必要がない。


「それにあの子、ライアちゃんで、いいのかしら?」


 ミリアはシオンと対している少女の方に視線をスライドさせた。


「相性悪いでしょ。あの二人」

「やっぱり、わかりますか?」

「それでも大丈夫よ、セイナ君、何だかんだ最終的に背中を任せられるのは、ああいうタイプだって相場は決まってるのよ」


 そうですね、それも信じますとセイナはミリアに向き直ると目を合わせ微笑んだ。

 セイナが隣を少しだけ見るとテーブルに何枚かの紙を広げ、静かに酒を飲むヨシュアの姿があった。ほとんど言葉を発していないが、わずかな表情からこの時間を楽しんでいる感情が読み取れた。


「今日のこれもシオンとライアちゃんを元気づけるために計画したものでしょう?」

「誰かに聞きましたか」

「セイナ君が来る前にウォルフさんが居たのよ。それでちょっと聞かせてもらったわ」

「急なことを言ってしまいすみませんでした」

「いいのよ。その気持ち、シオンの母として感謝してるわ」


 これはサービスねと、小さな皿に盛られたミリア特製の煮物が出される。ミリアが家族とごく一部の親しい人間にしか出さないメニューであり、その味は絶品の一言に尽きる。ただ何故メニューに出さないかというと「夫に初めて作った料理だから恥ずかしくて」との事らしい。


「それに街の人も喜んでいるわ」

「いえ、これくらいは当然です」


 実は、いまイリアスの各区画の中心地で、多くの人が笑い、食べ、酒を飲み盛り上がっている。

 セイナが突如企画した『創造祭の準備を応援する祭り』が開催されているのだった

 城の人間が、思い思いのかたちで街に繰り出し、住民とともに今の時間を過ごしている。


「俺達だけ楽しんでいては不公平ですから」

「そういう他人のことから考える性格、変わらないわね」


 そんな会話に割り込むように声が聞こえてくる。


「ああん、天使が私を無視するのぉ。癒して、あわよくば結婚して女神様ぁ」


 盛大に酔っ払ったグレイスがカウンター席に戻ってきた。

 どうやら、シオンとライアの勝負が延長戦にもつれ込んだらしく、グレイスが無視されるようになったとの事らしい。


「いま仕事中ですから駄目ですよ。それに、結婚はもっと駄目です。私はあの人に操をたてていますから」

「えぇーいけずぅ。さっきからコイツと話してるじゃん!ずるいずるい、私も話したい。女神様といっぱいお喋りしたいぃ!!」

「セイナ君と話していたのはお客様との仕事上の会話ですよ。グレイスさん」

「しかも他人行儀だぁ!やだぁ、グレイスさんじゃやだぁ!!」


 駄々っ子ののようにジタバタするグレイスとそれを冷静に対応するミリア。

 普段から他人に対しては唯我独尊を貫くグレイスであるが、ミリアとシオンに対しては例外であり、甘えん坊&駄々っ子になってしまう。理由を知っている人間はセイナを含め五人もいないが…。


「なあ、ところでグレイス聞きたいんだが」

「今は女神様との話が大事、アンタは少し黙ってなさい」

「そう言うなよ。グレイス」


 困った表情をするセイナと意固地になるグレイスに割ってはいるように


「グレイスさん、セイナ君の話を聞いてあげてください」

「……何よ、聞きたいことって」


 その一言で、セイナの話にグレイスが耳を傾けたのであった。


 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

「その前に…」


 と言って、セイナが短い言葉を唱えるとカウンターにいる四人を包み込むようにわずかな風が吹いたように感じた。


「簡易結界?セイナ君」

「いえ、もっと単純な風の加護です。俺達の話し声を聞きづらくする程度のものです」


 そして、セイナはグレイスとミリアに体を向けた。


「話はライアの、というかローズフェルトの件なんだグレイス。それに出来ればミリアさんの意見も聞きたいのですが」


 セイナが目配せをすると、グレイスは面倒くさそうに、ミリアは大丈夫という肯定の意思表示を行った。


「助かります。それではヨシュア、少しいいか?」

「はい、兄さん」


 いつの間にカウンター上の書類を仕舞い、セイナのほうを向いているヨシュア。初めからこの話が来ることを分かっていたのだろう。


「ローズフェルトの件で分かっていることを聞かせてほしい」

「わかりました」

「お二人も、何か知っていることがあれば話の途中でも構わない、教えてくれないか?」


 セイナの言葉に、ミリアは首肯。

 「へいへい」とめんどくさそうにグレイスが頷いた。

 ヨシュアは胸元から、折りたたまれた紙を取り出し、そこから整理をして話を始める


「調査の段階で判明したのは、現在の君主は空席なっていますが、その席につこうとしている人物が突然現れました。ライアさんの叔母を名乗るメディア=ローズフェルトという人物です」


 そこまで聞いて、反応したのはグレイス。


「ん~、名乗るって言ったのは、まだ確証がとれていないってことでいいのよね、ヨシュア坊?」

「その通りです。グレイス様」

「ふーん。それならそのメディアって女、おっさんの腹違いの妹で間違いないわよ。」


昔会ったことあるし~とつまらなそうに話し出す。


「まあ、王家とはかなり前に絶縁されているから、公式の場に名前が出てこないのも仕方がないと思うけどねぇ。嫌いなのよねぇ人間的に。幼稚かつ贅沢が大好きっていうダメ貴族の典型。果てには、楽に稼げるからって、自分の領民を裏で売りさばいちゃうんだから。その結果、おっさんが島流しをくらわした筈だわ」

「それが最近、国に戻ってきたらしいのです。それはライアさんが王位を継承できる年齢になったタイミングと合致します」


 続けます。とヨシュア。


「ローズフェルトは君主不在の期間が少々長かったですが、それでも治安はそこまで悪くなかったようです。それは、古くから城に仕えていたリオウ=スレイズという大臣が政治を任されていたことが強かったようです。そしてこの方は次期皇帝にライアさんを推薦していたとの事です。すいません兄さん、この情報はまだお伝えしていませんでした」

「問題ないヨシュア。それで、そのことについてライアは」

「聞かされてはいなかったようです。国の重責を年端の行かぬ少女に背負わせることに躊躇いがあったのでしょうか」

「いいえ、それは違うと思うわ」


 声を上げたのはミリア。


「スレイズ家とローズフェルト王家は、血縁以上の信頼関係で結ばれていたそうよ。私個人の考えが入ってしまって悪いのだけど、きっとライアちゃんに精神的なプレッシャーを与えないための気遣いであったと思うわ。それに、結果としてライアちゃんが皇帝になった場合、全力でサポートするはずよ。そのリオウさんって人」

「何かご存知なのですかミリア様」

「以前、店に来たローズフェルトの貿易商が、『昔から懇意にしているローズフェルトの貴族様が、前皇帝のために私財をなげうって資金調達をしてる』って、その貴族の名前がスレイズ家だって言ってたわ。ライアちゃんの話があるまで、あまり気にはしていなかったのだけど、その話から察するに『前皇帝』のためではなく『前皇帝が残した一人娘』のためだったのではないかしら」

「なるほど、しかしそれでは話が食い違ってきますね」


 あくまで冷静にヨシュアが続ける。


「どうやら、今回、ライアさんの各国に対する国外逃亡に関する通達と、皇帝推薦の撤回、新たにメディアへの推薦がリオウ=スレイズ本人の手によって行われたそうです」

「それは間違いなく本人なのかしら、ヨシュア坊」

「こちらの調査では間違いなく」


 そう、と一度納得したように頷いたグレイスは頬づえをついた状態で「ここ」と言いながら指で頭を示す。


「んじゃ、最悪そのリオウって人。コッチやられて、死んでるかもしれないわね」


 反応したのはセイナであった。


「それでは、やはり」

「んまあ、間違いなく。いまローズフェルトの裏で動いているのは、あの時の術者でしょうね。このタイプがうじゃうじゃといるわけないし。その場限りの契約ではなかったというわけだと…なかなか悪い事態じゃないかしら?」


 悪い事態と言いながらも、落ち着き淡々と語るグレイス。


「ライアのときもそうだけど、あの脳のいじくり方、まっとうな神経の人間ができるもんじゃあないさね。まあ、そもそも『禁呪』のたぐいを使うヤツにまともな奴がいないんだけどねぇ。それにそういうヤツだからこそ、たぶんやるときは徹底的にやるでしょうよ。これはあくまで経験から言える個人的な考えだけど、今まで王家のために尽力してきた者がよりにもよって絶縁していた人間を推薦するという愚行。ライアという行動原理を貶める対極的行為の実行。リオウという人格を徹底的に殺さないとここまでのことは出来ないでしょうね。ライアの場合は運が良かったわね。アンタっていう標的にばれないように気を使った分、元の部分に損傷を与えてなかったんだから」

「メディアの方はどう思う?」

「それを聞くアンタも同じように考えていると思うけど、素の状態でしょうね。まあ、利害の一致ってとこが妥当な線よ」


 その通りだとセイナも思う、恐らくメディア=ローズフェルトは権力ではなく金に重きを置いて行動しているはずだ。それなら好きなだけ贅沢をさせてやれば、無駄な手間を掛ける必要はない。しかし、手間という一点を考えれば


「ライアちゃんを捨て駒にした理由がわからないのよね?セイナ君」


 そう、ミリアの言う通りなのだ。


「わざわざ、王家から追放されたメディアって人を国に帰還させて、ライアちゃんとリオウさんを操って、しかも精神操作というのも引っかかるわ」


 そもそもグレイスは簡単に言っているが、洗脳や精神操作といった術は十分な準備や術をかける者の精神状態、相性など複雑な条件を含み、加えて相手の思考が流れ込むことによる術者自体の人格破壊といったリスクがともなう危険な術の一つだ。

 術によっぽどの自信があろうとも、乱発するようなものではない。


「単に、国を獲りたいのであればライアちゃんの時点で王手。そうしなかったのは何か、もっと複雑な理由があったのでしょうね」

「その件について、ミリアさんはどう思いますか?」

「正直、まだ判断材料は不足しているから何とも言えないけれど、そうね。まず、ライアちゃんへの術のかけ方や、セイナ君にけしかけた結果、よっぽどイレギュラーな展開がない限りローズフェルトが損をしない周到さを考えると、大戦経験者エキスパート戦略家ストラテジスト級がいるわね、尚且つ、セイナ君の『瞳』について知識を持っている人物もいるはずね。でもそのくらいはわかっているのでしょう。セイナ君」


 本当に聞きたいことはそんなことではないのだろうと、ミリアはセイナへ語りかけるが、それ以上セイナは質問をしようとはしなかった。


「いえ、ミリアさんからは十分有益な情報をいただきました。この件については僕なりのやり方でやっていこうと思っています」

「そお?それならいいのだけど。新しい情報があったら伝えるわ。情報は『色々な』ところから、酒場はそういったものの宝庫だから」

「ご協力感謝します」

「だったら、もうこの話はやめ、やめ!!それにしてもヨシュア坊、アンタの外見、女度が増してるわねぇ。もういっそ男辞めちゃいなよ、キャハハハハ……あ~女神様、あたしお酒ほしい、ほしいぃ」


 話の終わりを察して、カウンター内のミリアに甘え始めるグレイス。


「なあ、グレイス」

「あによ?」

「リオウが助かる可能性はあるのか?」

「リオウがどの程度での話かしら」

「『最悪』の場合だ」

「私は全能ではないのよ。死んだ者を蘇らせるなんてできないさね」


 そうして、ミリアにから渡された酒を一口だけ呑み、再びセイナを見るグレイスの瞳は、今日初めて見るような色をともなっていた。


「余計なものまで抱え込もうとするお前の行動と信念は、私には真似できない。素直に敬意を表するわ。だが、上に君臨するものは、ときには大切なものでも切り捨てる覚悟が必要であることを忘れてはいけないと私は思うがね。フェンリル」


 グレイスの雰囲気が一変し、射抜くような、ともすればまるで挑発的な視線でもある。

 それでも、セイナの表情は軽い微笑から変わらなかった。


「綺麗事だとはわかっている。それでも、俺は大切なものであるならば、この命がある限り取りこぼさないようにしたいのさ。クロウ」

「はっ、どうだか…ニャ!!!」


 突然、素っ頓狂すっとんきょうな奇声を上げ、頭を押さえるグレイス。その頭上には分厚いジョッキを持つミリアの手があった。


「ぶった!女神様がぶったよぉ!なんで?アタシ悪いことしてないのにぃ」

「ちょっと大人気ないと思ったからですよ。グレイスさん。セイナ君、グレイスさんのこと寝室に運んでくるから少しだけ空けるわね。ちょっと悪い酔い方してるみたい」

「えっ!?何、このラッキーイベント!ねえ?お風呂一緒?もしかしてベッドも一緒だったり!?」

「お風呂もベッドも一人ですよ。変なことしたらお外に放り出しますからね」


 カウンターから出てきて、グレイスを支えるようにして店の奥に連れて行こうとするミリア。

 そして、去り際に、グレイスがセイナに向かっていつもの面倒くさそうな口調で言った。


「患者のことは実際に診てみないとわからないから、もし、万が一にでも、連れてくることが出来たのならば、診るだけは診てみるわよ……、ね、これでいいでしょ女神様、んん、いい匂い」

「最初からそれが言えればご褒美がありました。ですが、時間切れです」

「そんなー…」


 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

「相変わらずな人ですね」


 セイナが風の加護を解除したのを見て、終始口数の少なかったヨシュアが、緊張を解いたようにセイナは感じた。


「やはりグレイスは苦手か、ヨシュア」

「いえ、そういうわけではありませんが。そうですね、つかみ所がない人ですので」


 そうだな、と軽く笑うセイナ。


「だが、頼りになる。グレイスには心から感謝してるよ」


 それは、セイナの本心。グレイスは数少ない、『任せることの出来る』人間だからである。


「ヨシュア、今日の話を総合するとどうだ?」

「そうですね。正直、局地的に考えれば、予想以上に悪い状況と言えるでしょうか」

「局地的、か」

「捨て置いたところでイリアス自体にはすぐに悪影響をもたらさないでしょうが、渦中にいる者からすれば、猛毒にはなっても薬にはならないと判断できます」


 そうか、とセイナは一枚の封書を取り出した。


「これを見てくれ」

「はい、何ですか兄さん」


 それを見たヨシュアの表情は、驚愕の後、呆然となり、諦めの表情への変化という複雑なものになった。しかし、最後には


「全く、いつも兄さんには驚かされますが、好きになさってください。最大限バックアップします」

「助かるよ。ヨシュア」


 セイナはヨシュアの肩を軽く叩いた。


 封書にはイリアス王家の刻印。

 題目は『君主会談の提案』


 そして封書に記された宛先は…


「さて、これが俺のやり方だ。そちらはどう出るかな」


 セイナは遠くを見るような瞳で語る。


『ローズフェルト』


というわけで、長かった戦士たち?の休日も一旦終了でございます。

さて、次から新展開が待っているのかどうか、それは皆さんからの声援次第でございます(嘘)。ただ、実際に読んでいただいているのがわかりますと、すごい嬉しかったりするんですねホント。

かなり連続で更新しましたが、次回からは、少し文章を短くして小刻みにするか、長文でドンとやるか考えているとこです。

希望があったら書き込みをくれるとありがたいです。

普段から書き込みがない小説なので、書いたら即採用されると思いますよ!(これはホントです)

それでは!

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