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戦士たち?の休日4

「いやあ、今日も良い天気で気持ちが良いなシオン」

「はい、そうですねセイナ様」

 

 空からは陽光が降り注ぎ、大地を暖かく包み込む、

 

「創造祭前は街が活気付いている。いいものだなシオン」

「はい、そうですねセイナ様」

 

 創造祭、それは建国記念日とは違う、新たなる創造を祝う日。イリアスという国がセイナによって統治され、生まれ変わったことを祝う日。その日が迫っているのだ。

 

「年々、賑やかになるな。今年も楽しみだ。なあ、シオン」

「はい、そうですねセイナ様」

「……なあ、シオン。何かあったのか?」

 

 受け答えが全く変わらないシオンを見て、流石のセイナも異常を察した。

 

「いえ、別に何も」

「何も、ってなあシオン」

「セイナ様は何もしておりません。強いて何かあるというのならば…」

 

 視線をわずかに後ろに向けるシオン。

 休日のイリアスを歩く二人…とはいえない状況がそこにあった。

 

 興味深そうに町並みを眺めながら歩く赤髪のメイド、ライア。

 落ち着いた表情でセイナに付き従うように歩く執事、ヨシュア。

 その後ろを申し訳なさそうな表情で歩く護衛役、アルフ。

 そしてどこか含みのある笑顔で付いて来る金髪のメイド、ミナ(眼鏡有)。

 

「……くぅ」

 

 悔しそうにシオンは下唇を噛み、忌々しげに後方の一団を見据えた。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

「今日は街に出ようと思う」

 

 その言葉に瞳を輝かせたのはシオンだった。

 休日だけではないが外出が好きなセイナ、それに従うのは常に護衛であるシオンの役目。さらに公務のない休日にいたっては、少し遅い時間から始まる誰にも邪魔されることのない二人きりの時間である。

 

「セイナ様、早速準備します!!」

「ああ、準備が出来たら俺の部屋に来てくれ」

「はい!すぐに参ります」

 

 先刻まで手にしていた剣を元の場所に戻すと、階段を駆け上がるシオン。

 頭の中はセイナとのお出掛けで思考が支配されていた。

 

 ヘッドドレスはいつもより少しだけ装飾の付いたものにしようか。

 スカートはフリルのあるものに変えようか。

 いつもは付けない香水を少しだけ使ってみようか。

 護衛用の武器は、なるべく小さいもの。太ももの内側にホルダーをつけてナイフを固定すれば大丈夫。

 

 足取りは軽く胸は躍る。セイナと過ごす休日の準備はいつも変わらない至福の時だ。

 

 自室に戻ると、ベッドに今まで着ていた運動着を脱ぎ捨て、洗面台で湿らしたタオルを使い肌を清める。これも今日は特別製のもの。セイナが以前、好んでいた花から抽出したオイルを少し染み込ませている。

 

 いつもの休日、いつもの外出。

 

 姿見に映る自分を見て自然と頬が緩む、シオンは明らかに浮かれていた。

 なればこそ油断していたのだろう。

 

 当たり前のように訪れる時間が、自分の思い通りにならないこともあるのだと。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

「せっかくのセイナ様との時間を…」

 

 それは一流の呪術師が唱える、とっておきの呪詛にも勝る声色。

 セイナ様を責めることは出来ない、だってこの人は昔からそういう人だから、『今日は賑やかだな』なんて笑う表情も、そんな性格も好きだとシオンは思う。

 

 恨むべきは、何故か私より先にセイナ様の部屋で待っていた。この無神経な一団だ。

 

「ちょっと待っててくれ」

 

 そう言って、セイナはシオンたちから少し離れると、口笛で通信用の鳥を呼び、何かを書いた紙を括り付けている。

 

「あ、あの、申し訳ございません。シオン様」

 

 タイミングを見て、すすっとシオンに近付いてきたアルフが本当に申し訳なさそうな表情で話しかけてきた。

 それに対しシオンは、

 

「それは何に対しての謝罪ですか。アルフ=スティングラさん」

「ひぃっ!?」

 

 その表情、他人行儀な態度、何より全身を纏う殺気にアルフは戦慄した。

 それを見てカラカラと笑うミナ。

 

「あんまりアルを苛めないであげてシオンちゃん。たぶんこの中じゃ一番アルが貴女に罪悪感を抱いているわよ」

「それを言うミナさんはどうなのですか」

「え、私?全メイドを代表してシオンちゃんへのお節介を―――」

 

 という、言葉の途中でシオンの瞳からとてつもない重圧が発せられた。途端に空気が凍りつく。

 

「―――というのは冗談で、頼まれごとをしてるのよ。セイナ様から、これ本当」

「頼まれ、ごとですか?」

「そそ、だから怒らないで、ね。シオンちゃん」

 

 ミナのどこか、のらりくらりとした感じが苦手なのだと、このとき改めて感じたシオンであった。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

「何か聞きたいことがあるようですね?」

 

 背後から突然話しかけられたライアは僅かに驚いて肩を震わせた。

 声の主はヨシュア、口数の少ない印象から声を掛けてくることはないと思っていたので意外ではあったが、確かに聞きたいことはあった。

 

「ヨシュア殿、どうしてそれを?」

「いえ、先ほどよりどこか落ち着きがないような…そうですね、しきりに兄さんに話しかけようとしながら躊躇していたようですので」

「あからさまにだろうか」

「私から見ればですが」

 

 無意識にそのような行動をしてしまったことをライアは反省した。同時にこうなったら、躊躇う必要はないとも思う。

 

「兄さんを困らせるような質問であるなら、私が受けましょう。無論、それが答えられるものでしたら」

「それでは、お言葉に甘えさせていただく」

 

 ライアは決心して問うた。

 

「ヨシュア殿。セイナ殿にとって私は必要な存在なのか?」

 

 セイナに生かしてもらった命、しかし、それだけの価値が自分にあるのかがわからない。

 自身の戦闘能力を凌駕するシオンという存在。戦うしか能がない自分にとってみればそれが自分にとってどれだけ驚異的な存在であり、どれだけ羨ましいことか。

 

 必要とされない恐怖、それに抗うためにシオンを挑発するなどしてしまう自分があまりに小さいものであると感じてしまうのだ。

 

「なるほど、そのような事でしたか。それなら答えは簡単です」

 

 ライアの言葉には、深い悩みの色が見えた。

 が、それに対するヨシュアの回答は単純で

 

「それは貴女が判断してください。もし、自分が要らない存在であるというのならそうなのでしょう。逆に、自分がいなければならないと思うのであればそうなのでしょう」

 

 尚且つ、難解なものであった。

 

「それはどういう、」

「そうですね。僕が説明すれば簡単なのですが……」

 

 ふと、ヨシュアの視線が少し離れたところにいるアルフとミナに向いた。

 

「アルフとミナに聞いてみたらいいと思います。彼女達なら貴女の探している答えを教えてくれるかもしれませんよ。僕からは以上です」

 

 言ったヨシュアは軽めの会釈をして、その場から離れた。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

「すまん。待たせた…と、どうしたシオン、それにライア。様子が変だぞ」

 

 戻ってきたセイナは、先刻とはまた違った二人の様子を気にしたが、それに対する答えは

 

「大丈夫です。セイナ様」

「気になさらないで欲しいセイナ殿」

 

 沈黙に近い、黙秘であった。

 

「ん、まあ良い。それじゃあ散歩の続きと行くか!おっ、おっちゃん。この果物美味そうだな。人数分売ってくれ」

 

 いつもと変わらぬセイナ。

 口数が少なくなったシオンとライア。

 いつものようにセイナへの受け答えだけをするようになったヨシュア。

 頼りない表情をしたアルフと楽しそうに笑っているミナ。

 

 一団は違和感を強くしながら、イリアスの街を巡っていった。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 イリアス内を散策し、それなりの時間となった。

 出発したときは頭上で輝いていた陽の光も、小高い山間部に隠れようとしている。

 

 いつもなら、このまま城に戻り夕食となるはずだ。しかし、このタイミングで声を掛けてくるヨシュアが何も言わずセイナの後ろに控えている。

 

 シオンがそんな違和感を覚えたときにセイナが言葉を発した。

 

「あぁ、なんか腹減ったな」

「セイナ様それでしたら」

「兄さん、僕も同じ意見です」

「あっ!セイナ様、私も、私も!アルもそう思うでしょ」

「ええ、そうですね。そのような頃合です」

 

 城に戻りましょうというシオンの言葉を遮るかのように次々と言葉が覆いかぶさった。

 その様子に呆気に取られたのは、シオンとライアであった。

 しかし、二人を置き去りにして話は進む。

 

「そこで俺から提案があるのだが」

「どのようなものでしょうか兄さん」

「なあシオン。さっき『RiSM』に連絡して店を今日だけ貸切にしてもらったんだが、いいか?」

「えっ?ちょっと待って下さい、セイナ様?」

「つうか、もう決定事項だ。行くぞ!ライアも遅れるな!」

 

 有無も言わさず、店への道を進むセイナ。

 それにヨシュアとアルフ、ミナが続く。

 戸惑いながらも歩き出すシオンに、理由もわからぬままライアもついていった。

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 セイナの向かった先は城から見て南西に位置するメイヤー孤児院のさらに先、イリアスの台所といわれるリザーズサイド商店街を抜けた場所に位置する一軒の食堂『RiSM』。

 

 その食堂の前で、厳つい男達に囲まれた少女がいた。男達の目はいずれも血走っていて、対する少女は困った表情をしている。

 

「セイナ殿」

 

 助けましょうと瞳でセイナに訴えるライアであったが、ライア以外のメンバーは別段気にするような様子を見せない。

 

「大丈夫だライア。よく聞いてみろ」

 

 セイナの言葉に聴覚に意識を向けるライア。すると聞こえてきたのは男達の恫喝ではなく

 

『ミリアさん、今日ウチの畑で採れた野菜だ。新鮮だからきっと美味しいよ』

『俺だって、ミリアさん。山でキノコ採ってきたよ。この季節はこのエール茸がおすすめなんだ』

『甘いな若造ども、俺は街の外で仕入れてきた魚と貝だ!とれたてだから生でも食べられるよミリアちゃん』

『あっ!おっさん卑怯だぞミリアちゃんって。俺達みんな「さん」付で呼ぼうって決めたべ』

『そんなの酔ったときの約束だぁ!』

『なら、俺だって』

『俺も、俺も』

 

 何とも微笑ましい会話であった。

 

『あらあら、皆さん。こんなにたくさん…でも、ごめんなさい。今日はウチ貸切なの』

『ああ、大丈夫。ミリアちゃんは気にしないでいいのさ。俺達がすきでやってるんだから、なあ!!』

『おう』

『んだ』

『ちなみに俺はミリアちゃんのことも』

『おいっ抜け駆けすんな』

『この裏切りモンが!』

 

 少女も困っているという意味合いが違った。

 

「オイっ!お前らっ!私の女神様に何してくれてんのさっ!!」

 

 すると突然の怒号が響き渡る。しかも女性のものであった。

 これも日常の光景なのかとライアがセイナを覗き見ると、打って変わって困った表情になっていた。

 

 徐々に姿が明らかになっていくその姿は、乱れた金髪の長身女性、胸元が露出してしまっているシャツと肩に掛けられただけの白衣、しかし色気が全く感じられない。それに片手には酒瓶を携えている。確実に酔っ払っていた。

 

 イリアスの医師、グレイスである。

 

 グレイスが現れた瞬間、男達は蜘蛛の子を散らすように退散していった。

 そのまま千鳥足でミリアと呼ばれる少女に近付くとグレイスは後ろから抱きついた。

 

「ミリアさん、お久し振りです!!」

 

 視覚を遮るものがなくなりセイナは声を掛けた。

 

「あら、セイナ君。それにみんなも、待ってたわよ」

 

 抱きついているグレイスをずるずると引きずりながらミリアはセイナ達に近付いてきた。

 

「ごめんなさいね。変なところ見せちゃって」

「いえ、相変わらず人気ですねミリアさん」

「あん?なんだ、バカ王か。こんなとこでどうしたのよ」

 

 セイナの顔を見た瞬間、悪態をつくグレイス。

 しかし、セイナの後ろからすかさず声が聞こえる。

 

「セイナ様はバカじゃありません!」

「あら?あらあら?この声はまさか」

 

 突然、瞳の輝きが増すグレイス。

 

「私の天使ぃぃぃぃ!!」

「ひゃ!?放してくださいグレイスさん!」

「やだもーん」

 

 シオンに飛びかかるとそのまま抱きついた。

 

「セイナ君。申し訳ないのだけど」

「ああ、グレイスですね」

「たぶん、今日は駄目って言ったら大変なことになると思うわ」

「大丈夫ですよ。グレイスもお願いします」

「ありがとうね」

 

 少しの会話が終わり、シオンのほうを向くミリア。

 若干、ミリアの方が背が高く、表情はシオンと比べて柔らかい、どこか幼さを感じさせるが、シオンのように高級な人形を思わせる美形の少女であった。そしてシオンと同じ黒髪で、長く伸ばしたものを後ろで束ねている。

 

 よくみればシオンとの血縁者であることは一目瞭然であった。それでは姉か妹かとライアは思う。

 

「お帰りなさいシオン。お仕事、ちゃんと出来てる?」

「ただいま。自分じゃ、ちょっとわからない…」

「それじゃあ、後でセイナ君に聞かせてもらおうかしら。楽しみだわ」

 

 嬉しそうに話すミリアとは対照的に恥ずかしそうにするシオン。

 その様子を見ながら、ライアはミナに話しかけた。

 

「ミナ殿、あのミリアという女性はシオンの姉君か妹君か?」

「あれ、誰にも聞いてなかったの?そんじゃ驚くかもね」

 

 少し、意地悪な笑顔をするミナ。

 

「ミリアさんは、シオンちゃんのお母さんだよ」

「なっ!?」

 

 そして、店に招かれるまでの間、驚愕のあまりライアは彫像のように硬直していたのだった。

一気に書き上げるとなかなか疲労しますね。新キャラ登場ということで物語にどのような変化が起きるのか。実際のところ一番わかっていないのが作者なのかもしれません…。

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