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戦士たち?の休日2

 イリアス城には二つの訓練場が存在している。

 

 一つは、屋外に設営された広い敷地面積を誇るもので、主に集団での訓練から軽い運動まで幅広い用途に使われている『共同訓練場』。

 

 もう一つが、中央塔の地下に伸びる階段を下った場所に設けられ、敷地面積は共同訓練場に及ばないものの、特殊な仕掛けや、多くの武具が用意されており、限定された条件下を想定した訓練や、少人数の実戦的な訓練のために使われている『錬武場』。

 

 目的により使い分けが行われているが、国外での危険な任務や特殊な任務が多い隠密隊は主に練武場を使用している。

 

 そしていま、錬武場において、動く三つの影とその場から動かぬ一つの影があった。

 

 いずれも徒手空拳、静寂した錬武場内において打撃音のみが響いている。

 

 三つの影はいずれも細身ではあるものの引き締まった肉体の男であり隠密隊の動きやすく密着性の高い黒い制服を着用している。

 三人は一つの影に向かって緩急をつけた攻撃を繰り返し、一人が下からなら、もう一人は上、もう一人は背後からと絶妙なコンビネーションを見せている。

 

 だが、本当に驚嘆すべきは攻撃を受けている方である。

 

 男達から受ける休みない攻撃を受け止め、いなし、かわす。その動きを腕と体捌きの上半身のみで行っていた。常人離れした動きだが、本人は余裕すら感じさせる涼しい表情でいる。

 

 動かない影の主はシオン。服装はいつもの制服ではなく、隠密の制服に似た形状の白を基調とした服を身に纏い、髪は邪魔にならないよう後ろでたばねている。

 よく見れば、特に表情を変えず淡々とした動きのシオンに対して、男達は肩で息をし、汗が頬を伝って滴り落ちている。

 

「…そろそろ行きますね」

 

 静寂した場内に突然感情の篭っていないシオンの声が響いた。瞬間男たちの表情が変わり、互いに視線を合わせ、シオンに向けて一斉に特攻する。それぞれがもてる渾身の一撃…しかし、仲間同士の一瞬の目配せが決定的な隙を生んだ。

 

 今までその場から離れることのなかったシオンが、動いた。

 

 打撃が到達するより先に、疾走するシオンの影は、正面から打ち込んできた男の下に潜り込み、突き上げるような掌底を顎に喰らわせる。その一撃に意識を刈り取られた男は脱力したままシオンの方へグラリと崩れ落ち、シオンはその体の陰に隠れるようなかたちとなった。

 

 男たちも素人ではない、倒れる男が視覚の役割を果たしている今が好機とみて、すかさず隙を付いて残りの二人が攻撃を加えるが

 

「「っ!!」」

 

 そこにはシオンの姿はない。

 

「上です」

 

 声と同時に、一方の男の意識が暗転する。自らが意識を失うという感覚がないほどの速さの出来事であった。

 シオンの行動のほうが男たちよりも単純に速かった、ということである。跳躍からの踵落かかとおとしが脳天に炸裂し、男は反撃の間もなく倒れこみ昏倒させられた。

 

 打撃の反動を利用し、シオンは空中で体を一回転させ静かに着地する。

 

 最後の男が一直線にシオンに向かってくる。防御を考えぬ捨て身の攻撃だ。だが、この場では最良の選択でもある。

 

 全力の拳打。しかし、振るわれた腕は虚しく空を切る。シオンは体の上下位置を少しずらしただけであったが、その速度が異常であった。相手には消えたという錯覚を与えるだろう。

 そのまま男の腕を正面から肩で担ぐような格好になると、シオンは体を反転させ、全身を使い、男を地面に叩きつけるようにして、投げた。

 

「ぐぁっ!」

 

 シオンは地面に叩きつけた男を確認。まだ、意識があるようだ。シオンが最後の男に一撃を入れようと攻撃のモーションをつくったとき

 

「そこまでっ!!」

 

 と突如、野太い男の声が響き、シオンは動きを止めた。

 

「お見事にございますシオン様」

「…ウォルフさん。いえ、たいしたことではありません」

「ご謙遜なさらないでください。それでは我々の立場がありません」

 

 声が聞こえた方向にウォルフが姿を現した。見渡すと、シオンや男たちを囲むように隠密隊の隊員が存在している。いずれも気配を消して先刻の攻防を見ていたのである。ウォルフ曰く、これもまたひとつの訓練だとか。

 

 ウォルフがパチンと指を鳴らすと、同時に何かが弾けるような音が響き、シオンは隠されている瞳に感じていたわずかな圧迫感がなくなったのを感じた。

 

「どうです、コレはお気に召しましたか?」

「集中するには良いものですね」

「お褒めにあずかり光栄でございます」

 

 ウォルフの指した『コレ』とは、結界魔術のことであり、先刻の組み手の際、シオンと隠密隊の男三人を半球状に包み込んでいた。

 但し、人の手によるものではなく道具を用いたもので、シオンは地面に埋め込まれた手の平大のプレートを見た。

 

 魔法具マジックエンチャント

 

 人は生まれながら体内に何らかの魔力を持っているが、内包している量は個人差があり、その量の比率は大よりも小のほうが圧倒的に多い、したがって皆がみな、実際に魔法を行使できるというわけではない。そのため、日常生活から戦闘用まで様々な用途のために、魔術行使の補助や単体の魔術を込めた道具が開発されている。

 

 今回の物も、ウォルフが先日の任務時に武器商人から仕入れたもので、プレートを中心に一定時間結界を作り出すものである。効果は他者の立ち入りの制限と結界内外の気配の遮断、即ち簡易の密室を作り出す装置である。

 

 先日の孤児院の件により、セイナの命を受けウォルフが入手してきたものであり、コレを元に、より防御に適した魔法具に改良するのが目的である。

 

 倒れていた男達に他の隊員が近付き、喝を入れ、意識を復活させる。

 

「お前らっ!整列だっ!!」

「「「は、はいっ!!」」」

 

 先程まで倒れていた3人の隊員がウォルフの声に反応し一列に、直立不動の姿勢でシオンの前に並んだ。

 

「「「ご指導、ありがとうございましたっ!!」」」

 

 そして、シオンに向けて一斉に感謝の意を述べる。対してシオンは少し困った表情をしていた。

 

「ウォルフさん、こういうのは止してください」

「何故ですか、シオン様」

「第一、指導ではありません。私は自分の鍛錬のために勝手にここに来て、結果としていつも協力して頂いている。礼を言うなら本来は私のほうです」

「しかし、こちらとしてはそれが貴重な訓練となっております。見ているほうにしても勉強になることばかりでございます。シオン様の身は一つなれど、我々隠密隊の多くがその恩恵にあずかっております故、お許しいただければ、ここにいる者全員で声高々にお礼を叫ばせていただきたいところです」

「…私が言うだけ無駄なようですね」

 

 シオンは諦めの意を表情で表し、対するウォルフは嬉しそうに破顔した。

 

「シオン様、よろしいですか?」

「何ですか、リテロさん」

 

 リテロと呼ばれた先刻シオンに一番初めに昏倒させられた男が、遠慮気味に話しかけてきた。他の二人もシオンの方に視線を向けている。

 

「我々の動きについて気付いた点がありましたらお聞かせいただきたいのですが」

「そのようなことを言う立場ではありませんよ」

「そこをなんとかお願いいたします」

「…みなさんも、ですか?」

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 横一列に並んだ男三人が一斉に声を上げる。

 

「私からもお願いいたします」

「ウォルフさんまで、はぁ…わかりました」

 

 軽く溜息の後、シオンが話し始めようとしたとき

 

「三人の攻防一体型から転じて玉砕覚悟で攻撃のみになったのは悪くないが、一瞬であれ、目配せは良くなかった。相手の瞬発力と判断力を考えたなら、あそこで目を離すのは危険、たとえ相手に読まれる可能性があっても動きに織り交ぜた呼吸か足音のタイミングで合わせた方がよっぽど良かった。そうだろう狂犬?」

 

 被さるようにした声、錬武場に続く地上の階段から姿を現したのはライアだった。その言葉から、シオンと隊員の組み手の様子を見ていたようである。ライアと初めて対面する隊員もおり、錬武場が少し困惑した空気に包まれる。

 

「あの方は、」

「私は、セイナ殿の護衛付役の使用人、ライアだ。よろしく頼む」

 

 初対面の隊員がシオンやウォルフにライアのことを聞こうとしたが、それより先に本人から名乗り出る。しかし、シオンの表情は冷たい。場の空気も冷たくなったように感じられた。

 

「『自称』護衛付役の間違いだろ、猪女ししおんな

「私はセイナ殿から正式に拝命されている」

「あの強引さを拝命というのならな」

 

 完全に階段を降り切ったライアとシオンが対面すると、正面から火花を散らし合い、練武場にいる隊員がざわめき始める。

『シオン』という存在が、このイリアスにおいてどのような存在であるか、理解しているからこそのざわめきであった。

 シオンはそのまま、ウォルフの方に向き直ると

 

「ウォルフさん、その魔法具への追加事項として『特定の人物が近付く又は進入した場合、目標を駆逐する』という機能を増やしてください」

 

 と不機嫌さを露にした。

 

「ふむ、そのような複雑な効果を付けるのは、いささか難しいですな。ところでライア殿はいかがなされたのかな?」

「いや、錬武場がどのようなものか、一度拝見したかったため立ち寄らせてもらった。本来なら、どこかの小さな先輩が案内してくれることになっていたようだが」

 

 二人の状態に困ったような表情で対応するウォルフ。

 特に『小さな』を強調し、答えたライアはすぐにシオンと向き合う、表情もどこか挑発的であった。

 対するシオンはその視線を真正面から受け止めるようにしていた。

 

「…皆さん。悪いのですが、私と彼女を二人きりにさせていただけませんか?」

 

 錬武場にいるライア以外の人間に対するシオンの願い、それはしかし、強制と威圧なによりも怒りが感じられた。その証拠に、若い隊員は膝が震えている。

 

「念のためにお聞かせいただきたいのですが、何をなさるおつもりですか?」

 

 またも、困ったような表情でシオンに問い掛けるウォルフ。実際のところ、この場でシオンに話しかけることが出来るのだけでも、さすが隠密隊隊長であるといえる。

 

 シオンはウォルフを見ずに答えた。

 

「今から、教育が行き届いていない新人を指導します」


前回からの続きです。例のごとく誤字脱字が後から見つかった場合は急いで修正します。


それにしても、この二人(シオン&ライア)は仲が悪いなあと感じている読者様が多いとは思いますが、さてこれからどうなってしまうのか?頑張って続きを書こうと思います。


追伸:最近人恋しさからmixiを始めてみましたが友達をどう増やせばいいのかわかりません(泣)誰か友達になってくれぇ…せめて使い方を教えてくださいぃ

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