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戦士たち?の休日

 自由都市国家イリア

 

 精霊派五国の一つとして数えられ、他の国が自国の血筋を重視し、他の民族と交わることを由としない風習を持つなか、元は多数の小さな民族が一つのコミュニティーを築くことで成り立ってきた国であるという由来もあり、その来歴ゆえ他国からイリアへの受け入れ口は広く、現在においても多種多様な民族がこの国で暮らしている。

 

 規模は、帝国はもとより他の妖精派の国と比べても、領土や人口の規模が小さいが、背に渓谷を背負い、国自体が高地にあるため、自然の要塞としての機能を高めている。

 

 ただし、小国は所詮小国。防御の機能は高くとも、大戦時には、やはり攻める為の機能が重視され、また、国家間の立場においても優位に立つことが出来る。

 

 それは大戦時のイリアに対して言えることであった。加えて、当時の王は人格者として知られた先代の国王が病死した事により、なし崩しで即位した義理の弟。お世辞にも王たる器を持った者ではなく、強国に従い、依存することで何よりも自身の立場を守ろうとしていた人物であった。

 

 このような状況と立場、そして国を治めるべき者の器、普通であれば大戦時の混乱に紛れて、どこかの国に吸収されていてもおかしくなかったこの国が、現在でも存続しているのは、ある一つの存在によるもの大きい。

 

 それが、神々の世界に終焉を与えると、古より伝わる存在。

 

 フェンリルと呼ばれた一人の青年である。

 

 たかが、一人の人間と当初は軽視する者も多くいたが、大戦が激化し戦場が拡大するにつれ常に戦場の第一線に駆り出された青年は、連合国に有益となる数々の戦果を挙げ、しだいに誰もが閉口した。

 

 曰く『イリアの英雄』、曰く『白銀の狼』、曰く『魔狼』。

 

 ある者は崇拝を、ある者は畏敬の念を、ある者は恐怖の存在として彼を見た。それを本人が望んでいなくとも、だ。

 

 しかし、彼は、大戦の最中、イリアから忽然と姿を消す。

 

 フェンリルという後ろ盾がなくなることを恐れたイリア国王は、その事実を隠匿。各国の王もその事実に感づきながらも、同盟の要、ひいては各国連合軍の精神的支柱の一つとして決して小さな存在ではなかった彼を失うことは、現在の情勢下において得策ではないと判断し、同様に隠匿。

 

 かくして、イリアはフェンリルを擁する国家として、大戦中、戦後、その存在を確立した。

 

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 鳥のさえずりが聞こえ始め、葉に溜まった朝露が陽光に照らされ反射する、爽やかな早朝である。

 

 国賓を迎えるなどする広間や共有スペースを含む会議室、食堂などがある中央塔とは別に、東塔と西塔に居住スペースを設けているイリアス城において、主にセイナやヨシュアなどの国内の要人とシオンやアルフ、マリンダなどの女性使用人が生活する東塔の通路を足音なく、しかし軽やかに歩く人影があった。

 

 セイナ専属の侍従兼護衛、シオンである。

 

 纏められた漆黒の長髪が、それでも少し嬉しそうな調子で弾み。軽い鼻歌を含んだ表情は微笑を表している。階段を登ろうともロングのメイド服は乱れることはなく、ただ一直線に目的地まで進む。

 

 塔の最上階、その最奥に位置する扉の前で、シオンは歩みを止めた。

 トントンと軽くノックをし、部屋の主の応答がないまま扉を静かに開ける。

 このくらいの音では起きないことをシオンは知っているからだ。

 

「失礼いたします。セイナ様」

 

 あくまでも優雅に、音もなく入室。その所作は隠密の実力者たちのそれに匹敵する。

 まさに、入室というよりは潜入に近い、洗練された動きである。

 

 机、ベッド、タンスといった必要最低限のもの以外は家具が見当たらず、またそれらは豪奢なものではない。一国の王としてはかなり質素に見える部屋。しかし昔から、派手なものを嫌っていたセイナらしい部屋でもある。

 

 子供たちからの手紙と贈り物であろう紙細工、そして大量の封筒と書きかけの手紙が机の上にあり、シオンはそれを見て微笑んだ。

 きっと、子供たち一人一人に手紙を書くに違いない。セイナはそういう人だとシオンは思う。

 

 やや、入り口から遠く、窓に近いところに配置されたベッドの上にセイナの姿を確認する。どうやら、いつも通り深い眠りについているようだ。

 

 シオンはそのままセイナのベッド横にある椅子に腰掛け、セイナのことをただ眺めるような状態になる。

 

 セイナは自分に対する敵意、殺意といったものに非常に敏感で、それを感じた瞬間に眠りから覚醒してしまう。その感覚の鋭敏さはシオンにも、いまだ到達できないところにある。

 しかし、それとは逆に、そういったものを感じさえしなければ、セイナの眠りは非常に深い。

 

 自分と同じ色、でも少しだけ太いセイナの黒髪に手を伸ばし、引っ込める。

 いままで、この楽しみの最中にセイナに触れたことはない。

 起きてしまうだろうか?しかし、触れても起きることがなければ、今後はそれも可能に。

 そんな駆け引きを一人楽しむ。

 

 セイナの閉じられた左の瞳。そこには自分と同じものが

 セイナの閉じられた右の瞳。そこにはかつて自分の光を奪っていたモノが

 

 シオンは知っている。少し目が隠れるくらいに髪を伸ばしているのは、シオンが自分の右瞳を気にしないようにするためだ。

 自分には気付かれないようにしているが、セイナのことなら気づかないことなどない。

 セイナに聞いたら、どう答えるだろうかとシオンは想像する。

 きっと、いつもの調子で、こっちのほうが格好良いと思うからなど言って笑って誤魔化すだろう。

 

「セイナ・・・・・・様」

 

 小さく、陶酔したような甘い声で囁く。

 シオンが、このような声色で呼びかけるのは世界でもセイナにだけだ。

 

 いつからだろう、彼にこのような思いを抱いたのは。

 

 光を与えてくれたから?それは、ていのいい言葉かもしれない。

 彼の力になりたい?それは近くにいたい口実だろう。

 

 たぶん、闇の中にいるときに聞いた彼の鼓動と声に惹かれたのだろう。

 

 誰よりも優しく、強く。それを主張せず、だからこそ理解されず。

 不器用に笑う。そんな彼を見て、思いを強くしたのだろう。

 

 そして、あの風景に彼の心を見て、私は

 

「セイナ様」

 

 もう一度囁く、その声は限りなく、優しい。

 いつも通り、もうしばらくはこの状態でいようとシオンは思う。

 

 ドン!ドン!ドン!

 

「っ!?」

 

 突然、部屋の扉が叩かれる。

 無論何より驚いたのは、セイナではなくシオンであるが。

 

『セイナ殿、よろしいか!おや、鍵が開いている。無用心だな、我が主は』

 

 扉の向こうから、独り言にしてはやや大きい声が聞こえてくる。

 その声を聞いたシオンの表情は、先程の優しさが微塵も含まれておらず、憎悪に満ちていた。

 

「おはようございます。セイナ殿、良い朝です、よ・・・何をしているのだ?チビ」

「お前こそ、何をしに来た?デカ女」

 

 長身でメイド服を纏った女性。

 赤い髪を揺らしながら入室してきたのは、ライアである。

 ライアもシオンの姿を見つけ表情が険しくなった。

 傍目でわかる、まさに犬猿の仲である。

 

「私はセイナ殿が、今日は公務の休みだと聞いて、街のことを教えて頂こうと思い参上したのだ」

「公務が休みの日、セイナ様は昼頃まで起きない。だからお前は帰れ」

「昼だと?かなり時間があるではないか」

「そうだ、そもそもセイナ様に聞かなくとも、街に詳しい者は城に溢れている。他の者でも良いだろう。帰れ」

「いや、そのなんだ、私としてはセイナ殿を望むのだが」

「駄目だ。帰れ」

「って!そもそも何でお前の許可が必要なんだ!」

 

 ライアの叫びに、シオンは焦ってセイナを確認、いまだ熟睡。

 大丈夫だ。

 

「・・・静かにしろ。セイナ様が起きたらどうするのだ」

「っと、そうだな。これではセイナ殿に迷惑がかかる」

「それに、セイナ様の休日は常に予定があるのだ」

「そうか、それはどのような予定だ」

「それはだな」

 

 シオンは少し下向きになり、恥ずかしげな表情をつくる。

 両の人差し指を突き合わせ、どこか言い辛そうに、しかし、嬉しそう。

 それを見たライアはとてつもなく嫌な予感がした。

 

「私と、お出掛けだ」

 

 そして、ライアに向けて不敵な笑み。

 精神的優位を内包した表情は、見るものによってはどこか邪悪だった。

 それを見た瞬間に、ライアの感情が弾けた。

 

「調子に乗るなよっ!狂犬がぁ!!」

「新人は黙って便所掃除でもしてろっ!猪女がぁ!!」

「・・・んん、なんだ・・・ってお前ら何してるんだっ!?」

 

 自分に向けられていなくとも感じるほどの強烈な闘気のぶつかり合いにより、セイナは休日の朝を迎えた。

 

 

 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 中央塔にある食堂は、朝食時から活気に溢れていた。

 

 食堂には多くの四人掛けの円卓、そこには城内の様々な職種の人間が自由に座っており、入り口近くの厨房とカウンターが直接繋がっている受取口には料理を待つ者たちが一列に並んでいる。

 

「いつ見ても不思議な光景だな」

 

 円卓の一つを囲む集団に混じり食事をとっているライアが感慨深げに呟く。

 それを聞いた、隣に座る眼鏡をかけたメイド服の女性が可笑しげに微笑む。

 

「そうよねえ、わかるわよ、その気持ち。いろんな子を見てきたけど、特に他国出身の子は中々慣れないのよ。でも大丈夫、じきにこれが自然になるわよ」

「うむ、そういうものか」

「うむ、そういうことだよ。新人くん」

 

 言いながら、ライアの肩をポンポンと叩く。

 少女の名はミナ=ハーセ、ライアのルームメイトであり、年齢は22歳、城内メイド中ではキャリアが長い人物である。ブロンドの癖のある髪が特徴的で、普段は眼鏡をかけゆるめのやわらかい性格をしているが、眼鏡を外した途端に性格が反転し、騎士団の鬼教官のような変貌を遂げる。

 前任のメイド長であるミリンダからも次期メイド長に推薦されていたが、自分には向かないと丁重に断り、現在は主に新人メイドの教育担当を任されている。厳しいながらも、誰も見捨てることはない、懐の深さから多大な信頼を得ており、素性の知れないライアをもすぐに受け入れた。

 

「まあ、でも不思議な光景よね」

 

 ミナが示す方向に、同じように円卓。

 しかし、そこで食事をとっているのは、この国の王であるセイナと、執事であり国王の補佐役でもあるヨシュアである。

 セイナは眠そうな表情をしながら、しかし2人分ほどの料理が皿に盛り付けてあり、それを一定のペースで口に運び咀嚼している。

 対して、ヨシュアは書類を片手、空いたほうの手にサンドイッチを持ち、視線を交互に動かしながら食事を摂取していた。

 

「王様が私たちと同じ場所で普通に食事してるのなんて、たぶんウチの国だけでしょうね」

「最初からああだったのか、ミナ殿」

「いいえ。昔は…そうね、国王専用の食堂に大きな食卓があって、そこで食事をとられていたらしいのだけどね。セイナ様が王になってすぐに、『食事はみんなで食べるものだろう』って、前の食堂を潰して今の形に変えちゃったらしいのよ。でも実際、こっちの方がなんかいいわよね。私もセイナ様と同じ意見。それにそれ以外の需要もね、ほら」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ミナが周囲を見渡すような素振りを見せ、ライアがそれに従うと、セイナとヨシュアのテーブルの周りに座っている女性達が熱烈な視線を両者に向けている。というか、その席の周りだけ女性の密度が異常に高かった。

 

「眼福っていうのかしらね」

「眼福?どういうことだ」

「あら、ライアちゃんにはちょっと早すぎたかしらね。それならお姉さんが教えてあげましょう」

 

 含みがある怪しげな笑みでライアを見るミナ、対するライアはキョトンとした表情をしたが、すぐにミナが言うことを聞くために構える。

 

「一方は、人望厚く、皆に慕われ、強く、そして優しい、顔のつくりは超一級品の野性味溢れる我らが主セイナ様。もう一方は、常に冷静沈着、常に主に付き従い、女性のような外見としなやかなボディを併せ持つ、見目麗しき智将ヨシュア様。この組み合わせが導き出す答えは」

「・・・良い主と部下ではないのか」

「ふふっ、子供ね。少し耳を貸しなさい」

 

 言われるがままライアはミナに近付く、そしてミナがライアの耳元で何事か囁くと、途端にライアが赤面した。

 

「ふ、ふ、ふ、不潔だっ!?」

「ほら、大声出さないの。夢見ることは少女の特権なのよ」

「それが、少女のする想像かっ!?」

 

 ライアは顔を紅潮させ、慌てるようにミナから身を離す。

 その表情を見たミナは満足そうに、にやけた表情をしていた。

 

「ミー。からかうのは、そのくらいにしておけ」

 

 その二人の間に割ってはいるように、声が聞こえた。

 ライアとミナが、声のする方へ同時に顔を向けると、呆れた表情をしたアルフ=スティングラが立っていた。

 

「そこ、空いているなら座らせてもらうぞ」

 

 ライアとミナに対面するようなかたちで、空席にアルフが座る。

 

 アルフとミナは、城内でも数少ない同年代同士であり、その平常時の性格こそ逆ではあるが、互いを信頼しあう親友である。

 

「久しぶりだなミー、それとライア。それにしても、相変わらず悪ふざけが過ぎるぞミー。もう少し年長者としてだな」

「何よ、アル。私は淑女として必要な心得を後輩たちに受け継いでほしいだけなのよ」

「淑女、か。私としてはライアの意見に賛成だが」

「それって、私が不潔ってこと?」

「公然の趣味は構わない…が、君個人の内面がね」

「あら、辛口ね」

 

 可笑しそうにカラカラと笑うミナとは対照的に、アルフはサラダを口に運び始め静かに咀嚼している。

 

「アルフ殿、先日は」

「ん?…ああ、あの程度のこと気にすることはない」

 

 ライアはアルフに何かを言いかけたが、少し思い出すようにしたアルフに言葉を被せられてしまった。無論、悪意ではなくアルフの気遣いであることをライアは察した。

 

 先日、ライアの元に一通の手紙が届いた。

 手紙の主はエリシア。かつて、故郷であるローズフェルトで家族同然に育った幼なじみであり、ライアの信頼のおける部下、何より大切な親友でもある。

 

 ライアの指名手配を機に、ローズフェルトに対して自らの命を賭して反旗を翻そうとしていたエリシアに対し、自分は生きており、自分のことよりもエリシア自身の命を大切にして欲しいと綴った手紙への返事であった。

 

 エリシアの手紙には、必ず再会できることを願っているとだけ書かれていたが、古い付き合いであるライアには、それが何よりもエリシアらしく、彼女が命をなげうつようなことをしないという絶対の信頼を感じることが出来た。

 

 手紙を渡した後にアルフは、せっかくの手紙なのだからとどまるのは無粋との理由でライアが礼を言う前に早々に部屋から退室してしまっていたが、ヨシュアの言っていた通り、この手紙の遣り取りは、とてつもないリスクを背負って行われたものである。そのため、ちゃんと正面から御礼を言いたかった。しかし、その日からなかなかアルフが捕まらず、今日が久しぶりの再会であった。

 

 アルフはその件の礼であることを察して、手紙の件はふせるよう暗にライアに促したのだろう。ライアの素性を加味しての判断である。

 

「ねえ、何が?どうしたの?」

 

 その遣り取りを見たミナが、興味を持ってライアとアルフに聞く

 

「今回の任務で向かった場所にライアの探している書物がないか、時間があれば調べて欲しいと言われていてね。それについてさ」

「それは見つかったの?」

「いや、しかし結果は上々だ」

「…そうなの?」

「それより、食事中は食べることに集中しろ、ミー」

 

 話はここで途切れるかと思ったライアの目に、また怪しげな笑みを浮かべるミナの姿が映った。

 

「ところで、アルはどうなのよ?」

「どうって、何が?」

 

 表情を変えないアルフを意に介さないよう楽しそうな調子で話しかけるミナ。

 

「ヨシュア様のことよ。進展、あるの?」

「ガハッ!?ゴフッ!ゴホッ!」

「大丈夫か、アルフ殿!?」

 

 ミナの言葉に、アルフは盛大に咳き込み顔を紅潮させた。

 案じるライアの言葉に、アルフは大丈夫だと手で合図する。

 

「ミーには関係ないことだっ!」

「あら、強気。ということは進展なしと」

 

 その様子を見て、ライアがミナに話しかけた。

 

「どういうことだ、ミナ殿?」

「ああ、ウチの女性陣には周知のことなのだけど、アルフってば、ヨシュア様に惚れててね」

「そうなのか」

「そうなのですよ。だけど、我らが頼れる隠密副隊長ともあろう方が、何故か想い人と二人きりになると、何も出来なくなっちゃってね。私も心の姉として心配なのだけど」

 

 アルフに視線をやり、少し哀れみを含んだ瞳で嘆息するミナ。

 対してアルフは持っていたフォークを握力で曲げるほどに掴み、震えている。

 

「誰が誰の姉だっ!?」

「同年代とはいえ、一つ年上なのよね。私」

「何だと、馬鹿にしているのかっ!・・・ふっ、いいだろう、皆にはまだ話すつもりはなかったが、特別にお前たちに聞かせてやろう」

 

 すると、アルフは自らの胸に手をやり、目を瞑り、自信を含んだ笑みを浮かべた。

 

「この前、あれは夜も更け、皆が完全に寝静まった時間だ。私はヨシュア様の部屋に呼ばれ、赴いた。そして、私はあの方に導かれるままに・・・」

 

 アルフは一度言葉を溜めて、息を吐くように語った。

 

「一緒にお茶を飲んだのだ」

「・・・お子ちゃまが」

 

 そんなことだろうと思ったと、小さくミナは呟き、対するアルフは自信ありげな表情でミナとライアを見据えた。

 

 ライアがはじめて、広間でアルフと対峙したとき、常に冷静さを失わない凛としたイメージがあったが、城で働き始めてそれほど日数はたっていないにもかかわらず、そのイメージはライアの中で日に日に崩壊している。無論、一連のことで感謝はしているのだが・・・。

 

「まあ、でも、アルにしては良くやったほうね」

「何だ、その上からの物言いは、不愉快だぞ」

「あら、褒めたのよ?これでも」

 

 ミナの言葉に、アルフが眉をひそめると同時に食堂がざわざわとし始める。

 ミナとアルフの話に耳を傾けていたライアも含め、三人がその方向に目をやると、セイナとヨシュアが、何やらやりとりをしていた。

 

「アル」

「任せろ」

 

 ミナとアルフが短く言葉を交わすと、アルフは神経を集中させ、魔力を体の一点に集中させていく。

 アルフの得意としている魔術の一つで肉体強化の派生、神経強化である。

 視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感を可能な限り強化させることが出来、隠密という任務の為以外にも、その用途は多方面に渡る。もちろん今回のような場合でもだ。

 

「アル聞こえる?」

「ふっ、私にかかればこのくらい。よし、聞こえた言葉をそのまま言うぞ」

 

 神経を集中させた状態で、アルフが言葉を発する。

 ライアとミナはその言葉を聞きながら、セイナとヨシュアの動きを観察した。

 

『ですから、私は兄さんの身を案じてですね』

『前々から言っているが、自分のことは自分で責任を持つ。お前が俺の心配をする必要はない』

 

 心配した表情を浮かべるヨシュアに対して、少しうんざりした表情のセイナ。

 

『しかし、兄さん』

『しかしじゃない、だいたいお前はいつも腹にたまらなそうなものばっかり食べて、逆に心配だぞ。これやるから、ちゃんと栄養とれ』

『いま僕の食生活は関係ないじゃないですか』

『まあ、そう言うな。弟から心配されるのは嫌だが、兄が弟を心配するのは不自然じゃないだろ?』

 

 言って、ヨシュアの頭にセイナが手をのせる。

 

『兄さん…ありがとう』

 

 優しい笑みを浮かべるヨシュア。その表情とやりとりを見た周りのメイドたちが息を漏らし、どこか恍惚な表情を浮かべていた。

 

「くっ!?」

「アルフ殿っ!?」

 

 アルフが突然胸を押さえ、苦しそうな声を上げた。心配そうに声を掛けるライア。しかし、近くにいたミナは特に気にしてない様子である。

 

「いかんっ…やられた」

 

 アルフは眉間に皺を寄せ、尚苦しそうに、その息は荒い。

 

「よろしければ、医務室に」

「…ふぅ、案ずるな、体調は問題ない、否、極めて良好だ…そうだライア、任務で赴いた地で非常に美味な果物が手に入った。後で、皆に配るので楽しみにしていてくれ。それと、記録術式の使える…、そうだ、あそこの席に座っている茶色い髪を片方で縛っているメイドに、いまの情景を書き出して貰ってくれ、いや、私も常に主のことを従者として意識することの出来るようにだな、別にミナのような下世話なモノではないぞ」

「…う、うむ、承知した」

「そうか!礼は弾むぞ、ライア。私は君のような人間がこの城で働いていることを誇りに思う!そうだ、少し走りこみをしてこよう。それではミー、ライア、また後で!」

 

 矢継ぎ早に言った後、ライアが首肯したことを確認するとアルフは感謝の言葉を述べ、食べ終わった食器を持ち、どこか満足げな表情で颯爽と去っていった。

 

「嘘つきは良く喋るのよね」

「う、うむ」

 

 取り残された二人のうち、ミナは溜息をつきながら、ライアは複雑な表情でアルフを見送った。

 

「…そういえば、チビ、ではなくシオンさんはどこなのだ?」

 

 何となく形容しがたい空気に耐えかねライアは思いついたことを口に出した。特に今までの会話に対して脈絡のない話題ではあったが実際に少し気になっていた。

 あの性格ならセイナの近くに常にいそうなのだが、と。

 

「えっ?ああ、シオンちゃん。今日のこの時間なら練武場ではないかしら」

「練武場?」

「あら、ライアちゃんは行ったことない?おかしいわね、護衛付役の使用人はシオンちゃんが案内するはずなんだけど」

「そこで何を」

「たぶん隠密の人たちの訓練に参加しているはずよ。気になるのライアちゃん?」

 

 返ってきた言葉に、ライアは不敵な笑みを浮かべた。

 

「練武場、か」

 


すっごい久しぶりの更新、半年以上更新していないという表示が出てびびりまくりさ!

書いてなかった原因は色々ありますが主に怪我的な(全治十ヶ月ってホントに体験すると痛いです)


今は元気です。〇ンパ〇マンには敵いませんが、まあ元気10倍ってとこで


これから、もそもそ頑張りますですハイ

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