4 訪問者
「まさか我が国の農地の半分を買い取って自分の領地のにしちまうとは恐れ入ったよ、カドリーヌ。」
テレーズが上機嫌に笑った。
テレーズの友人たちも彼女に同意する。
「農地の半分を所有する者とあれば、その影響力は無視できませんもの。
国が要求する納金が高騰したことを逆手にとって貧窮した農家を領民にしたのはまったく賢いやりかたですわ。」
「カドリーヌ嬢の領民である農家から納金を徴収することはできなくなりましたから、王子と教団は金が集まらず今に苦しむことになるでしょうな。
そのうえ領地内のことには王族といえども口出しできませんからな。
教団から目をつけられている我々が、こうして堂々と茶会をすることができる。」
「茶会ができるだけで満足するなよ、なぁカドリーヌ。」
ニタリと笑うテレーズに私はうなずく。
「まだ反乱ははじまったばかりよ。」
談笑していると、外にいた仲間のひとりが「テレーズさん、カドリーヌさん。」とこちらへ駆け寄ってくる。
「どうした?」
「見慣れない男が近くへ来ています。
どうしますか。」
テレーズに「そいつは王族関係者か?」と問われると、彼女は「身なりはいいですけれど、軍服姿ではありません。」という。
席を立とうとするテレーズを「私が行くわ。」と制して私は外へむかった。
「突然お邪魔して申し訳ない、カドリーヌ嬢。」
つばの広い帽子を下げて挨拶したその訪問者は、背の高い男だ。
色素の薄い髪を後ろで結え、質のいいコートに身を包んだその出立ちと仕草から彼が身分の高い者であることがわかるが、見覚えのない顔だ。
モンタギュー公爵家の令嬢として国内外の貴族たちと顔を合わせたことのある私だが、この男は見たことがない。
怪しむ目線に気づいた男は、「俺はとある方の使いで、隣国からはるばるやってまいりました。」と右手を差し出す。
「俺はルーカスといいます。」
その手には、彼が隣国の王族であることを示す紋章指輪が嵌められていた。
「隣国の王族の方が、私になんのご用かしら。
それに、舞踏会でもあなたをお見かけしたことがないの。」
「公爵令嬢たるあなたにこれまでご挨拶しなかった無礼をお許しください。
俺は3年前から敵国近くの離島の防衛をしていましたから、社交界へ出ることができなかったのです。」
「王族の方が社交界へ出られないなんて、本当かしら。
王位を継ぐ方にとって国内外の貴族と関係を持つことは重要でしょう。」
「俺には王位継承権がありませんから。
王位につくのは弟です。」
通常生まれた順に王位継承権を持つことになるが、この男は継承権がないという。
この男の母親が妃ではない、つまり妾ということだろうか。
「あなたはとある方の使いで来た、といったわね。
継承権がないとはいえ、王族を従えることのできる人物はそういないわ。
隣国では現王は事実上隠居状態にあり実権を握っているのは13歳の皇太子だと聞くわ。
あなたを使いにやったのは、その皇太子ね。」
ルーカスは微笑む。
「この国で瞬く間に領地を広げたカドリーヌ嬢は、我が国でも噂になっているんです。
弟がぜひあなたにお会いしたいというので、お迎えにあがりました。」
「どうして私に会いたがるのかしら。
小娘が領地を広げようが、隣国の皇太子様には関係ないのではなくって?」
ルーカスは笑みを深くしてささやく。
「だってあなた、王国と教団に反旗を翻そうとしてるんでしょう。」
体が強張るのがわかった。
隣国の皇太子は3年前、敵国からの神の地奪還成功している。
そのため教団に影響力を持つ人物なのだ。
さらに皇太子の母は我が国の王女、つまりフィリップの年の離れた姉である。
その皇太子が私の反乱の企みを知って接触しようとしている。
何が狙いだろうか。
「来てくださいますか?」
差し出されたルーカスの手を拒む選択肢はなかった。




