3 反撃準備
アリアの動きは私とテレーズが予想したよりもずっと早かった。
私がテレーズと手を取り反乱を決意をした翌朝、テレーズは朝刊を手にして血相を変えた。
「おいみろよ、聖女サマのお言葉がのってるぜ。」
そう言ってテレーズは私の顔に向けて朝刊を投げてよこした。
そこに乗っていたアリアの声明はこうだ。
『新しい教会を建てるため、我が教団は寄付を必要としています。
フィリップ王子はこの国の皆様を代表して、皆様から集めた寄付金を納めてくださると約束してくれました。
我が教団は個人的な寄付も受け付けております。
寄付金を用意することは皆様にとって楽なことではないと思います。
けれども、神はいつもわたしたちを見守ってくださっています。
神は贖罪の機会をくださいます。
寄付金を納めることは、贖罪を示す手段となるのです。
神を信じる気持ちがあなた方を救います。
あなた方が信じる気持ちを示す助けをするのがわたしの使命なのです。』
「要するに、新しい教会のために民が国に納めなけりゃならない金が増えるんだと。
そのうえ、金を払えば罪が償えるだと。
まったく馬鹿げてるな。」
テレーズは不機嫌に吐き捨てた。
「あなたとアリアには信仰上の大きな対立があるのね。
わかりあうのは難しいでしょう。
でも、もしも違う立場なら私はアリアとわかりあえたかもしれない。
少なくともフィリップよりはね。
だって、アリアは自分が人々のためになると信じたことをしている。
そうでなければこんなことできないわ。」
私は彼女と自分は似ているのだと思う。
私もアリアも、人々のために尽くすのが使命だと思っている。
ただ私たちの信じた人々の幸福は違っていたのだ。
テレーズはそんな私をみて、呆れたように肩をすくめてみせる。
「あんたにとっちゃ、愛されたいだなんてほざく王子より教団のために動くアリアのほうが理解ができるだろうな。
だが今あたしたちに必要なのはアリアとあんたがわかりあうことじゃなくてそいつを追い詰めることだぜ。」
「えぇ、わかってるわ。
もう打つ手は決まっているの。」
馬車に乗って私が向かった先は、小さな農家の屋敷だった。
木造の扉を開けて出迎えてくれたのは、5歳ほどの女の子だった。
「突然の訪問で申し訳ありません。
私はモンタギュー公爵家の娘、カドリーヌです。
おうちのかたはいらっしゃるかしら?」
女の子は「お父さんをよんでくるね。」と言って奥へと駆けていった。
呼ばれてきたこのうちの主人は娘ほど友好的ではなく、「公爵家の娘さんがうちにいったい何の用だ。」と棘のある挨拶をした。
「ただでさえ不作だっていうのに、教会を建てるだかで国へ納める金額が増えてんだ。
あんたにやれるものなんて塵ひとつないね。」
「嫌だわ。
私はあなたからお金を貰いに来たんじゃないわ。
あなたにお金を渡しにきたのよ。」
「何を言っている。」
主人は訝しげに太い眉を吊り上げる。
「私はあなたの農地を買い取りたいの。」
「この土地を売り渡せだって?
俺には娘がいるんだよ。
それなのに住む場所を奪わおうだなんて。」
「いいえ、私は土地を奪いに来たんじゃないわ。
あなたとご家族は変わらずにこの土地で暮らしてくださって結構よ。
ただ名義が私の領地になるだけよ。
あなたにはその領地の管理者になっていただくの。」
「あんた、俺に小作人になれっていうのか。」
「小作人になれば、あなたは王に税を納める必要はなくなるわ。
王族が定める金額が今後いくら増えようとも、私の領地内のあなた方は安定した生活を送っていただける。
悪い話じゃないと思わない?」
「騙されねぇよ。
確かに小作人になれば俺は直接王に金をやる必要は無くなるが、あんたに金をやらなきゃになるんだろ。
今の倍額払えっていうんじゃないのか。」
「いいえ、私に払うのは今の半額で結構よ。
これは信用していただくための前金よ。
受け取ってくださる?」
私が手渡した巾着の中を見て驚愕する主人に、私は「明日、良いお返事がもらえるならその2倍差し上げるわ。」と続ける。
「あんたいったい何を考えている。」
「私はただこの国を救いたいだけよ。」




