2 魔女
テレーズは私を屋敷の地下室へ案内すると言う。
地下へと続く狭い階段を下りながら、テレーズは「カドリーヌは兄さんからあたしがなんでここで暮らしてるのか聞いてねぇか。」と尋ねる。
「いいえ、詳しくは聞いてないわ。
ただ、昔に私と同じように社交界から追放されたとだけ。」
「なんで社交界を追われたんだと思う?」
テレーズがこちらを振り返る。
彼女のもつランプの灯りがニタリとした顔に影を作る。
「それはあたしが魔女だったからさ。」
「魔女?
それは迷信ではなくて?
魔力をつかって空を飛ぶなんてありえないわ。」
「あんたのいうとおり魔法なんてのは迷信さ。
あたしはべつに指先から炎を出したり、箒で空を飛ぶなんざできない。
でも、奴らにとってあたしは魔女なんだよ。」
奴ら、という言葉がひっかかる。
テレーズは私を焚き付けてアリアとその裏にいる教団の目論みを阻止させようとしている。
彼女は教団と敵対しようとしている。
彼女を魔女と呼んだのは、教団だろうか。
「テレーズ、あなたは教団に逆らったから社交界を追われたのね。」
「ご名答。」
テレーズは階段を下りきって地下室への重い扉を開ける。
「さぁカドリーヌお嬢サマ、魔女集会へようこそ。」
「お待ちしていましたよ、テレーズ様。」
「その子がカドリーヌね。」
広い地下室には40人ほどの人々が集まっていた。
テレーズと同じ年頃から少し上ぐらいの女性が多いが、中には学者のような男性もいる。
これだけ多くの仲間がいたのなら、辺境で暮らすテレーズがアリアのことを詳しく知っていたのも納得だ。
恐らく彼らは王都に情報網を巡らせている。
昨日今日でできた集団ではない。
「あたしたちはみんな、教団の教えに逆らった魔女だ。
なにもみんな悪魔を崇拝しようだなんて考えたわけじゃないさ。
けれども時として神の生み出した世界の真実は教団の教えと矛盾する。」
「教団に逆らったあなた達はこうして隠れて集会をして、教団へ反旗を翻すときをうかがっていたのね。
けれども、教団は我が国だけでなく、同じ神を信仰する複数の国々に影響力をもつ大きな存在よ。
簡単に勝てる相手じゃないわ。」
「だがいまがあたしたちにとって好機なんだよ。
教団をまるごと潰すのは難しい。
けれどこの国から教団を追い出すことができるとすれば、どうだ。
それができるのは教団より強い力を持つ者、つまり王だ。」
「けど、あなたはさっきアリアがフィリップに取り入っているからフィリップは教団側に都合よく使われるといったじゃない。」
「だから好機なのさ。
いま現王は病に倒れ、第一王子の戴冠が間近に迫っている。
それだというのに、当の第一王子は聖女さまに骨抜きにされてる。
民だって、自分たちを貧困で苦しめる王に不満を抱かないはずがない。
より優秀な王を求める。
フィリップの戴冠に意を唱える者が出るのは時間の問題だろ。」
「あなたまさか、本気で反乱を起こそうと言うの。」
「あたしたちはあんたに王になってもらいたいのさ、カドリーヌ。」
テレーズたちの狙いは己の信念を貫ける国を作るため、教団から影響を受けない王にすげかえることだ。
そして私の望みは、この国をフィリップやアリアの手から救うこと。
ならば、やるべきことは決まっている。
「もう一度聞くぞ、カドリーヌ。
あんたはこの国のために魔女の手を取る覚悟はあるか。」
差し出された手を私はしっかりと掴んだ。
「もちろんよ。
私があなた方の、そしてこの国を救う王になってみせる。」
「あんたの元婚約者を死に追いやることになるぞ。」
「かまわないわ。
偽りの聖女にうつつを抜かして国を蔑ろにした元婚約者を断頭台へ送って差し上げるわ。」




