10 戴冠
「どうだい。
あんたとの婚約を破棄した男が断頭台に立つ姿を見るのは。」
テレーズが私の肩に手をかけて言った。
視線の先には、手を縛られて断頭台へと歩くフィリップがいた。
リオンと反乱軍に敗れたフィリップは、完全に支持者を失った。
フィリップは国に混乱をもたらした責任を取らされるのだ。
断頭台の周りに集まる観衆とともに、私とテレーズもまたそれを見つめていた。
愛されたいと言っていたフィリップ。
だけども、愛されたいと乞うほどに愛は遠ざかる気がしてならない。
彼がもし王子でなかったなら、その望みのために国を破滅の危機にさらすことはなかったんだろう。
「何を思っていいか、わからないわ。」
「そうかい。
ならあたしが代わりに言ってやるよ。
ざまぁみろ。」
フィリップの処刑はこうして呆気なく終わった。
程なくして私の戴冠の日が近づいてきた。
テレーズの屋敷を出る日、私は彼女に尋ねた。
「本当にこの地に残るの。」
テレーズは「何度も言わせるな。」と微笑むだけだった。
私は彼女に一緒に王宮へ来て欲しいと頼んだのだが、テレーズは僻地の屋敷に残ると断った。
「王宮で働くなんてがらじゃねぇよ。
あたしはこの場所が気に入ったんだ。
仲間もいるし、息苦しい思いをしないですむからな。
それにここにあたしが残ることはあんたのためでもあるんだぜ、カドリーヌ。」
「私のため?」
「表舞台に立たなければ、あたしはあんたの影になれる。
敵はあたしがみんな倒す。
あたしがあんたを守ってやる。」
テレーズは大袈裟にこうべを垂れて「ご用のときは何なりとお申し付けください、陛下。」とおどけてみせた。
「ありがとう、テレーズ。」
「まかせとけ。
それと、ひとつだけ忠告させてくれ。」
そういった彼女はいつになく真剣な顔をしていた。
「カドリーヌ、あんたはきっと立派な王になる。
でも、使命を全うするだけじゃ人間は幸せにはなれない。
あんたにとっての幸福を見つけろ。」
「わかったわ。」
テレーズは照れくさそうにひらひらと手をふるのだった。
やがて迎えた戴冠式の日。
ベルベットのローブを身に纏い、私は一歩ずつ踏み締めるように歩く。
きらきらとシャンデリアが輝き、真っ赤なカーペットがひかれた王宮の大広間で、民たちが私の戴冠を待っていた。
広間の中央に到着し、私は跪く。
私に王冠を授ける役目を担うのはリオンだ。
「カドリーヌ。
そなたをこの国の国王に任命する。」
乗せられた王冠は、ずっしりと重い。
拍手に包まれながら、私は宣言する。
「この国のため、皆様のために全力をつくすことをお約束しますわ。」
閲覧ありがとうございました。
・同シリーズ作品のご紹介
「狡猾なる勇者」
本作の3年前が舞台。
皇太子リオンの兄ルーカスが主人公。
リオンの命でルーカスが仲間たちと共に標的を暗殺していく戦いの物語。
「ノストラダムスの敗北」
カドリーヌが婚約破棄されたのと同じ時、リオンの国で巻き起こった事件の物語。
世界滅亡の予言をめぐる異世界ミステリー。
こちらもあわせて楽しんでいただけましたら幸いです。




