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第94話:共存継承戦②

虚鳴峡へ向かうための転移門が青白い光を帯び、低い鳴動を響かせていた。


出発前の最終確認のため、エフィナとカナト、そして対戦相手であるヴォルツが小さな部屋に集められる。


中央では、記録官ジルヴァが板状の魔具を操作していた。


数字や魔力の波形が次々と書き込まれていき、最終チェックが進められる。


「さて出発前に、双方に確認しておきたいことがある」


ジルヴァが魔具を閉じ、三人を見回す。


「何か質問はあるか?今ならすべて答えよう」


少しの沈黙が流れた後。


エフィナが手を挙げた。


「ねぇ、ジルヴァ。今回の説明を聞いてるだけだと……なんだか統治継承戦と似てる気がするの。“問題を解決する”っていう点では同じでしょ?」


ジルヴァは頷く。


「確かに一見すると近い。だが、統治継承戦と共存継承戦には“決定的な違い”がある」


エフィナは続きを促すように視線を向けた。


ジルヴァは静かに、だが重々しく言葉を置いていく。


「統治継承戦の目的は“領地をどう導くか”だ。そこには“領主である候補者の権限”がある。住民は君の行動を“判断し、評価する立場”だ」


「でも、共存継承戦は違う」


部屋の空気が、わずかに変わった。


「今回君たちが向かう虚鳴峡には絶対に折れない意志を持った三つの勢力が存在する」


ジルヴァは地図を開き、三方向に印をつけた。


「彼らは、君たちの“指示を聞く立場”ではない。むしろ……」


ヴォルツが口元を歪める。


「“候補者である我々を利用し、試す立場”だな」


ジルヴァは頷く。


「その通り。共存継承戦の本質は、“相互不信の中に飛び込み、生きたまま持ち帰ること”。統治継承戦は“領主としての正しさ”を問う。しかし共存継承戦は、“利害の正反対同士が共に残る未来を作れるか”を問う」


エフィナは息を呑む。


「つまり……」


ジルヴァは指を一本立てた。


「決定的な違いは『共存継承戦は、相手が互いに“殺し合ってでも解決しようとする場”に介入する試練だということ』だ。そこでは“候補者の権限”など存在しない。むしろ、候補者は“誰からも信用されていない存在”として扱われる」


カナトが小声でつぶやく。


「……めちゃくちゃ難しくないか。それ」


「難しいどころではない」


ジルヴァは続ける。


「一手間違えれば、三勢力が同時に暴発し、君たちが巻き込まれて全滅する。それを回避できなければ、共存ではない」


エフィナは背筋に冷たいものを感じた。


戦いではなく、説得でもなく、相手は三つの“異なる価値観をもつ勢力”だ。


彼らの誰かを優遇すれば、残りが牙をむく。


「……聞いてた以上に、危険ね」


「危険だ」


ジルヴァははっきりと言った。


ヴォルツが肩をすくめる。


「要するに、“我々はその場に投げ込まれる駒”にすぎない。争いを止められなければ敗北。止められても、別の火種が生まれれば敗北。何をしても、逆恨みされる可能性すらある」


そして皮肉めいた笑みを向ける。


「だがエフィナ殿。私はそれでも楽しみにしているよ。君がどんな未来を描こうとするのか」


エフィナは少しも怯まず言った。


「あなたがどう動こうと、私は“生きて帰る”道を選ぶわ。三勢力も、カナトも。……そして、あたしたち自身も」


その言葉にヴォルツは目を細めた。


「実に、興味深い」


ジルヴァが転移門を起動させる。


「質問がもうなければ共存継承戦《虚鳴峡》へ向かってくれ」


エフィナは深く頷き、カナトと並んで光の中へ歩き出す。


胸の奥には恐怖もある。


だが、それ以上に強い想いがあった。


「必ず、三つ一緒に守る」


光が二人を包み込み、虚鳴峡への道が開かれた。


共存継承戦の舞台へ向かうため、出場者であるエフィナとカナトが転移陣へ歩き出そうとした瞬間だった。


ユナが軽く手を伸ばし、カナトの袖をつまむ。


「カナト。ちょっと来て」


わずかに緊張の混じった声。


エフィナはジルヴァに呼ばれ、少し離れた場所で最終的な魔力量の確認を受けている。


今なら、エフィナには聞こえない。


カナトは立ち止まり、ユナのほうへ身体を向けた。


「どうした、ユナ?」


ユナは周囲を確かめ、他に耳がないことを確認すると、一気に表情を引き締めた。


「大事な話をする。いい?これはエフィナには絶対に聞かせちゃダメ」


その口調は、いつもの柔らかさが消えていた。


エフィナを守る者としての本気の眼差しだ。


カナトも無意識に姿勢を正す。


「わかった。聞くよ」


ユナは深く息を吸い、短く吐く。


そして、まっすぐに言った。


「今回の共存継承戦、戦いの流れを作るのはエフィナにさせて。絶対に」


カナトは一瞬目を瞬いたが、すぐに理由を理解しようとして黙った。


ユナは続ける。


「エフィを救うために大勢の人を巻き込んで勇者の国を相手にしたカナトなら場の空気をひっくり返すことだってできると思う。でも、それをやっちゃダメ。カナトは補佐役。それ以上になっちゃいけない」


「……補佐、だけ?」


「そう。これは“共同戦”じゃなくて“共存継承戦”。資格を問われるのはエフィ。だから流れを読むのも、判断するのも、最終的に動くのも、全部エフィなの。というか全ての戦いにおいてエフィが主体的じゃないとダメ」


言葉はきっぱりしているけれど、決して冷たくはない。


むしろ、エフィナを守りたい気持ちと、カナトを信頼しているからこそ言える重たい助言だった。


ユナはさらに声を落とし、核心に触れる。


「そしてねカナト。もし勝てる展開を見つけても……すぐにエフィに教えちゃダメ」


「え……どうして?」


「自分で気づいて、自分で選ぶことが“継承”には必要なの。あなたが先に答えを言ったら、エフィナは“補助されて勝った”という扱いになるし先々の事を考えて良くないと思うの」


カナトは息を飲む。


ユナの言いたいことが重く胸に落ちた。


ユナは指を一本立てた。


「でも大事なのはこれ。軌道がズレすぎて本当に危ない時だけ助言して。あくまで方向を戻す程度」


「……完全に任せるんじゃなくて、助ける線も残すってことか」


「そう。統治継承戦で思ったの。全ての戦いは“判断の連続”。カナトが全部やっちゃダメなの」


カナトの喉が動き、ゆっくり頷く。


ユナの表情が少し緩む。


「でもね、勘違いしないで。カナトが単独で動く分には好きにしていい。ただし『主体』には絶対にならないこと」


「エフィナが中心、だな」


「うん。カナトは“支える手”。力じゃなくて、判断でもなくて……エフィが進める道を“守る”のが役目」


ユナは一歩近づき、カナトの肩に手を置いた。


「カナトが前に出すぎたら、エフィナはカナトを頼る。でもあんたが後ろで支えてくれたら、エフィナは絶対に強くなる。これまで見てきて、そう確信してるの」


カナトの胸に、静かに熱が宿る。


「……わかった。絶対に守る。エフィナの継承戦だってこと、忘れない」


ユナの緊張がほどけ、柔らかく微笑んだ。


「うん。それでいい。それができるの、カナトだけだから」


ジルヴァの「そろそろ時間だ!」という声が響き、二人は顔を上げた。


カナトは深く息を吸い、ユナにもう一度頷く。


そして、エフィナの元へ歩き出した。


エフィナが振り返り、「どうしたの?」と小首を傾げる。


カナトはいつもと同じような笑顔で答えた。


「いや、なんでもないよ。行こう、エフィナ」


その笑顔の裏に、ユナの言葉がしっかりと刻まれている。


主体にはならない。支える。守る。


エフィナが自分で掴む継承戦にする。


転移陣が光を強め、共存継承戦の舞台へと二人を導いていく。

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