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第8話:見守る目、笑う声

村の広場は朝から慌ただしかった。今日は、収穫祭と魔王軍との終戦記念を祝うためのお祭り。色とりどりの布が張られ、屋台には焼き菓子や串焼きが並び始める。


俺もユナに引っ張られるようにして準備を手伝っていた。


「ほらほら、飾りつけが斜めになってる!」


ユナが指摘する横で、エフィナは夢中で紙飾りを結びつけている。ただ、逆さまにつけてしまい、ぶら下がった飾りが風に揺れて変な形になっていた。


「えへへ……ちょっと変だけど、可愛いよね?」


その笑顔に、ユナは苦笑しながらも「まぁ、いいか」と頷く。


ガルドさんはといえば、重い樽をひょいと担ぎながらぼやいた。


「ったく、朝っぱらから大騒ぎだな……」


だが、子供達に「ガルドおじちゃんすごーい!」と歓声を上げられると、耳まで赤くなっていた。


昼には祭りが始まり、村中に人が集まった。


楽師の奏でる笛や太鼓の音、焼き菓子の甘い匂い、笑い声。エフィナは俺とユナと一緒に屋台を巡り、目を輝かせては食べ歩いた。


「これ甘い!でもこっちはしょっぱい!どっちも好き!」


両手いっぱいに食べ物を抱え込む姿に、俺もつい笑ってしまった。


ユナはそんな二人を見て、呆れながらもどこか楽しそうだった。


子供達の輪に混じったエフィナは、追いかけっこや手遊びに夢中になり、気づけば頬を紅潮させていた。


「こういうの……初めてかも」


ぽつりと呟いたその顔は、本当に年相応の少女に見えた。


「エフィナももうすっかり村の一員だね」


ユナは優しくエフィナを見守りながら微笑む。


「だな。最初はどうなるかと思ったけど」


「エフィナがこの村に馴染もうと一生懸命頑張った結果だよ」


「あんなにいい奴なんだから、村のみんなだけには話してもいい気がするけどな」


ポツリと俺がそう呟くとユナは俺を真剣に見た。


「私も同じ事をお父さんにこの前言ったんだけど、まだダメだって言われたわ。表面上は受け入れてくれるかもしれない。でも心の中ではよく思わない人達だっている可能性がある。もしその人達が外の人にエフィの事を話したら分かるよね?」


「エフィナは殺されてしまう……」


「問答無用ですぐ殺されるだけならまだマシだって。多分、エフィからまだいる魔族の情報を聞き出そうと酷い拷問を長い事受ける可能性があるってお父さん言ってた」


「エフィナは他の魔族の事は知らないって言ってた」


「うん。でもエフィを捕らえた連中の中にそれを信じる人間がいると思う?」


俺は首を横に振った。


「それに村にも火の粉が飛んでくるかもしれない。魔族を匿ってた村として。だから今のまま私とカナト、お父さん、三人の秘密にした方があの子の為でもあるし村の為でもあるの」


「そうだな……」


「でも、いつか魔族とか関係なくみんなが仲良くできる世界になればいいね」


俺は本当にそんな日が来るのか?と思いながらも来てほしいとも思い、村の子供達と楽しく遊ぶエフィナをただ優しく見守っていた。


広場の端、焚き火を背にして、村長は腰掛けていた。


その隣にはジュードが腕を組んで立ち、同じように子供達の遊ぶ姿を見つめている。


「……子供達の元気に走り回る姿はいつ見てもいいのぉ。それが例え魔族の子だとしても」

 

エフィナを見ながら村長が小さく漏らす。


ジュードは驚き、村長を見た。


「ふぉっふぉっふぉ。伊達に年は取っておらんぞ?」


村長は深く目を細め、エフィナを見つめていた。


「黙っててすまねぇな村長。……けれど、あの笑顔を見ちまうと、ただの子供にしか思えなくてな」


「その通りじゃ。血が何を背負おうとも、あの子はもう村の一員じゃよ。……わしら大人が守ってやらねばならん」


ジュードは短く「そうですね」と答え、再び子供達の輪へ視線を向ける。


エフィナが楽しげに両手を広げ、村の子供達と楽しんでいた。


その姿に、二人の大人は声を立てず、ただ静かに笑った。


「村長、ちなみにエフィナは200歳らしいぞ」


「へ?」


夕暮れになると、広場の中央で大きな火が焚かれた。


「勇者の灯」と呼ばれる儀式だ。


人々は小さな灯火を持ち、順番に空へ放つ。


夜空に浮かぶ灯は星のように広がり、子供達は歓声を上げる。


エフィナもユナに手を添えられながら、ひとつ灯を放った。


炎の揺らぎに照らされた横顔は、無邪気な笑顔とほんの少しの神妙さが混じっていた。


「……すごくきれいだね」


祭りが終わる頃、疲れ果てたエフィナは俺の背中にしがみついて眠っていた。


ユナが隣に並び、くすりと笑う。


「まるで妹みたいじゃない」


俺は何も答えず、背中の小さな温もりを確かめながら夜道を歩いた。


広場にはまだ笑い声が残り、夜空には灯火の名残が漂っていた。


その温かい余韻は、村全体を優しく包み込んでいた。

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