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第76話:戦闘継承戦

集結した五人の魔王候補達。


最初の継承戦は戦闘形式でエフィナVSダルガン。


焔獣裁決えんじゅさいけつ


古き魔王城の外縁に築かれた、円形の戦儀闘場。


黒曜石の地面には無数の焼け焦げた痕が残り、中央には五芒の継承紋が淡く光を放っている。


ジルヴァ王の声が、静かに、しかし確かに響いた。


「これより、魔界王位継承戦――第一試練を開始する。戦闘継承戦《焔獣裁決》。勝利条件は“相手を戦闘不能にすること”。殺害は禁止。出場者は候補者ともう一人の2VS2の形式で行う。残りの者達は観客席近くの待機区域に」


観衆席には、魔族各派閥の代表、記録官、そして“評価者”たち。


その視線は鋭く、何よりも冷たい。


エフィナ陣営

主戦者:エフィナ・ルア・ファルミナス

副戦者:勇者エルネスト

控え:カナト、ユナ


エフィナは静かに前へ進み、胸に手を当てて一礼した。


エルネストは一歩後ろ。剣を抜かず、構えも取らない。


まるで「戦う覚悟」そのものが研ぎ澄まされているかのようだった。


カナトとユナは観衆席寄りの待機区域。


カナトは唇を噛み、ユナは両手を強く握りしめている。


「頑張れ!!」


「無理はしないで!!」


カナトとユナはそれぞれ声援を送る。


エフィナとエルネストは少しカナトとユナの方に振り返り任せろと言う感じで笑った。


ダルガン陣営

主戦者:ダルガン・ザ・ブレイズロード

副戦者:炎獣将・グラヴァ

控え:配下の魔族数名(不参加)


ダルガンが歩み出るたび、地面が軋み、空気が熱を帯びた。


「人間に甘い魔族なんて不要だ!!破壊し尽くしてやるぜ!!」


その視線は、エフィナではなくエルネストに向けられる。


「待って!!何であたしが人間に甘いって知ってるの?」


ダルガンは何を言ってるのかという感じで首を傾げた。


「はあ?お前がエフィナ・ルア・ファルミナス本人なら……。いやここから先が知りたいなら俺様に勝ってからにしな」


ダルガンは自分の陣営に下がっていった。


「何か知ってるぽいな」


エルネストがエフィナに耳打ちしエフィナは小さく頷いた。


「もしかして、あたしの記憶喪失に関して知ってるかも」


「ならば何が何でも勝たないとな」


エフィナとエルネストも自分の陣営に下がり、準備をした。


ダルガンとグラヴァはエフィナとエルネストを見て戦略を立てていた。


「エフィナはともかく、エルネストは先代魔王アストレアを討ち取ってる男だ。二十年経ってるとはいえ油断するでないぞ」


ダルガンがグラヴァに忠告しそれに対しグラヴァはこくりと頷いた。


「まずはあの男を二人で叩き潰す。どちらか戦闘不能になっても勇者を戦闘不能にすればこちらの勝利は確実。エフィナと名乗ってるガキからは全く脅威を感じない。力を隠してる可能性もあるが、エルネストよりは劣るはずだ」


グラヴァがダルガンの話を聞き終え質問した。


「ダルガン様。あのエフィナと名乗る女がもし本物のエフィナ・ルア・ファルミナスだとしたら……」


ダルガンはニヤリと笑いながらグラヴァの話を一蹴した。


「エフィナ・ルア・ファルミナスは二十年前に忽然と姿を消した。当時誰かが暗殺したと魔界中で噂されてた。仮に本物だとしても、あの容姿を見ろ。ガキの姿になってる。力を相当失ってる事は容易に想像できる」


「申し訳ありません」


グラヴァはダルガンに頭を下げた。


「よい。お前の心配はもっともだ。どんな状況だろうがありとあらゆる可能性は考えておかねばならん。だがこの勝負は俺様達が勝つ。その結果が揺らぐ事はない」


ジルヴァが高らかに宣言する。


「両者所定の位置に着いたな」


エフィナダルガンは無言で頷いた。


「よろしい。それではエフィナ・ルア・ファルミナスVSダルガン・ザ・ブレイズロードの継承戦を開始する!!」


ジルヴァの宣言と共に観客は歓声をあげエフィナ達は一気に緊張感を高めた。


継承紋が強く輝いた瞬間、ダルガンが踏み込んだ。


爆発的な魔力。


拳に宿る炎が獣の咆哮のように渦巻く。


ドンッ!!


空気が裂け、衝撃波が闘場を揺らす。


エフィナは一瞬も迷わず、両手を広げた。


「結界展開」


透明な魔力障壁が展開され、直撃を受け止める。


だが、耐えただけだった。


結界にヒビが走る。


カナトが息を呑む。


(……重い。想像以上だ)


ダルガンの追撃が来る前に、エルネストが一歩踏み出した。


剣を抜く……否、半分だけ。


「来るぞ、エフィナ。真正面だ」


次の瞬間、炎獣将グラヴァが横合いから突進する。


四足の獣型魔族。全身が炎に覆われている。


エルネストは剣を完全には抜かず、鞘で弾いた。


ガンッ、と鈍い音。


「止めるだけでいい。倒すな」


その判断に、評価者たちがざわめく。


エフィナは一歩、前に出た。


「あたしは……奪わない。この戦いで、証明したいだけ」


彼女の魔力が変質する。


炎でも闇でもない、“静かな圧”。


ダルガンが目を細めた。


「……ほう?」


エフィナは攻撃しない。


代わりに、ダルガンの魔力の流れを抑制し始める。


完全な封印ではない。


だが、炎の勢いがわずかに鈍る。


カナトが気づく。


(あれは……力でねじ伏せてない。“制御”してる……相手の力を、壊さずに)


ユナも唇を噛みしめた。


(危ないけど……エフィナらしい)


「舐めるなァ!!」


ダルガンの魔力が一気に跳ね上がる。


抑制を力で突破し、闘場全体が炎に包まれる。


結界が焼け、地面が溶ける。


エルネストが前に出る。


「ここからは俺が受ける」


剣を抜く。完全に。


二人の力が正面衝突し、轟音と光が闘場を覆った。


評価者たちは静かに記録を取る。


「……力では互角以上」


「だが、あの王候補……戦い方が異質だ」


炎の中、エフィナは立っている。


恐怖も、後悔も、逃げもない。


ただ折れない意志だけが、そこにあった。


炎に歪む闘場の中央。


地面は赤熱し、空気を吸うだけで喉が焼ける。


エルネストの呼吸が、わずかに荒くなっていた。


(……重いな)


ダルガンの一撃一撃は、かつて魔王と刃を交えた自分でさえ、油断すれば押し潰される。


剣で受けるたび、腕が痺れ、衝撃が骨を通して全身に響く。


「どうした、勇者ァ!」


ダルガンの咆哮と共に、炎を纏った拳が振り下ろされる。


エルネストは横に跳ぶ。


だが一瞬遅れ、爆風に弾き飛ばされた。


ドンッ!


地面を転がり、膝をつく。


観衆席がざわめく。


「エルネスト!」


エフィナが駆け寄ろうとするが、


炎獣将グラヴァが立ちはだかる。


「主を守る役目だ。下がれ」


巨大な獣の影。


エフィナは歯を食いしばり、魔力を集中させる。


(……まだ、倒れないで)


エルネストは剣を地に突き立て、立ち上がった。


「……まだだ」


口元から血が滲む。


だが、視線は折れていない。


(この子のためだ)


二十年前、自分が魔王と戦った理由。


誰かのために剣を振るう覚悟。


それが、今、再び胸を満たす。


「俺は……もう勇者じゃない。だが!!」


剣を握り直す。


「あの子の描く未来を踏みにじる奴を、見過ごすほど、枯れちゃいない」


一歩、踏み出す。


エルネストの動きが変わった。


重さを捨て、最小限の動きで、最大限の防御と反撃。


ダルガンの拳を受け流し、炎獣将グラヴァの爪をいなす。


完全に押し返すことはできない。


だが止められる。


評価者が小声で囁く。


「……戦い方が、王を守る盾だ」


「勝つためじゃない……時間を稼いでいる」


その“時間”の先にいるのが、エフィナだった。


「お前達があの子が思い描いてる未来、夢を壊そうとするなら、俺は全力でその未来を守る!!」

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