第67話:魔王候補
魔王の残滓に呼ばれたエフィナ。
行く事自体は簡単だが、魔王城にいる冒険者達とのトラブルを懸念するカナト達の前に勇者・エルネストが同行すると言ってくれた。
「ありがとうございます。でも何で?」
カナトがごく当たり前の疑問を抱いた。
エルネストは優しく笑いながら答えた。
「まずカナトの懸念は間違えていない。今この村にいる冒険者同士かなりピリピリしてる。村でこの状態だ。魔王城に行けば殺し合いが起こっててもおかしくない」
「はい」
「それと、今の魔王城の現状を知りたいって言うのもある」
「今の魔王城?」
エルネストは首を軽く縦に振った。
「ああ、一応魔王を討伐した者としては見ておきたくてな。魔王の残滓も気になるしな」
「エルネストが知ってる魔王はもういないよ。カナト達が完全にやっつけてくれたから」
エフィナはエルネストが魔王の残滓を消すと思い慌てて説明した。
「いや、あれはエフィナの『印』の力があったからで」
カナトも慌てて補足する。
二人のやりとりにエルネストは微笑む。
「二人は仲がいいな」
エフィナはエルネストの言葉に満面の笑みを浮かべる。
「そうでしょ?」
「いやー」
カナトは恥ずかしそうに顔を逸らす。
ユナは少しやきもちを焼きカナトに近づき足を踏みつけた。
「いってええええええ!!」
カナトは足を持ち上げ片足で飛び跳ねた。
ユナはツンとそっぽを向いた。
エルネストはよく分からず、ジュードの方を見るが肩をすくめるだけで何も言わなかった。
エルネストはこほんと咳払いし話を戻した。
「魔王の残滓をどうこうするつもりはないよ。ただ魔王だった者と話をしてみたいだけだ」
「何か聞きたい事でもあるの?」
「ああ、散り際の魔王の表情がこの二十年忘れられなくてな……」
「表情?」
エフィナが尋ねるがエルネストはそれ以上は語らなかった。
「とりあえず、エルネストさんがついてきてくれるなら百人力です。出発は明日の早朝でも大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
「じゃあ明日、6時にこの酒場の前で」
カナトがそう言うと話は終わり、酒場の開店準備を再開した。
翌朝
酒場の前には、カナト、ユナ、エフィナ、エルネストの四人が集まっていた。
「ユナ、お前も行くのか?」
カナトが確認する。
「当たり前でしょ!!エフィと二人きりになんてさせれるわけないじゃない」
「いやエルネストさんもいるんだけど」
「そうだとしても行くわよ。私の直感が何か大事になると告げてるから」
「分かった」
カナトはそれ以上何も言わず、出発した。
かつて何度も越えた道のりは、三人が記憶していたよりも静かだった。
魔物は散発的に現れたが、エルネストが全て対処してくれて特に問題なく魔王城に辿り着いた。
魔王城の前には冒険者が数人立っていた。
カナト達をじーっと見るが襲ってくる感じではなかったのでやり過ごし魔王城の中に入った。
中では宝を探す冒険者がそこかしこに見られた。
カナト達は無視し魔王の残滓がいる玉座の間を目指した。
邪魔される事なく玉座の間の前まで辿り着いたカナト達だったが、玉座の間の扉の前では数人の冒険者達が立っていた。
「お前達もこの中に用があるのか?」
ガラの悪そうな冒険者達がカナト達に絡んできた。
「えぇ、まあ……」
カナトは視線を逸らし答える。
ガラの悪い冒険者の一人がカナト達の周りをうろうろと値踏みをするかの如く回る。
「ここはかつて魔王がいた部屋だ。絶対とんでもない財宝があるはずだ。だがな、部屋に結界が施されてて中に入れねえ。お前らの中に結界を解けるやつはいるか?もし結界を解けたなら財宝は山分けしてやるぜ?」
嫌な笑みを浮かべながら提案をしてくる冒険者。
「どうすんの?エフィなら解けると思うけど……。ていうかエフィだけが入れるように結界を張ってるわよね?」
ユナがカナトに耳打ちで話してきてカナトもそれに同意する。
「それに、あいつら財宝を山分けするつもりなんて毛頭ないわよ。入れたら私達を殺すつもりでいるわよ」
「さすがに俺でも分かるよ。それくらい」
カナトは苦笑いする。
「で、どうなんだ?」
ガラの悪い冒険者がイラついた感じで聞いてきた。
「お断りします」
カナトの言葉と同時にエルネストとユナが飛び出しガラの冒険者二人を制圧した。
「なっ!!」
最後の一人が仲間に振り返った瞬間にカナトが短剣を首に突きつけた。
「財宝に興味はないですけど、この先には用があるので行かせてもらいます」
「ふ、ふざけるな。独り占めするつもりかよ!?」
カナトはやれやれといった表情で冒険者を見た。
「どのみち、あなた達はこの部屋には入れないと思いますよ」
カナトが話終わるとユナが冒険者の腹に強烈な一撃を喰らわせ気絶させた。
「これでゆっくり入れるわね」
「見事な突きだったな。さすがはジュードの娘さんだ」
「あ、ありがとうございます」
ユナは嬉しそうに照れた。
「みんな準備いい?」
エフィナが扉の前に立ち手をかざした。
手首の『印』が輝き、封印が解けた。
四人は扉を開け中に入った。
入った瞬間、再び封印が施された。
中央、黒い影のように揺らぐ“魔王の残滓”が、四人を迎えた。
『……来たか。エフィナよ。人間の少年、少女よ……そして、我を打ち倒した勇者よ』
エルネストは何も言わずただ、魔王の残滓を真っ直ぐ見ていた。
声は直接頭に響く低音。
けれど敵意はなく、むしろ疲れた老人のような響きがあった。
エフィナが一歩前へ出る。
「どうして……“呼んだ”の?」
残滓は、ゆらりと形を変えた。
『この城から、魔界の気配がな漏れ始めている』
ユナが息を呑む。
「魔界……?」
カナトは眉をひそめた。
「まさか、ここが繋がったとか……?」
残滓は、静かに頷いたように揺れた。
「魔界だと!!」
エルネストは驚き目を見開く。
『お前たち人間が“急に宝が大量に見つかる”と騒いでおるな?その原因は、単純だ』
広間全体の影がざわりと蠢き、重厚な幻影が浮かび上がる。
それは二つの城。
ひとつは今四人が立つ、人間界の魔王城。
もうひとつは、暗黒の空の下にそびえる、より巨大な魔王城……魔界の本来の姿。
『魔界にある“真の魔王城”と、人間界にある“写し身”の魔王城……本来は深い深い層で隔たれておる』
残滓の声が、低く響く。
『だが今、その隔たりが薄れ……二つの城が重なり始めている』
ユナは口元を押さえた。
「じゃあ……宝は……?」
『ああ。本来は“魔界側”に封じられていた宝物庫が、“重なり”によってごっそりこちらに現れたのだ』
カナトは驚きを隠せなかった。
「だから突然、魔王城で今までなかった宝が取れるようになったのか……」
『偶然ではない。魔界と人間界の境界が乱されつつある。おそらく何者かが魔界で何かを起こそうとしている可能性がある』
残滓は声を低くして続けた。
『私はただの影。どうする事もできぬ。だが、エフィナよ……お前と仲間ならどうにかできるかもしれぬ』
エフィナは、胸の前で手を組み、そっと目を伏せた。
「わたしなら?」
『ああ。……先ほど何者かが何かを起こそうとしている可能性があると言ったが、何者かは分からぬが何かを起こそうとしてる事に関しては何となく予想はつく』
「それは何?」
エフィナは真剣な表情で聞く。
『次世代の魔王を決めるつもりだろう』
「次世代の魔王……」
エフィナはもちろん残りの三人も驚愕する。
「また戦争をするつもりか!!」
エルネストは少し語気を強め残滓に詰め寄った。
『少なくとも、今この異変を起こしてる魔族はそのつもりだろうな。いわばこの異変は他の魔王候補者への牽制』
「魔王候補者?」
カナトが聞く。
『魔界は力こそ全てのところはあるが、誰でも魔王になれるわけではない。魔王になれる素質を持って生まれたものだけが魔王になれる』
「でも、あなた以外の魔王は今までいなかったんでしょ?」
ユナの指摘に残滓が揺れる。
『その通りだ。我が現れるまで魔王という圧倒的な存在はいなかった』
「それじゃあ、何で……」
「お前の圧倒的な魔力に感化されて眠ってた魔王の素質に目覚めた者達がいるって事か?」
エルネストが睨みながら話す。
『さすがは我を討ち取った勇者だ』
エフィナは小さく震えた。
ユナがそっと彼女の背中に触れ、カナトも近づく。
「エフィナ……大丈夫か」
エフィナはゆっくり顔を上げ、瞳の奥にわずかに決意の色を宿した。
「ここに呼んだって事はわたしも候補者の一人ってわけなんだよね?」
『そうだ。だが正確に言えば”記憶を失う前”のお前だがな』
「記憶を失う前のわたし……」
『そうだ。お前はおそらく魔王候補者の誰かに記憶を封印され、人間界に追い出された』
「どうしてそんな事……」
エフィナはまた小さく震えた。
「記憶を失う前のエフィナが次の魔王に一番近い存在だったからだろうな。それ以外にも色々あるが、これが一番可能性がある。現に前魔王が力を貸してるんだからな」
エルネストが冷静に答える。
『我の”声”が聞こえるという事は我と同等の力を持ってる証だからな。それにエフィナには我以外の万物の声を聞く事が出来るみたいだしな。そこは『印』を渡した時に気づいていた。だが、同時に記憶が封印されてることにも気づき、解こうとしたが拒絶された。残滓になったとは言え我を跳ね除けるとは封印を施した奴も相当な実力の持ち主だ。間違いなく魔王候補者だろ』
全員に緊張が走った。
『そしてその相手は間違いなく以前の我と同じ人間界への侵攻……』




