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第66話:決意と魔王城からの呼び出し

朝の光が、酒場の木製の扉をやわらかく照らしていた。


まだ開店前の静かな時間。


ユナとユナの父であるジュードが営む酒場では、すでに仕込みの音が響いていた。


「……おはよう」


戸口から顔を出したカナトの声に、奥で掃除をしていたユナが、ぴくりと反応する。


「……お、おはよう」


視線が一瞬、絡み、すぐに外れる。


昨日の返事の余韻は、まだ互いの胸の中で生々しく残っていた。


甘いのに、どこか居心地が悪くて。


距離は近いはずなのに、前より少しだけ遠く感じる。


「ふふー、朝から甘酸っぱいねぇ。でも譲らないからね」


後ろからエフィナが無邪気に笑いながらもジト目で入ってくる。


「ちょ、エフィ……!」


ユナの耳が赤くなる。


カナトはどう反応していいか分からず、曖昧に視線を迷わせたその瞬間……。


「……おい、カナト。ちょっと来い」


低く落ち着いた声が、空気を切った。


ジュードだった。


酒樽や荷物が積まれた裏手。


朝の冷たい空気の中、ジュードは腕を組んでカナトを見据えた。


「……で?」


短い問い。


「昨日からユナの様子がおかしいんだが?」


カナトは一瞬だけ迷い、覚悟を決めて口を開いた。


「……ユナに、告白されました。それで……返事も、しました」


マスターの眉が、わずかに動く。


「はっきり言え」


「……好きだって。 でも……エフィナも大切だから、ユナに抱いてる感情が恋なのか、まだ自分でも分からないって……」


数秒の沈黙。


やがてマスターは、深く息を吐いた。


「……馬鹿正直だな」


そう言いながらも、怒気はなかった。


「選ばないってのは、一番、楽で……一番、残酷な道だ」


カナトの胸が、ずしりと重くなる。


「ユナは強い。だがな、あいつは“我慢ができちまう”タイプだ。笑って待てるやつほど、限界の時に何も言わず壊れる」


言葉が、鋭く胸に突き刺さる。


「エフィナは多分違うだろ。欲しいものはどんな手段でも掴みにくる。だがな、あの子は“捨てられること”を、誰よりも恐れている気がする」


ジュードは、カナトを真正面から見据えた。


「二人とも守りたい?それは立派だ。だがな、“誰も選ばない”ってのは、“誰の人生にも責任を持たない”のと同じだ」


カナトの喉が、かすかに鳴る。


「今すぐ決めろとは言わねぇ。だが、逃げ続けたまま、優しさを言い訳にするな」


ジュードは、静かに言い切った。


「選ぶってのはな、“誰か一人を誰よりも大切にする覚悟”を背負うってことだ。それができねぇなら、最初から希望を持たせるな」


そして、最後に一言。


「……それでも迷うなら、ちゃんと苦しめ。本気で悩んだ男の言葉にだけ、人は賭けられる」


カナトは、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


「礼はいらねぇ。あいつの父親として、言っておきたかっただけだ」


酒場に戻ると、ユナは無言でグラスを拭き、エフィナは棚の整理をしていた。


三人の間に、言葉にならない空気が流れる。


その時だった。


エフィナが、ぴたりと動きを止めた。


「…………」


表情が、ふっと消える。


「……エフィナ?」


カナトが声をかけた瞬間、彼女は胸元を押さえ、ゆっくりと振り返った。


「……呼んでる」


「え?」


ユナも顔を上げる。


エフィナの瞳が、かすかに赤く揺れた。


「魔王城……まだ、あそこに残ってる……“魔王の残滓”が……またわたしを、呼んでる……」


酒場の空気が、一気に冷えた。


「それって……」


ユナが息を呑む。


エフィナは、小さく笑ってみせた。


「何か話があるみたい。詳しくは直接話すって」


カナトは、自然と拳を握り締めていた。


さっきまで恋のことで揺れていた日常が、またゆっくりと――戦いの影へと引き戻されていく。


エフィナが、静かに言った。


「……ね、カナト。また一緒に来てくれる?」


「当たり前だろ。それに話っておそらく……」


「うん、多分ここ最近のたくさんの宝が出現した事についてだと思う」


エフィナが強くうなずく。


「だよな。村にとっては潤うから良いかもしれないけど、急に宝が現れだしたのは不気味だ」


ジュードが裏から戻ってきた。


「魔王城に行くったって、お前達だけでどう行くつもりだ?ガルドとミリアはいねえし、冒険者に頼むにしても、ここ最近いる冒険者は正直信用ならねえ。全員、宝に目が眩んで喧嘩や奪い合いが絶えねえって聞くぞ?」


「うん、店でもいざこざが前より増えてる。私達が戻ってきてからでも毎日のように冒険者同士があちこちで喧嘩してない?」


「そうなのか?俺は気づかなかったけど」


ユナは大きなため息をつく。


「ちゃんと村の隅々まで見てみたら分かるわよ。昼間はみんな魔王城に行ってるから目立たないけど、夕方になったら小さないざこざが起こってるわよ」


ジュードが続けて話す。


「村が賑わうのは良いんだが、どうしても人が増えればそれだけ問題も起こりやすくなる。難しい所だな。今いる冒険者は話を聞く限り、宝の噂だけを聞いて集まった即席パーティ、最低限の腕はあるが、連携はめちゃくちゃ、魔物より“人の裏切り”の方が怖い連中ばかりだ。魔王城の宝の争奪で、みんな“我先に”って雰囲気になってる」


カナトの声には、明確な警戒が滲んでいた。


「護衛を頼んで、背中を預けた瞬間に宝の場所を吐かせるために刺されるそんなことが起きても、おかしくない」


宝騒動が始まってから、この村は“金の匂い”が強くなりすぎている。


「宝騒動前からの冒険者なら、まだ信頼できる人もいる。でも……」


ジュードが、付け加え続けた。


「みんな、それぞれ別の依頼で動いてる。」


ユナは、唇を噛みしめる。


「……つまり」


「他人に頼る余裕がない状況ってことだ」


カナトが全員を見回した。


「道中に出る魔物程度なら、俺とエフィナだけでも倒せる。強敵が出る場所も……だいたい分かってるが、極力戦闘は避けたい。戦えば負傷する可能性があるからな」


ユナが椅子に座りながらテーブルに頬杖をつきながら話す。


「それに運よく魔物に遭遇せずに魔王城に辿り着いても、結局宝を血眼で探してる冒険者に出くわして不要な衝突が起こる可能性もあるわ」


全員その事を考えると気が重くなる。


これならまだ魔物の方がまだマシだと思ってしまう。


「仕方ない。魔王城には俺とエフィナの二人で行ってくるよ」


「やった」


エフィナが飛び跳ねて喜ぶ。


「私も行く!!」


ユナが慌てて立ち上がる。


「無理しなくてもいいよ。ユナはお店の事があるでしょ?」


「それでも行く!!いいでしょう?お父さん」


娘の頼みにジュードは頭をかいた。


「そうだな。人数は多い方がいいが……」


ジュードも今の店の状態の事を考えると潔く送り出すことができない。


「お願い!!」


ユナが頼み込んでると扉が開いた。


「俺が同行しよう」


全員が振り向くとそこには勇者エルネストが立っていた。

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