第61話:誓い
カナト達はラディウス達と共に聖ヴェリシアの戦闘の後処理を手伝い、しばらくして聖ヴェリシアは元の姿を取り戻した。
そして、蒼陽連邦と聖ヴェリシアは中立都市リュミナスの議事堂でこれからの事を改めて話し合う事になっていた。
「これが、聖ヴェリシア王国と新体制の最初の取り決めになる。」
低く響く声で、ラディウスが口を開いた。
彼の指が、その上に広げた文書をゆっくりなぞった。
「勇者の血族による専制と、他国への過干渉行為は、即刻停止。王族の統治権は一時的に凍結し、
評議会制に移行する。聖ヴェリシアの“力”は、これからは人と魔族の共存を前提に運用されるべきだ」
会場にざわめきが走る。
かつて聖ヴェリシアの影に怯え、言葉を飲み込んできた代表たちが、初めてその“巨影”を前にして頭を上げていた。
「……まさか、聖ヴェリシアが評議制とはな」
砂漠の国イザルムの女王が、苦笑混じりに言う。
「世界は一つにならないといけない。人と魔族の共存とは言ったが、それはあくまで敵対意思がないのが前提だ。
依然として、我々に牙をむく魔族はいる」
ラディウスの話に各国の代表と聖ヴェリシアの王は力強く頷く。
「またいつ魔王のような輩が現れるか分からない。その時、勇者という存在に縋るのではなく、
自分達の手で対処できるようにしとかなくてはいけない」
「確かに、勇者一人に負担を掛けるわけにはいかんしな」
グリント王は腕を組みながら頷く。
「そのためには我らが一丸とならなければいけない」
ラディウスの主張に周りから拍手が巻き起こった。
リュミナスの酒場
ジュードは自分の店でできる物はないかとリュミナスの酒場の食べ物を食べていた。
ジュードの隣にエルネストが座った。
「お前は出なくて良かったのか?」
ジュードは食事を続けながらエルネストに話す。
「俺はいない方がいいだろ。それに旧友と積もる話もあるしな」
「世界の情勢について話してやろうか?お前ずっと幽閉されてたんだろ?」
「いやいや、世界情勢よりジュード自身の近況とかをだな……」
「冒険者をやめて、酒場開いて、結婚して、娘が生まれて幸せ。現在に至る」
エルネストは苦笑いする。
「ざっくりだな……。まあジュードらしいか」
「俺らしいって、あの村で何日か共にしただけだろ。それで俺の何が分かるってんだよ」
ジュードは少しいじわるに笑った。
「それもそうだな。だったら今から教えてくれ」
ジュードはエルネストの言葉にガクッとした。
「はあ〜。お前の事も話せよ。そうだな、俺と別れてから魔王討伐までの話がいいな」
「俺自身の事にも興味を持ってくれよ」
「”今日”はその話がいい」
エルネストはジュードの言葉にフッと笑った。
カナトとエフィナはある人物に呼ばれとある一室で待っていた。
「ユナは呼ばれてないんだが?」
カナトはユナを見た。
「私も同席するわよ。あんた達二人じゃ心許ないし」
カナトがため息をついてると、扉がガチャと開く音がし、三人はスッと立ち上がった。
入ってきたのはヴェリシア家のアドリアン、レオンハルト、ディオバルドの三人だった。
部屋に重い空気が立ち込める。
ディオバルドはカナトの事を睨みつけていた。
カナトは目を若干逸らした。
「ちょっと、そっちから話があるって言ったからこっちはわざわざ来てあげたんだけど!!」
ユナは物怖じせず、ディオバルドを睨む。
お付きの兵士がユナに対し剣を抜こうとするが、アドリアンが無言で制止し兵士は元の姿勢に戻った。
「ユナ、一応王族だぞ」
カナトの言葉にディオバルドの顔が怒りでひきつっていた。
「カナトが一番失礼なような気がするけど……」
エフィナがボソッと呟く。
アドリアンは一つ咳払いをし、席についた。
続いてレオンハルト、ディオバルドも席につき最後にカナト達が席についた。
「それで、お話というのは?」
カナトが自分達が呼ばれた理由を尋ねた。
「単刀直入に言おう。我ら三兄弟は、今回の取り決めに……納得しているわけではない」
アドリアンの言葉に部屋の空気が一気に張り詰めた。
「勘違いするな。納得はしてないが貴様達をここでどうこうするという話ではない」
「それを信用しろと?」
カナトがアドリアンを睨む。
「報復するなら、貴様達が部屋に入った時点で暗殺部隊に始末させてる」
「暗殺部隊までいるんですね」
カナトとユナは警戒を解かない。
「汚い仕事は主にそいつらに任せてるんでな」
アドリアンがフッと笑う。
「今回の戦いの果てに見た。お前たちの“正義”も、確かにあった。
それが人を傷つけずに済むなら……それを否定する理由も、もうない」
ディオバルドは黙っていた。
エフィナの姿を一瞬見てから、ふと視線を逸らす。
「……もう俺達は敵じゃありません。今回はお互いに、譲れない正義があっただけです。
俺はただ、エフィナと、あの村で静かに生きれれば、それでいいです」
その言葉に、沈黙が流れた。
そして、最初に口を開いたのはディオバルドだった。
「……愚かだな。俺達を王族の座から引きずり落とせば良かったものを。
戦力を整えて報復されるとは思わなかったのか?」
「それは意味がないと思いました。引きずり落としたところでその気になれば、
あなた方三人だけでどうとでもなるでしょう?」
「どうだかな……。今はそこの魔族の娘……エフィナに力を封印されたからな」
レオンハルトが悪態をつく。
「勇者の力がなくともお三方は強いです」
カナトは警戒しつつもニコッと笑う。
「嫌味か?お前達より強いなら何故俺達は負けたのだ」
ディオバルドがカナトを睨む。
「幸運の女神が俺達に微笑んだだけでしょう。実際、魔王を倒した勇者、
エルネストさんがいなければ負けていたのはこっちだったでしょうし」
エルネストという名を聞いた途端三人は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「そうだ!!あいつさえ介入しなければ、俺達は……」
ディオバルドは立ち上がりテーブルを強く叩いた。
「過ぎた事をグダグダ言うな。我らは負けた。それだけだ」
アドリアンがそう言うとディオバルドは黙って座り直した。
「結局何が言いたいんですか?負けた愚痴ですか?」
ユナがため息まじりに尋ねた。
「違う!!……いや、そう取られても仕方あるまい」
アドリアンはしばらく黙ってカナト達もただ黙って、次の言葉を待っていた。
そして、意を決したようにカナト達を見た。
「誓おう。お前たちには二度と手を出さぬ。この勇者の血と誇りにかけて」
その言葉にカナト達は驚いた。
レオンハルトも続くように言葉を発した。
「我も誓おう。二度と私利私欲の為にこの力を振るったりはせぬ」
ディオバルドだけはまだ納得してない様子だったが……。
「二度と手は出さん……」
アドリアンが続いて話す。
「もし“勇者の血族”が終わる日が来たのなら、次に続く者たちの邪魔はしない」
「何故、その結論に至ったのですか?」
カナトは三人に尋ねたが三人は何も言わなかった。
その様子を見ていたエフィナは胸に手を当て、小さく息を吐いた。
「ありがとう……。あなたたちがそう言ってくれるだけで、救われます」
「……魔族の娘」
レオンハルトが驚いた。
それはカナトとユナも同じだった。
「エフィナは今の言葉を信用するのか?」
「そうだよ。ついこの前までエフィを殺そうとしていた連中よ」
エフィナはカナトとユナを見て微笑んだ。
「信じるよ。少し怖いって気持ちはあるけど、こっちから歩み寄らないと何も変わらない」
エフィナは三人を見た。
「それにもしまた襲ってきたらカナトが返り討ちにしてくれるんだよね?」
「あ……ああ」
「じゃあそういうことで!!仲直りの握手」
エフィナはアドリアン達に手を差し伸べた。
アドリアンはエフィナの手を握った。
「ありがとう。お前の生き方が、この世界に“共存”をもたらすのなら、
それは我らが剣よりも、ずっと強いものだ」
「難しい事は分からないけど、わたしはみんなが仲良く出来たらそれでいいよ」
レオンハルトにも手を差し出し、レオンハルトは応えるように握手をした。
「あなたは嫌!!」
エフィナはディオバルドとの握手は拒否した。
「ふん、こちらこそごめんだ」
部屋の空気が少し和らいだ気がした。
そしてエフィナが呟く。
「……みんな、少しずつでも変われるんだね」
カナトは頷いた。
「そうだな。エフィナが繋いでくれた架け橋だ。“生きる”って、そういうことなんだと思う」
新たな秩序の夜明け。
勇者の血に縛られた者たちもまた、ようやく“人”としての明日を歩き始めた。




