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第60話:終結

エフィナを取り戻す事に成功したカナトの周りに仲間が続々とやってきた。


「カナトオォォオ!!」


ユナが駆け寄りカナトに飛び込んだ。


カナトは受け止め切れず尻餅をついた。


「イタタタ……。ユナ、無事だったか。良かった」


カナトは安堵の息をついた。


「それはこっちのセリフよ。カナトに何かあったら私……」


ユナはカナトの胸で涙をこぼした。


「うっ、うん!!」


その様子をエフィナは睨みながら見ていた。


「エフィ!!」


ユナはそんなエフィナの様子にも気づかず、エフィナにも飛びついた。


「良かった、本当に良かったよ〜〜〜」


ユナのその様子にエフィナも怒る気が失せ、苦笑いしながらユナの頭を撫でた。


「私は途中から蚊帳の外でしたね。面目ない」


ラディウスが埃まみれで合流した。


「ラディウスさん!!そう言われれば途中からいませんでしたね」


「はははは……」


ラディウスは苦笑いして頬をかく。


エルネストがゆっくりと剣を地に突き、空を仰ぐ。


その横顔には安堵と、かすかな悲しみが滲んでいた。


「……終わったな。けれど、本当の戦いは、これからだ」


エルネストの言葉に、横によってきていたエフィナは俯いて小さく頷いた。


「人と魔族が、無闇に憎み合わないように……。わたし、もう逃げない。わたしが“共に生きる”証になる」


その言葉は小さく、けれど誰よりも強い響きを持っていた。


ジュードが腕を組み、静かにうなずく。


ユナが目を潤ませながら、「バカね……」と呟き、笑う。


ミリアとガルドもそれぞれの武器を背に収めた。


エルネストが一歩、カナトに近づいた。


その瞳には確かな光が宿っている。


「君はこれからどうする? 世界は変わり始めたが、まだ混乱が続くだろう。君が望めば、

“次代の勇者”としてその中心に立つこともできる」


カナトは即答した。


「俺は……エフィナだけの勇者でいれればそれでいいです。世界の英雄とか勇者には興味ありませんし、

目立つの苦手なんで。ただ村で穏やかに過ごせればそれで……」


その言葉は、戦場の静けさに溶け込むように響いた。


エフィナが少し目を丸くして、それから微笑む。


涙と笑顔が混じったその顔を見て、エルネストは小さく笑った。


「それでいい。勇者という名は、時に呪いになるかもしれない。だが、君のように誰かのための勇者が、

この世界に増えるなら私はいいと思う」


カナトは頷き、付け加えた。


「それと聖ヴェリシア王国の処遇は……俺達からは何も求めません。これだけ暴れ回ってスッキリしましたし。

ただ、俺達の暮らしを邪魔しないと約束してくれるなら、それでいいです」


その言葉にエルネストは深く息を吐き、剣の柄に手を置いた。


「君がそれでいいなら、そう伝えよう」


「事後処理はラディウスさんに任せてもいいですか?これ以上は俺の手に負えそうにないので」


「ああ、構わないよ。子供は帰ってゆっくりお休み」


やがて、瓦礫の間から小鳥の声が響いた。


夜明けの光が雲の隙間から差し込み、崩れた聖都に新しい朝が訪れる。


エフィナがそっとカナトの手を握る。


「ねぇ、帰ろう。みんな待ってる」


「ああ……帰ろう」


二人の足取りはゆっくりと、しかし確かに未来へと向かっていた。


彼らの背後で、エルネストは静かに目を閉じた。


その表情は安らかで、どこか誇らしげだった。


そして、世界は新たな秩序を模索しながら、再び歩き出そうとしていた。


まずはラディウスが率いる兵達が聖ヴェリシア王国の王を探すため城に乗り込んだ。


聖ヴェリシア王国側の兵達は特に抵抗する事なく、あっさり迎え入れられ玉座の間に案内された。


玉座の間で待っていたのはエルゼヴァン・ヴェリシア王とその側近達だった。


「蒼陽連邦の者達よ、よく来た。まずは我らが諸君らに敵対するつもりはない事をお見せしよう」


王がそう言うと兵や側近達が、持っていた武器を全て出し遠くに放り投げた。


ラディウスは膝をつき頭を下げた。


「陛下のご意志、感謝いたします」


「我が息子達が負けた時点でこちらに勝機はない。被害がこれ以上広がってもどちらにも利益はないであろう?」


「そうですね。我々は魔族の娘であるエフィナを返していただけるのであれば、それ以上は望みません」


「そちらが勝ったのだ、あの娘の事は好きにするといい。これからこの国はどうなる?」


「先ほども申し上げた通り、エフィナさえ返していただければ特に望みはございません。

この国を属国にしようとかは思っていませんので。これまで通りで……いや、もう少し近隣諸国と密接な関係を

結んでいただきたいと。有事の際あなた方の軍事力は大きな戦力になるし牽制に使える」


「承知した。条約の締結などは……」


「わかっております。町の復興と民の心のケアが最優先です。こちらも微力ながらお手伝いをさせていただきます」


王は頭こそ下げなかったが、目に感謝の念が宿っていた。


「かたじけない」


「それとエフィナには二度と手を出さないでください」


「好きにしろと言った時点でそれも織り込み済みだ。それでも口にしたほうが良いか……」


「はい。条約の時にそこも詰めますが、陛下自らのお言葉もいただければと」


「承知した。聖ヴェリシア王国は魔族の娘エフィナには今後手出しはしない事を我が国の誇りにかけて誓おう」


「あろがとうございます。細かい話はまた後日。今日はこの辺で失礼させていただきます。

貴重なお時間をいただきありがとうございました」


ラディウスは再び深々と頭を下げた後、立ち上がり玉座の間を後にした。


ラディウス達が退室した後、側近達がザワザワし始めた。


「あんな逆賊の言いなりになって良いのですか陛下!!」


「戦力を整え報復すべきです」


「このままでは聖ヴェリシア王国の威厳が……」


「黙れ!!」


王の怒号が玉座の間に響き渡り側近達は静かになった。


「我らは負けた。報復などそれこそこの国の威厳が損なわれる。この国が現状維持できるだけありがたく思え!!」


「ですが……」


「我らは勇者の血族なのだと驕りすぎた。反乱が起きた時点で我らは勇者では無くなっていたのだ。

勇者の名を借りて好き放題してる貴様達もな」


側近達はバツが悪そうに俯いた。


「だが、そなたらの怒りも分かる。我とて悔しいわけではないし、報復したい気持ちがないわけではない」


側近達は顔を上げ王を見る。


「だがこの戦いに関しての報復は聖ヴェリシア王国とそれ以外の国々との確執しか生まぬ。

今回の事で分かったはずだ。いくら我が国が群を抜いて強かろうが勇者の力を持っていようが同じ目的で同盟を

組まれたら勝てない事を……」


王は側近一人一人を見る。


「報復すれば今度こそ戦争だ。今回以上の犠牲が出て、民達の心は今以上に離れるであろう。

そうなれば例え勝利しても国は無くなる。勇者は二度と現れない。

そうなれば魔族どもにこの世界は蹂躙し尽くされる」


一呼吸置いて王は話し続ける。


「もう誰が下とか上とかと言うのは終わりにしよう。こうしてる間にも悪意を持った魔族が

虎視眈々と世界を狙ってるかもしれない……」


その話を扉の向こう側で盗み聞いていたラディウスは満足顔で今度こそその場を立ち去っていった。


世界が真に変わり始めようとしていた。

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