第58話:封印
エフィナの解放に成功したカナトだが、ディオバルドには手も足も出なかった。
そこに魔王を討伐した勇者エルネストが助太刀に入るのであった。
エルネストとディオバルドの攻防はディオバルドが優勢で、エルネストは防ぐので手一杯の様子だった。
「どうした勇者!!魔王を倒した力はその程度か!?」
「調子に乗るのは若者の特権だが、乗りすぎは足元を掬われるぞ」
エルネストは体勢を低くしディオバルドの足をはらい尻餅をつけさせた。
「ちっ!!」
ディオバルドはすぐに体勢を立て直し反撃をする。
エルネストは紙一重で攻撃をかわし後ろに下がる。
「ははははは!!少しやる気を出せば、このざま。この程度の奴に父上は何を怯えていたのか。
やはりヴェリシアの血筋こそ勇者の名を語るべきなのだ。お前はイレギュラー。
イレギュラーは排除しなければならない」
ディオバルドは剣に風を纏いエルネストに向かって突風を解き放つ。
剣で突風を受け止めるエルネストだが、ディオバルドは背後に回り込みさらに突風を放ち、エルネストを挟み撃ちにした。
「ぐわああああ!!」
突風をくらったエルネストは血が頬を伝い、息は荒く、膝が震えている。
それでも剣を握る手だけは離さなかった。
「イレギュラーが……まだ立つかッ!!」
「……ああ……お前達みたいな“勇者もどき”を、見逃すわけにはいかないからな……!」
その言葉に、ディオバルドの眉が歪む。
一瞬の隙を突かれ、前勇者の剣が彼の頬をかすめた。
「勇者もどきだと!?その言葉万死に値する!!」
ディオバルドは憤怒の表情を浮かべ、エルネストの体を切り刻んでいく。
「エルネストさん!!」
カナトが助太刀に入ろうとする。
『よせ。カナトが行っても戦力にならん!!』
印の中の勇者がカナトを止める。
「あれ?その声、石碑の……」
エフィナがカナトの印を目を見開いて見る。
『今、気付いたのか……。まあバタバタしてたからな。それより、間に割って入るな!!
彼に余計な思考を増やさせるんじゃない』
「でも、このままじゃ……」
カナトはエルネストを見る。
ディオバルドの攻撃はさらにスピードが増し、いよいよエルネストの手に負えなくなってきていた。
「このままやられていくのを見てろっていうんですか!!」
『”今”は無理だ!!それよりカナトにはやってもらうことがある』
印の中の勇者はカナトに何かを伝えた。
「それで勝てるんですね?」
『今よりかは勝率は上がる』
「分かりました、やりましょう!!」
カナトはエフィナの方に振り返った。
「へ?」
一方、ガルド、ミリア、ヴァーリンは処刑台に向かって城の庭を走っていた。
「急げ!!勇者が向かったとはいえ、勇者ばかりに負担を押し付けてたら立つ瀬がねえ。俺達も助太刀するぞ」
ガルドの言葉にミリアとヴァーリンは強く頷いた。
「逆賊どもが、行かさんぞ」
光の斬撃がガルド達の行手を阻む。
「アドリアン・ヴェリシア!!」
ガルドが剣を構える。
「偽勇者がいなければ、お前達如き敵ではない!!」
「本物の勇者を目の前にして撤退した奴がよく言うぜ」
ヴァーリンがアドリアンに斬りかかる。
「あの傷からよく生還できたな。そこの僧侶の女の仕業か」
アドリアンは軽々とヴァーリンの剣戟を受け止め跳ね返す。
「悪いが、早々に終わらせてもらうぞ。時間がないのでな」
「時間がないですって……」
「ああ、撤退した理由は愚弟の処刑を邪魔しようと思ってな……。でも処刑は失敗に終わったみたいだから、
ここに戻り、まずは雑魚どもを片付けることにした」
「何故、処刑の邪魔を……」
「決まってるだろ!!私があの魔族の娘の首をこの手で斬り、次期国王になるため!!
一応、愚弟が連れてきたので処刑直前までは花を持たせてやったが、魔王の器と言われてるあの娘の首を斬るのは、
私こそ相応しい!!」
ガルドの体がワナワナと震える。
「腐ってやがる!!これが本当に勇者の末裔なのか……」
「何とでも言うがいい!!最後に生き残った者が正義だ!!」
アドリアンの剣が光り輝き、ガルド達を今襲おうと鳴り響く。
ユナ陣営はレオンハルト・ヴェリシアと一進一退の攻防を続けている。
「ディオバルドめ、失敗したか……。これはいい。今魔族の娘の首を落とせば、俺が国王になれる」
レオンハルトは不気味な笑みを浮かべる。
「何を言ってるの……」
ユナはレオンハルトの考えが理解できなかった。
「愚民どもに理解してもらおうなんて思っちゃいないさ。俺が王になった暁には今まで以上に我が国に逆らえないように調教してやるよ!!お前達の首を見せ物にしてな!!」
レオンハルトは炎の剣を振り回す。
ユナは炎の剣を掻い潜りレオンハルトに攻撃する。
「さっきより動きが良くなってるな!!」
ユナの拳がレオンハルトの鎧に命中する。
衝撃は鎧を通してレオンハルトの体に響き、一瞬よろける。
「鎧を着ているのにこの威力、生身で食らってたら膝はついてたな」
まだ余裕の表情を崩さないレオンハルトにジュード、フォルス、レインが後ろ、左右から攻撃をする。
「うちの娘に見惚れてんじゃねえぞ!!」
ジュードは後ろから剣を振り落とす。
「俺達の事も見ろや!!」
右からフォルスが槍を突き出す。
「油断大敵ですよ」
レインが水弾を放つ。
「油断大敵?お前達には油断しているくらいがちょうどいい」
レオンハルトは炎を大きくし熱風で全員を吹き飛ばした。
「アドリアンの奴も同じ考えだろうから、急がねばな」
レオンハルトは倒れてるユナ達にトドメを刺そうと炎の剣を振り上げた。
その時、聖ヴェリシア王国上空に光の円が出現した。
ヴェリシア家の三人は一斉に上空を見た。
「エフィナ、お前が俺に預けてくれたこの印の力を返す。それで勇者の力を封印してくれ」
「そんな事できるの!?」
『私はこの印の中にいてこの力について探っていた。魔王の理性の部分は、解放する力と封印する力を与えていたのではないか?』
「そういえば、そんな事言ってたような……」
『お前に刻まれた“印”は、封印を開くための鍵……。そして、閉じるための楔でもある』
と初めてこの力を手に入れた時のことを思い出す。
『なら特殊な力を閉じさせる力も宿っているはずだ。それであの馬鹿どもの力を封印しろ』
「分かった!!やってみる!!」
カナトはエフィナの手を掴み印の力をエフィナに返し、完全な状態にした。
完全状態に戻ったエフィナは両手を天に掲げ祈った。
(どうか、この戦いを終わらせて!!わたし達を日常に返して)
印が脈打ち、金色の光が広がる。
印の光が弾け、風が聖都全体を包み込む。
空気が震え、ディオバルド、アドリアン、レオンハルトの身体が同時に痙攣する。
「な……何だ、この反応は!?」
金の紋章が肌の上に浮かび上がり、
それを包むように黒と蒼の紋が絡みついた。
「力が……抜けていく……?」
「まさか封印だと!?」
ディオバルドが叫ぶ。
その瞬間、エフィナの瞳が光を帯びた。
印の光が彼女の胸の位置へと吸い込まれていく。
力は、あるべきところへ。
風が止まり、光が消えた。
ディオバルドが剣を構え直すが、その刃に宿る風は弱まっていた。
「貴様……何をした……!」
カナトがエルネストの横に並び深く息を吐きながら短剣を構える。
「……俺達を、同じ土俵に立たせただけだ」




