表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/60

第57話:奮起

聖都中心・処刑広場


白光が閃き、剣と短剣が激突する。


金属がぶつかる音と火花が散る。


「っ……くそっ……!」


カナトは歯を食いしばりながら、ディオバルドの剣圧を受け止める。


一撃ごとに腕が軋み、後退させられてしまう。


力の差は明白だった。


(勝てない……それでも、退けない……!)


ディオバルドの背後には鎖に縛られたエフィナ。


その小さな身体が、恐怖に震えている。


それでもエフィナの瞳は、確かにカナトを見ていた。


「……お願い……」


その声が、涙と共にこぼれ落ちた瞬間。


カナトとエフィナの手首の印が熱を帯びた。


眩い光が迸り、カナト、エフィナ両名の身体を包み込む。


『今だエフィナ、お主の願いを世界中に響き渡らせろ!!』


印の中にいた初代勇者の声がエフィナの頭に響く。


次の瞬間、世界に響いた。


『たすけて――!』


それは、確かに“エフィナの声”だった。


けれど、ただの叫びではない。


胸の奥に直接響くような、心を震わせる“祈り”だった。


広場だけでなく、聖都の通り、城壁の外、そして、遠く離れた戦場にまで届く。


「……っ、今の声……?」


ユナが手を止める。


刹那、心の奥に暖かな何かが流れ込んだ。


『みんなと……あの村に、帰りたい!!』


「エフィナ……!」


その名を呼ぶと、ユナの瞳に覚悟が宿った。


背後で槍を構えていたフォルスが叫ぶ。


「聞こえたぜ!これがエフィナか。こんなに必死に声を上げてるんだ!!救ってやらねえとな!!」


「そうですね。声からでも伝わる、優しさ。このような少女を死なせるわけにはいかない」


フォルス、レインの二人の武器が光を帯びる。


疲労で重くなっていた身体が、嘘のように軽い。


「こっからが本番だッ!!!」


ジュードが雄叫びと共に突撃し、倒れていた同盟軍も奮起し立ち上がり始めた。


取り押さえようと向かってきていた騎士達が、その勢いに飲まれ始めた。


ー聖櫃の塔ー


「間に合ったか!!カナト」


ガルドの手が震える。


その震えは恐怖ではなく、確信だった。


「カナトさん、良かった」


ミリアは祈るように喜んだ。


「足止めも少しは役に立ったな……」


ヴァーリンはエフィナの声に反応しゆっくり目を開けた。


「やっと目を覚ましたか!!」


ガルドがヴァーリンに肩を貸した。


「ミリアのおかげだ。すごい治癒魔法だな」


「これもエフィナさんのおかげです。エフィナさんがいなければ、ガルドは今ここにいませんし、

あなたも死んでいました」


「そうか。じゃあ命の恩人にちゃんと返さねえとな!!」


ヴァーリンは体を震わせながら一人で立つ。


「おい、まだ無茶はするな!!」


ガルドが支えようとするが、手で弾いた。


「今、無茶しないでいつ無茶をするってんだ!!それに今俺は最高に気分がいい!!」


ヴァーリンは騎士団達を次々薙ぎ倒していく。


「オラオラ。どきやがれ!!お前ら雑魚じゃ相手にならん!!アドリアン・ヴェリシアをもう一度連れてきやがれ」


ヴァーリンの快進撃にガルドとミリアは若干引いていた。


「回復のついでに、身体強化でもかけたのか?」


「そんな事した覚えはないけど……」


ガルドとミリアは苦笑いしながら、後に続いた。


印の共鳴


それが天に一筋の道を描くように、聖都中心へと伸びている。


ー処刑台ー


ディオバルドの剣が空を切る。


カナトは吹き飛ばされながらも、再び立ち上がる。


「なぜ立つ。なぜ折れぬ。力の差は歴然だろ」


ディオバルドの声は冷たいが、微かに焦りが混じっていた。


「……聞こえなかったのか?」


カナトの目が光を宿す。


眼前で、鎖に縛られた少女が涙を拭い、うなずいた。


「みんなの声が届いたんだ。」


短剣を握る手に、確かな温もりが宿る。


「俺達はもう、誰かの正義に怯えない!」


カナトが跳び、ディオバルドの剣と激突。


群衆は息を呑む。


どちらを応援すればいいのか分からない群衆はただ見守ることしか出来ずにいた。


カナトとディオバルドの攻防は激しさを増すが、増せば増すほどカナトが追い詰められていく。


息が上がるカナトに対しディオバルドは汗一つ流さず涼しい顔でカナトをじわじわなぶる。


「どうした?息巻いてた割には、全然攻撃が届かんぞ」


ディオバルドは剣を短剣に叩き続ける。


「くっ……!!」


カナトは両手で短剣を支え、何とか持ち堪える。


「カナト……」


心配そうに見つめるエフィナ。


ただ見ることしか出来ない自分にもどかしさを感じていた。


「……終わりだ」


ディオバルドは剣に風を纏いカナトに向かって振り落とした。


カナトはダメだと思い目を閉じた。


ガギィィィンッッ!!


カナトにディオバルドの風の刃は届かなかった。


目を開けるとそこには男が立っていた。


カナトは誰だ?と思い見ていると男はフッとだけ笑いディオバルドに向き直した。


ディオバルドの目がわずかに見開かれる。


「……貴様は……!?」


ディオバルドは男を見て歯軋りをした。


「久しぶりだな。お坊ちゃん」


「エルネスト・アステル!!」


エルネスト・アステル。その名を聞いたカナトは二十年前魔王を倒した勇者だと、すぐに分かった。


「……なぜここに……!」


ディオバルドが叫ぶ。


エルネストは口元に微笑を浮かべながら、剣を構える。


「一人の少女が、自分を救ってほしいと泣いた。そして、一人の少年がその涙に応えようと立った。

……それだけで、動く理由には充分だろ?」


ディオバルドの眉間に怒気が走る。


「愚かな……貴様は、勇者の名を穢すつもりか!」


「違うな。お前たちが“勇者”という言葉を穢してるんだ」


ズドンッ――!!


衝撃音が広場を貫いた。


二人の剣がぶつかり合う。


エルネストとディオバルドが戦ってる隙にカナトはエフィナの元に駆け寄り、エフィナの近くにいる兵を倒した。


「カナト!!」


「待ってろ!!」


カナトはシーフのロックに教えてもらっていた鍵開けの技をし、錠を外した。


解放されたエフィナはカナトの胸に飛び込んだ。


「バカバカバカバカ……!!」


エフィナはカナトの胸を小さな拳で叩きまくる。


「痛い痛い痛い!!」


カナトは微笑みながらエフィナを受け入れる。


「ありがとう……」


エフィナは俯き、涙を浮かべながら呟いた。


「あぁ……」


ガァンッッ!!!


カナトとエフィナが見上げた先で、二人の剣士が互角の速さで打ち合っていた。


……いや、“わずかに”ディオバルドが上だ。


一撃ごとに空気が軋む。


前勇者エルネストの動きは精密で無駄がない。だが……。


長年動かしてなかった身体は限界を超えていた。


「……くっ、速い……!」


「その程度か、“勇者”……!」


ディオバルドが踏み込み、風の刃を振り抜く。


エルネストの剣がそれを受けるが、衝撃で血が滲む。


エルネストの膝がわずかに沈んだ。


それでも彼は退かない。


「若いな……だが、心が伴っていない。」


「黙れ!血が正義を継ぐ、それが我らだ!」


ガァァァンッ!!!


激突と共に、火花が爆ぜる。


群衆が息を呑む中……。


エルネストが斬り下ろされ、背後に転がる。


「エルネストさん!!!」


カナトが叫ぶ。


だが、男は倒れながらも微笑を浮かべていた。


「……大丈夫さ。こんなに動いたのは魔王以来久々だから、少し感覚を取り戻すのに手間取ってるだけさ」


そう言ってエルネストは立ち上がり、崩れ落ちそうな身体で再び剣を構える。


その姿に、カナトの心が震えた。


(これが本物の……勇者……!)


ディオバルドが舌打ちをする。


「死に損ないが……邪魔をするな!」


二人の剣が再び火花を散らす。


だが、明らかにディオバルドが押していた。


聖印の輝きが増し、エルネストの身体を押し返していく。


それでも彼は退かない。


「血ではなく……想いが……勇者を作るんだッ!!!」


広場に轟音が響き渡る。


カナトはその背を見つめながら、震える拳を握りしめた。


(俺も……立たなきゃ……)


エフィナの瞳が、涙の中で輝いていた。


「……お願い、負けないで……!」


その声が、再び印の光を揺らす。


希望の灯火が、まだ消えてはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ