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第56話:切なる叫び

処刑台に向かうエフィナの前にカナトが現れた。


カナトの姿を見たエフィナは目を大きく見開き、涙が出そうになった。


「久しぶりだな。聞くのも野暮だが、何をしに来た?」


ディオバルドがエフィナとカナトの間に立った。


「俺みたいな村人の事を覚えてたなんて光栄だな」


カナトは皮肉を込めて言った。


「何をしに来ただって?そんなのエフィナを取り戻しに来たに決まってるだろ!!」


「そうか……。で、どう取り返すつもりだ?」


「黙ってこっちに渡してくれる気は?」


「愚問だな……」


ディオバルドは剣を抜いた。


「おい、そこの魔族の小娘を処刑台に上げろ!!俺はこの馬鹿を粛清する」


ディオバルドは兵士にエフィナを渡した。


「はっ!!」


兵士はエフィナの鎖を引っ張って連れて行った。


「カナト!!」


エフィナはカナトの方を見ようとするが兵士の力には敵わなかった。


「待て!!」


カナトが兵士を追いかけようとするがディオバルドが立ちはだかる。


「おいおい。無視するなよ、悲しいじゃないか」


ディオバルドは笑みを浮かべながらカナトを見る。


「邪魔だ!!どけっ!!」


カナトは短剣を抜きディオバルドに斬りかかるが、簡単に受け止められる。


『カナト、無闇に突っ込むな。あいつとの実力差はわかってるはずだ』


印の中に封じ込めた初代勇者が話しかけてきた。


「分かってます!!でも、このままじゃエフィナが」


『だからといって無策で挑んでも返り討ちにあうだけだ』


「何をごちゃごちゃ言ってる!!」


ディオバルドは剣に風を纏い、竜巻をカナトに飛ばしてきた。


カナトは竜巻を横に避けようとするが腕を掠った。


掠っただけで、腕が傷だらけになった。


「この程度の攻撃も避けれず、よくここまで来たな」


ディオバルドがカナトを見下していると背後からラディウスが剣を振り落とした。


「もらった!!」


ディオバルドはラディウスの方に振り返り、竜巻で跳ね返した。


「姑息な手を使う貴様らの考えそうな事などお見通しだ!!」


ディオバルドは向かってくるカナトを剣を使わず蹴り飛ばした。


「がはっ!!」


倒れそうになるカナトの首を掴み、地面に叩きつけた。


「いいか、世間知らずの村人。思いだけではどうにもならない事なんて、いくらでもある。

自分の思いを成し遂げるには、他者を寄せ付けない程の圧倒的な力が必要なのだ!!」


カナトはディオバルドの束縛から逃れようとするがピクリとも動けなかった。


「はっ!!俺の片腕すら動かせない奴が来るところじゃないんだよ、ここは!!」


ディオバルドの体が光り輝き、カナトを持ち上げ更に強く地面がえぐれるほどの威力でカナトを叩きつけた。


カナトは気を失った。


「そこで、魔族の小娘の首が刎ねられる所を見ておくがいい」


ディオバルドは剣を収め、その場を後にした。


処刑台のある中央広場には城下町の人々が早朝にも関わらず集められていた。


先ほどから戦闘音がそこかしこから聞こえるが、町の人々は何が起こってるのかも説明されず、

ただそこに無理矢理集められていた。


中央広場を見渡せる城のバルコニーからは国王エルゼヴァン・ヴェリシアが事の顛末を見ていた。


エフィナが処刑台の中央まで来た時、民衆がざわついた。


今のエフィナの見た目はただの少女にしか見えないからだ。


そこにディオバルドが現れた。


「静粛に」


その一言だけで、広場が沈黙した。


彼の声はよく通り、そして恐ろしく冷たい。


「この娘、エフィナは王国法により、“魔族の血を宿す者”として、また“人心を惑わせ、

国家転覆を企てた罪人”として、ここに断罪される」


どよめきが起こる。


民衆の中には、懐疑的な目もある。


だが、多くは沈黙。恐怖と信仰に縛られた者たちの無力な視線だった。


ディオバルドは続ける。


「この者は見目こそ人に似せ、言葉を話す。だが――内に宿すは魔の因子。いずれ再び、災厄を呼び、血を流す。

 ゆえに、聖なる刃によって、その穢れを浄化する」


ディオバルドは腰の剣を抜く。


ディオバルドの刃が、白光を放つ。


エフィナは唇を噛み、顔を上げた。


「……私は……何もしてない……。ただ……生きたかっただけなのに……。」


ディオバルドは目を細めた。


「魔族が“生きたい”と願うこと自体が、罪だ。お前が息をするだけで、人は脅かされる。その証拠に!!」


処刑台の周りの魔封じの結界が発動し、エフィナは肌が褐色で耳が尖り、牙が生えてる魔族の姿に戻った。


民衆からはエフィナの姿を見て恐怖のどよめきが起こった。


エフィナの瞳に、涙が溜まる。


「それでも……っ……!」


「もういい」


ディオバルドが静かに言い放つ。


「祈れ。最後くらい、赦しを乞う時間は与えてやる」


剣が持ち上げられた瞬間……。


「やめろォッ!!!」


カナトがボロボロの姿で壇上に上がってきた。



「……お前か。」


ディオバルドの眉がわずかに動く。


「もう目を覚ましたか……」


カナトの声は震えていた。怒りと焦燥と、恐怖が入り混じる。


「エフィナを返せ」


「これは国家の裁きだ。貴様に口を挟む権利はない。」


「裁き?違うだろ、それはただの殺しだ」


ディオバルドが剣を構える。


「ならば、力で語れ。貴様が守るというなら、その命で証明してみせろ。」


カナトが一歩踏み出そうとした時……。


エフィナから、震える声が届いた。


「……どうして、来たの……」


鎖に縛られながら、涙をこぼしていた。


「来ないでほしかった……!カナトが敵う相手じゃない……!」


「……っ。」


カナトの足が止まる。


その顔を見上げたエフィナの瞳は、恐怖と喜びが混ざった複雑な光を放っていた。


「わたし……嬉しいの。ほんとは、すごく嬉しいの。でも……でも、わたしのせいで誰かが傷つくのはもう見たくない……!」


その言葉に、カナトは拳を握りしめた。


「お前の本心はどっちなんだよ……」


声が震える。


「助けてほしいって言ったり、来てほしくなかったとか、言ってることが矛盾してるだろ……

お前の本心はどっちなんだ!」


広場の空気が凍りつく。


群衆さえ息を飲む中、エフィナは鎖を握りしめ……。


「……わたし……魔族だから……」


「だから何だよ!」


「だから、迷惑をかけるかもしれないから……っ!」


「ぐだぐだ言ってないで、お前の本心を話せって言ってるだろうが!!」


カナトは怒号に近い声を出した。


「わたしはそれでも……!みんなと……あの村に帰りたい!」


涙が頬を伝い、処刑衣を濡らす。


「一緒に……帰りたい……もう一度、みんなと笑いたい……!」


その声が、広場中に響き渡った。


誰もが沈黙する中で、カナトは真剣な表情でエフィナを見た。


「……そっか」


口元がわずかに笑みを形作る。


「なら、俺も、もう迷わねぇ」


カナトは再び短剣を抜く。


その刃先が、ディオバルドの剣と正面から向き合う。


「エフィナを殺そうとするなら……」


「たとえ勇者だろうが魔王だろうが、俺がぶっ壊す」


風が止まり、空気が張りつめた。


ディオバルドの眼光が鋭く光る。


「ならば、魔族の娘もろともお前をこの場で断罪してやる!!」


カナト、ディオバルドが処刑台の壇上で睨み合い互いの目的のために対峙する。

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