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第54話:勇者の力

崩れた瓦礫の中、光が揺らめいていた。


そこに立つ二つの影。


一人は、蒼い光を纏う銀髪の男。


かつて「勇者」と呼ばれた者。


もう一人は、ヴェリシア家長兄アドリアン・ヴェリシア。


焦げた床石を踏みしめながら、アドリアンが静かに剣を構える。


その目には警戒と、確かな敵意が宿っていた。


「……貴様、”エルネスト・アステル”!!何故……」


「やり忘れた事を思い出して」


エルネストはゆっくりと剣を抜いた。


刃は古びている。だが、そこに宿る“気”は圧倒的だった。


空気が震える。


アドリアンは僅かに息を詰めた。


「二十年前に幽閉し、それを受け入れた奴が、何故今動く」


「俺はただ、退屈だった牢生活に花を添えてくれた一人の少女を助けたいだけだ」


一瞬、二人の視線が交錯する。


そして次の瞬間、金属の閃光が交差した。


衝突音とともに、衝撃波が塔の入り口広場を襲う。


「ぬぅっ……!」


「……やはり強いな。だが、私も引くわけにはいかない」


アドリアンが押し返す。


エルネストは一歩後ろに下がり、体勢を立て直した。


「……無駄な戦いは好まん」


「だが、お前たちは――王に刃を向けた。それは赦されぬ」


剣を振り上げるアドリアン。


光が剣身を包み、辺りをを白く染めた。


「……来るか」


エルネストは腰を低く構えた。


その姿勢には、覚悟が滲んでいた。


「聖波斬!!」


アドリアンの剣が神々しい光を放ち、複数の斬撃波が前勇者に襲いかかる。


「ぐっ!!」


エルネストは剣で防ぐが体のあちこちが斬り刻まれ、膝をついた。


「ふはははははは!!どうだこれが”真の勇者の力”だ!!」


エルネストはアドリアンを見る。


「これが、かつて世界を脅威から守っていた勇者の力か……。残念だ」


「!!!」


アドリアンが反応するよりも早くエルネストがアドリアンの肩を剣で斬った。


アドリアンは肩の傷を押さえ、少し後ろによろめいた。


「早い……」


「早い?魔王はこの程度の動き即座に対応したぞ?」


「調子に乗るな!!」


アドリアンはエルネストに向かって剣を振るう。


「遅い」


エルネストはアドリアンの剣を受け流し、後ろに回り込み剣を振り落とす。


アドリアンはすぐさま振り返り剣を防いだ。


「はあ……はあ……はあ……」


「まだやるか?」


エルネストの問いにアドリアンは不敵に笑った。


「いや、やめておこう。これ以上続ければこちらにも多大な損害が出る。ここは一旦引かせてもらうぞ」


アドリアンは兵士を残し、この場を立ち去った。


ガルドが追いかけようとするがエルネストが制止した。


「今はあそこに倒れている君の仲間を助けろ。それまで私が彼らの相手をしていよう」


ガルドは首を縦に振り、ヴァーリンの元に駆けつけた。


ーカナトsideー


血の匂いと、金属音。


カナトとラディウスの小隊は、十字路の中央で完全に包囲されていた。


聖騎士達の盾が円を描くように取り囲み、槍の先が一斉に向けられている。


「……囲まれたな」


ラディウスが低く呟いた。


彼の手には既に血が滲む。数分前の交戦で、半数以上の兵を倒している。


「まだだ……抜けられる隙はある!」


カナトが前を睨む。だが、その視線の先、騎士団の中列から、豪奢な鎧に身を包んだ男が歩み出てきた。


「……聖ヴェリシア第七騎士団副団長、ドーマ・ヨルム。王命により、貴様らを拘束する。」


「副団長、厄介だな」


「黙れ、異端者。抵抗すれば斬る」


ラディウスが剣を構える。


「どうする、カナト君?」


「……ここは引きます。僕達は戦いに来たんじゃない。エフィナを助けるために来たんです」


「わかった」


その瞬間、ラディウスが地面を蹴り、左翼の騎士列に突っ込む。


土煙が上がり、悲鳴が響く。


カナトはその隙に、仲間達を背に退却を指示した。


「退きます!いったん距離を取って態勢を立て直しましょう!」


「だが、後方も塞がれて!」


「無理矢理突破します!」


剣戟の音が連続する。


その間にも、聖都全域に響く警鐘が鳴りやまない。


ーユナsideー。


石畳の庭で、ユナとジュードもまた包囲されていた。


「……ちっ!!こっちに来たか」


ジュードが剣を構える。


前方の広場に、十数名の白銀の騎士が整列する。


その先頭に立つのは、金髪に青いマントを翻す青年、レオンハルト・ヴェリシア。


「逆賊ども。このレオンハルト・ヴェリシアが直々に裁きを下してくれようぞ」


「ヴェリシア。勇者の血族」


ユナの手が震える。


「随分じゃないか。俺達はただ村の一員を連れ戻しに来ただけなんだが?」


「ふん。魔族が村の一員だと?なら、この戦いが終わった後、貴様らの村も裁かねばならんな。

魔族の肩を持つ属国もろともな」


その言葉を聞いたユナは飛び出し、レオンハルトに殴りかかる。


レオンハルトは手でユナの拳を受け止めた。


「ユナ!!」


「そんな事はさせない!!あなた達が好き勝手できるのも今日までよ」


「いいパンチだ。受け止めた手のひらが痺れている」


ユナは後ろに下がり、再びレオンハルトに突撃する。


ジュードもそれに続きレオンハルトに剣を振るう。


「哀れ……」


レオンハルトは剣を抜いた。


その剣は刀身に炎を纏っていた。


「聖火の力にてその穢れた罪を浄火してやろう!!」


炎剣を振るうレオンハルトにユナとジュードは後ろに避けた。


「ははははは!!どうした!?避けるだけでは俺には勝てぬぞ」


レオンハルトは他の仲間達も巻き込んでユナとジュードを追い詰めていく。


「ぐわああああ」「熱い!!」「消してくれ!!」


「お父さん!!」


仲間が次々に炎で斬られるのをただ避けながら見ることしかできないユナ。


「ここに来た連中はこうなる事を覚悟して来ている!!」


「でも……」


ユナが一か八か攻撃をしようとすると……。


「二人で無理なら三人だ!!」


グリント王国特使のフォルス・グリントが槍を突き出し、レオンハルトの攻撃を止めた。


レオンハルトは無言でフォルスを睨む。


レオンハルトの背後に水弾が撃たれる。


レオンハルトは振り向きもせず剣で受け止めた。


「三人じゃありません。四人です」


イザルム王国の特使、レイン・イシアが杖を構えていた。


「フォルスさん、イシアさん!!」


「待たせたな」


「遅くなって申し訳ありません」


「いいや、助かった。攻めあぐねていたところだ」


ジュードは剣を構え直す。


ユナ、ジュード、フォルス、レインでレオンハルトを包囲する。


「形勢逆転よ」


包囲されたレオンハルトは俯くが、その顔にはまだ余裕がうかがえるのであった。

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