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第51話:最後の交渉

カナトはあと一回と全員を説得し聖ヴェリシア王国に赴く事を決意する。


「時間はもうないこれが最後の交渉だ。これでダメなら実力行使にでる」


ラディウスさんと他の代表者達が俺を見る。


「分かりました。ダメだった時は俺も覚悟を決めます」


こうして翌日、俺は一人で聖ヴェリシア王国に旅立つ。少し離れて俺の動向を見守ってくれる人達も来てくれるみたいだ。


二日ほどで聖ヴェリシア王国に辿り着き、城門の前に立った。


生誕祭が近いからか行商人や王を一目見ようと近隣の村や町から人々が押し寄せていた。


そして俺の番になり門の兵士達に封書を渡す。


「何度も申し訳ありません。封書を持ってきました。受け取っていただき王族の方々に謁見の許可を与えてもらえないでしょうか?」


兵士達は露骨に嫌な態度を見せた。


「しつこいぞ!!何度来ても同じだと言っておろうが!!陛下達はお前達のような逆賊には会わん!!

封書を持ってさっさと帰れ!!」


一人の兵士が俺を押し倒した。


尻餅をついた俺を更に蹴り飛ばした。


「生誕祭が近くて、いつも以上に忙しいのにお前ら如きの相手に時間を割いてる暇はない」


俺はダメかと諦め、立ち上がった時……。


周囲がざわつき始めた。


「おい、あれって他国の封書だよな?」


「それを拒否するなんて、噂は本当だったんだな」


「いくら何でも、あれはダメだろ」


非難の目が兵士達に集まる。


「な、何だ貴様ら!!何も知らないくせに好き勝手言うな!!これは陛下のご意志だ!!

それに異を唱えるものは直ちにこの場を去れ!!」


兵士は怒号をあげる。


並んでた一人の男性が俺の服についた埃を払ってくれた。


「大丈夫かい?本当ひどい奴らだ。君、蒼陽連邦の遣いだよね?噂は聞いてるよ」


「悪い噂じゃなきゃいいんですが……」


「まあ、色々だ。しかしこうも連日訪れるってよっぽどの事なのかい?」


「僕にとっては命をかけるくらいとても大事な事です。蒼陽連邦や同盟の方々はそんな僕に力を貸してくれているんです。だからこそこの封書を受け取ってほしかったのですが……」


「まあ他国の書状を読まずに受け取らないのは、ある意味、宣戦布告してるみたいなものだからな」


「戦いは出来れば避けたいんです。平和的に解決したんです」


「だが、こうも君達の言い分も聞かず拒否されるって事は……っ!?もしかして君達の目的は捕らえたって噂になってる魔族の事か!!」


男性に当てられた俺は体がビクッとした。


その態度に男性は顔に手を当て首を横に振った。


「なるほど、それは拒否されるな。魔族を庇おうなんて聖ヴェリシア王国からしたら、逆賊以外の何者でもない」


俺はまたエフィナの事を非難されると思いその場から逃げ出そうとしたが、手首を男性に掴まれた。


「悪いことは言わねえ、手を引け。魔族のために人間同士ましてや国同士が争うなんて馬鹿げてる」


俺はいたたまれなくなった。


「……って普通の奴なら言うんだろうが、君はさっき言った。命をかけるくらい大事な事だと。

その魔族は君にとって命をかける価値があると?」


俺は強く頷いた。


「僕だけじゃありません。僕以外にもその子を必要としている人達が大勢います。

魔族だからってだけで処刑されるのはあまりにも理不尽です」


「全肯定は出来ないが、君の言う事も分かる。私も時々ふと思う事がある。

本当に今の世界の在り方は正しいのだろうかと」


「はい」


「勘違いはしないでほしいのだが、だからって今まで魔族がやってきた蛮行を許す事はできないし、

魔族に対して強い恨みを持っている」


強い恨み、何かと尋ねたかったが聞かない方がいいのだろうと俺は思った。


「だが、何の罪も犯していない魔族まで裁く必要はあるのだろうか?とは思う。

蛮行を未然に防ぐためと言われれば、確かにそうだし、実際無害を演じる小賢しい魔族もいたとは聞いた事はある」


俺は何も言えずただ俯いた。


「助けたい魔族はその類ではないんだろ?」


「はい!!それは間違いありません」


「証拠は?」


「ありません。でもあいつは……エフィナはそんな謀略を考えれるほど頭は良くありません!!」


男性は俺の言葉にポカンとしていた。


「く、くくく……あはははは。頭が良くないってきたか。そうかそうか。

よっぽどそのエフィナって魔族は間抜けな顔をしてるんだな」


俺は何かムッとした。


「見た目は子供っぽいですが二百歳です!!」


男性は更に笑う。


「あはははは、二百年生きてて、十数年しか生きていない君に言われるって、よっぽどの策士か本当に良い奴なんだろうな」


男性はひとしきり笑った後、俺を見た。


「協力は出来ないが、君がやろうとしている事は止めないよ。静観させてもらう。助けたいと思うなら助けてやりなさい」


そう言って立ち去ろうとする男性に俺は名前を尋ねた。


「私かい?私はマルベス領当主、ルーゼン・マルベスだ。田舎の領だから、一般人と同じ扱いを受ける、

しがない当主さ」


ルーゼンさんはそのまま後方に止めてあった馬車に乗り帰って行った。


俺はルーゼンさんを見送った後、後方で待機してくれていた護衛の人達に全て話、ラディウスさん達の元に戻った。


ー仮設テントー


「ルーゼン・マルベスか。あまり表舞台には現れないと聞いた事がある。そんな人物と会ったとは」


ラディウスさんは何かを考えていた。


「少し気になるが、ただエフィナを助けたいと言っただけなんだろ?」


「はい」


「静観するとも言った。なら一旦ルーゼン・マルベスの事については置いておこう。警戒はすべきだが、

そちらに人員を割くわけにもいかん。なんせ向こうは完全にこちらの意向を聞きもせず突っぱねたのだから」


空気が一瞬でピリッとなった。


「で、どうする?」


白獅子ギルド長ヴァーリンさんがラディウスさんに尋ねた。


「もちろん魔族の娘エフィナの奪還に向かいます!!奪還の主要メンバーは私、カナト君、ユナさん、ジュード殿、ガルド殿、ミリア殿、ヴァーリン殿、フォルス殿、レイン殿、後は白獅子メンバーを幾人か、他の方々は後方支援でお願いします。リュミナスの方々も各々、我々が勝利した時の準備をお願いいたします」


イェランドさん、ホラシウスさんは小さく頷いた。


「みなを集めよ!!我らはこれから聖ヴェリシア王国に出陣する」


ラディウスさんの部下の人が外に伝令を伝えるために走っていった。


全員が集まり、ラディウスさんが話を始めた。俺やユナ達はラディウスさんの横に並んだ。


「諸君!!聖ヴェリシア王国は我々との対話を拒んだ。これは断じて許される事ではない。こうなった以上、強行手段に出ざるを得ない!!こうなるのを見越して今日まで戦の準備をしてきた。そして私自身も封書の受け取りを拒否された時、聖ヴェリシア王国を滅ぼさんとする勢いだった。だが、カナト君は最後まで諦めず対話の道を模索した。それを見て私は少し冷静になれた。我々は戦争を望んでいるわけではない。最終目標はあくまで魔族の娘エフィナの奪還。相手を完膚なきまでに叩きのめせても、エフィナが無事ではなかったら意味がない。戦闘は避けられないだろうが、極力血が流れないようにしたい。士気が高まってる中、腰を折るような事を言って申し訳ない。しかし、ここにいるカナト君を筆頭に誰にも犠牲になってほしくないと思っている」


ラディウスさんは俺に前に出るように促した。


「今回は僕の力が及ばず、このような事態になり申し訳ありません」


俺は頭を下げた。ユナも一緒に頭を下げてくれた。


「皆さんもご存知の通り、エフィナは魔族です。僕は魔族について、冒険者の方々から話を聞いてた位で、エフィナに会うまでは魔族を直接見た事はありませんでした。この中にもまだ100%納得していないという方もいるでしょう。それを責めるつもりはありません。それだけ魔族との遺恨は深いって事だと理解しているつもりです。その魔族のためにこれから皆さんを危険な目にあわせる事になります。それでもどうか、僕達の力になってください。

僕達を助けてください。何の取り柄も力もない、ただの村人である僕を助けてください。そして魔族であるエフィナ……いやフィリア村の一員であるエフィナを助けるために、皆さんの命を僕達に預けてください!!」


俺が頭を下げると、あちこちから歓声が湧き上がった。


「任せとけ」「絶対に取り戻す」「聖ヴェリシアのやり方を許すな」


そんな声が聞こえてくる。


その光景を俺が目を見開き見ていると、ラディウスさんが背中に手を当ててきた。


「胸を張りなさい。君の純粋な願いをここにいる全員叶えてあげたいと思っている。君達の何でもない”日常”をまた過ごせるようにしてあげたいと思っている。ならもうやる事は一つだ。エフィナを絶対に取り戻す。それだけだ」


「はい」


こうして俺達は聖ヴェリシア王国に向けて出発するのであった。たとえどんな困難が待ち受けようと俺達は絶対にエフィナを助け、笑顔で帰る。

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