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第45話:円卓会議

数日後、村に派遣された調査団の方々に俺とユナ、親父さんが村の代表としてもう少し詳細に証言してほしいと言われ、中立都市リュミナスに赴いた。


ーリュミナス会議堂ー


俺達が到着するとガルドさんとミリアさんが扉の前で待っていた。


「この中でお偉いさん方がお待ちだ。何かあればフォローは俺達に任せとけ。カナトは自分の思いをぶつけろ」


ガルドさんが俺の肩に手を置いた。俺は少し安堵したが、ここで自分達とエフィナの命運がかかってると思うと、自然と背筋がピンとした。


そして俺達五人は会議堂の重厚な扉を開けた。


そこには代表者や付き人の方々が待っていた。


俺達は前に並び、深く頭を下げた。


「本日はお時間をいただき、誠にありがとうございます。私はフィリア村のカナトと申します。本日は村で起きた事実を冷静にお伝えし、協力をお願いしたく参りました。どうかよろしくお願いいたします。」


「まず私達は、嘘をつくつもりはありません。なのでまず真実を共有したいと思っています。事の発端は村で共に過ごした仲間の中に、“魔族”の娘がいました。彼女の名はエフィナ。けれど、彼女は誰よりも人を助け、人の痛みに涙を流した。魔王城の異変を解決したり大樹を蝕んでいた魔物を退治したのも、彼女の力があったからです。」


円卓にざわめきが走る。


教会代表ホラシウスさんが眉をひそめ、隣の商会代表イェランドさんが「正気か」と小声で漏らす。


それでも俺は続けた。


「……この場を設けてもらうまで隠していたことは事実です。それは申し訳ありません。でも、彼女が人を襲ったことは一度もない。村のみんなと同じように、朝に畑を手伝い、夜には酒場で笑っていた。俺達は彼女を、“仲間”として過ごしてきた。」


冒険者ギルド長のヴァーリンさんが低い声で言う。


「……だが、それでも魔族だ。魔族は人に仇なす存在。それを助ける意味があるのか?」


空気が冷たく沈黙する。


俺は唇を噛み、震える声で言った。


「私は魔王との戦いが終わった後に生まれたので村の人や冒険者の方々の話を聞いてそんな事があったのか程度の知識しかありません、魔族や魔王がしてきたことは許されないと思います。だけど……私達人間だって、同じことをしてるじゃありませんか。奪い、殺し、差別して、自分たちの“正義”を都合よく掲げて。何が違いますか?誰が“悪”で、誰が“正しい”って、誰が決めたんですか?」


円卓の向こうで、幾人かが言葉を失う。


しかし、ホラシウスさんが首を横に振った。


「カナト君と言ったね?君の話は理屈ではわかるが、それでは秩序が崩れる。人と魔の間に明確な境があるからこそ平和が保たれているのだ」


その言葉に、ガルドさんが重く立ち上がった。


「秩序、だと?俺は戦場で腐るほど見てきた。人間の中にも村を焼き、子どもを殺す奴らはいる。人と魔の間に明確な境があるからこそ平和が保たれているなんて、思考を放棄した、ただの言い訳だ」


ミリアさんが静かに口を開く。


「私は冒険者として長く生きてきました。依頼で魔族も見たし、人間も見た。どちらも、憎しみの鎖に縛られてるだけ。エフィナさんは、その鎖を断てる”最初で最後の希望”です。……人と魔、どちらでもなく、“生きよう”としてた」

親父さんが手を握りしめながら、かすれた声で言う。

「……あの子、ここにいる娘ユナと同じで、俺の娘だと思っていた。俺達人間と変わらず笑って、怒って、泣いて。なんで、それが”魔族”ってだけで“悪”なんだ……。あの子が”悪”なら、俺達も悪なんじゃないのか……?」


沈黙。


どこかで誰かがため息をつく。


議場の空気が重く、誰も次の言葉を出せない。


やがて、商会代表イェランドさんが椅子を鳴らして立ち上がった。


「話はわかった。しかし、我々が魔族を助けるわけにはいかん。聖ヴェリシアは最強の国だ。敵に回せば商業路も閉ざされる。助けたい気持ちは痛いほど伝わったし理解もするが、魔族の為となると向こう側に義がある。こちらを巻き込むのはご遠慮願いたい」


他の代表たちも頷き、会議は打ち切られようとしていた。


その瞬間、奥の席で椅子が静かに軋んだ。


ゆっくりと立ち上がったのは、漆黒の外套を羽織った青年。


銀の飾りが揺れ、その胸には異国の紋章「蒼陽連邦」の紋が刻まれている。


その人は涼しい声で言った。


「話は最後まで聞こう。私は蒼陽連邦の特使、ラディウス・ヴァレン。聖ヴェリシアのやり口は、我が国でも問題視している。『勇者の国』の名を掲げて好き勝手に踏み込むなど、もはや正義ではない。」


ざわめきが一気に広がる。


ホラシウスさんが驚きに眉を上げる。


ラディウスさんは、俺達に目を向け、穏やかに微笑んだ。


「私は、君たちの話を信じたい。少なくとも、真実を求めてここまで来た者を、“悪”と断じるほど我が国は盲目ではない。蒼陽連邦として、聖ヴェリシア王国の行動に疑義を申し立て、こちらでも新ためて調査団を立ち上げよう。君達は、その証人になってほしい。」


俺は肩が震えた。


ユナは涙をこぼし、親父さんは胸を押さえた。


ガルドさんは無言でラディウスを睨み、そして、ゆっくりと頭を下げた。


「……恩に着る。必ず真実を証明してみせる。」


ラディウスは静かに頷いた。


「ならば、私もその手伝いをしよう。この国の“正義”が本物かどうか、見極めるためにな」


円卓の上、沈黙していた他国の代表たちが次々とざわめき始める。


「聖ヴェリシアの横暴を見過ごしていいのか」「調査団に我が国の監察官ももう一度同行させよう」


やがて会議堂の空気が確実に変わり始めた。


誰か一人が勇気を示しただけで、正義の形が揺らぐ。


それを見つめながら、俺は拳を強く握り締めた。


エフィナを救うための、最初の希望の光が、確かに灯った瞬間だった。

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