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第33話:ピクニック

夜になると酒場は満席になり、冒険者や村人達が酒を酌み交わし、料理に舌鼓を打っていた。


「おい!今日の赤トカゲのシチュー、絶品だぞ!」


「山ウリの甘みがちょうどいい!」


客達は口々に称賛し、エフィナは満面の笑顔で「ありがとー!」と返す。


ユナは少し照れながらも給仕をこなし、主人公も皿を運んだり片付けを手伝ったり。


賑やかな時間は深夜まで続き、村の小さな酒場は笑い声と歌声に包まれていた。


数日後。


三人の休みが偶然重なり、ユナが昼食用の籠を抱え、エフィナは嬉しそうに大きな布を持って小高い丘へ向かっていた。


俺は荷物を担ぎながら二人に引っ張られるように歩く。


「やっと三人でゆっくりできるね!」


「ふふ、確かに久しぶり。酒場に戻ってきてからはずっと忙しかったから」


「俺は休みでも畑の手伝いだったけどな……」


と俺は苦笑いする。


丘の上に着くと、見晴らしの良い場所に布を広げ、籠を置く。


風は心地よく、空は澄み切って青い。


「わぁ~!見て、見て!村があんなに小さく見える!」


エフィナは両手を広げて駆け回り、草の上に寝転がる。


ユナはそんなエフィナを見て「まるで子供ね」と言いながらも、どこか楽しそう。


「さ、座って。今日は私が作ったんだから」


ユナは籠から料理を取り出す。香ばしい焼きパン、赤トカゲの肉を挟んだサンド、ハーブ入りのサラダ。


「うわぁ!美味しそう!」


とエフィナは目を輝かせ、俺も「本当にいい匂いだな」と素直に感嘆する。


「はい、カナト。これ、あなた用にちょっと大きめ」


ユナが渡すと、エフィナがすかさず「わたしが作ったデザートもあるんだよ!」と張り合うように包みを出す。


中には甘酸っぱい山ウリの蜜煮が詰められていた。


「おお、両方とも……ありがとう」


俺が笑って受け取ると、二人は同時に「どう? 美味しい?」「どっちが好き?」と食い気味に問い詰める。


「え、えーと……どっちも美味しい!」


俺が慌てて答えると、二人は同時に「むぅ……」と頬を膨らませ、思わず視線をぶつけ合った。


食事が一段落すると、三人は寝転がって空を眺める。


エフィナがぽつりと呟く。


「ねぇ……またこうして、みんなでのんびりできて……うれしいな」


ユナも静かに頷く。


「平和って、こういう時間のことを言うんだろうね」


俺は二人の横顔を見ながら、小さく笑う。


「……ああ。ずっと続いたらいいな、これからも」


柔らかな風が草原を撫で、三人の笑い声が青空の下に溶けていった。


食後、俺は大の字になって草の上に寝転んだ。


「ふぅ……食べすぎたな」


空は青く、風は心地よく、ついまぶたが重くなる。


そんな俺の顔を、両側からそっと覗き込む影。


右からはユナ、左からはエフィナ。二人が同時に顔を近づけてきていた。


「ねぇ、寝ちゃった?」


とエフィナが首をかしげる。


「まったく、油断しすぎよ」


とユナは呆れ顔。けれど声はどこか優しい。


俺はうっすら目を開けると、至近距離に二人の顔が。


「うわっ……!」と慌てて起き上がり、思わず赤くなる。


「な、なんだよ二人とも……」


「ふふ、ただ見てただけよ」


ユナはそっぽを向きながら言い、


「わたしは……近くにいたいだけ!」


とエフィナは胸を張る。


俺は返事に困って頭を掻いた。


「なら……こうする!」


エフィナは勢いよく俺の膝に頭をのせ、無邪気に寝転がる。


「へへっ、膝まくら~!」


「ちょ、エフィナ!ずるい!」


すぐさまユナも反対側に座り、俺の肩にそっと寄りかかる。


「べ、別に……疲れたから、ちょっと休むだけよ!」


「……俺はどうすれば……」


俺は困惑しながらも動けず、結果的に二人に挟まれる形になった。


村人がこの光景を見たらまたきっと冷やかすだろう、と頭の片隅で思う。だが今は、風と陽射しに包まれた穏やかな時間が流れていた。


やがてユナが小さく呟く。


「……こうしてると、本当に戦いのあった日々が遠いみたい」


エフィナは無邪気に笑いながらも、空を見上げてぽそっと言う。


「でも、また怖いことが来ても……わたし、もう逃げないよ」


俺は二人の手を取るように、そっと握る。


「俺も……絶対に守る。二人のことも、この平和も」


三人の影が草原に並び、青空の下に寄り添って伸びていった。


日が傾き始めたころ、三人は丘を後にし、のんびりと村へ戻っていた。


エフィナは俺の腕にぴったりとくっつき、ユナは少し離れた位置で「……別に気にしてないわよ」とそっぽを向いて歩いている。


「エフィナ、そんなにくっつくと歩きにくいって……」


「えへへ、いいでしょ? 今日くらいは!」


「……ったく」


俺は照れ隠しに、ため息をつく。


ユナは横目でちらっと見て、むっとしながらも口元にほんの少し笑みを浮かべていた。


村に戻ると、畑仕事を終えた農夫や家に戻る途中の人たちが三人の姿を見つけた。


「おやおや……仲良くピクニック帰りかい?」


「いやぁ、若いっていいねぇ」


「まったく羨ましいこった!どっちを選ぶんだい、カナト!」


大人達は口々に冗談を飛ばし、笑い声があがる。


エフィナは「えっへん!」と胸を張り、


ユナは「ち、違うから!」と顔を赤くして手を振る。


そして俺は……。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!なんで俺が責められるんだ!?」


と必死に否定するも、誰も聞いておらず、村全体が温かい笑いに包まれていた。


ユナの親父さんが店の戸口から腕を組んで彼らを眺める。


「……楽しそうでなによりだな。だが、何度でも言うがユナもエフィナも泣かせたら承知しないぞ」


「は、はいっ!」


俺は直立不動で返事し、またしても周囲から笑いが起きた。

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