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第3話:魔族の少女

昨日は大変だった。いつも以上に冒険者達が酒場にいて、俺が着く頃には親父さんもユナもてんてこ舞いだった。

俺はすぐに皿洗いをし、終わらせたらホールに出て空いた皿などの回収、配膳等、それが終わったらまた皿洗いと、目まぐるしく時間が過ぎていった。


「昨日は疲れたな……」


俺は昨日の事を思い出しながらも気持ちを切り替えベッドから起き上がった。今日は何もないので家の事をゆっくりしようと思いながら朝食を頬張った。


朝食が終わり、家の木の柵を修理していると俺の耳に、こつこつと小さな足音が近づいてくるのが聞こえた。顔を上げると、銀色の髪の少女が、庭先に立っていた。


「……何してるの?」


「見てわかんねえか。柵が壊れてるから直してんだよ」


「ふうん。……あのね」

 

少女は少し首を傾げてから、ためらいがちに言った。


「……家に、入りたい」

 

唐突な言葉に、俺は工具を持つ手を止める。村の子供や知り合いならともかく、彼女はまだ俺の中では“よそ者”だ。家に入れるのは、正直迷う。


「……別に、遊ぶものなんかねえぞ」


「うん、わかってる。でも……匂いがするから」


「匂い?」


「……あったかい匂い。だから、入りたい」


言葉の意味がよくわからず、俺は頭をかいた。だが、断る理由もなく、彼女を玄関へと招き入れる。


中に入った少女は、目を丸くした。

粗末な木の机、棚に並んだ陶器の皿、壁にかけられた父の古い剣。

どれもありふれた村の暮らしの道具だが、少女は一つ一つを確かめるように眺め、指先でそっと触れた。


「……ここにも、“いる”んだね」


そう呟く声に、俺は思わず眉をひそめる。


「何がだよ」


「机とか、椅子とか。……ここで暮らしてきた人たちの“声”。」


 少女は振り返り、にこっと笑った。


「だからね、ここは寂しくない。あったかい匂いがするんだよ」


その笑顔は幼く無邪気で、けれどどこか胸をざわつかせる。俺は言葉に詰まり、結局ただ一つだけ口にした。


「……勝手に壊すなよ」


「うん、わたし、大事にするから」

彼女はそう言って、ぎゅっと椅子の背を抱きしめた。その姿は、まるで久しぶりに“居場所”を見つけた子供のようだった。


「それはそうと、お前名前は?」


俺は少女の前の椅子に座り、名前を尋ねた。


「エフィナ」


エフィナと名乗った少女は無邪気に笑った。


何を話そうか思いつかずどうしようか考えていると、木の扉を叩く軽快な音と共に、元気な声が響く。


「カナトー!いるんでしょ?」


慌てて俺は玄関を開けると、そこには栗色の髪を揺らした少女、ユナが立っていた。腰には小さな袋を提げ、いつも通り快活な笑顔を見せている。


「……ったく、声がでけぇんだよ。村中に響く」


「いいじゃない、元気なのは!」


ユナがずかずかと俺の家に上がり込もうとした時、奥の部屋から、ひょこんと、銀色の髪、赤紫の瞳をした小さな顔がのぞいた。


「……誰?」


ユナはぴたりと足を止めた。思わぬ存在に出くわした驚きと、警戒心が同時に浮かぶ。


「え、カナト……この子は?」


俺は頭をかきながら、言葉を探す。その間に、エフィナは無邪気に近寄ってきて、ユナの目をじっと覗き込んだ。


「……あったかい匂いがする」


「え? わ、私のこと?」


「うん。すごく、にぎやかで……太陽みたい」


唐突な言葉に、ユナはぽかんとした後、頬を赤らめて笑った。


「な、なにそれ。変わった子ね」


「……変わってないよ。ちゃんと“ここにいる”」


「……え?」


ユナは一瞬言葉を失ったが、エフィナの真っ直ぐな瞳に気圧され、苦笑しながら俺に向き直る。


「……説明、してもらえる?」


「……俺だって、説明できねぇよ」


肩をすくめる俺の横で、エフィナは二人を見比べて、小さな声で呟いた。


「……うれしいな。にぎやかになる」


その言葉に、ユナの表情が少しだけ和らぐ。


「魔族の子……なんだよね?でも悪い子には見えないわね」


「子って……見た目は子供だけど、魔族だから俺達よりずっと長生きしてるかもよ」


「あなたお名前は?」


俺の指摘を無視して、ユナはエフィナの前に膝を抱えて座り名前を尋ねた。


「エフィナ!」


「そうかエフィナ……ちゃんか。ちゃんとお名前言えてえらいね」


そう言いながらユナはエフィナの頭を撫でた。エフィナもエヘヘと嬉しそうな感じで撫でられていた。


俺は、そんなやり取りを見て本当に見た目通りの年齢なのかもと思い始めた。


「何歳かな?」


ユナが笑顔で聞くと……。


「200歳!」


元気に無邪気な笑顔で答えるエフィナに俺はえっ?と驚いた表情で、ユナは笑顔のまま固まったのであった。


その後もユナとエフィナは楽しそうに会話を続け、助かったと思った俺はその間に家の用事を済ませた。


「で、ユナは俺に何か用があったんじゃねぇのか?」


一通り用事を済ませた俺はユナに尋ねた。


「今日、何もないって言ってたでしょ?だから遊びに来てあげたのよ」


「そうか、じゃあ絶賛小さなお客さまの対応中だから帰れ」


「はあ?エフィの面倒見てたのはわ・た・し」


そう言ってエフィナを抱き抱えるユナ。この短時間でどんだけ仲良くなったんだこいつら。しかもエフィって親しく呼んでるし。仮にも200歳の大先輩だよ、ユナさん?


俺は相手にするのが面倒になり昼食の準備を始めようとした。


「カナト、お昼ご飯持ってきてあげたから作らなくてもいいわよ」


ユナはそう言いランチボックスを出してきた。中にはサンドウィッチがぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。


「エフィも良かったらどうぞ」


ユナはサンドウィッチを一つ取りエフィナに渡し、エフィナは美味しそうに食べていた。


俺もご相伴にあずかろうと思いサンドウィッチに手を伸ばすと手の甲をユナに叩かれた。


「あんたは食べなくていい」


「はぁ?今「お昼ご飯持ってきてあげたから作らなくてもいいわよ」って言ったじゃねぇか!」


「あげるつもりだったけど、エフィのあんな可愛い顔を見たら、あんたの事なんてどうでも良くなったわ」


俺とユナがエフィナを同時に見るとエフィナは天使の笑顔でサンドウィッチで食べ続けていた。


俺もユナもその笑顔に頬が緩み、エフィナの食べる様子を2人で微笑みながら見続けた。

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