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第28話:凱旋

「……帰ってきたぞ!」


その声が響くと同時に、村の人々は一斉に外へ飛び出してきてくれた。


ボロボロになった鎧をまとい、しかし確かな足取りで歩く冒険者達。


そしてその中央に、俺、ユナ、エフィナ、ガルドさん、ミリアさんが歩いていた。


子どもたちが歓声を上げる。


老婆達は涙を浮かべ、若者達は拳を突き上げた。


「よくやってくれた!」


「本当に帰ってきたんだな!」


「おかえり!」


酒場の前に立っていたユナの親父さんが、じっと彼らを見つめ、静かに頷いた。


その表情は言葉よりも深い誇りを語っていた。


エフィナは少し照れたように笑みを浮かべ、両手を振る。


「ただいまーっ!」


その声に子どもたちが駆け寄り、一斉に彼女を抱きしめた。


「えふぃ姉ちゃん、無事だった!」


「怖くなかった?」


「……帰ってきてくれて、ありがとう!」


ユナは村の人々に囲まれても気丈に振る舞っていたが、俺の袖を掴む手は少し震えていた。


主人公はその手をそっと握り返す。


ミリアさんは村人たちに礼を言いながらも、ガルドさんの横顔を見つめる。


仲間を失った痛みを抱えながらも、彼はここに立っている。


その姿が、村人達に言葉以上の安心を与えていた。


やがて村長が前へ進み出る。


杖を地に突き、深々と頭を下げた。


「勇敢なる者たちよ……よくぞ戻ってくれた。この村に、再び朝が訪れるのは、そなたらのおかげじゃ」


その言葉に、村人達は一斉に拍手を送る。


その拍手は波のように広がり、村全体を包み込んだ。


エフィナは俺の隣で、胸に手を当て、小さく呟いた。


「……ここが、わたしの居場所なんだね」


俺はエフィナに微笑みかけ、短く答える。


「ああ、そうだ」


そして俺達は村人達の温かい輪の中に迎え入れられた。


長い戦いを終えた凱旋は、祝福と安堵の中で始まったのだった。


日が落ちると同時に、村の広場いっぱいに焚き火が焚かれた。


丸太を並べて即席の宴席が設けられ、酒樽が開けられ、焼かれる肉や野菜の香ばしい匂いが夜風に溶けていく。


「乾杯だーっ!」


ギルド長の豪快な声が響くと、冒険者も村人も一斉に杯を掲げた。


その声は、まるでかつて勇者が魔王を倒した時に歌い上げられた凱旋のように、大地を揺るがすほどだった。


「俺たちの勝利に!」


「村の未来に!」


「そして帰ってきた仲間達に!」


歓声と共に杯が打ち合わされ、酒が溢れ、笑い声が夜空へと飛んでいく。


冒険者達は焚き火の周りで戦いの武勇談を語り合い、


「俺はあの巨大な魔物の腕を切り落としたんだ!」


「いやいや、お前は吹っ飛ばされてただろ!」


と、互いにからかい合いながら笑い転げる。


村人達は次々と料理を持ち寄り、子どもたちは踊り出し、老婆たちがその手拍子に合わせて歌を口ずさむ。


その光景は、誰もが待ち望んだ「生き延びた者たちの祝い」だった。


エフィナは大きな皿を抱えて走り回り、


「ほらほら! 食べなきゃ元気出ないよ!」


と冒険者達に料理を押し付ける。


「お、おい……わかった! 食う! 食うから落ち着け!」


不意に子どもみたいな笑顔を見せる彼女に、誰もが自然と笑顔を返していた。


ユナは腕を組みながらジュースを飲み、隣に座る俺を肘で小突いた。


「カナトも飲みなさいよ。緊張しっぱなしで疲れたでしょ?」


「……ちょっとだけな」


と俺が答えると、彼女はにやりと笑って杯を満たした。


ミリアさんは火のそばで傷ついた冒険者達を気遣い、治癒魔法で癒しながら微笑む。


「今回は……誰も失わなくてよかった」


その言葉に、周りの冒険者達は静かに頷いた。


ガルドさんは酒を片手に、焚き火の光の中でただ黙って仲間を眺めていた。


その目の奥には、リオンさんと共に過ごした夜を思い出す影が一瞬だけ揺れたみたいだったがすぐに、仲間達の笑顔に溶けていった。


ギルド長は酒樽の上にどっかりと腰を下ろし、声を張り上げる。


「二十年前、勇者が魔王を討った夜も盛大だったが……今夜も負けてはいないぞ!」


「おおおおおっ!」


冒険者も村人も、子どもたちも声を合わせて応えた。


「今日ここにいる全員が勇者だ!」


その一言に、広場は一段と大きな歓声に包まれた。


焚き火は高く燃え上がり、歌と笑い声が夜を越えて響き渡る。


それはまさしく勇者譚に続く、新しい「名もなき者たちの勇者譚」の祝祭だった。

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