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第27話:帰還

封印は果たされ、残滓も消え去り、ガルドさんも奇跡の復活を遂げた。


だが玉座の間にはもう、先ほどまでの禍々しい気配は残っていなかった。


「……終わった、のか」


俺は呟いた。


「いや、まだだ」


ガルドさんがゆっくり立ち上がり、剣を支えながら辺りを見渡す。


「ここから……帰らなきゃいけねえ」


ミリアさんは涙を拭い、エフィナの肩を抱きしめる。


「帰りましょう、みんなで……」


俺、ユナ、ガルドさん、ミリアさん、エフィナ。五人は互いに視線を交わし、静かに頷き合った。


帰路につく一行を待っていたのは、未だ凶暴化した魔物達の群れ。


だが、先ほどまでの死闘に比べれば、その動きは鈍く見えた。


「退けええぇっ!」


ガルドの剣が閃き、前方の魔物を一刀両断する。


「聖光よ!」


ミリアが放った光の奔流が、影を焼き払い道を切り拓く。


ユナと俺も肩を並べ、襲いかかる魔物を弾き、かわし、反撃する。


そして、その背を守るように、エフィナが『印』の力で、結界を張った。


「もう……誰も失わせない……!」


仲間の心がひとつに重なり合い、混沌とした魔王城を突き抜ける。


ようやく城門を抜けた瞬間、吹き荒れる夜風が彼らを包んだ。


そして、そこには、巨大な魔物と死闘を繰り広げていた冒険者達の姿があった。


戦場は見るも無惨だった。砕けた大地、焦げ跡、血に染まった破片。


冒険者達は皆、満身創痍の状態で、立っているのがやっとだった。


だが、その中央には切り裂かれ、傷だらけとなった巨大魔物の死骸が横たわっていた。


「お、おお……!」


冒険者の一人が、玉座の間から戻ってきた主人公たちを見つけ、震える声をあげる。


「お前達……!」


「やっと……戻ってきやがったか……!魔王城から瘴気が消えていくのを感じたからもしやとは思ってたが」


血まみれの戦士が剣を杖にしながら笑った。


「はは……こっちは地獄だったぜ……。ここまで全員吹き飛ばされて。でも、何とか仕留めてやった……!」


冒険者達は皆ボロボロだったが、その目は誇らしさと安堵に満ちていた。


「すみませんでした……俺達のために……」


俺が頭を下げると、傷だらけの重戦士が首を振った。


「バカ言うな……お前らが先に進んで、異変を何とかしてくれたから俺達は今無事でいる……」


「そうだ……勝ったんだよ……俺達は」


冒険者の一人が口元を血で濡らしながらも、笑顔を浮かべる。


夜明けが近づき、薄明かりが空を染めていく。


魔王城の不気味な気配は完全に消え、風はどこか清々しさを帯びていた。


「帰ろう……みんなで」


エフィナが、か細くも確かな声で言った。


誰もが静かに頷く。


血と汗と涙にまみれた仲間達は、互いに肩を貸し合い、支え合いながら。


ついに魔王城を背にし、故郷の村へと帰還の道を歩き出した。


ーエフィナ視点ー


魔王城の巨大な門を抜けた瞬間、冷たい風が吹き抜けた。


戦いの余韻を洗い流すように、夜明けの光が遠くの地平を染め始めている。


カナト達の笑みや安堵の声が背に届く中、わたしの心の奥底に、柔らかな声が響いた。


それは外には届かず、ただ、わたしだけに語りかける念話だった。


『……よく、やってくれたな』


「……あなたはあの時の」


エフィナの瞳がわずかに揺れる。


あの影とは違う、静かで穏やかな響き、魔王の理性の残滓だった。


『私は、理性の残滓にすぎぬ。憎悪と野心に押し潰され、砕け散ったものの欠片だ。あの力を君に託して間違いはなかったようだ。それに今、君達が奴を封じたことで、わずかに形を取り戻すことができた。』


「形を取り戻す……じゃあ、またいつか……」


わたしの胸に一抹の不安が過る。


「憎悪や野心も、復活してしまうのでは……?」


『心配はいらぬ。あれらはすでに印によって封じられた。再び姿を現すことはない。残るのは……ただ理性だけだ。私はまた、ゆっくりと残滓として、この魔王城と共に君の傍らに在るだろう』


「……そう」


わたしの胸に、ほっとした温もりが広がる。


その声は、父のように優しく響いていた。


『ありがとう、エフィナ。君が選んだ人間たちと共に歩め。私はそれを見届けよう』


声は風に溶けるように消えていった。


わたしはしばらくその場に立ち尽くし、目を閉じて胸に手を当てる。


そして――振り返り、仲間達のもとへ駆け寄った。


カナトがわたしの大好きな優しい声で話しかけてくれた。


「ごめん、ちょっと風にあたってただけ!」


いつものように無邪気な笑顔を浮かべて。


カナトが心配そうに眉をひそめ、ユナが腕を組んで睨み、ミリアが微笑んで首を振る。


ガルドは何も言わず、ただ黙ってその姿を見守っていた。


わたしは改めて胸に誓う。


もう、誰にも自分を奪わせはしない。


カナト達と共に歩んでいくのだ、と。

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