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第11話:決意

ガルドさんとミリアさんの再会を喜び、俺とユナとエフィナの三人はその場を後にしようとした時、魔王城からただならぬ気配を感じ取った。


「……魔王城から、嫌な匂いがする」


囁くような声。子供のような仕草なのに、瞳の奥は冴えた光を帯びていた。


ユナが眉をひそめる。


「禍々しい……?こんな感じ私達が生まれてから一度も感じた事ない 」


俺は胸の奥に残るざらつきを押さえつつ、魔王城がある方角の空を見上げた。


「カナ坊、ユナ、エフィ!!大丈夫か!?」


ガルドさんとミリアさんが裏手から俺達の様子を見に来てくれた。


「はい……。でもこの気持ち悪い感覚……」


ガルドさんがためらいながらも口を開く。


「あぁ魔王城の方から……ただならぬ気配が漂ってる。今すぐ、どうこうなる感じではないと思うが、放っておくのは危ない気がする」


「私もそう思うわ。この空気、魔王軍と戦争していた時の空気に似ている」


ミリアさんの額からは冷や汗が流れていた。


エフィナは小さくうなずき、ぽつりと付け足す。


「呼ばれてるの。前よりずっと……深い声で」


ガルドはしばし言葉を失い、遠い眼差しで、村の外れにそびえる山並みを眺めた。


その先に、黒く影を落とす魔王城がある。


やがて彼は低く言った。


「実はここ数日で肌がざわつくのを感じてた。あそこで何かが目を覚まそうとしてやがる」


ガルドさんの顔がわずかに強張る。


「とりあえず村の連中に現状を説明しないと。お前らでも感じれるくらいの禍々しさだ。他の連中もこの異変に気づいてるに違いねぇ」


「それがいいわね」


全員でうなずくと店の中から親父さんが出てきた。


「ガルド!!」


ガルドさんは親父さんに何も言わず力強くうなずき、親父さんもそれに同調し俺たちは村の広場に向かった。


俺達が到着した頃には、村人達もぞくぞくと広場に集まっていた。


村人の中心には村長が立っており、村人達に色々聞かれていた。


「おお。ジュード、それにガルドさん。これは一体……」


ガルドさんを見つけた村長は杖をつきながらこちらに近づいてきた。


「村長。俺達も現状何が起こってるのかさっぱり分かりません。とりあえず村人全員に家から出るなとだけ伝えてもらってもいいですか?」


ガルドさんの話を聞いた村長は村人達にガルドさんに言われた事を伝え、村人達はそれぞれの家に帰っていたが、みんなの顔には不安が滲み出ていた。


広場には村長と俺達だけになりガルドさんは口を開いた。


「我々はこれから魔王城に様子を見に行こうと思います」


ガルドさんはミリアさんを見ながら言った。


「それは助かります」


村長は頭を下げた。


「村の守りはこの村に滞在してる他の冒険者達に協力してもらって下さい」


「それは俺が伝えよう。この異変が解決したら、ただ酒を出すとでも言えばあいつらも喜んでやってくれるだろうぜ。それでも拒否するようなら力づくでも」


親父さんの体から不穏なオーラが出るのが見えた俺は少し引いた。


「大丈夫よ!!そんな事しなくてもみんな協力してくれるわ。そうよね!!」


ユナが勢いよく振り返り、俺もつられて振り返るとそこにはもう何十人もの冒険者達が立っていた。


「当たり前だ!!」


「ユナちゃんとマスターの飯を食うために死んでもこの村は死守するぜ!!」


「今日も酒場でエフィちゃんの笑顔を見たい!!」


「二人の嫁を守るのは拙者の役目!!」


「冒険者魂見せてやろうぜ、お前達!!!!」


ユナは誇らしく笑いながら俺を見て、俺も親指をグッと立てた。


「よ〜し。テメェら。俺達が帰って来るまで死ぬ気で守れ!!」


ウオオオオオオォォオオオオオオオ!!!!!!!!


冒険者達のテンションは最高潮を迎えていた。


「エフィ……正直お前さんを連れて行くのは気が引ける。今魔王城はとんでもなく危険だと思う……」


ガルドさんはしゃがみエフィに優しく話しかける。


「分かってる。それでも行く。わたしを呼んでるの。それにこの前の声さん、すごく苦しんでる。”何か”を必死に抑えてくれてる。それでも抑え切れない”何か”がこの村に漂ってる」


「それがこの禍々しい気配の正体か」


俺は上空を見上げる。


「分かった。エフィは俺とミリアが絶対守る」


「俺も行きます!!エフィナを守るのは俺の役目・・・」


俺も魔王城に同行すると言おうとした時、ガルドさんが強い口調で止めてきた。


「ダメだ!!お前はこの村に残れ!!守る対象が増えるのはリスクが大きすぎる」


「……でもっ!!」


俺はガルドさんの過去の話を思い出し、次の言葉が出なかった。俺は何者でもない……。所詮ただの村人だ。そんな俺がガルドさん達の邪魔をしちゃいけない。俺に出来ることはエフィナの事はガルドさん達に任せて、無事帰って来るのを祈るだけだ……。でも、それでも!!!


「エフィナは俺が守る!!俺はエフィナの”勇者”になる!!これだけは誰にも譲れない!!」


俺は決意を固め、ガルドさんを見る。


俺の気迫にガルドさんが一瞬たじろいだ。


「”勇者”だぁ?何も出来ない小僧が軽々しく勇者だの守るだの言うんじゃねぇ!!この前の遠足気分で行った魔王城とはわけが違うんだ!!」


ガルドさんは俺に近づいてきて殴り飛ばした。


「ガルド!!」


ミリアさんはガルドさんを止めようとするがガルドさんが手で制止した。


ユナが俺に近づこうとしたが俺もガルドさんみたいにユナを制止した。


俺は黙って立ち上がり、ガルドさんに向かって殴りかかったが、簡単に避けられ、足を引っ掛けられこかされた。


「勢いや想いだけでどうにかなると思うんじゃねぇぞ、”カナト”!!」


ガルドさんは片手で俺を持ち上げ、投げ飛ばす。強い。やっぱり長いこと冒険者をやってる人は違う。どう考えても俺がかなう相手じゃない。だとしても、エフィナを他の誰かに任せるなんてできない!!


俺は立ち上がり、再びガルドさんに向かっていく。ガルドさんは今度は避けず俺を受け止めた。


ガルドさんは引き離そうとするが、俺は意地でもしがみつきガルドさんを押す。


ガルドさんは俺の後頭部や背中をガンガン殴ってくるが俺は決して離さない。


「俺はただ守りたいだけだ。村をユナをエフィナを……。強くないと何も守っちゃいけないのかよ?」


俺の問いにガルドさんの攻撃が止まった。


「そうだ。この世界は弱肉強食。弱い奴がどれだけ吠えようが、強い奴に蹂躙されればそこまで。弱い奴は失う。何も守れない。俺はそんな場面を幾度となく見てきた」


ガルドさんの言葉は俺に重くのしかかってきた。


「強くないとな……守れず全て失うんだよ!!」


ガルドさんの渾身の一撃が背中に直撃し俺は、地面に倒れた。かろうじて意識は保てたが体は全く動かなかった。


「俺としたことが少し熱くなりすぎた。ミリア、すまないが治癒魔法をかけてやってくれ」


ミリアさんが俺に近づいてきた。


……ここまでか。ガルドさんの言う通り、勢いや想いだけじゃ何もできない。そんな事ができるのは物語の中の主人公だけだ。ごめんな。俺、エフィナの”勇者”になれなかった……よ……。


俺は諦め目を閉じようとした瞬間……。


「立ちなさいよ!!情けない!!あれだけ啖呵切っといて倒れっぱなしでいるつもり!?」


目の前にユナが大の字になって俺の前に立ち、ガルドさんとミリアさんを睨みつけていた。


「ユナさん……」


ミリアさんは困惑している様子だった。


「ユ……ナ」


「エフィの事、自分の手で守りたいんでしょ!?だったら誰になんて言われようとも守りなさいよ!!何度倒されても立ち上がりなさいよ!!諦めるんじゃないわよ!!男だろうが!!!」


ユナは涙を溜めながら倒れてる俺を見下ろしていた。


その姿に俺は勇気をもらいもう一度立ち上がった。


「お願いします……。俺も一緒にエフィナの事を……守らせて下さい」


俺はふらつきながらもガルドさんに向かっていく。


「この想いは、誰にも否定させない……。誰にも渡さない」


俺はガルドさんの顔めがけて拳を振り上げた。ガルドさんは避けず俺の拳を受けてくれた。


俺の拳はただガルドさんの頬に触れただけ。それでも俺は嬉しかった。


「馬鹿野郎が……。いい拳持ってるじゃねぇか。リオンの槍なんかよりよっぽど鋭く刺さったぜ。とんでもねぇ一撃だった」


ガルドさんは倒れる俺を抱き支えた。


「ミリア!!さっさと治癒しろ。こいつも連れて行くぞ」


「分かったわ」


ミリアさんは俺に治癒魔法をかけてくれた。傷や痛みが引いていくのが分かった。


俺は自分の足で立ち、ガルドさんを見た。


「ありがとうございます」


「カナト。俺はお前をもう子供としては見ない。一人の冒険者、俺の仲間として見る。いいな!!」


「はい!!」


「準備が出来次第、魔王城に出発する。気を引き締めろ」


「良かったね、カナト」


エフィナは俺の手を握り微笑んでくれた。


「あぁ」


「ちゃんとわたしの事を守ってね。”勇者様”」


俺はエフィナの手を痛くない程度に強く握り返すことで意思表示をした。


エフィナも俺の意図を読み取ってくれて更にぎゅっと握り返してきた。


俺は絶対にエフィナを守る。

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