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封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
第2章『新たな仲間』
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第8話「村での休息」

森を抜けた先に、小さな村があった。


緑風りょくふう村」。

丘陵地帯に寄り添うように広がる素朴な集落だ。

整備された道はなく、泥道に並ぶのは、質素な石造りや木造の家々。

だが、そこには確かに、人々の生活の温もりがあった。


リュシアとガルドは、村の中央にある宿屋「緑風亭」にたどり着いた。


「……こんなところに、宿なんてあるんだな」


リュシアは、ぼそりと呟いた。


魔導書院で育った彼女にとって、こうした庶民の暮らしはほとんど縁がなかった。

どこか、異世界に迷い込んだような心地すらする。


「贅沢は言うな。あれでも、この辺りじゃ一番マシな宿だ」


ガルドがぶっきらぼうに言いながら、木の扉を押し開ける。


——ギィィィ。


中に入ると、暖炉の火のぬくもりと、香ばしいパンの匂いが出迎えた。


年配の女主人が、柔らかな笑顔で出迎える。


「おやまあ、珍しいお客さんだね。旅のお方かい?」


「一泊、二人分だ」


ガルドが銀貨を差し出す。


リュシアは、懐からぎゅっと銀貨を取り出して握った。

害獣討伐の報酬。

自分の手で、初めて稼いだお金。


「私の分は、自分で払います」


女主人は、少し驚いたような顔をして、にっこりと笑った。


「しっかりしてるねぇ」


リュシアは、照れ隠しにそっぽを向いた。


質素な部屋だった。

木の床に、手編みのカーペット。

小さなベッドと、窓際の机だけの、簡素な作り。


だが、今のリュシアには十分だった。


(これが、私の稼ぎで得た場所……)


胸に、じんわりと温かいものが広がる。


ガルドは、窓際にどかりと腰を下ろすと、腕を組んで言った。


「今日の戦い、悪くなかった」


リュシアは、思わず顔を上げた。


「……本当に?」


「ああ。初めてにしては、上出来だ。よく考えて行動した」


ガルドの評価に、リュシアの胸がふっと軽くなった。


ほんの少しだが、誇らしかった。

誰かに認められることが、これほど嬉しいとは思わなかった。


「でも……」


リュシアは、拳を握った。


「まだまだ、だよね」


「当たり前だ。剣は、魔法みたいに一夜にして極められるもんじゃない」


ガルドは、にやりと笑った。


「だが、あきらめなければ強くなれる。それが剣士だ」


リュシアは、強く頷いた。


(——私も、あきらめない)


たとえ、魔法を失っても。

たとえ、何度転んでも。


私は、前に進む。


***


翌朝。


リュシアは、一人で村を散策していた。


澄んだ空気。

朝露に濡れた田畑。

泥だらけの手で作業する農民たちの、たくましい背中。


かつて、王国の中心、魔導塔の上から眺めた世界とは、まるで違う。


ここには、魔法も栄誉もない。

ただ、生きるために働き、生きるために笑う人々がいた。


リュシアは、胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。


(……私は、あの高い塔の上で、何を見ていたんだろう)


かつて、見下ろしていたはずの人々。

だが今、彼らが眩しく見えた。


ふと、道端で売られていたリンゴを眺めていると、店主の中年女性が声をかけてきた。


「坊ちゃん、珍しい顔だねぇ。旅人かい?」


「……まあ、そんなところ」


リュシアが曖昧に答えると、店主は顔をほころばせた。


「昨日のイノシシ退治、あんたたちがやったんだってね!助かったよ。あんな化け物に畑を荒らされたら、たまったもんじゃないからねぇ!」


リュシアは、驚いた。


「……知ってるの?」


「もちろんさ!村中で噂になってるよ。ありがとね、坊ちゃん!」


リンゴをひとつ、手渡してくる。


「これ、お礼だよ。受け取っときな!」


リュシアは、戸惑いながらもそれを受け取った。


暖かい手だった。


(私でも……誰かの役に立てるんだ)


胸の奥で、何かがそっと芽生えた気がした。


***


村の広場。


子供たちが走り回り、老人たちが日向ぼっこをしている。


その中で、リュシアは奇妙な噂を耳にした。


「森の精霊と話せる少女がいるんだって!」


「ほんとかよー?お化けだろ?」


「でも、あの子、本当に不思議な力を持ってるってさ」


リュシアは、耳をそばだてた。


森の精霊。

そして、精霊と話せる少女。


(……精霊)


かつて、魔導書院でも研究されていた存在。

自然の中に宿る不可視の力。


リュシア自身も、魔法を失う前は微かに精霊を感じ取ることができた。


(……気になる)


自然と、足が村外れへと向かっていた。


やがて見えてきたのは、花々に囲まれた小さな小屋。


まるで、森の中に溶け込むように佇んでいる。


リュシアは、小さく息を整え、扉をノックした。


——コンコン。


しばらくして、扉が開いた。


現れたのは、銀白の髪を持つ、儚げな少女だった。


翡翠色の瞳。

透き通るような白い肌。

小さな身体に、柔らかな緑の衣をまとっている。


(……この子が)


リュシアは、静かに言った。


「君が、森の精霊と話せる子?」


少女は、警戒した様子でリュシアを見つめた。


だが、リュシアは焦らず、ただ真っ直ぐに目を合わせた。


「私は、リュシア。……昔、精霊を見ることができた」


少女の瞳が、かすかに揺れた。


そして、静かに扉を開き、リュシアを招き入れた。


——こうして、リュシアとエルナの出会いは始まった。

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