第54話「海上の決戦」
夜が明ける。
だが、陽光は嵐雲に隠され、世界は暗かった。
うねる波、叩きつける雨、吹き荒れる風――
海は完全に牙を剥いていた。
シーファルコン号の甲板に、リュシアたちと船員が集まる。
マリオンが全員に向かって叫んだ。
「よく聞け!敵船は我々より大きい!正面からぶつかるな!」
リュシアたちは、頷いて応える。
「嵐を利用する。風と波を味方につけろ!」
それがこの戦の唯一の作戦だった。
***
視界の向こう、黒い船影が見えた。
――敵船だ。
黒い帆、魔族の旗。
そして、船首には異形の存在――
半人半魚の魔族船長が立っている。
「リュシア・フェルディナンドを引き渡せ!」
魔法通信での要求に、マリオンはすかさず答えた。
「断る!この船の客人を、誰にも渡す気はない!」
魔族船長の顔が歪み、怒号が飛ぶ。
「ならば力ずくだ!」
***
戦闘が始まった。
敵船から放たれる魔法砲撃。
火球が飛び、雷撃が海を裂く。
「右舷回避!」
マリオンの叫びに合わせ、船が大きく傾く。
甲板を走るリュシアたち。
ガルドは剣を抜き、敵の接近に備える。
エルナは精霊魔法で風を操り、帆を助ける。
ザックは後方から、魔法による防御壁を展開する。
リュシアは、剣を握り締めながら考えた。
――リミット解除は使わない。
今の私たちなら、知恵と力で勝てる!
***
敵船が接近。
魔族たちが飛び乗ってくる!
ガルドが一歩前へ。
「ここは通さん!」
鋭い剣さばきで、次々と魔族を弾き飛ばす。
エルナは、海水を操り、敵を押し返す。
「海の精霊たち、力を貸して!」
船上に水柱が立ち、敵を飲み込んだ。
ザックは、敵の魔法を無効化する古代魔法を唱えた。
「干渉式防壁、展開!」
リュシアは、剣で敵の注意を引きつけ、仲間を援護する。
――だが、敵は多い。
「このままじゃ、押し切られる!」
リュシアは叫んだ。
***
そこで思い出した。
マリオンが言っていた、敵船の「魔法エンジン室」の存在を。
「ザック、行ける?」
「もちろんだ!」
作戦はすぐに決まった。
リュシアとザックは、小型のボートに飛び乗り、敵船の下へ向かった。
波に翻弄されながら、敵船の側面に取り付く。
「ここだ!」
ザックが示した場所――
魔力の脈動を感じる船底。
リュシアが剣を振るい、魔法防壁を破った。
中に広がる、魔法エンジン室。
魔族たちの警備兵が数人、待ち構えていた。
「行くぞ!」
リュシアが突っ込み、ザックが援護魔法を展開する。
短い戦い――そして勝利。
魔法核を見つける。
「これを壊せば!」
リュシアの剣が、魔法核を貫いた。
***
敵船が、大きく揺れた。
エンジンが停止。
推進力を失った巨艦は、嵐の波に呑まれていく。
「脱出だ!」
リュシアとザックは必死に甲板へ戻り、救出に来たシーファルコン号の縄梯子に飛びついた。
仲間たちが手を伸ばし、二人を引き上げる。
その背後で、魔族の船は、嵐の闇に消えていった。
***
シーファルコン号は、嵐の中を必死に耐えた。
船員たちと、リュシアたちの力で――
夜明け、ようやく、嵐は去った。
海は再び、静寂を取り戻していた。
マリオンが、深いため息をつきながら言った。
「見事だった。お前たちがいなければ、今頃、海の底だったろう」
リュシアは微笑んだ。
「みんなの力です。――チームワークの勝利ですよ」
朝日が、波間にきらめいていた。




