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封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
第11章『炎の祠への道』
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第53話「海への出立」

夜明け前――。


ブルーヘイブン港には、白い霧が立ち込めていた。


潮の香りと、かすかな緊張感が混じる空気の中、リュシアたちは港に集まっていた。


「いよいよだな」


ガルドが低くつぶやく。


リュシアは新調された旅装束を整えた。

 胸には王国の紋章入りの腕章が光る。


港には一隻の船が待っていた。


「シーファルコン号だ」


キャプテン・マリオンが腕を組み、待っていた。


中型の帆船――だが、その作りは頑丈で、どの船よりも精悍な印象を与える。


「積み荷は完了。乗るなら今だ」


リュシアたちは互いに頷き合い、タラップを登った。


***


船上では、慌ただしく船員たちが動いていた。


ロープを締め、帆を上げ、出航の準備に余念がない。


「出航!」


マリオンの声とともに、シーファルコン号はゆっくりと港を離れた。


リュシアは甲板に立ち、徐々に遠ざかるブルーヘイブンの町を見つめた。


――さようなら。きっとまた、帰ってくる。


水平線へ向かう船は、朝日に照らされて黄金色に輝いていた。


***


航海初日。


リュシアたちは船上での生活に慣れようと努力した。


潮風にさらされる甲板、絶え間ない波のうねり――。


「思ったより、揺れるね……」


エルナが顔を青ざめさせ、船べりに寄りかかる。


「酔い止め薬、持ってるか?」


ガルドが差し出す小瓶を、エルナは感謝して受け取った。


一方、ザックは望遠鏡を手に、海上を熱心に観察していた。


「信じられない……生きた海流、発光する魚、未知の海洋現象……!」


学者魂に火がついたようだ。


リュシアも、初めての海に目を輝かせていた。


「これが、世界の広さ……」


陸では到底見られない壮大な景色に、胸が震えた。


***


船室は狭く、揺れは容赦なかった。


食事は乾パンと塩漬け肉、水は貴重品。


だがリュシアたちは、不平を言わなかった。


「これも旅の一部だな」


ガルドが笑い、エルナも少しずつ元気を取り戻していった。


マリオン船長は、夜の食事時に古い海の伝説を語った。


「海の底には、かつて世界を創った精霊が眠っているとも言われている」


「そして嵐は、その精霊の吐息だと……」


波の音を背に聞きながら、静かに物語を聞く夜だった。


***


航海二日目――。


夕暮れ、海は赤く染まり、空と海が溶け合うようだった。


リュシアは、甲板の端に立っていた。


「こんな景色、陸では見られない」


呟くと、横に立ったエルナが微笑んだ。


「水の精霊たちも喜んでる。きっと、歓迎してるんだわ」


その夜、海面は青白い光を放つ小さな生き物たちで満たされた。


まるで、星空が海に落ちたかのような光景だった。


「綺麗……」


リュシアたちは、しばし言葉を忘れ、見入った。


***


だが――。


翌朝、海は一変していた。


黒い雲が広がり、波はうねりを増していた。


「嵐だ!」


マリオンの叫びに、全員が持ち場へ走った。


帆を下ろし、ロープを締め、荷を固定する。


「船を安定させろ! 波を横から受けるな!」


マリオンが怒号を飛ばす中、リュシアたちも必死で動いた。


エルナは風の精霊を呼び出し、船のバランスを保とうと試みた。


ガルドは濡れた甲板で踏ん張りながら、ロープ作業を手伝った。


ザックは魔法通信で海図を確認し、危険な暗礁を避ける航路を指示した。


リュシアは――。


操舵輪の後ろで、マリオンの指示を伝える伝令役を務めた。


***


嵐は激しさを増し、シーファルコン号は必死に抗った。


波が船体を叩き、風が帆を引きちぎらんばかりに吹き付ける。


それでも――。


誰一人、諦める者はいなかった。


この海を越えた先に、水の祠がある。


リュシアたちは、その使命を胸に、ただ前を向いていた。

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