表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
第11章『炎の祠への道』
52/56

第52話「港町の秘密」

ブルーヘイブン――。


それは、王都から三日間かけて辿り着いた、賑やかで自由な港町だった。


白い石造りの建物が並び、海風に旗がはためき、潮の香りと魚介の匂いが混じり合う。


「ここが……」


リュシアは、初めて見る海辺の町に目を輝かせた。


港には大小さまざまな船が並び、荷揚げに忙しい商人たちの怒号が飛び交っている。


「活気があるな」


ガルドが腕を組み、周囲を見渡す。


「まずは宿を取って、それから船の手配ね」


エルナが実務的に提案し、ザックがうなずいた。


「そうですね。航海は最低三日。しっかり準備しておかないと」


四人は賑わう港町の通りを抜け、評判の良い宿「シーラグーン亭」に荷を下ろした。


***


船の手配は、港湾局の事務所で行われた。


事務所には、がっしりした体格の事務官が待っていた。


「水の祠のある孤島へ行きたい、だと?」


事務官は目を丸くした。


リュシアが王国からの任命状を見せると、さらに顔をしかめた。


「無理だな。あそこは《禁海域》だ。近づく船はまずない」


「どうしてですか?」


リュシアが問いかけると、事務官は渋い顔で答えた。


「……あの島には、海の怪物が出るって話さ。近づいた船は沈んだって噂もある」


ガルドが腕を組み、低くうなる。


「そんな怪物、本当にいるのか?」


「さあな。ただ、誰も近づかないことだけは確かだ」


困ったリュシアたちに、事務官は言った。


「一応、船長たちに聞いてみる。だが期待しないことだな」


***


その夜、四人は手分けして情報収集に乗り出した。


リュシアとガルドは港の酒場へ、

 エルナは港の精霊たちと交信し、

 ザックは資料館で過去の記録を探った。


***


酒場は、荒くれた船乗りたちで賑わっていた。


リュシアは腰に《蒼銀の刃》を下げ、堂々とカウンターに座った。


「水の祠の島について知りたいんだけど」


周囲の男たちがどっと笑った。


「嬢ちゃん、死にに行く気か?」


「昔、あそこに近づいた船があったがな――嵐に巻き込まれて木っ端みじんだ」


「海の底には、化け物が棲んでるって話だぜ」


リュシアは眉をひそめた。


ガルドは無言で背後に立ち、威圧的な空気を放っている。


それ以上からかわれることはなかった。


***


一方、エルナは港の外れで、潮風に乗る小さな水の精霊たちと話していた。


『あの島は……すごく古くて、静かで、でも……悲しい場所』


『昔は精霊たちも住んでた。でも、今は……』


『何か怖いものが、島の奥にいる』


精霊たちのささやきは、不吉な予感を含んでいた。


***


ザックは港の資料館で、古い航海日誌を発見した。


「……なるほど。かつては島に、聖職者たちが定期的に訪れていたらしい」


「だが百年前を境に、誰も近づかなくなった……?」


彼は古い地図を丁寧に写し取り、宿へ戻った。


***


夜、宿に戻った四人は情報を持ち寄った。


「確かに、島には何かある」


「そしてそれは、人々を遠ざけるほど強い影響力を持っている」


「でも、私たちは行かなきゃならない」


リュシアの言葉に、誰も異を唱えなかった。


***


翌朝、港湾局から連絡が来た。


「キャプテン・マリオン――あの島に行ったことのある唯一の船長だ」


指定された酒場で、リュシアたちはマリオンと面会した。


日焼けした肌、鋭い青い目、そして波に揉まれたような強靭な雰囲気。


「若い頃、一度だけ行った。二度と行きたくない場所だ」


マリオンは厳しい口調で言った。


リュシアは真っ直ぐに言った。


「世界を守るために、あの島へ行く必要があるんです」


マリオンは目を細めた。


「……信じられる理由は、それだけで十分だ」


条件は、特別報酬と、万が一に備えた準備。


交渉はまとまり、三日後に出航することが決まった。


***


だが、宿に戻る途中――


リュシアたちは町の空気の変化に気づいた。


通り過ぎる人々が、ちらりと彼らを見ては、小声で話す。


「何か、広まってる……」


ガルドが低くつぶやく。


宿の主人がこっそり耳打ちしてきた。


「気をつけな。お前たちのこと、港中に噂になってる。

  『伝説の宝を狙う連中』だとか、『七賢者の使いだ』とか」


リュシアは顔を曇らせた。


「誰かが……情報を流した?」


港町には、商人だけでなく、海賊、密売人、魔族の手先まで紛れている。


油断はできない。


***


その夜、宿の裏口からキャプテン・マリオンがやってきた。


「話がある」


彼女は低い声で言った。


「水の祠の島には、《水の心臓》という宝石がある。

  それは封印の核――お前たちの目的でもあるはずだ」


「私たちは、封印を修復しに行くだけです」


リュシアが答えると、マリオンは満足げに頷いた。


「ならいい。だが、他の連中は違う。

  金目当てに動く奴らもいる。魔族の手先も、な」


「……警戒を強めましょう」


エルナが小さく言った。


マリオンは真剣な顔で言った。


「港を出たら、もう後戻りはできない。覚悟しておけ」


リュシアは頷いた。


「――ええ。覚悟は、とっくにできています」


嵐の海も、未知の島も、恐れる理由はなかった。


彼女の中にあったのはただ一つ。


使命を果たすという、揺るぎない意志だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ