第51話「新たな旅立ち」
アルカディア王都――。
壮麗な魔導塔、その頂にある七賢者の間に、静かな緊張感が満ちていた。
リュシア・フェルディナンドは、ガルド、エルナ、ザックと共に、
新たな任務「水の祠への旅」の最終確認に臨んでいた。
議長席に座るオーディンが、重々しく口を開く。
「今回の任務は、今まで以上に過酷になるだろう。
水の祠は、海に浮かぶ孤島――アクセスも困難だ。
嵐、魔族、そして未知の試練が待っているかもしれない」
リュシアは真剣な面持ちでうなずく。
「……必ず、封印を守り抜いてみせます」
力強い言葉に、オーディンは満足げに頷いた。
会議のテーブルには、今回のために支給された特別装備が並んでいる。
- リュシア専用の剣――《蒼銀の刃》(魔法金属製、微量の魔力でも斬撃を増幅する設計)
- ガルド用の特殊防具――《潮騎士の甲冑》(海の加護を受けた装甲、耐水性と防御力に優れる)
- エルナ用の精霊結晶――《潮音の珠》(海の精霊たちと高次元で交信可能)
- ザック用の魔法通信具――《潮声の耳飾り》(長距離でも仲間と連絡できる特殊通信装置)
それぞれの装備に、四人は目を輝かせた。

リュシアは剣を手に取り、軽く振るった。
蒼い刃が、空気を裂くように鋭く光った。
「……すごい」
彼女の頬に、かすかな笑みが浮かんだ。
オーディンが、静かに言う。
「君たちに託す。――アルカディア、そして世界の未来を」
リュシアは、深く一礼した。
「必ず……必ず成功させます」
***
会議が終わった後、オーディンの私室に呼び出されたリュシアは、
師である彼と、二人きりの対話の時間を持った。
部屋には、古い書物と魔導具が並び、窓からは王都の街並みが見渡せた。
オーディンは静かに言った。
「……正直なところ、引っかかることがある」
「……引っかかる?」
リュシアが問い返すと、オーディンは頷いた。
「アルカード――やつはただ封印を壊そうとしているだけではない。
封印を『修復させること』に、何らかの意図を持っている気がする」
リュシアは息を呑んだ。
「修復させる……?」
「証拠はない。ただ、封印を巡る流れが、奇妙にスムーズすぎるのだ」
オーディンの眼差しは、深い思慮を湛えていた。
「水の祠の守護者も、これまでとは違う試練を課すかもしれない。
用心しろ。……何より、己を見失うな」
リュシアは深く頷いた。
「はい。必ず、気を引き締めます」
心に、新たな緊張感が宿った。
***
出発の朝。
リュシアは、魔導書院の隔離施設を訪れた。
静養中のレインが、窓際の椅子に座って外を眺めていた。
リュシアは微笑んで近づく。
「レイン、これから旅立つわ。海を越えて、水の祠へ」
レインは驚いたように振り向いた。
「……気をつけて」
その言葉に、リュシアは胸が温かくなるのを感じた。
「ありがとう。帰ってきたら、また話そう」
「……うん。アルカードのことも、少し考えてみる」
まだ完全な信頼には遠いが、
確かに二人の間には、以前にはなかった小さな絆が芽生えていた。
リュシアは、レインに背を向け、静かに扉を閉めた。
***
王都の城門。
リュシア、ガルド、エルナ、ザックの四人は、新しい旅装束に身を包んでいた。
腕には王国の紋章入りの腕章。
背中には旅装備と、特別な装備品。
夜明けの光が、彼らの影を長く伸ばしていた。
「三日後、港町ブルーヘイブンに到着する予定だ」
ザックが地図を確認しながら言った。
「そこから船で、さらに三日の航海」
エルナが軽く頷く。
「海の精霊たちが、きっと道を守ってくれる」
ガルドは剣を肩に担ぎ、にやりと笑った。
「何が来ても、叩き斬ってやるさ」
リュシアは空を見上げた。
――どこまでも澄んだ空。
この先に待つ、広大な海。
「……新しい旅が始まる」
そう、心の中でつぶやいた。
四人は、ゆっくりと歩き出した。
未来へ、希望へ――確かな一歩を。




