第49話「再び王都へ」
旅を終えたリュシアたちは、王都アルカディアの城門にたどり着いた。
久しぶりに見る王都の姿。
高くそびえる白亜の城壁と、賑わう大通り。
太陽に照らされた街は、かつてよりもどこか温かく、親しげに映った。
城門前には、整列する王国警備隊の姿。
その中の一人が、リュシアたちに向かって敬礼した。
「七賢者リュシア様、ご無事の帰還を、心より歓迎いたします!」
リュシアは思わず立ち止まり、驚いた顔をした。
以前、彼女が王都を離れたときは、誰もが冷ややかだった。
天才と呼ばれた過去を持ちながら、魔力を封じられた「落ちこぼれ」。
それが、今は。
ガルドが苦笑する。
「評判が変わったようだな」
リュシアは小さく息を吐き、微笑んだ。
「重要なのは、周りの評価じゃない。……私が何をするか、だよ」
その言葉に、ガルドも満足そうに頷いた。
***
王都の大通りを進む。
道行く市民たちが、彼女たちを一目見ようと集まってきた。
「見た?あれが、封印を修復した七賢者様だって!」
「魔法が使えないって聞いてたけど……やっぱり本物なんだ」
「すごい、あんなに若いのに……」
ひそひそとささやく声。
だけどそこには、かつての嘲笑はなかった。
憧れと、尊敬、そして親しみが入り交じっていた。
「リュシア様、ありがとうございます!」
子供たちが、花束を差し出してきた。
リュシアは戸惑いながら、それを受け取った。
目の前の子供たちは、無邪気な瞳で彼女を見上げていた。
エルナがささやく。
「みんな、あなたを認め始めてるわ」
リュシアは微笑んだ。
「ありがたいけど……まだ満足しちゃいけない」
胸の奥に、新たな決意が芽生えていた。
***
魔導塔、七賢者の間。
厳かな石造りの会議室で、リュシアたちは封印調査の報告を行った。
オーディンを始めとする六人の賢者たちが、静かに耳を傾ける。
リュシアは、炎の祠での封印修復。
子供化の真実(自己防衛機能)についての発見。
そして、アルカードの存在――
全てを、ありのままに語った。
重苦しい沈黙のあと、オーディンが立ち上がった。
「リュシア・フェルディナンド。君は……素晴らしい成果をあげた」
その言葉に、周囲の賢者たちも頷いた。
「魔力に頼らず、使命を果たす。まさに真の七賢者だ」
「子供化現象の真実も、重要な発見だ。魔導理論に大きな影響を与えるだろう」
リュシアは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。ですが、これは私一人の力ではありません。
ガルド、エルナ、ザック、そして……」
ちらりとレインに目をやる。
「仲間たちの支えがあってこそ、です」
オーディンは満足げに頷いた。
「その謙虚さを、忘れないでほしい」
***
次なる使命――
「水の祠」への調査が議論された。
議会からの支援として、船の手配、物資の補給、航海許可証が用意されることになった。
ザックは興奮気味に言う。
「水の祠は、アルカディア西方の大海に浮かぶ孤島にあります。
行くには、かなりの準備が必要です」
リュシアはきっぱりと言った。
「私たち四人で行きます」
オーディンは一瞬驚いたが、すぐに頷いた。
「信頼している。ただし、決して無理はするな」
リュシアも静かに応えた。
「はい。必ず、使命を果たして戻ります」
***
そして――レインの処遇について。
議会内には、彼女を「牢獄に入れるべきだ」という声もあった。
だがリュシアは、毅然と言った。
「彼女には、考える時間が必要です」
オーディンは熟考した末、決断を下した。
「分かった。彼女は魔導書院の隔離施設で、特別監視下に置く」
レインは小さくうなずいた。
「……ありがとう」
リュシアは微笑んだ。
「信じてるわ。あなたなら、きっと正しい道を選べる」
レインは、ほんのわずかに、ほほえみ返した。
***
会議が終わった後、オーディンはリュシアを呼び止めた。
「リュシア。君は――大きく成長したな」
白銀の師匠の目は、穏やかで、誇らしげだった。
「魔法の天才、という枠を超えて。
君は今、真の七賢者だ」
リュシアは静かに頭を下げた。
「すべて、師匠と、仲間たちのおかげです」
オーディンは微笑み、しかし次の瞬間、真剣な表情になった。
「だが、気をつけろ。アルカードという敵は、我々の予想を遥かに超える存在だ」
リュシアは、真っ直ぐに師の目を見た。
「はい。必ず、準備を万全にして挑みます」
そして心の中で誓った。
――水の祠へ。
そして、その先に待つ未来へ。




