第42話「目覚めと発見」
朝の光が、療養室の窓から柔らかく差し込んでいた。
リュシアはゆっくりと目を開けた。
(……ここは?)
天井は見覚えのある、神殿の療養室だった。
そして、体に走る違和感。
(……小さい。)
慣れ始めているその感覚に、リュシアは静かに苦笑した。
ベッドの脇には、ガルド、エルナ、ザックの三人が寄り添うように座っていた。
「みんな……封印は……?」
リュシアはか細い声で尋ねた。
ガルドが微笑み、安心させるように言う。
「ああ、完璧だ。お前が、守ってくれたんだ。」
リュシアはホッと息を吐き、ベッドの上で小さく頷いた。
***
身体を起こそうとした瞬間、リュシアは再び自分の変化を実感する。
──小さな手。
──軽い身体。
──視点の低さ。
(やっぱり……子供になってる。)
しかし今回は、心の準備があった。
混乱することも、絶望することもない。
エルナが優しく笑いながら、きちんと用意してあった子供サイズの服を手渡した。
「着替え、準備しておいたから。」
リュシアは「ありがとう」と微笑み、素早く服に着替える。
鏡に映った自分は、8〜9歳くらいの小柄な少女だった。
「3回目ともなると……少しは慣れてくるものね。」
小さく自嘲気味に呟くと、エルナは心配そうに肩に手を置いた。
「無理だけはしないでね。」
ザックも興奮気味に続けた。
「興味深いデータがまた取れたよ!君はやはり特別な存在だ!」
ガルドは静かに頷き、リュシアを見つめた。
「……お前は立派だ。心から、誇りに思う。」
その言葉に、リュシアは心からの微笑みを返した。
***
そこへ、炎の守護者が療養室を訪れた。
「調子はどうだ?」
低く、温かみのある声。
リュシアは小さく頷いた。
「大丈夫です。予想していた変化ですから。」
守護者はリュシアを見つめ、一瞬だけ考え込んだ後、静かに言った。
「君の状態について、重要な情報がある。聞きたいか?」
リュシアはベッドの上で姿勢を正した。
「ぜひ、教えてください。」
守護者は深く頷き、語り始めた。
***
「古い記録を調べたところ、君と同じような現象を経験した者たちがいた。」
守護者は、かつて存在した「天才魔導士たち」の話を語る。
「天賦の才を持つ者は、しばしばその力に体が耐えきれず、若返ることで負荷を逃がした。」
「若い体は、魔力の暴走やダメージへの耐性が高い。自己防衛機構の一種だ。」
リュシアは驚きに目を見開いた。
「……つまり、これは呪いではないんですね?」
守護者は力強く頷いた。
「そうだ。君の体が、自らを守るために選んだ手段なのだ。」
ザックも補足する。
「科学的に言えば、これは『体内魔力回路の再調整反応』に近い現象だ。
過負荷を防ぐため、年少化して回復力と柔軟性を高める。」
エルナも微笑みながら言った。
「精霊たちも、危険から身を守るときに姿を変えるの。自然なことよ。」
ガルドは短くまとめた。
「つまり、これは生き抜くための知恵だ。」
リュシアは、拳を小さく握りしめた。
(私は……呪われていたんじゃない。)
***
「私の体は、私を守ってくれていたんだね。」
リュシアは小さな声で、噛みしめるように呟いた。
長い間、アルカードの呪いを恨み、自らの運命を呪った。
だが今、ようやく理解できた。
──自分は、ずっと、自分の体に守られていたのだ。
エルナがそっと手を握った。
「どんな姿でも、リュシアはリュシアよ。」
ザックは微笑んだ。
「子供の姿だろうと、君の知恵と勇気は何も変わらない。」
ガルドも静かに言った。
「どんな時も、お前は俺たちの誇りだ。」
リュシアは涙をこらえ、笑った。
「……ありがとう、みんな。
この姿でも、私は、私のままでいられる。」
そして、胸の中に、小さな決意を灯した。
(この力を、未来のために使おう。)
彼女は新たな一歩を、確かに踏み出した。




