第40話「封印の間」
封印石の前に立ったリュシアたち。
炎の守護者は無言でうなずくと、静かに言った。
「ついて来い。最深部へ案内しよう。」
厳かな雰囲気の中、4人はその後に続く。
長く続く石階段。熱気が肌を刺す。
「……この魔力の密度、普通の人間なら気絶してるよ……」
ザックがつぶやく。
「身構えろ。何が起きても不思議じゃない」
ガルドが警戒を強める。
リュシアは、拳を強く握った。
(これが──私たちが向き合うべき、現実。)
***
やがてたどり着いたのは、巨大な赤黒い封印石が浮かぶ円形の間。
魔力の炎が揺らめく中、石には無数のひびが走っていた。
「……このままだと、本当に封印が崩壊する」
リュシアは直感した。
守護者が口を開く。
「封印を修復するには、強大な魔力を再び石に流し込み、魔法陣を再起動させねばならない。
本来は七賢者すべての魔力が必要だが──その余裕は、もうない」
「どうすれば……?」
リュシアが一歩前に出る。
そして、ためらいながらも言葉を続けた。
「……私の体には、リミット解除の兆候があります。
意図して使えるわけじゃない。けれど……。」
彼女の瞳に宿る決意が、全員を圧倒する。
「私が封印と向き合い、限界を越えれば──
あの力は、再び目を覚ますかもしれない」
「待て、リュシア!」
ガルドがすぐに反対する。
「お前の体にかかる負担は、尋常じゃないんだぞ!」
エルナも、今にも泣きそうな顔で言う。
「リュシア、無理しないで……!
リミット解除が起きたら、また子供の姿になるんだよ……?」
ザックも真剣な表情で告げた。
「再現性のない現象に頼るのは、本来は禁忌だ。
でも──今、他に方法がないのも事実だ」
リュシアは、全員を見回し、そして静かに答えた。
「私自身も、制御できるとは思ってない。
だけど……ここで逃げたら、きっと後悔する」
「七賢者として。
そして──あなたたちと、ここまで来た仲間として」
ガルドはゆっくりと息を吐き、頷いた。
「……なら、俺たちで支えるだけだ」
「リュシア、あなたは一人じゃない」
エルナがそっと手を握る。
「記録は任せて。絶対にこの瞬間を残す」
ザックがにやりと笑う。
リュシアは微笑んだ。
「ありがとう。みんな……頼りにしてる」
守護者は腕を組み、最後に言った。
「覚悟はできたな。──では、始める」
***
封印石の周囲に魔法陣が描かれ、精霊たちが空気を清める。
ザックが補助術式を書き込み、ガルドは剣を抜いて警護に立つ。
リュシアは、封印石の前に、ひとり静かに立った。
「……お願い。
私の中の力、必要なときに──応えて」
目を閉じ、静かに宣言した。
「私はリュシア・フェルディナンド。
七賢者にして、ソードメイジ」
炎の守護者が、厳かに告げた。
「──儀式、開始」




